生者に夢を、死者に花束を   作:薫製

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闇は心に潜む

私がゲームにハマったのは1人になれるから。

幼い頃からいじめを受けて来て他人と関わるのが嫌いになった。

だからゲームの世界に入って現実を遮断した。

対人戦もやったけど相手が見てるのはプレイスタイルだけだから気にしてない。

気付けば上達していて勇者の中では負け知らずだった。

そのはずだったのに…

 

「はいキルー!」

 

「ぐぅぅぅ…!」

 

完全に追い込まれている…

高木さんが前ゲームに興味を持っていたから腕試しに誘ってみた。

選んだゲームはFPSでどちらが相手を多くキルするかというルール。

操作説明をした後、対戦を開始。

最初は武器の性能や操作性に慣れていないのか操作が拙かったけど、段々コツを掴んできて余裕が無くなり今の状況にいたる。

見たらスコアが倍近く差がつけられていた。

 

「クッ…!なら!」

 

私はライフルからショットガンに変更した。

近距離なら一撃で倒せる上、腰撃ちでもワンパンだから逆転の余地はある。

 

「んー…ここにいるかな?」

 

角に待ち伏せをして高木さんが現れるのを待つ。

足音に注意しながらクリアリングを細かくする。

 

「待って、マジでどこにいるの?」

 

独り言を無視し全神経を耳に集中する。

右から足音がした。

指を射撃ボタンの上に置く。

ここまで緊張するのは初めて。

 

「ここ絶対いるでしょ~」

 

まるで狩人に追われる兎のよう。

でも一矢報いるにはこれしかない。

一気に足音が近づき影から高木さんのキャラが出てきた。

私はボタンを押す―――。

 

「だよね」

 

スライディングをしながら現れた高木さんは既に照準を合わせていた。

まるでそこにいるのを知っているかのように。

 

「嘘ッ!」

 

発射したけど高木さんには当たらず蜂の巣にされた。

結果は惨敗。

負ける事は何度かあるけどここまでの敗北は人生初。

 

「よーしっ!勝てたぁ~」

 

「マジか…あの千景が…」

 

「驚きです…」

 

「美穂強すぎなんだよ」

 

頭がクラクラしてきた。

でもこんな所で終わらせられない。

 

「高木さん…」

 

「ん?」

 

「あなたにリベンジマッチを申し込む!」

 

「あー…いいけど?」

 

 

高木さんから一週間の猶予をもらい特訓をする。

自分の部屋が無いから夜遅くまでゲームが出来ない。

そこで私はネットカフェに目を付けた。

24時間やっている所もありヘッドホンをつければ周りの音は気にならない。

充電もできるから不測の事態にも対応可能。

さすがに籠りっぱなしは迷惑かけるから時間を決め家に帰っている。

伊予島さんや土井さんから心配されたけど大丈夫と言った。

高木さんに勝つためなら鬼にでもなる覚悟だから…

 

そしてリベンジ当日。

前日は早めに寝て体力を回復させた。

特訓内容は高木さんの動きを自分で模倣し弱点を見つけ、どう行動すれば勝てるかをプレイしながら身体に染み込ませる。

つまり、今の私は高木さんそのものと言える。

相手の思考は筒抜け同然。

腕上げたと思ったらあの日以来プレイしていないらしい。

圧勝したから練習すらいらないって言うの…

なら奢った精神をへし折るのみ!

 

「いざ勝負!」

 

「お手柔らかに、ね」

 

前回とステージは変わったけれども癖そのものは変えられない。

角を常にクリアリングし細かく注意する。

 

「そこだ!」

 

先に見つけられてしまったけど即座にほふく状態にする。

多少のダメージは気にしない。

照準を合わせ即座に倒す。

 

「むっ…」

 

私は起き上がりリロードを終えクリアリング作業に戻る。

高木さんのプレイスタイルは『突拍子の無い事をする』。

対峙した時に相手を驚かせ判断を鈍らせる。

対人だと一番効く戦い方。

ただゲームで行える行動には限度がある。

前回の戦いでほとんど見せていた。

後はアドリブに私が追い付けば勝てる。

もちろん高木さんも簡単にキルさせてくれない。

武装を変えながら逆転の芽を残している。

でも私の方が2ポイント有利。

 

「凄いや…私の行動を完全に読んでる…」

 

顔は見れてないけど驚きを隠せてない感じ。

あなたの為にこの一週間使ったんだから。

 

「なら、本気でいこう」

 

なんて?

