年を無事超える事は出来た。
風先輩が年末に復帰してきたのは驚き。
車に跳ねられて2週間程度で退院ってありえない。
勇者の力かはたまたうどんか…
どちらにせよ全員揃ったことは喜べる。
今日は勇者部による新年会が行われている。
西暦組と黒花さんも交えており私の家でも入り切らないから乃木の家でやることになった。
私はまたクソ親父と会うと思うと複雑な気持ちになったけど会わせないよう配慮してくれた。
あと、初見の3人が敷地と家の大きさみて開いた口が塞がらない状態だったのが笑えた。
そして主催が園子というのもありカオスだった。
『ふーみん先輩が入院していたからいっその事クリスマスパーティもしようぜー!』
さすがの私もこの提案はお手上げだった。
これが通常運転なのだから困った妹だ。
そんなどんちゃん騒ぎも落ち着いたタイミングで園子に聞いてみる。
「いい加減本題言いなよ。こんな事のために皆呼んだわけじゃないんでしょ?」
「やっぱたかみーにはバレちゃうかぁ〜。実は皆に見てほしい物があってね」
そう言い裏から古そうな木箱を持ってきた。
埃が少し舞って煙かった。
「何この箱?」
「年末に整理していたら出てきたんだって。確認のために中少し見たんだけど興味深かったんよ」
蓋を開けると中には何冊かの本とボイスレコーダー、そして桑が丁寧に納められていた。
「私とたかみーの御先祖で初代勇者、乃木若葉の遺品だよ」
「「「!!!」」」
3人は驚きを隠せてなかった。
そもそも本家に残しているのは当然の話。
にしても300年間も良く残ったと思う。
「保存状態はかなりいい。ここまでする理由があるんだな」
「『勇者御記』。日記みたいなものかしら…」
「ッ!」
友奈がその言葉に大きな反応を示した。
こういう細かな点見ちゃうの悪いとは思うけどね。
「とりあえず読んでみましょう。乃木は見てないのよね?」
「うん。箱は開けたけど読んでないよ」
「待ってください」
私は本を開こうとする風先輩を止める。
「これは私たちから見れば過去の出来事です。けど、3人にとっては未来の話になる」
目線を3人に向ける。
「何をしても逃れられない運命を受け入れる覚悟はある?」
タイムパラドックスとかあるかもしれないけど記憶を持ち帰るのは不可能。
今3人はかつての銀と同じく改ざんされている。
何れ知るとは言え覚悟が無い時に聞かされるよりかは余裕を持てる。
部屋に静寂が訪れた。
「私はあるわ。これまでやって来た事の結末を知りたいもの」
「まぁ300年も続いているならタマ達がやってきたことは無駄じゃなかったしな」
「私達は既に居ない身です。こうやって聞けるだけでも奇跡なのですから」
既に覚悟決めていた。
私が変に心配しただけじゃない…
答えを聞いた風先輩は改めて本をめくる。
大まかな話は出会った時に聞いた内容とほぼ同じ。
それぞれの視点で日記のようにつづられていた。
皆に伝わる様に読むものだから恥ずかしいに違いない。
途中、高嶋友奈の名が出ると皆驚いていた。
私たちにとっては倒すべき相手だから何とも言えない心情だったけど。
表紙に大赦検閲と判子が押されていたから察しはついていたけど塗りつぶしがある。
特に後半は黒塗り祭り。
記憶喪失中の銀に渡した資料を思い出す。
名前の欄は消されないのにそこすらないページか複数あった。
それに千景の名前を露骨に避けている。
まるで触れてはいけないように。
途中から珠子と杏の名前が消え後半は高嶋と若葉の名前しか無かった。
そして奉火祭。
使徒と同じ内容だったからハッタリではなさそう。
読み終わった後、何とも言えない空気が漂う。
「勇者の存在を公開し希望の光として祀る西暦、全てを秘匿し勇者を道具のように使う神世記。果たしてどっちがいいのかね」
黒花さんが足を組み天井を眺めながら呟く。
両極端な政策で良い事もあったけどその結末はほぼ同じ。
正しい選択なんてある訳がない、ただ最善を尽くすだけだ。
「次はこのボイスレコーダーだね」
「動くんでしょうか…?」
「電池はさすがに入ってないわよね」
300年経つとはいえ技術力はほぼ変わっていない。
電池そのものは問題ないけど動くかが鬼門。
「うん、問題なさそうだよ。データが一つだけあるね」
