削られる記憶
今年もあと1ヶ月弱となっている。
人生でこれほど濃厚な一年は無いだろう。
それも神樹のお陰と言われても納得はするけど受け入れたくない。
この日常は今を生きる人間が掴んだものだから。
「何カレンダーとにらめっこしてるんだ?」
「いや、クリスマスプレゼント考えないとなーってね」
「もうそんな季節か…早かったなぁ」
「本当それ。そろそろ学校行くよ」
「了解ー。園子行くぞー」
「はーい。帰ったら感想聞くね~」
「分かりました!何度も読みます先生!」
「なぁ、最近あんずが園子に毒されている風に見えるんだよ…」
「影響はかなり受けてるわね。変な事しないといいけど」
6人という大家族になった我が家。
家に残しているのは300年前の初代勇者、登校を一緒にするのは2年前の先代勇者。
経歴だけ見ると凄いんだよね。
園子と銀は小学生なのに2人で最後まで戦ったんだから経験レベルが違う。
一度小細工なしの模擬戦したけどかなり追い込まれた。
「そういえばテストも近いけど行ける?」
「私はバッチリ~。何でも来いって感じ」
「いいなぁー。アタシは何とか追いつけてるもんな」
「優秀な家庭教師いるんだし何とかなるよ」
学校につき2人と別れ教室に入る。
「おはよー!先週はありがとう!タマちゃんと杏ちゃんとのキャンプ楽しかったよ!」
さっそく燐が話しかけてきた。
燐と珠子、蛍と杏は休みの日に度々会っている。
あの自殺未遂が応えたのかお互いベタベタしてるように見える。
それに計画していたキャンプもおこなえた。
一泊二日の短期間とはいえ2人とも充実したと言ってた。
「満足したなら良かった。約束守れてよかったね」
「ありがとう…でも家の方は大丈夫だった?」
「私含め4人いるからね。問題なかったよ」
「大家族だね…」
「2人共おはよう」
蛍が挨拶をしてきた。
「今日遅いね?なんかあったの?」
「昨日調べ事しててね。それで少し寝坊しちゃった」
「珍しい、あの真面目な蛍が寝坊なんて。今日は雪かな?」
「もう。冗談やめてよ」
3人で笑い合い自分の席に着いた。
何気ない日常っていうのも悪くないね。
今日の部活は依頼整理が中心。
この場合、私は暇になりがちだから掃き掃除を軽くする。
でもまともに部活するのは1か月ぶりかな?
なんせ同居人増えて討伐依頼くるわ過去の清算がくるわの大忙しだったから集中できなかった。
ふと黒板に貼ってある写真が目に入る。
見るだけで何があったかなんて容易に思い出せる。
はずなのに違和感を感じた。
パズルのピースが足りない感覚。
「皆少し私の実験に付き合ってくれない?」
この中で再現可能なのは友奈の復帰講演後の写真。
私の位置には代役として園子に頼み夏凛の右に立ってもらう。
比較する為に端末で写真を撮り並べる。
「やはりね…」
友奈と夏凛の間が1人分空いている。
構図の問題かと思ったけど気のせいじゃなかった。
「こんな間空けてたかしら?」
「加工したとか?」
「加工前のデータはありませんでした」
当時園子は入院中、銀は客として見てたけど仮に入れても身長が微妙に足りない。
黒花さんはそのまま帰ったから該当から外れる。
なら誰がいたの?
