生者に夢を、死者に花束を   作:薫製

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全てに意味がある

3人も環境に慣れてくれたおかけで私も部活に顔を出せる頻度が増えた。

外の世界を見せた時はかなり落ち込んでいたけど自分なりに踏ん切りつけたのか普段と変わらない様子だった。

一方部活は私が居なくても回せている事にやや不服だったけど居場所があると思うと安心する。

しかも今日は黒花さんもお土産片手に来た。

 

「全員分のケーキだ。ありがたく食べろなー」

 

「散々来なかったくせに何で上から目線なのよ」

 

「これ駅前の所じゃん。高いんだよねぇ」

 

「食べずらくなる事言わないでよ~…」

 

「いいじゃないの。食べなきゃ逆に失礼よ」

 

「美味しい~!東郷さんあーん」

 

「あーん…。これはッ!友奈ちゃんの愛で更に甘くなって美味しい…!」

 

「なぁ、アタシの勘違いだと思うけど車椅子の時よりもはっちゃけてないか?」

 

「多分合ってるよ~」

 

黒花さんは部費の精算をしていた。

電卓を弾き帳簿に記載する。

普通に見えるけど私にはその姿が新鮮に思えた。

 

「誤差は無しと。なぁ部長、ハロウィン会の計画って考えているのか?」

 

「全員で仮装して保育園を周ってお菓子を配ろうと考えてます」

 

「ふむ…」

 

顎に手を当て何か考えている。

こういう時は大体面倒事に決まってる。

 

「よし、急だが1つ頼み事がある」

 

椅子から立ち上がり黒板の前に立つ。

 

「実はオレの管理している畑でかぼちゃが豊作で余りが発生して困ってるんだ。だから勇者部全員でジャックオーランタン作るってのはどうだい?」

 

野菜は天候によって取れる量が変わるからね。

てか天候は神樹の気まぐれとかじゃないのかな。

 

「いいじゃないですか。みんなはどう思う?」

 

「賛成!みんなで楽しめるしね!」

 

「ちょうどお菓子配るだけじゃ物足りないと思ってた所だしちょうどいいじゃない」

 

黒花さんから場所と時間を聞きその日は解散となった。

 

当日、私たちはバスに揺られ目的地へ向かっていた。

最寄りの駅から電車とバスを乗り継いでいるからかなりの距離。

勇者部の皆とは現地集合となっている。

 

「なぁ、タマ達も来てよかったのか?」

 

勇者部の皆には内緒だけど3人も連れて来た。

 

「顔は知られているし来ても歓迎されるよ」

 

「力仕事上手くできるかな…」

 

「収穫の補助をするといいと思うわ。私も力無いから」

 

私は停車ボタンを押した。

窓から見える景色は青い空に映える赤と黄色に染まった山々。

紅葉狩りも計画しとこうかな。

 

指定された場所に行くと一面緑で埋まった畑があった。

 

「まさかこれ全部…?」

 

「な訳ないだろ。他にも植えてるからそう見えるだけだ」

 

黒花さんが土まみれのジャージを着て近づいてきた。

一仕事してたのか汗をかいている。

 

「おっ、お前らも来たのか」

 

「すみません。私の独断で連れてきてしまいました」

 

「いやいい判断だ。アイツらも来てるし着替えて集合しろ」

 

黒花さんの知り合いの家をお借りし私たちも動きやすい服に着替える。

少し寒かったけど動くからちょうどいい。

 

「集まったな。まずペアになって収穫を始めてくれ。各ペアに農家の方が着いてくれるから指示に従って随時進めてくれ」

 

今いる人数は11人、つまり誰かボッチになるって事。

まぁ、残るのは私なんだけどね。

人望低いのかなぁ~…

 

「なに黄昏てるんだ」

 

頭を黒花さんに叩かれた。

 

「いや、余ったので見学を」

 

「小学生みたいな言い訳してるんじゃねぇよ全く…お前の仕事は別にある」

 

