生者に夢を、死者に花束を   作:薫製

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恩人と精霊

学校が始まると同時に部活動も本格的に動き始めた。

友奈の雰囲気が弱くなっていくのが気になったけど今は報告を待つだけ。

そんなある日。

 

『真実を話す。5人でここに来い』

 

黒花さんからお呼び出しを受け園子に外出する連絡し指定された場所へ向かう。

かつて演習で何度も使っていた廃倉庫。

寒いのにここ選ぶのはちょっとどうかと思うけど。

 

「寒いのに呼んじまって悪いな。ここしか落ち着いて話せる場所が無くてな」

 

「構いませんよ。それで真実を話すとは?」

 

「話す前に見てもらった方が早いか」

 

突然黒花さんは上着を脱ぎ始めた。

こんな寒空の下ストリップショーを見せられるとは思わず思考が止まる。

杏なんて顔真っ赤にしてるし。

もはやツッコミとかのレベルじゃない。

そして黒のインナーを脱いだ。

私も見たことの無い素肌が現れ―――――

 

「え…?」

 

そこには女性らしい胸は無く真っ黒な闇が広がっていた。

人形のように中身が無いのと同じ。

さっきまでの熱が冷め恐怖に変わる。

 

「ちょ…ぇ…?」

 

「天の神の祟り。その末期状態ってとこか」

 

「貴方は一体何をしたの…」

 

「裏切りさ。人類を滅ぼすと言いながら人類を愛した愚か者」

 

「つまり千早さんは…」

 

「そう、オレは元天の神の使徒さ」

 

「は、はぁ…?」

 

理解出来ない。

黒花さんが使徒?

あの男を基準にしても真反対の思想。

でも黒花さんは使徒と面識があった。

『いつも僕には冷たいんだね』

使徒はそう言ってた。

ただの顔見知りって訳じゃない。

なら…なんで…

 

「なんで…私の傍に居たんですか…」

 

「お前は人を殺しその呪いや恨みを身に受けた。その悪意はいずれ世界を滅ぼすと考え善意で中和しようとしたのさ。まぁ…今更親面できる訳じゃないが」

 

服を着ながら答える。

もう皮膚としての機能が無いのか寒いとも言わない。

 

「だがお前は自分で道を変えた。誰かに認められる為じゃなく自分の意志で誰かを守りたいと。オレはその夢に応えるため勇者システムを託した。結果は想像を遥かに超えたがな」

 

「アタシ達が精霊になれたのも黒花さんのシナリオにはあるんですか」

 

「まさか、使徒とはいえ全知全能じゃない。にしても血筋っていうのはここまで可能性を引き出すとは」

 

「乃木の血統…」

 

「一族揃って神樹に好かれているんだな。まだ話したりないがこれ以上言うとうつすからな」

 

コートを翻し出口を向く。

 

「何処へ行く気なんですか」

 

「オレの正体を明かしたからにはもうお前の前には立てんよ。高嶋はオレの全てを使って止める。お前は自分の出来る最善をしろ。じゃあな」

 

黒花さんは何かを引きずるようゆっくりと歩みを進める。

いつも頼もしい背中が小さくなっていく。

 

「ッ!…黒花さん!」

 

ありたっけの声で呼び止め背中から抱き着く。

私からハグをしたことが一度も無かった。

人らしい体温は無くただ冷たい。

 

「これがお別れなんてあんまりだ!私とお酒飲み交わして花嫁姿見たんでしょ!なら逃げるなよ!」

 

黒花さんはただ黙っている。

それでも私は想いをぶつける。

 

「私は黒花さんと明日が見たいの…!この先地獄が待ってようとも傍にいて欲しい!だから…」

 

「…全く、勢いよく言ったわりに最後萎れていくのは美穂らしいな」

 

一歩だけ前に進み私の方を向いてきた。

目の前に少し笑みを浮かべた黒花さんの顔があった。

右手で私の頭を撫でて来た。

 

「いいのか?こんな男口調の亡霊なのに」

 

「別に気にしてませんよ。黒花さんは私の家族なんですから」

 

「ハッ…いっちょ前の事言いやがって」

 

「それと高嶋を止めるのは私たちの仕事です。その為にはこれ以上の力が必要になります」

 

「…了解。なら奥の手解禁するか」

 

「作ってたんですか…」

 