今まで本気じゃなかったの?

少し腹が立ってきたけどゲームに集中する。

今の発言すら罠かもしれない。

足音が聞こえると高木さんが突撃してきた。

隠れることなく真っ直ぐ突っ込んで来た上、銃ではなくナイフを持っている。

これじゃ格好の的なのに。

私は照準を合わせ撃つもスライディングをして避ける。

射線切りに使うテクニックの1つ。

してくるとは思わなかったけど見慣れた行動。

近づかせないよう対処すれば問題ない。

ロボットみたいと一瞬思ったけど振り払った。

その後も目立った行動は無く、どんどんポイント差は広がっていきあと5キルで私の勝利となる。

 

「随分あっけないのね」

 

私は余裕が出て来たから話しかける。

顔を見たいけど負けるその瞬間までこらえる。

手も足も出なくて悔しいに違いない。

 

「そう?私は上出来だと思うよ」

 

余裕そうに答えてきた。

ふざけているの…?

 

「もう終わりよ」

 

「人は如何なる時でも絶対に手放せないものがある」

 

話しながらもキル数を増やしていく。

もう負け惜しみのつもり?

 

「それは感情、だよ」

 

突撃する高木さんを撃ち抜く――――。

その瞬間、武装が自動的に近接に切り替わった。

このタイミングで!?

私は押していない。

となると…

 

「まさか!」

 

弾切れ!

 

「この瞬間を待っていた!!」

 

「クッ!」

 

ナイフで応戦するも先に対応していた高木さんにやられた。

でもリスポーンすれば弾は回復する。

今の作戦をしても届かない。

 

「無駄よ!もうあなたに勝ち目は無い!」

 

「忘れているようだから教えてあげるよ。『勝負は最後まで分からない』!!」

 

ここまで差があってまだ勝てると思ってるの!?

私から勝利を奪い足りないの…!

 

「あなたって人は…本当に!」

 

私は高木さんの元へ向かう。

この手で完全なる勝利を手に入れる為に。

 

「生憎とこの手でしか勝てないからね」

 

突如キルされた。

ログを見るとあの時と同じく待ち伏せをしてた。

手にはスナイパーライフル。

私はリスポーンした瞬間に室内に入るもいつの間にか移動していた高木さんに撃ち抜かれる。

本気って言うのは私の冷静さを欠かす事だった。

勝利の波は完全に高木さんが持っていかれ逆転を許し敗北した。

 

「よっしゃあああああ!!」

 

高木さんはコントローラーを放り投げ両手を上げ喜んでいた。

その姿を見て私の心が崩れ落ちていく。

これまでの苦労が全て無駄になったんだから。

 

「ああ…」

 

ボロボロと涙が溢れて来た。

止めたくても止めれない。

 

「郡さん、何で泣いてるの?」

 

高木さんは優しく聞いてきた。

その言い方が私の怒りに火をつけた。

 

「負けたからに決まっているでしょ!あなたは人を傷つけないと生きていけないの!?」

 

自分ですら驚くくらいの大声を出してしまった。

3人は目を丸くしてたけど高木さんは表情を変えず私の前に膝を着いた。

 

「悔しくて泣いてるんだよね。ごめん、分かっていたけど直接聞きたくて」

 

「負けたって言って欲しいの!?」

 

「違うよ。その気持ちがあって良かった」

 

「え…?」

 

「しばらく二人っきりにさせてくれる?終わったら連絡するからさ」

 

3人は何も聞かず身支度を済ませ外へ出ていった。

 

「本当はもうちょっと穏便に話したかったけどね」

 

出ていくのを確認し高木さんが座りこんだ。

 

「今回のリベンジマッチかなり気合い入れてて不思議だったんだよね。負けたならその場でもう1回って言えば良かったのに」

 

「それはあなたに勝ちたいから時間が欲しくて…」

 

「言っちゃ悪いけど今回弱かったよ」

 

衝撃的な言葉を言われ頭に殴られた感覚がした。

あんなに練習して弱い…?

