生者に夢を、死者に花束を   作:薫製

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奪還

早朝とはいえ人の目を気にしながらも目的地へ到着した。

ここは何か因縁でもあるのかってくらい来てる。

 

「にぼっしー、ミノさん。前に出過ぎないでね」

 

「ん、分かった」

 

「園子もだぞ。周りを頼ったっていいんだからな」

 

「樹、今晩はスペシャルうどん作ってあげるからね」

 

「なんだその心躍るうどんは!タマも食べたいぞ!」

 

「お2人も食べます?お姉ちゃんの料理美味しいですよ」

 

「いいんですか?ぜひ食べてみたいです」

 

「結城さん、焦らなくていいのよ」

 

「ありがとう郡ちゃん!」

 

戦闘前なのにこの交流具合に思わず笑ってしまった。

 

「あ、なんか変か?」

 

「いや凄い光景だなって」

 

初代、先代、現役の勇者が同じ目標を目指す。

こんな奇跡1000年経ったとしても起こらないって。

歴史に残らないのが救いだけど忘れられる気がしない。

 

「皆、行くよ」

 

4度目とはいえ変わらない暑さと絶望感が漂っている。

レーダーには東郷の名前があった。

 

「本当にいたよ…」

 

「方角は、こうかな?」

 

「特に変化はなさそうだけど…」

 

「ちょっとまてぇい!なんだあれぇ!」

 

「どうしたのたまっち先輩?そんな大声上げて…えええ!!??」

 

2人が上を見て固まっていたから見てみる。

そこには巨大な黒い天体が太陽のように浮いていた。

 

「東郷さんがブラックホールになっちゃた…」

 

「あたし、久しぶりに会ったらブラックホールだったヤツは初めてだわ」

 

『光さえも脱出不可能な天体…監獄にしては上出来だな』

 

黒花さんは代償があるから結界内に待機させている。

しかし、物理法則を捻じ曲げる勢いじゃないとダメじゃん。

するとレーダーに複数のバーテックスと大量の小型の反応が現れた。

 

「最低の歓迎ね…!」

 

「でもやる事は変わらない!」

 

私はビットを8機展開する。

満開を経験したからか全機回しても負担が無くなった。

それぞれ協力をしながら小型を倒していく。

 

「このままじゃ動けない…!」

 

「でもあの距離なら舟で行けるよ」

 

園子が、壁から飛び出した。

 

「満開!!」

 

壁から光が根のように伸び一輪の花を咲かす。

その衝撃波で寄ってきていた小型を吹き飛ばした。

舟というよりかは機械化した鳥の思う。

先代組の満開は騎乗タイプって事か。

 

「いきなり満開使って!精霊の加護な無くなっちゃうわよ!」

 

新生勇者システムは散華は無くなったけど満開を使うと精霊のバリアが使用不可となる。

更に一回限りと私のと似ている。

 

「昔は無かったし、問題ないよー」

 

園子と殺し合った時バリアあったせいで苦戦したのを思い出す。

あの火力じゃいらないよね。

 

「時間が無い。皆乗ろう!」

 

『残念だが高木と精霊さん方は居残りだ』

 

まさかのストップが黒花さんから出された。

 

「なんでですか!」

 

『満開を経験したとしても紛い物には変わりない。短時間ならいいが外で変身が解除される可能性もある。お前らを死なす事はオレが許さん。これは命令だ』

 

「…了解」

 

この通信は全員に聞こえている。

ここでうじうじしていても時間が減るだけ。

行きたい気持ちを抑え納得させる。

 

「東郷を絶対取り返してきてね」

 

「もちろん!皆で帰ろうね!」

 

勇者部員を乗せた舟は紫の光となってブラックホールへと向かった。

あの速さならバーテックスでも追い付かないだろう。

 

「さてと…お客様対応の時間かな?」

 

壁にジワジワと押し寄せてくる小型。

ここで結界内に引いてしまえば皆が帰って来た時に負担が増してしまう。

 

「この量、丸亀城を思い出すわね」

 

「そうだな。皆で交代して戦ったから大きな怪我なく倒し切れたっけ」

 

「状況は違っても同じ作戦で行けると思います」

 

西暦組は経験済みらしい。

 

「ならそれで行こう。範囲が狭いから足場には気をつけて」

 

右、真ん中、左と勇者を配置し後方に杏が立つ。

残った1人は休憩し疲労が見えた者と交代する。

勝利条件が皆が安全に帰って来れるよう開けておく事だから戦いが長引くのは確実。

しかし休憩をはさんだこのローテーションなら長期戦に対応可能。

 

「杏は凄いや…」

 

彼女は参謀としか活躍できないのを悔やんでいたけど充分だと思う。

頭脳戦ってのも面白いしね。

私は一番攻撃の激しい中央を任してもらった。

ビットとモード変更による手数で押し切れると考えたから。

右に銀、左を珠子に任せ千景は休憩。

 

「んじゃ、やれるところまでやりますかね!」

 

再度ビットを展開し攻撃を仕掛ける。

次々と消えていく小型。

ビットが取りこぼしたのを剣でセルフカットする。

爽快感はあったけど目が回るくらい忙しい。

 

『杏さん一体取りこぼしました!』

 

『任せてください!』

 

インカムがあるから情報共有もスムーズ。

誰がどう交代したのかも分かるからミスも減る。

 

『美穂さん!交代です!』

 

「ラス1ッ…!よしっ!高木美穂撤退します!」

 

最後の敵をビットで貫き猶予を作る。

後ろには既に千景が到着していた。

 