園子は再生ボタンを押す。
雑音とノイズが混ざっていて聞き取りにくいが破損はしてなさそう。
『初めまして、未来の勇者よ。私は乃木若葉。』
まさかのご先祖様の肉声。
3人の顔をチラリと見たら目を輝かせて聞いていた。
でもこの声どこかで…
『私たちは多くのものを奪われた。それを取り返す為に、強大な敵に立ち向かい戦った。時に恐怖して、悩んで、苦しんで……守りたいもののために戦っていくのだろうと信じている』
『私たちの代の勇者は、白鳥歌野からバトンを引き継いだ。そのバトンは、次の代だけじゃない。何代でも、何度でも、どれほどの時間が経とうと……引き継いで行かれるだろうと、私は思う。そのバトンの名は『勇気』である。別名を『希望』、『願い』とも言う』
『痛いこと、苦しいこと、悲しいこと、絶望すること…頑張って、頑張って、それでも堪えられないくらい、つらいこともあるだろう。そんな貴方に私が言いたいのは戦えや頑張れでもない。
鼓舞する内容だけどこれまでの私たちに刺さる言葉だった。
とても真面目で仲間想いの人なんだろうね。
生きろか…
壁で私が園子に言ったことと被る。
『ふぅ…ちょっと長くなってしまったが言いたい事は言えたな』
『若葉ちゃん、停止ボタン押せてませんよ』
『ん?…あぁ!!』
ブツリと音声が切れ停止した。
「いい事言ったのに最後しまってないな…」
「これ入れたの絶対上里さんでしょ…」
「でも若葉さんらしいですよ」
「通常運転なんだ…」
どの時代にも困難という壁はあった。
乗り越えるには小さなことの積み重ね、それも1人じゃなく皆と共に。
前に進む事に意味があるのだから。
そして残された桑。
「引き継がれたバトンってこれのこと?」
「随分物騒なバトンね。勇者に畑仕事しろって言いたいのかしら」
「もう経験してるだろ。オレからしてみれば別の意味があると思うけど」
「そうは言ってもなぁ…タマたちも知らないんだよな」
黒花さんの含みを込めた言い方が気になった。
でも答えは出ず、保留となった。
他は兵法系の戦闘を補助する本だった。
「特に目立った物は無いかな…」
本をめくっているとページが切り取られ空間が出来ていた。
そこには1枚の写真が収められている。
「これって…集合写真?」
6人の少女が映っておりその内3人は見覚えがある。
「確か初陣後にひなたさんが撮っていた覚えがあります」
「若葉がバーテックス食った時か。ありゃタマげたぞ」
「帰ってきて上里さんにこっぴどく叱られてたの思い出したわ」
「こちらにバーテックスを飲んだ勇者がいますよ」
「一気飲み~」
「須美それ今言わなくていいだろー!あれは仕方なかったんだし!」
「バーテックス食べれるらしいわよ」
「なんでアタシを見るのよ。食べ無いわよ、絶対」
「本当に食べないでね…」
談笑中に裏を見てみると『Cシャドウを忘れない』と書かれていた。
確か千景のゲームアカウント名…
たとえ記録には無くても誰かの記憶には生きているのか。
私は写真を本に戻した。
これ以上振り返る事は無い、後は前を向くだけ。
最後に皆で記念写真を撮る事にした。
黒花さん含め12人の勇者がいる事もあり、かなり密着して撮った。
園子は実家に用があると言って別れ、久しぶりに5人で帰った。
「どうだった?軽い同窓会って感じになったけど」
「乃木さんの声をこの時代で聞けるとは思わなかった。けど1人にさせたのは…」
「それを言うならタマたちの方が先だろ。まぁ、どう死んだかは分からないけどさ」
「実感は無いんですけど受け止められたと思います」
「それアタシ分かります。思い出した時もそんな事あったな位の感覚でした」
精霊にしか伝わらないトークが展開されている。
まぁこうやって後ろから眺めるもいいね。
この光景も見納め、頭に焼き付けとかないと。
同時に私の胸が少し苦しくなった。
西暦メンバーいるならこの導入使わないわけ無いですって。
勇気のバトンの継承もしてますし何やかんや重要なんですよね。
あと原作にも無いレコーダーを追加しました。
最後に話していた若葉の言葉を伝えたい思いがあったので。
多少省いてますが意味は通っているはず…
そろそろ風呂敷をたたみ始めないと。