生者に夢を、死者に花束を   作:薫製

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ずっと一緒

翌日もあの活気は無かった。

千景がご飯の時に出てきてくれたから良かったけど杏はノックしても応答が無い。

仕方ないからおにぎりを部屋の前に置いて降りてきた。

今日は学校があるから千景に家と杏の事を頼んでおいた。

集中出来ないのは前提だけど行かないとそれはそれであらぬ疑いをかけられる。

まぁ仮面被るのは慣れてるから生活に支障は無いかな。

ただ銀は純粋だから辛いとは思う。

気晴らしに部活に顔を出してみたけど活動内容が正直頭に入ってこなかった。

 

「何かあったの?顔色悪いよ?」

 

友奈に指摘されたけど仲間が死にましたなんて言えるわけない。

 

「知り合いのペットが亡くなってね。たまに散歩するの見かけて撫でたりして愛着あって」

 

「そうだったの…」

 

「ごめんね。気つかわしちゃって」

 

「大丈夫だよ。最近忙しくて出れないのに来てくれて良かった」

 

そのまま活動をし帰った。

途中友奈が気を利かせて私の仕事変わろうとしたけど余計申し訳なく感じるから断った。

 

「ただいまー」

 

「おかえりなさい」

 

千景がキッチンでお茶を飲んでいた。

 

「ご飯どうした?」

 

「コンビニで買って食べたわよ」

 

「何買ったのさ〜?」

 

無理やりテンションをあげて見る。

どうせ見え見えなのは分かってるんだし。

 

「幕の内弁当みたいなの。色んな味楽しめるし」

 

「量の割に値段安いからね」

 

「あとおにぎり下ろしといたけどラップした方が良かった?」

 

キッチンに皿に盛られたおにぎりが置いてあった。

 

「…いや大丈夫。銀は買い物して帰ってくるから先にお風呂沸かそっか」

 

その日も杏は部屋から出てこなかった。

安否が分からない以上、奥の手を使うしかない。

学校から帰ってすぐ私はスペアキーを持って杏の部屋の前に立つ。

強硬手段に近いけど精霊とはいえ自殺してたら珠子に会わす顔がない。

とりあえずノックをしてみる。

当然反応が無かった。

 

「杏、入るよ」

 

スペアキーを使い鍵を開ける。

部屋の中はカーテンが閉められ電気もついてなく、本人は布団にくるまっていた。

 

「ほら、おにぎり持ってきたよ」

 

ここまで反応無いと死んでると思ってしまう。

呼吸の確認の為布団に耳を近づけたら規則的にしていた。

 

「…」

 

「…」

 

入ったのはいいけど話すネタが無い。

人と話すのは苦手じゃないけどこう励ますのは苦手。

そもそも私がメンタル壊れてることあるし。

 

「食べ終わったら部屋の前に置いといてね」

 

結局それしか言えず私は出ていった。

最低の終わらせ方。

これじゃますます引きこもる。

 

「はぁ、どうすれば…」

 

いつもの公園に行き頭を冷やす。

冬に近づいているからか夕方になるとかなり寒い。

缶コーヒーの暖かさが染みるが心までは温まらない。

 

『ん…なんだここ?』

 

あーあ…悩みすぎて幻聴聞こえてきた。

末期過ぎるでしょ私。

 

『おーい。誰かいるかー?』

 

「珠子…?」

 

ボソリと名前を呟いた。

 

『その声美穂か!』

 

「珠子!どこ行ってたんだよ!」

 

大声をあげながら立ち上がり周囲を見る。

珠子それらしき人物は見当たらない。

どこかに隠れてるの?

 

「くだらない遊びはいいから出てこい!」

 

『待て待て待て!何か画面がグワングワン揺れてる!酔うって!』

 

画面が揺れてる?

 

「ちょっと待って…指何本立ってる?」

 

私の顔の前でピースをしてみた。

 

『うぇ?2本だが?』

 

「ならこれは?」

 

今度はパーを。

『5本。なぁ美穂どこにいるんだよ?』

 

マジか…

頭に手を当てドカリとベンチに座る。

 

「教えてあげるよ。今珠子は私の中にいる」

 

『は?何言って…ってええええ!!』

 

うるさっ!

