生者に夢を、死者に花束を   作:薫製

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高木美穂は勇者となる

神だけが止まった世界。

本来、時は神が与えた概念。

それを使えば何であれ無事でいられない。

もう黒花さんは…

 

「これをして何の意味があるの!ただ死ぬのを延長させただけ!命を捧げる価値は無いはず!」

 

高嶋は空に向かって訴える。

そこに天の神の意思は無いように思えた。

 

「人間だからだよ。自分にはできない事も誰かが引き継いでくれる。それの繰り返しが歴史になる」

 

私は血を吹き出しながら再び立ち上がる。

 

「この戦いも誰の記憶にも残らないかもしれない…でも私が繋いでみせる…!皆の事を、忘れないために生きる!!」

 

「!!」

 

剣を捨て虎の子の刀を引き抜く。

本来なら神樹の契約破棄に使うけど出し惜しむ暇はない。

深く息を吸い込み決意を固める。

 

「私は高木美穂!誕生日は六月五日!血液型はAB型!趣味は絵を描く事!好きな食べ物はうどん!!覚え続ける…忘れさせない…!私は、私たちはこの時代この瞬間を戦う勇者だ!!!!」」

 

その時、刀身が青く輝きだした。

あまりの光に思わず目を閉じてしまった。

 

目を開くと一面真っ白の世界。

先ほどと全然違う場所。

目の前に机と椅子が置いてあった。

 

「ここは…ッ!!」

 

完全に思い出した。

偶に現れて背中を押してくれたあの人のいる世界。

目線をあげると制服を着た1人の女性が立っていた。

今度は顔がハッキリ見え、紫の目が私の顔を捉えている。

気付けば机と椅子が無くなっていてその人が目の前に立っていた。

不思議と恐怖は無かった。

 

「行くぞ!」

 

ご先祖様は右手を私の前に差し出してきた。

 

「…はい!」

 

頷き私は乃木若葉の手を掴んだ。

 

光が止んだ後私の勇者服は変わっていた。

水色を基調としており動きやすさ重視といった所。

負傷していたはずの腕が治っていて視界もクリアになっている。

 

「ん、あれ…?」

 

後ろから銀の声が聞こえた。

 

「確か胸を撃たれたはずなのに…」

 

「治ってる…!」

 

「乃木、さんッ…!!」

 

千景の声を聞き皆の視線が集まる。

 

「皆、お帰り」

 

「美穂なの!?凄いカッコイイけどどうした!?」

 

「若葉の勇者服じゃん!何で着てるんだよ!」

 

「まさか若葉さんを精霊として身体に宿したんですか!?」

 

うわぁ質問攻め。

私もこれと言って説明できないんだけど。

 

「感動の再会と言いたいけど時間が無いからね」

 

軽口をたたいても私は高嶋から目を離さなかった。

今まで見た中で大きく目を見開いている。

 

「若葉ちゃん…」

 

「言ったでしょ。私は高木美穂、貴方の記憶する人物じゃない。宣言通り全力で行こう」

 

「ごめんね…はぁっ!!」

 

今まで攻撃を受けていた高嶋が初めて仕掛けて来た。

目に見えない速さで繰り出されるパンチを刀で防ぐ。

頭で考える前に身体が勝手に動く。

拳を流し反撃をするも避けられる。

先ほどとは違い攻防戦となっている。

私は高嶋との距離を取るよう足元を刀で払う。

 

「ほぼ互角ってとこかな」

 

「これじゃ時間がいくらあっても足りないよ」

 

「なら次やるべき事は分かるよね」

 

その言葉に高嶋は軽く頷き目を閉じた。

私も目を閉じ体の内側に意識を集中する。

乃木若葉の使用記録にアクセスし構築。

使用者の名義を変更、縁を私に繋げる。

行ける―――――。

 

「来い――――酒呑童子!!」

 

「降りよ――――大天狗!!」

 

勇者服が変化し、背中から漆黒の巨大な羽根が生える。

高嶋も手甲が巨大化し鬼の名にふさわしい姿となった。

本来バーテックス相手に想定された強大な力を今、友に振るおうとしている。

ご先祖様に申し訳がつかないけどこの馬鹿げた行為を許してくれたらいいな。

天の神の攻撃が動き始めた。

時止めも尽きた以上早めに高嶋を止めないといけない。

飛翔し一気に距離を詰める。

高嶋も同じく一蹴りで急速に近づいて来た。

拳と刀が接触し衝撃波が発生し地面が抉れる。

私たちはベイゴマのように離れぶつかる動作を繰り返す。

その度にクレーターが増え衝撃波があちこちに飛ぶ。

パワーとスピード、お互い一切の過不足なくぶつけ合う。

 

「うおおおおおお!!!!」

 

「はああああああ!!!!」

 

