まだ園子が家に来る前の話。
『話したい事があるから私の家に来て欲しい』と燐から放課後言われた。
これと言って思い当たる節は無いけど行くしかない。
燐の家は6階建ての賃貸マンションの一室。
親が転勤多いからこじんまりといてる。
「あっ!こっちこっち!」
部屋で待ってるかと思ったらエントランスに立っていた。
「手厚い歓迎だね。何かあった?」
「うんん、ただの気まぐれ!」
「ふーん…」
「あ…あと蛍ちゃんも来るから待っててね!」
「おっけー」
一瞬動揺した様に見えた。
サプライズでも仕掛けている?
2人で待っていると蛍も合流した。
「何をするの?」
「まだ秘密。ついてきて」
意図が分からないままエレベーターに乗る。
押したのは最上階。
確か4階に部屋があったはず。
「押し間違えてるよ?」
「大丈夫。これでいいの」
チラリと蛍と目線を合す。
何も分かっていないようで胸のあたりで手をぎゅと重ねていた。
降りた後も迷うことなく歩いている。
まるで呼ばれているかのよう。
居住者のスペースを通り抜けコンクリートの階段を数段登る。
重たそうなドアを開けると光が入ってきて眩しかった。
登り切った先は屋上となっていた。
給水タンクや空調が設置され圧を感じた。
「相手で良かった〜。ここ古くてドア壊れてたんだよね」
「ねぇ…そろそろ話してよ。今日の燐変だよ…」
蛍が絞るように話しかける。
数歩だけ歩きターンをしてこちらを振り向く。
「また引っ越すことになったの」
声のトーンとは裏腹に悲しそうな顔をしていた。
「お母さんが高知の実家に帰るから私も着いて行く事になりそうだし学校辞める事になりそう」
冷たい風が吹き抜ける。
顔が痛いくらい寒いけど燐から目を離さない。
「いつもそう、一番楽しい時に私から奪ってく。家族も友達も…残るのは傷ついた心だけ」
「燐…」
「思い出が残り続けるのは嬉しい。でも積み重なってく度に辛く感じちゃうんだ」
別れは誰だって辛い。
次会える保証が無いからこそ心が痛みやすい。
「もうこれ以上傷つきたくない。周りが否定するくらいなら…」
再び歩き出し柵に手を置いた。
その時点で全てを察した。
「まさか…!」
「ごめんね」
燐は柵に乗り足を外に投げ出す。。
その先は人がギリギリ立てるくらいのスペースがあった。
まだ猶予はある…
「最高の思い出と共に消えて楽になれるの?」
「失う恐怖に比べたらね」
「そんなの自分勝手だ!残された人がどうなるか考えてない!」
「分かってるよ…!でもこれしかないの!」
顔を向けず肩を震わしている。
「朝起きる度に辛い思いしなきゃいけないんだって考えちゃう。でも蛍ちゃんや美穂ちゃんと会うと忘れられるの。それが嬉しくて悲しいんだ」
初めて聞いた本音。
いつもの笑顔の裏はグチャグチャに歪んでいた。
そんなの気付かないなんて最低だ…
「私だって…」
「蛍…?」
目に涙を溜め言葉を紡ぐ。
「私の世界に色は無かったの。ただ生活して生きる平凡な日々。でも2人と出会って気付いたの、世界はこんなにも素晴らしいんだって。燐がいなきゃ私はッ…!」
「ッ!!」
柵を持つ手が強くなる。
死ぬのが怖いんじゃない、消えるのが怖いんだ。
理解しても飲み込むのは難しい。
『燐…?何やってるんだよ…?』
「珠子!?」
頭に響いた声に思わず反応してしまった。
このタイミングで覚醒するのか。
『美穂今すぐ出せ…タマが話をつける!』
私は黙ったまま俯く。
『なぁ、黙ってないで何か言えよ!!』
『タマっち先輩!落ち着いて!』
『落ち着いていられるか!』
『アタシも行きたいですけど今は耐えて!』
脳内で喧嘩が起こった。
ここで珠子を出せば2人を巻き込んでしまう。