私は黒花さんに連れられ一軒のお店に裏口から入る。

ランタン作りをするのかと思ったけどそこは厨房だった。

 

「えーっと…黒花さん?」

 

「これから美穂には今日の昼飯を作ってもらう」

 

「何を作るんですか?」

 

「蕎麦だ」

 

「蕎麦ですか…?」

 

この四国じゃ中々聞かない言葉。

別に蕎麦を食べた事が無いって訳じゃないし、嫌いって話でもない。

 

「黒花さんの気分だったり?」

 

「違うが訳は後で言う」

 

ドアが開きお店の方が入って来た。

 

「こんにちは黒花さん」

 

「こんにちは。生地は出来てるか?」

 

「えぇ、その子が担当ですか?」

 

「高木美穂です。よろしくお願いします」

 

蕎麦を作った事は一度も無いからプロの方から教わるのは納得。

 

「じゃオレはあっちの様子見てくる。美穂の事お願いするわ」

 

「任せてください」

 

黒花さんは裏口から出ていった。

 

「さて始めましょうか」

 

うどんを生地から作ったことは何度かあるからその応用で行けるはず。

でも道具が本格的で生地そのものもかなり大きかった。

延し作業も身体全体を使ってやる。

これ収穫作業よりハードじゃない?

特に切るのが難しい。

うどんの麺は太いから切りやすいけど蕎麦は細いから調整が難しい。

お店の方に微調整して貰って何とか形に出来た。

 

「お疲れ様。あとはやるから先に休んでて。今日は貸し切りだからね」

 

「ありがとうございました」

 

私はお店の中に入り1人椅子に座る。

身体中が痛いけど腰が特にきてる。

それにしても何で私にそば打ちをさせたんだろ。

他にも仕事はあるのに。

何かはぶかれた感が凄いんだけど。

店の外が騒がしくなり入口のドアが開く。

 

「失礼するぞ…って美穂か」

 

「店員じゃなくてすみませんね」

 

黒花さんを先頭にみんなが入って来た。

あんな静かだったのに一気に騒がしくなる。

話に入れないけど後で誰かに聞けばいっか。

 

「収穫及びランタン作りお疲れ様。ここからはお待ちかね昼飯の時間だ」

 

厨房からつけ汁とセットのざるそばが運ばれる。

まさかの蕎麦に全員驚くけどその反応は正しいと思う。

 

「異論は認めるが食ってから言えよ」

 

まずは何も浸けずに食べる。

そばの実の風味がするけどあまり違いが分からない。

大人な食べ方は少し早かったかな。

あと長さがまちまちなのは私の未熟さだね。

つけ汁にはキノコが沢山はいって秋を感じる。

先に汁を飲んでみる。

甘めの中にカツオの出汁がいい味を出している。

蕎麦をつけて食べてみたら、蕎麦の風味と絡み食欲が増した。

周りからは批判どころか賞賛の声が聞こえた。

少ししか関わってないけど美味しいと言ってくれるのは嬉しい。

食べていたら私の横にかぼちゃの天ぷらが2切れ置かれた。

しかも私にだけに。

 

「これは?」

 

「私たちからのサービスです。頑張っていたのでぜひ」

 

「ありがとうございます」

 

衣サクサク中しっとり。

天ぷらは難しくて中々手つけられないからこれを参考にしようかな。

何か視線を感じると思ったら珠子がジッと天ぷらを見ていた。

 

「…欲しいの?」

 

無言で頷く。

仕方なく残ったのを半分に分け、珠子にあげた。

 

「お味はどう?」

 

「めっちゃ美味いぞ!」

 

「後でお店の人にも言ってね」

 

さて、そろそろ答えを聞かないと。

私は1人座って食べていた黒花さんに声をかける。

 

「黒花さんハロウィン関係なかったんですよね」

 

「…まぁそうだな。ここには何れ連れてくるつもりだった」

 

椅子の向きを変え皆に顔が見えるように座り直した。

話をやめ黒花さんの話に耳を傾けている。

 