耳塞いでも内側から響くから意味無いし。

 

『でもここ映画館みたいだぞ!?』

 

映画館って単語に引っかかる。

まさかあの夢の世界にいるの?

 

「それが私の心象風景なんだろうね」

 

『何が何だか…タマは確か…』

 

「戦闘の後消えた。今思えばあの怪我で死ぬ事は無いんだよ」

 

両足と両腕の複雑骨折と考えても勇者の力もあるから短時間で死ぬ事はない。

しかも意識を保ったまま消えたしね。

 

『じゃ、じゃあ何でタマは美穂と合体してるんだ!』

 

「それは珠子が精霊だからだよ。この時代の勇者は端末に精霊を入れて呼び出せるんだ。私の場合、端末じゃなくて肉体と契約してるから入れるって事だと思う」

 

『なーるほど。けどいつ解放されるんだ?』

 

「これは予測だけどバリアが発動した時のダメージを精霊が引き受けているとしたら…」

 

『キズが治るまでって事か?』

 

「その通り」

 

珠子の消滅時の光がオレンジなのも納得行く。

 

『なぁ、タマが寝てる間何があったんだ?』

 

「実は…」

 

これまでの経緯を説明する。

特に杏の事は丁寧に。

 

『そんな…あんずが…』

 

相当ショックを受けている。

 

『最後にあんな事言ったからだ…バカな事した…』

 

「無理もないよ。みんな諦めムードだったし」

 

『でもあのあんずをそこまで追い込んだのはタマの責任。これは2人の問題なんだ』

 

「ただどうやって伝えるかが難問だけどね」

 

『精神入れ替われるとかないのか?』

 

「無茶苦茶言うね…」

 

そんな憑依系アニメじゃないんだから。

出来たら今の勇者がやってるよ。

試しに変わるイメージを浮かべたりしたけど変化は無かった。

 

「私が通訳するから話しかけてくれない?」

 

『おう!任せタマえ!』

 

一気に缶コーヒーを飲み干し、頭がクリアになった。

パンと両膝を叩き立ち上がり家に向かう。

 

一応スペアキーを持って行ったけど鍵すらかけてなく、中も目立った変化は無かった。

 

『あ…』

 

完全に絶句している。

杏の様子は教えたけど部屋については言ってない。

先に教えた方が良かったかもしれないけど現実を知って欲しかった。

 

「また来てごめんね。でもどうしても言いたい事があって」

 

反応無いけどその先を言う。

 

「珠子が生きてたんだよ」

 

ピクリと布団が動いた。

 

「今私の中にいるから直接話すのは出来ないんだけどね」

 

「…?」

 

ようやく顔を出してくれた。

病人、いやもう死人に近いくらい窶れていて目に生気が感じない。

 

『うぁあ…』

私も驚きを超え恐怖を感じるくらい。

でもここで私が顔に出せば更に傷つけてしまう。

負の感情を殺し珠子に話しかける。

 

「ほら、何か言わないと」

 

『あ、あぁ…そうだった…』

 

咳払いをして気持ちを切り替えている。

まぁ話すの私だからする意味は無いけど。

 

「『ただいま、あんず』」

 

「…タマっち先輩?」

 

「『こんな再開になってごめん』」

 

声は私のまま言われたことをそのまま口に出す。

物真似なんてしたら真剣さが減るからね。

 

「『守れたと思ったのに結局ダメだった。死んだら意味ないし…』」

 

「…」

 

「『これじゃ姉失格だな…』」

 

私の声で言うもんだからメンタルがかなり削れてく。

もう他人事じゃない気がしてきた。

 

「…美穂さん、ごめんなさい」

 

「え?」

 

その瞬間、杏は私の頬を叩いた。

 

「本当はタマっち先輩に直接やるべきなんですけど今は許してください」

 

今度は顔を胸に埋める様に抱き着いてきた。

頬を押さえながら困惑していた。

何がなんだか理解出来ていない。

それは頭の珠子も同じ。

 