大赦にマークされるのだけは避けたい。
「タマちゃん…」
ぼそりと燐が呟く。
それが聞こたのか脳内も静かになる。
「伝えて欲しいんだ。約束守れなかくてごめんねって」
「親友と言えどそんな伝言板伝えたくないね」
『ふざけんな!勝手に決めつけるなよ!!』
「私が入れば誰かが傷をついちゃう。こうなるんなら生まれて来なければ良かったんだよ」
「そんな事言わないでよ!!生まれてきてくれたから出会えたのに…!」
「燐と遊んでくれた後、珠子凄く嬉しそうに話してたんだよ。趣味が合うってこんなにも気持ちいいんだなって。だから…!」
「『帰ってきてくれ!!』」
杏の説得にやった同時翻訳を混ぜた。
珠子もよく合わせてくれたとは思うけど。
「うぅ…ひぐっ…帰りたい…帰りたいよぉ…!」
顔を下に向け泣いていた。
「帰れるよ。私たちは燐がいないとダメだから」
「うん。だって親友だもん。たとえ離れてても一緒だよ」
「2人共ありがとう…死ぬのは…やめるよ」
「迎えに行くからちゃんと柵掴んでてね」
私は燐を救出しに歩み寄る。
手を伸ばし体に触れようとしたその時、強風が私たちを襲った。
思わず怯んでしまうくらいの強さで音が鳴っていた。
「あ…」
私は最悪の瞬間を見たのに呑気な声を出していた。
燐の手が柵から離れ体が視界から消えた。
無意識に私も端末を取り出しながら飛び降りる。
目を見開き涙を流しながら表情が固まって落ちていく燐が見えた。
選択肢はただ1つ。
アプリを起動し変身する。
落下速度を上げ燐を抱き寄せたものの高度が足りず地面が迫っていた。
「皆!!!」
背中を下に向け強く抱きしめる。
同時に走る激痛。
4人分のバリアが展開されただろうけど痛みはカットされきれない。
「ガハッ!」
空気と共に胃液を少し吐いてしまった。
頭を強く打ったのか視界が虫のようなものに多い尽くされた。
「美穂…ちゃん?」
グワングワンと脳が揺れる中燐の声が聞こえた。
良かった…無事だったんだね。
「美穂ちゃん!ねぇ!美穂ちゃん!!」
今は揺すらないで欲しいかな。
声を出したくても出ない。
一時的な障害だと思う。
「嫌だ…死んじゃ嫌だよ!」
死にはしないけど痛い。
腕を何とか上げ燐の手を軽く握る。
「美穂ちゃん…」
ちゃんと生きてますよ。
下が駐車場で車が無かったのが救い。
でも勇者の力使っちゃったからなぁ…
「ごめんね…本当にごめんね…!」
上半身を抱き上げられ胸元で泣いてる。
泣かないで、燐。
謝るのは私なんだから。
1人で抱え込んで辛い思いさせちゃったんだ。
「り、ん…」
障害が取れ始めて言葉を発せれるようになった。
「美穂ちゃん!」
「おか…え…り…」
「っ!…うん、ただいまっ…!」
よく見えないけど満面の笑みを見せてくれた。
燐はその顔が1番似合うよ。
急いで降りてきた蛍と合流しわんわん泣きあっていた。
耳元で泣かれてうるさかったけど仲直りってことでオッケー。
「痛てて…腰いったなぁ…」
障害は無くなり普通の痛みだけになった。
既にシステムは解除され制服姿になっていた。
「美穂ちゃん…あの姿…」
「まぁ、そうなるよね…ごめん、今は言えないんだ」
「言えないくらいの秘密なの?」
「うん。あの人が来ればだけど…」
エンジン音が近づいてきた。
2台の黒いバンが私たちの前に止まった。
スライドドアが開きサングラスをかけた黒服の男が現れた。
「西園寺蛍、降谷燐だな。悪いが君たちの身柄を少し拘束させてもらう。ご同行願おう」
2人共怯えている。
仕事とはいえ圧がね。
「もう少し優しく言えません?私の親友なので」
「大変失礼しました、美穂さん」
「これで大丈夫。先に乗って、後で迎えに行くから」