「原材料となったそばの実はあの畑で取れたもの、そして起源は神世記初期からだ」

 

初期って事は3人がいた時代の話。

 

「ここに代々伝わる昔話があってな。ある人物が訪れた時に小さな袋を貰った。その中には複数の種があって『これを絶やさないよう育ててくれ』って頼まれたらしい。最初は小さな畑が年を重ねる事に大きくなって今に至るって訳だ」

 

語り部のように話きり一呼吸おく。

 

「何処からどう入手したかは不明。なんせ300年も経ってるからな。でも1つ言えるのは今までやってきた事は無駄にはならない。例え道半ばで終わってもその想いは誰かが拾ってくれる」

 

それは誰に向けて言っているのかは分からない。

既に終えた者、これから向かえる者そして全てを知る者。

どう捉えるかは個人の感想だけど私は誰かの想いを受け取る資格はあるんだろう。

 

作ったランタンは当日まで黒花さんが保管してくれる事になった。

バスの1番後ろに座り私はグループトークを見ていた。

収穫とランタン作りの写真を載っけてくれた。

皆笑顔で楽しそうだった。

 

『そういえば美穂ちゃんは何してたの?』

 

友奈からキラーパスが飛んできた。

 

『蕎麦打ってた』

 

『あれ美穂が作ったの!?』

 

『蕎麦だけね。出汁は違うよ』

 

『とっても美味しかったよ〜』

 

『まさかうどんを裏切るの…?』

 

『それは個人の自由でしょうが』

 

というかそこの5人、一緒に帰ってるのにここで話さくてもいいのに。

まぁこっちは私以外夢の世界に行っちゃってるから暇つぶしにはなるけど。

よっぽど疲れたのか起きる気配が無い。

写真撮ろうかと思ったけどその前にスケッチしてた。

最近寝ることへの抵抗が減ってきた。

それにあの夢を見る回数も少なくなり気づいたら朝だったってことは何度もある。

これも精霊の加護だったり。

そうなると次は未来を見ちゃうとか?

いやぁ、気まづくなるなぁ。

でも皆の勇者服どっかで見た気がする。

夢で散々みた映画の内容だってほら…

 

「あれ…」

 

必死に思い出そうとしても出てこない。

主催者との会話は思い出せるけど肝心の内容が抜け落ちていて単に嫌な夢だったとしか残ってない。

結局最後まで思い出すことは無かったから諦めた。

 

──────

 

私はソファに寝転がってスマホを弄ってた。

美穂ちゃんは部活、蛍ちゃんは家の用でいない。

 

「はぁ〜」

 

暇だ、何もすることがない。

散歩でもしに行こうと腰を上げたその時、電話がかかってきた。

相手はお母さん。

 

「どうしたの?」

 

『今日実家の方に連絡してしばらく預からせて貰うことになったの』

 

「え…それって…」

 

『また引越しよ。辛い思いさせて悪いけど準備しておいてね』

 

一瞬心臓が止まった感覚があった。

引越し…?学校辞めないといけないの?

 

「分かった。準備しとくね」

 

電話を切った瞬間、声を上げながら泣いた。

蛍ちゃんと美穂ちゃんに会えたのに…!

タマちゃんと仲良くなってキャンプの約束したのに…!

 

「酷いよ…こんなの酷いよ!」

 

いつも私から大切なものを奪っていく。

しかも楽しい時に限って。

もう嫌だ…心が壊れちゃうよ…

人に言えない傷を増やし泣き続けた。




こういう継承も有り得たかも知れないとして入れました。
季節は何となく合わせたので誤差は無いはず。
あと出汁については長野で食べたお店の味をベースにしてます。
店の名前は覚えてないんですが美味しかったです。
最後は伏線ってやつ…?

これで2章前半は完結しました。
のわゆルート救済になってないかもしれませんが仲良くなってるからOK!(ゴリ押し)
後半は美穂の過去に焦点あてていきます。
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