答えは見つからず気のせいとして処理された。
ただ友奈が何か思いつめた顔をしているのが気になった。
園子が学校帰りに寄りたい所があるといい3人で行く事にした。
そこは英霊の碑。
「凄いな…これ全部勇者なのか…」
「巫女もいるから勇者に近かった人ってとこかな」
階段を降り園子はあそこを目指す。
「あっ…」
友を守るために自らその命を燃やし尽くした勇者の墓標。
そして私の契約している精霊の1人。
「ミノさんとここに来ると不思議な感覚になるよ」
「あくまで石碑だから遺骨は無いんだけどこんがらがるね」
通路を挟んで隣には初代勇者達の石碑がある。
なぜか千景だけ無かったのは変だけど。
「それを見させられているアタシの気持ちにもなって?それにしても本当に死んだんだな…」
銀は石碑の前に座り掘られた名前を撫でる。
一体何を思っているのかは分からないけど微笑んでいた。
「かっこよかったか?」
「うん。とってもカッコよかったよ」
鞄から取り出したのは焼きそば。
今朝早起きして作ってたっけ。
「一緒に暮らすようになって料理教わって貰ったけどこれだけは1人で目指そうと思ってるんだ。だから美味しかったら褒めてね」
人それぞれ作り方や材料が異なる。
全く同じ工程を踏んでも出来るのは違う何か。
自論だけどその料理に対する想いで変わってくると考える。
それをおふくろの味って言うんだろな。
「変だよね。なんで4つも作ったんだろ?」
「寝ている銀と精霊銀と園子と私で4つでしょ?」
「これは今のミノさんに食べてもらおうと思ってたから本来3つなんだよね」
銀の横にある石碑を見る。
最近建てられたのか綺麗だった。
なのに名前が彫られていない。
誰か亡くなった?でも勇者部は全員で6人…
ギュッと胸が引き閉まる感覚が走る。
「ねぇ、たかみー…」
「…分かっている。これで違和感の正体が判明した」
「2人共どうした?そんな怖い顔して」
銀は違和感に気付けていなかった。
「2年前、私達勇者は誰がいたの?」
「そりゃ、アタシと園子と…」
理解したのか顔が引きつっていく。
「あ、あぁ…なんで忘れていたんだよ…!」
同時に謎が増えた。
いつ、どうやって彼女が消えたのか。
色々考えたいけど今は後回しだ。
「まずはこの霧を払わないと。園子、皆を部室に呼び戻して」
「分かったよ」
階段をかけ上がり学校へ戻ろうとした時見覚えのある車が止まっていた。
「乗れ。事情は把握している」
3人が乗り込んだのを確認し黒花さんは車を出した。
「いつ思い出しました?」
「昨日さ。春信から勇者システムが新しくなったってデータが送られてな。その中に銃のデータがあったが使用者がいないって表記だった。そこに違和感を持って調べて気付いた」
このタイミングでシステムが新しくなる?
随分出来過ぎな気がする。
大赦は何を考えているんだ。
下校時間ギリギリに到着したけど黒花さんが延長届を書いてくれた。
部屋には全員集まっていた。
黒花さんも一緒にいる時点でただ事じゃないと察してくれた。
「乃木…どうして集めたの?」
「皆落ち着いて聞いてね。今の記憶は嘘なんだよ」
「はぁ…?」
「改ざんされてるんだよ。たとえ世界にとって取るに足りなくても私達は失ってはいけない記憶がね」
私の言葉がきっかけになったのか友奈が泣き始めた。
「なんで忘れていたの…絶対忘れないって約束したのに…」
一番ショックを受けるのは当然だ。
「友奈、まず落ち着いて…」
「みんな思い出してよ!」
夏凛の言葉を遮る様に友奈は訴えかける。
「東郷さん…ここに東郷未森って子がいたんだよ!」
「「!!」」
「あー。そういえば東郷はどこに…ッ!」
これで全員思い出した。
問題はどこへ行ったかだ。
「在籍記録、写真、記事の名前まで彼女に関わる全てが無くなっていた」
黒花さんが壁に寄りかかりながら答える。
私が死神部隊にいた時無かったのは特定されない為。
これは根本から異なっている。
グループトークも東郷の発したコメントだけが消えアカウントも存在してない。
「何よそれ…最初から世界に居なかったみたいじゃない!」
その怒りは最もだ。
身近な人が音もなく消えるのは恐ろしい。
「とりあえず東郷がいなくなった事を共有したかったの。皆は家に帰って関係する物が無いか探してきて欲しい」
皆頷きその日は解散となった。
面識のある3人にも話をしたら記憶が消されていた。
翌朝、全員顔が暗かった。
答えは見えていたがここまで消されているとは。
黒花さんの指示で西暦組もいたが表情は同じ。
「精霊の私達まで記憶無いなんておかしいわ」
「神そのものが関与していますね。でも何のために…」
「大赦はなんて言ってるんだ?」
「何も知らないって…」
「こっちも同じ返答だった」
ダンマリか一部にしか言われていないのか判断はできない。