優しく話しかけ安心させる。
ここから先は驚きしかないだろうし。
キョロキョロしながらも黒いバンに乗り込んだ。
「派手な人命救助ご苦労さん」
もう1台のバンから現れたのは黒花さん。
「腰痛めたんで運んでくれません?」
「なら仲間呼べよ」
2人が乗ったバンを見る。
助手席以外中が全く見えないようになっている。
こう言うってことは袋でもかぶされてるのかな。
「つまんない人ですね」
端末の通知を押すと4色の光が溢れ皆が召還された。
「美穂…その、ありがとう…」
珠子が申し訳なさそうにしてた。
「珠子が謝る事じゃないよ」
「腰痛めたんだろ。大丈夫か?」
「痛いだけよ。だからヘルプ頼みます」
「無茶するわね」
「よく言われる」
肩を借りバンへ乗り込んだ。
同時に動き始めた。
「これからオレたちの本部へ向かう。あの2人には取り調べを受けてもらわんとな」
「これは私の責任です。勇者システムの私的利用、一般人へ存在を晒しました。なので2人を罰しないでください」
「構わん。お前がしたかったことならオレは何も言わないさ。それに取り調べっても警察に比べちゃ軽いもんだし誓約書書いて解放さ」
「ありがとうございます」
到着した先は普通のビル。
技術部と比べると大胆に思える。
「2人を取り調べ室へ。美穂はこれに乗って検査、残りはここで待ってろ」
車椅子に乗り1人検査室へ向かった。
念入りに調べられたけど結果はただの腰痛。
骨まで達しておらず1週間で痛みがひくらしい。
バリアって凄いんだね。
「という事で無事でした!」
「何となく分かってたけどな」
「こんなんでくたばる訳ないし」
「心配しすぎなくて良かったくらいよ」
「皆さん辛辣過ぎませんか…」
最近慣れてきたのか辛口コメントが多い気がする…
杏が突っ込んでくれただけありがたいよ…
すると奥のエレベーターが開き黒服に囲まれた2人が降りてきた。
「燐ーーー!!」
珠子が既に走り出していた。
きっと抱き合うんだろな…
「この…馬鹿野郎がぁぁぁ!!」
右手を思いっきり振り上げ燐の頬を叩いた。
まさかの助走付きビンタ。
相当痛いって。
「目が覚めたら自殺しようとしてるとこ見せられたんだぞ!最悪の目覚めだ!」
「えええ??」
話は聞いているとしても怒るとこ違くない?
「しかも約束放棄してくとか有り得ないだろ!」
「本当にすみませんでした!!」
「まるで燐のお姉ちゃんみたい」
「私の自慢のお姉ちゃんですから!」
「変に誇張しなくていいのに」
こうしてワイワイ出来るのは嬉しい。
「事情は全て話した。まぁお前さんらとの仲を考えると口を割ることはないと思うが」
「もちろん信頼してるので」
私は2人を強く抱き寄せる。
満更でもないように微笑んでくれた。
「いい関係だな。にしても西園寺か…」
蛍の顔をマジマジと見ていた。
「えーと…?」
「あぁ、すまん。何処かで見たなって思ったんだが気のせいだった。それじゃ家に送ってやってくれ」
はぐらかすように話題を変えた気がする。
両親と面識があるのかな。
家に着ついたら夜遅くになっていた。
明日も学校あるけど早めに寝るとしますかね。
これで2章は終わりです!
1章と違ってラストも重かったですがこの章そのものが救いの話なので良かったのかと?
次が最終章となり本編準拠に戻ります。
大筋の展開は変えず1章のような感じになるかなと。
かと言ってまんまで行かないのでご安心を!
薫製式救済劇、最後までお見逃し無く!
あと最終章に向け活動報告に質問箱を設置しました。
質問があればじゃんじゃん投稿してください!
無かったら…まぁ、はい…(苦笑)
待ってます!(やけくそ)
そしてUA4000突破!
まだまだ止まらねぇからなぁ…