「なんでそんな事言うの…」

 

『あんず…?』

 

「私にとってタマっち先輩はずっと憧れの存在で、守りたくて…」

 

ギュッと抱きつく力が増した。

 

「立派なお姉さんだよ…」

 

『!!』

 

思いのすれ違いだ。

お互い同じ夢を見ているのにどこかズレていた。

ハッキリ分からないし分かっても譲りあっちゃう。

それが良しとなって自分の本音すら埋もれる。

結果生まれるのは仲良く見える友情。

大切なのは100理解する事じゃない、1を積み重ねる事。

 

『あんず…あんずっ!』

 

珠子が泣き崩れる。

言葉が無くても想いは伝わる。

私は黙って杏を抱き返す。

 

「ぅうう…」

 

これは珠子の代わりではなく私が勝手にしたこと。

まぁしたかったと思うしいいかな。

 

「少し元気出た?」

 

「はい、ありがとうございます…」

 

私は杏から離れおにぎりを持ってきた。

 

「冷めてるけど温める?」

 

「いえ、いただきます」

 

冷えて硬くなりかけのおにぎりを食べてる。

 

「どう?」

 

「少し甘いです」

 

「塩多めにしたんだけどね」

 

「まともに喉通らなかったので」

 

「食べ終わったら風呂入りなよ。髪洗ってあげるからさ」

 

「本当ですか!ぜひお願いします!」

 

『ちょっと待てぇい!タマだってした事ないんだぞ!』

 

外野は黙っとれい。

私の中にいる間は嫉妬させるぐらいの事してやらないと。

あまりの必死ぶりに思わず笑ってしまった。

 

「何かありました?」

 

「いや、騒がしくてね」

 

「あー…じゃあ美穂さん」

 

杏がおにぎりを渡してきた。

 

「私に食べさせてくれます?」

 

「はい?」

 

『えええええ!!!』

 

「タマっち先輩へのお仕置きです。しばらくそこで見ていてください」

 

『そんなぁ~…』

 

「美穂さんも拒否したらしばらく口きかないので」

 

拒否権無いのは驚いたけどそもそもやらないなんて選択肢ないので。

 

「はい、あーん…」

 

「あーん…美味しさが増した気がします」

 

「良かった。まだいる?」

 

「食べ終わるまでお願いします」

 

『もう殺してくれぇぇぇーー!!』

 

いじわる言ってたけど杏の目に光が戻ってきたしこれで一件落着かな。

 

―――――

 

私と三ノ輪さんは階段に座り事の結末を聞いていた。

沈んだ顔で出ていったと思ったら今度はキラキラした目で帰ってきたから何事かと思った。

まさか土井さんが高木さんの中にいるなんて。

これも神樹様の恩恵なの?

 

「千景さん」

 

小声で三ノ輪さんが話しかけてきた。

 

「どうしたの?」

 

「その…寂しくないんですか?大切な人と離れ離れになってるのに」

 

思わず言葉がつまってしまう。

寂しいに決まっている。

何かある度に高嶋さんの存在が頭に過る。

時には辛くなって心が痛む。

 

「大丈夫。ココも悪くないって思い始めてるわ」

 

この言葉も嘘ではない。

寮に暮らしていた時よりも周りの距離が近い。

プライベート空間も確保してくれるし変に詮索しないから楽出来る。

それに高木さんの存在も大きい。

 

「なら良かったです。美穂も降りてくるので移動しましょっか」

 

私たちは音を上げない様ゆっくり階段を降りていった。




そう簡単に退場させませんよ!
書きながら自分でもひでぇことするなぁって思いましたし。
初期案では杏をかなり追い込む予定でしたけど自分のメンタルがもたなさそうなので辞めました。
やりすぎると病みモードで戦う展開になりそうだったので。

そしてこのタイミングでUA3000突破しました!
投稿回数を増やしましたけど到達まで長く感じました。
今回で38話とよく長続きしてるなぁと思いながらも皆さんの期待に応えられるよう努めていきます!
本当にありがとうございます!
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