「一時凍結させてたのを引っ張りだしたのさ。かなり無茶だが行けるかもな」

 

私達は黒花さんの車に乗せられ秘密基地へ運ばれた。

前回職員が誰もいなかったのに今回は人がいた。

皆白い研究服を纏っていてさながら研究所だ。

到着するのに気づき全員私達の方を見て立ち上がる。

 

「これより神への反抗作戦の準備を始める。300年に渡る神代を終わらせ再び人の世を取り戻す最後の戦いだ。お前ら、派手に行こう」

 

黒花さんがニヤリと笑いながら宣言をする。

この人絶対楽しんでる。

 

「美穂、ネックレスあるか?」

 

「え、はい。ここにあります」

 

「しばらく貸してくれるか?それが今回の鍵なんでね」

 

私は黒花さんに手渡した。

そのまま持ち去り検査機器の上に置いた。

 

「どうだ、行けそうか」

 

パソコンと向かい合う男性職員に話しかけた。

 

「器の強度次第になりますが計算上問題ありません」

 

「そうか、なら刀身の生成急いでくれ」

 

「分かりました」

 

何が起こっているのか分からないけどとんでもない事に違いない。

また私実験台にされるパターン?

それだけはやめて欲しいけど。

 

「展開についていけないぞ…」

 

「今は対神用の武器を作っている。いつの時代、どの神話も神を殺せるのは神だけだからな」

 

「黒花さんの計画は神を殺す事なの?」

 

「殺せなくとも追い出せればそれでいい。ようは巣立ちだな」

 

神の加護を捨て人として生きる。

言わば訣別の儀といった所。

 

「この計画は極秘中の極秘だ。口が滑りそうになったら殺してでも止めろ」

 

「外に漏れたらアタシたちテロリスト扱いですもんね…」

 

「そういう事。間に合うのを祈ってくれ」

 

こうして和解?と約束をし解放された。

しかし使徒だったとは…

理解できるけど納得はしたくないというわがままを信じ押し通せたから良かった。

 

放課後、部活は無いから早めに帰ろうと支度をしていた。

 

「美穂、今時間空いてる?」

 

蛍と燐が鞄を持って話しかけてきた。

 

「空いてるよ。どうしたの2人共?」

 

「前、私の家で本の整理した時に気になる本があったの。それを見て欲しくて…」

 

「私からもお願い!難しくて理解できなかったんだよ」

私が勇者部に振り回されている間にやってたんだっけ。

それにこうもお願いされると私も断る理由が無い。

家に連絡し遅れる事を告げ蛍の家に行く。

3人で来るのもあの事件以来。

自室に案内され一旦くつろぐ。

他人の家なのに落ち着くとは不思議。

 

「それで気になる本ってのはどれ?」

 

「これなの。ボロボロで汚いけど読めると思う」

 

表紙の所々が破けていて腐食が激しい本だった。

最近ご先祖のを読んだせいでその差がハッキリする。

 

「随分古そうだね。雑に扱わないようにしないと」

 

ゆっくりとページをめくりながら解読していく。

 

西園寺家は四国で有名な家柄で大社の創設にも携わっていた。

ある日、星が降ってきて世界が変わった。

神樹様に守られ生き続ける素晴らしい世界が作られた。

しかし、星の攻撃は絶え間なく続く。

そこに現れたのは6人の勇者と巫女。

彼女たちは戦い壁の強化と共に終わった。

でも私は知っている、この先に訪れる絶望が何なのかを。

それは██と██した代償でもある。

世界が業火に包まれ積み上げてきたものが灰と化す。

私の子孫もその家族も友達も死ぬだろう。

だからこそ私が生きているうちにできることをする。

先生の残した意志に答えるためにも。

 

 

「…なるほど」

 

意図的に隠された箇所があったけどご先祖さまのに比べたらマシ。

2人は勇者の存在は知っても内情は知らないから困惑するのも無理ない。

 

「どうだった?」

 

「意味深発言はあるけど何となくわかる」

 

「さっすが!あ、それって言える内容?」

 

「言えないねぇ〜」

 

「だよね…」

 

とは言っても完全に秘匿するのは申し訳ない。

ギリギリを攻めてみますかね。

 

「この人は未来が見えていた、けどその景色があまりにも絶望だったから変えようと努力したんじゃない?」

 

「でもご先祖さまの思いは私には届いてないよ?」

 