記憶が無くなると言えばアイツの犯行声明。
私たちは覚えていて周りは無いと認識している。
「奉火祭…」
園子を触媒に天の神を呼び壁内を滅ぼす儀式。
今起こっているのがそれに近しいものなら東郷の居場所はあそこしかない。
「また大赦が隠しているのか…?」
「本当に何も知らないみたいだよ、ミノさん」
園子が黒花さんと共に入って来た。
「大赦本部に寄っていた。乃木家の力使って地位高い奴を脅しても知らないの1点張り」
「くろっちが胸倉掴むからだよ」
「そういう園子だって笑顔で圧かけてたじゃねぇか。こいつはそのお詫びだそうだ」
持っていた2つのアタッシュケースを机に置き片方を開けた。
そこには5人分の端末が収められていた。
「勇者システム…」
「ぷんぷん怒って出してって言ったら出してくれたよ」
ぷんぷんってどのくらいなんだろう…
静かに怒るタイプは恐ろしいんだよね。
園子はケースの空いたスペースを指さした。
「ここにわっしーの端末があったの。でも私のレーダーには反応は無い。もしかして、びっくりするくらいのところにいるんじゃないのかな」
「やっぱり外かぁ…」
予想通りだった。
つまり東郷は生贄になった訳だ。
壁を壊した時と言い独断が多い…
「これより東郷奪還のため勇者に変身して壁外へ向かう。この作戦は今まで以上に危険なのは明白。ここで降りてもオレは攻めないし無理強いはさせない。自分の心に従え」
かつて風先輩が勇者に皆をさせたことを後悔していた。
あの時は選択肢が無かったらしいけど今回はある。
「参考までにだが散華は撤廃されたらしい」
黒花さんが懸念している点をつく。
しかしそれは大赦発表。真偽は蓋を開けないと分からない。
「大赦は勇者システムについて隠し事をしないって直接言ってくれた。その言葉を信じたいの。だから私は納得してこの力を使うよ」
園子は迷う事なく端末を持つ。
2年前もリーダーとして活躍し先祖も同じく皆を導いていたそうだ。
想いは受け継がれているんだね。
「私も、信じます。どうすればいいか考えました。だから行きます!」
友奈が力強く端末を取る。
「まっ、勇者部員は同じ部員が探さないと!」
「私も行くよ…!」
続いて夏凛と樹ちゃんも取る。
残ったのは風先輩だけ。
「変に考えていたのはアタシだけじゃない…全く、部長を置いてっちゃダメでしょ」
アタッシュケースに入っていた端末は全員の手元に届いた。
「最後は高木お前だけだが?」
「ちょっと待ってください。私は強制じゃないんですか?」
「んな事するか。お前も部員なら選択する権利はある」
いつもさも当然のように巻き込むくせに急に大人ムーブかまさないでよ…
まぁ答えは変わらないからいいけど。
「この状況で断る理由無くないですか?」
「そうだよな。降りてたらオレがこの場で介錯してたわ」
「殺す気じゃん!」
ようやく皆の顔が明るくなった。
もう一つのアタッシュケースには全員分のインカムが入っていた。
「改良は加えているものの壁外で使用できるかは分からん。まぁないよりはマシだろ」
そのまま部室で変身をした。
精霊も帰ってきたらしく皆再開を喜んでいる。
相変わらず見えないからどうじゃれてるか分からないけど。
「これが正しい精霊の在り方なんだけどね」
「美穂が異質なんだよ」
「過去の勇者を精霊として召喚なんて常識外れも大概よ」
「普通はありえませんからね」
「こんな事出来るの美穂だけだと思うぞ」
「あのねぇ~…」
精霊からお叱り受けるとかありえないって。
今は許すけど次やったら酷使するぞ。
「たかみーは精霊に人気だね」
「嫌味?そう言う園子だって21いるんでしょ?」
「私のはこの子以外表に出さないだけだよ」
園子の頭に1羽のカラスが乗っかっていた。
「へぇー。カラス天狗か…ってえええええ!!!!」
思わず大声をあげてしまった。
「どうしたのよ!」
「見える…精霊が見える…!」
園子はキョトンとしていた。
私は構わずカラス天狗を掴む。
「おお、おおおお!!伝わる!この肌触り!この感触!これが精霊か…!」
「変身して可笑しくなったの?」
「美穂ちゃん今まで精霊見えてなかったんだよ」
「だからあのテンションなのね…」
「あの…そろそろ止めた方が…」
「はぁ…いい加減帰って来い!」
黒花さんの頭上チョップで自我を取り戻した。
気を取り直して私たち11人の勇者は壁に向け動き始めた。
最終章開幕!
久しぶりに本編準拠に戻るんで2期見直しました。
いや…キッツ…
これなぞるけどメンタルゴリゴリ削られました…
次回は東郷奪還作戦!
11人も入れば大丈夫でしょ!(フラグ)
そして区切りの良いタイミングで50話突入!
自分でもここまで書けるとは思わなかったです!
なので何度も言います!
オレは止まらねぇからな…