 

「確かに私の研究はほぼ完璧だった。けどそれは高木美穂のコピーであって郡千景では無い」

 

「!!」

 

私は勝利へ固執して自分のプレイングを捨ててしまった。

圧倒してたのは私の実力じゃなくて高木さんのプレイスキル。

 

「勝つことも大切だけど負ける事が一番大切だよ。前戦う理由聞いた時に答えた内容覚えてる?」

 

「黒花せん…黒花さんに会えて世界が変わったって話?」

 

「そそ。私ね、普通の家庭に生まれて普通に成長すると思ってた。けど気づいたら両親は消え私は他人の全てを汚していた」

 

黙って話を聞いていた。

 

「どんだけやり直しを求めてもその事実は消えない。まぁ罰を求めちゃうのが悪い所なんだけどね」

 

高木さんは左腕をめくりあげた。

そこには治りかけの切り傷が何か所もあった。

 

「これは自分で?」

 

「そう。3人が来る前にやらかしちゃってね。おかげで染みるし痛いし隠さないとって大変だった」

 

笑いながら頭をかいている。

 

「なんで私に見せるの?」

 

「郡さんもあるんでしょ?隠しておきたい何かが」

 

図星過ぎる。

過去の話を一度もしてないしそもそも身体を見せてない。

 

「何で分かったの…?」

 

「雰囲気だね。まぁ勘に近いけど」

 

雰囲気だけで推測出来るなんてエスパーなの?

 

「でも言わなくていいよ。私も言ってるようで隠してるもんだしね」

 

もしかしたら高嶋さんも何か察していて、ほっとけなくなって声をかけてくれたのかも。

高木さんもアプローチは違えどこうして声をかけてくれた。

少し言葉足らずな所もあるけどきっと…

 

「それでも話させて…」

 

涙で潤んだ目を拭いあの暗い日々を語る。

高木さんはまっすぐ私を見て時にはうなづいてくれた。

 

「そっか、祝福されなかったんだね…」

 

唇を噛み締め、握りこぶしを作っていた。

 

「時代が違えばきっと…」

 

「高木さん?」

 

「ごめんごめん。色々思うことがあってね…うん、郡さんならいいかもね」

 

私の両手を握ってきた。

突然だったからドキッとしてしまった。

 

「この話は私と郡さんだけの秘密だよ。皆にはいつか言わないとって思うけど…」

 

話しながら目線が泳いでいた。

最後の最後まで迷ってるからに違いない。

 

「大丈夫。焦らないでゆっくり話して」

 

「…ありがとう」

 

私はその日、高木さんの闇を知った。

 

ーーーーー

 

遂に黒花さん以外に話してしまった。

郡さんは一応受け止めてくれたっぽい。

似た境遇とは言えないけど人の悪い所を押し付けらた身同士。

違いは手の汚れ具合かな。

とりあえず銀に連絡したから直に帰ってくると思う。

 

「高木さん」

 

「どうしたの?」

 

「時間があればでいいからコツ教えて欲しいの。もっと強くなりたいし」

 

「私の立ち回りであれば。いや、照準の合わせ方の方が実用的かな?」

 

「どちらでもいいわ。私には足りない部分だから」

 

この後帰ってきた3人が恐る恐る開けていて変に気を使わせてしまったけど郡さんがパーティゲームを出してくれたから空気が元通りになった。




以上、千景回でした。
Q、高嶋無き世界で病みかけの千景を救うにはどうしたらいい?
A、病みには闇をぶつけるんだよぉ!!
高木の闇はまだ引っ張ります。
回収はしますというかしないと進まないので。

次回も日常パートです。
戦闘期待されてる方々、もう数話お付き合いください!
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