「またあなたと変わるとはね…」

 

「ん?そんな事あったっけ?」

 

「気にしないで。今は休んでなさい」

 

千景は私の前に手を出してきた。

 

「そうだね。後は頼んだよ、千景」

 

私はその手に力強く合わせハイタッチをする。

戦場なのにお互い笑っていた。

 

後方にいる杏の場所まで私は下がってきた。

 

「お疲れ様です。次は銀ちゃんと交代になるかもしれません」

 

「分かったよ。杏も休んでいいからね」

 

「お気遣いありがとうございます」

 

私は杏を信じ戦況を見る。

小学生ながら巨大な斧を振るう銀、旋刃盤で多くの星屑を倒す珠子、私に代わり猛攻を受けながらも戦う千景、全員をサポートしながら戦況をコントロールする杏。

これが人間の良さ、支え合って困難を乗り越える力だ。

突然地獄全体に地面が割れたくらいの轟音が響く。

音の方を見るとブラックホールが崩れていき十字の光を二度放ち消えた。

レーダーで確認すると全員が高速でこちらに向かってきている。

『クソ――過ぎ――!』

 

「夏凛!」

 

雑音が入って聞こえないが確実に夏凛の声。

 

『バーテ――が早い――!援護――!』

 

言いたい事は分かった。

私はライフルモードに変えビットを砲身に合体させる。

壁外だと弾は遠くになるほど威力が弱まる。

なら火力を上げるまでだ。

目の前に透明なバイザーが現れ状況が分かった。

舟の後ろにバーテックスが追い付こうとしている。

私はエネルギーを貯めながら狙いを定める。

 

「…そこだ!」

 

ライフルからオレンジの光弾が放たれ、舟を掠めバーテックスに風穴を空ける。

 

『ナイスアシスト!』

 

『よーしっ!このまま突っ込むよー!』

 

今なんて言った?突っ込む?

舟は減速することなく私たちに向かってくる。

 

「待て待て待て待てぇぇぇ!!」

 

私たちは逃げる様に道を開けた瞬間、小型を引きながら結界内へ消えていった。

色々ツッコミはしたいけど今は撤退をしないと。

 

「私が殿をするから皆は下がって!」

 

ビットで退路を築きながら中へ逃げ込んだ。

最後の最後に変に体力を使ったせいで息が上がっている。

 

「防衛任務ご苦労さん。東郷も無事回収できたらしくそのまま病院向かった」

 

黒花さんが街の方を見ながら報告した。

園子無茶しすぎでしょ。

でも上手く行ったならそれでいっか。

 

「疲れたろ。そこで横になるのもいいが家に帰るのを進めるぞ」

 

「帰る余力くらいはありますって…」

 

身体にむち打ち変身したまま家に飛んでいく。

帰ったら全員リビングで溶けるように倒れ寝落ちする事態になったけど。

 

後日、東郷が目を覚ました。

やはり奉火祭が密かに行われたらしい。

しかし東郷が生命力を死にかけるまで捧げたおかげで火の勢いが安定し世界が消滅する事態は避けられた。

これで安泰、と思いたかったけど腑に落ちなかった。

私はノートにこれまでの事をまとめていた。

300年前、上里ひなたが天の神に人類延命の為に6人の巫女を捧げた。

1カ月前、使徒により人類殲滅のために園子を捧げようとした。

そして今回、動機は上里と同じだが邪魔が入ったものの完遂はした。

奉火祭を行った原因は壁の破壊と使徒の攻撃。

共に樹海に深刻なダメージを与え神の力が弱まっていた。

東郷は巫女の力もあり捧げるにはもってこい。

その場で様態を見たけど体力が落ちて弱っているだけ。

神に捧げて代償がこの程度なんておかしすぎる。

…考えるのはここまで。

私はノートを閉じベットに入る。

 

気付けば映画館におり既に上映が始まっていた。

灰色の空に十字に燃える何かがあった。

よく見ると水色の人型がはりつけられている。

 

「東郷!!」

 

これまで無心で見ていた夢だけど熱がこもる。

ブラックホールの中の映像なら私は見ていない。

なら誰が?

 

「これは神様の視点だよ」

 

横に聞きたくない声が座って来た。

黒い靄に覆われシルエットが見えない。

けど音声加工が取れていて女性と分かった。

 

「貴方の仕業なの」

 

「まさか。元凶はあの子なんだから大赦の判断は正しいよ。仮に全てを捧げても微々たるものにしか過ぎないかったけどね」

 

ここまで情報を知っているなら主催者の正体は…

 

「天の神の使徒」

 

「半分正解」

 

椅子を鳴らし座り直した。

今回は身体が動く。

 

「彼女の人類に対する憎悪は凄くてね。神はそれを利用したんだけど裏切られちゃった。けど彼はあなたのお陰で仕事を出来た」

 

「私は天の神の傀儡に堕ちた覚えは無いけど」

 

「道具だよ。こうして話せるのも彼女が無意識的に繋いでいるからね」

 

彼女…まさかね…

 

「ここで会うのは最後。次は現実でね」

 

「望むところだよ。アンタを殴らないと気が済まないんでね」

 

「楽しみだよ」

 

友奈が東郷と接触しようとした瞬間、映画が終わった。

目の前が暗くなり何も見えなくなった。

 

「また会おうね」

 

主催者の言葉を聞き闇に消えていく。




オマージュ大好きなゆゆゆになぞってやってみました丸亀決戦。
逆の位置になって頼もしくなるのめっちゃエモい。
ここが一山ですし後は下山するだけですね…
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