「ならあの人からヒントをもらいに行こうよ」

 

「あの人…あ!!」

 

燐はパンと手を叩き目を見開いた。

 

「そうだよ!ここにいるじゃん!」

 

「ここに…まさか!?」

 

「そのまさかだよ。試す価値はある」

 

「で、でも呼び方も顔も分からないのにどうやって?」

 

「こんな時1番有効な方法があるんだよ」

 

2人はゴクリと唾を飲み込み私の答えを待ってる。

 

「祈る!」

 

「へ…?」

 

「えええ…」

 

蛍、何言ってんのみたいな顔しないの。

これでも真面目なんだから。

 

「病は気からって言うでしょ?だから会いたいって強く願えば会えるよ」

 

「精神論で解決するのかな…」

 

「まぁやるだけやってみようよ」

 

目を瞑り胸で手を合わせイメージする。

暗闇に見えた暖かい白い手。

空間そのものは恐怖だったけどその手は逆に安心感を与えてくれた。

耳鳴りなのかお鈴の音が微かにする。

突然、私は目を開け前を見ていた。

そこには幼い女の子が立って私たちを見下ろしている。

白髪で長すぎて床に毛先が触れ、目は赤く肌は真っ白。

 

「黒花さん…?」

 

驚きよりもその言葉が先に出た。

髪の長さ以外は全く同じだった。

 

「…」

 

内側を覗かれるような視線が刺さる。

金縛りなのか体が動かない。

目線を動かし2人を見ても同じらしく困惑してる。

降ろしていた手がゆっくりと私に伸びてきた。

抵抗も出来ないからただ受け止めるしか無かった。

女の子の手が触れた瞬間視界が暗くなる。

目の前に現れたのは洞窟のような所。

視線がいつもより低く感じる。

奥から顔の隠れた誰かが歩いてきた。

何か話しかけて来てるけど聞こえない。

でもとても楽しそうなのは分かった。

その人は私の目の前まで来て頭を優しく撫でた。

 

『────行ってくる』

 

聞き覚えのある声が頭に響き再び視界が暗転した。

 

目が捉えたのは蛍の部屋の天井。

祈る時は座っていたのに今は仰向けになっていた。

 

「夢…?いやあの感覚は…」

 

起き上がりながら整理をする。

東郷に触れた時、似たような現象に巻き込まれた。

思えばあれは東郷が勇者だった時の記憶なんだろう。

となれば今のは…

 

「ん…あれ…」

 

2人も意識を戻したのかモゾモゾ動き始めた。

 

「あの人が私のご先祖さまなの…?」

 

「それにしては幼すぎるよ?」

 

顔も似てないし様相も違う。

それにこの家に住む幽霊にしては律儀すぎる。

 

「精霊…かな」

 

「精霊って銀のこと?」

 

「厳密には違うけどそうだね」

 

「まさか蛍ちゃんの精霊とか?」

 

「そんなわけない…」

 

「一理あるんだなぁこれが」

 

人差し指を縦に軽く振りながらニヤリと笑う。

きっと悪い顔してんだろな。

 

「本来なら契約した本人のみの関係だけど血そのものと交わしていたとしたら?」

 

「代が変わっても自動的に更新される…それじゃ!」

 

「そう、蛍は生まれた時からあの子と契約してるんだよ。だから違和感を感じないんだ」

 

「家族みたいなものになっちゃったってこと?」

 

「大まかに言えば」

 

「どうしてご先祖さまは精霊を残したんだろ…」

 

「そこが紐解けないんだよ。『先生の意志』ってのが答えなんだろうけど」

 

託されたとしても意味が分からなければ伝わらない。

かと言って明記してしまえば検閲される可能性もある。

 

「誰かの思いなんて分からないよ〜…」

 

「蛍はなんか聞いてたりしない?」

 

無言で横に首を振った。

私たちにはここが限界のよう。

 

「これは大切に保管しなよ。ただでさえ脆いんだからね」

 

2人には精霊に見せられた景色の事を話さなかった。

多分教えてもイメージ出来ないし話に上がらなかったからあの子が私だけに見せたかったんだろう。

それにしてもあの声はどう考えても…




ある意味2本立ての形になりました。
ようやく黒花の正体を出せましたよ。
急展開になってしまうのは見えていたんですけどやるしか無かったんです…
そして西園寺家の謎が増えました。
これはいつか回収したいですね。
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