身体のあちこちが悲鳴を上げている。

この力は乃木若葉ですら制御が難しかった。

折角治ったのにボロボロの状態に逆戻り。

でもこの方が生を実感する、まだ戦えるって気持ちが増してくる。

更に加速し高嶋の暴力を超える。

 

「喰らえ!!!」

 

高嶋のパンチを交わし柄の部分で顔面を殴りつける。

私だから出来るせこい技。

ただひるませるだけなのに加速によって普通のパンチより強くなっている。

高嶋は真っ直ぐ地面に吹き飛んでいく。

地面に接触する前に私が真下に到着し刀を構えた。

しかしそれを見越していたのか身体を捻り蹴りを腹に喰らった。

姿勢を何とか維持し翼で速度を殺す。

 

「ぐ、げほッ…!」

 

急停止したためどこかの臓器を損傷し吐血した。

移動中は呼吸がほとんど出来なかったから息が荒くなっている。

服も自分の血で赤く汚れていた。

高嶋が空に飛び上がると同時に空気が一気に重くなる。

納刀し居合の構えをする。

一撃必殺、高嶋の姿を捉えた瞬間が勝負。

 

「千回!!勇者あああパーーーーーーンチッ!!!!」

 

私に向かって拳が降り注ぐ。

足と翼に最後の力を込め飛翔する。

避けて進むものの身体に掠るだけでも激痛が走る。

意識を保てているのもほぼ気合だ。

それにこの気合は私だけのものじゃない。

 

『美穂!!』

 

『高木さん!!』

 

『美穂!!』

 

『美穂さん!!』

 

インカム無いのに聞こえるなんて縁強すぎだって…

まっ、最高の応援だけどね!!

次第に高嶋の姿が大きく見えてくる。

威力が増してくるけど刀に沿えた手は離さない。

 

「おおおおおおおお!!!!」

 

間合いに入ったのと同時に高嶋が渾身の一撃を当ててくる。

私は避けず抜刀した。

溜めていた分のエネルギーが光となって振るわれる。

刀は高嶋の拳を裂き胴体に深く当たる。

そのまま高嶋の横を通り抜けるように刀を抜く。

血を流しながら酒吞童子の力が解け勇者服のまま樹海に落ちていった。

私は高嶋を空中で抱えゆっくり降り、横たわらせる。

同時に変身が解け通常に戻った。

 

「なんで止めをささないの…?」

 

「誤解を生まないよう言うけど手抜きじゃないよ。ただその身体を使った以上言うべき事があると思ってね」

 

4人が走りながら近づいてきた。

 

「あはは…最悪の気分だよ…」

 

「高嶋さん…」

 

「私も必死だったんだよ…ボロボロになりながらも友達を守りたくて。でもダメだった…」

 

吐き出すように言っている。

 

「力があっても救えないんじゃ意味なんてないよ…」

 

「そんな事ないわ」

 

千景が残った左手を握る。

 

「高嶋さんの想いは無駄じゃない。それが私たちではなく他の誰かに届いているなら意味のある事なの」

 

「……ありがとう、ぐんちゃん」

 

そこにいたのは普通の少女だった。

高嶋がゆっくりと私の方を見る。

 

「私を倒しても天の神がいる限り滅びは終わらないよ」

 

「知ってるよ。それに私たちが簡単に諦める訳ないのは理解してるクセに」

 

「そうだったね…3人を救ってくれてありがとう…」

 

高嶋の身体が黒くなり灰のように砕け消えていった。

満足気に消えたことに安心したのか全身の力が抜けた。

 

「おいおいおい!大丈夫か!」

 

珠子と銀にギリギリ支えられ倒れる事態は避けた。

 

「えへへ…ちょっと頑張りすぎたかな…」

 

「全く、ご先祖さまを宿すなんて無茶苦茶なんだよ…」

 

「でもご安心を!死ぬほど痛いだけで死なないから!」

 

「自慢するほどの事じゃないんだけど」

 

「黒花さんや勇者部の皆さんは大丈夫でしょうか…」

 

「大丈夫だよ…皆なら上手くやるよ」

 

手元には刀身が途中で折れた刀が残っていた。

とりあえず私の仕事は終わり。

心残りは友奈の安否だけど…帰ってくるに決まってるよ。

確証は無いけど自信はある。

友達を捨ててまで救う世界にあるのは虚無。

そんな悲しい結末を望むわけが無い。

すると樹海全体が黄金に輝き始めた。

 

「なんだなんだ!?」

 

「まさか神婚が成立したんじゃ!」

 

「違うよ。これは人の心の光だよ」

 

その光は神樹に集まり次々と桃色の花を咲かせる。

散々文句言ってきたけど綺麗じゃんか畜生…

根元には一段と大きな蕾が現れ開く。

 

「私は、私たちは人として戦う!生きたいんだ!!」

 

友奈の声が頭の中に響く。

それは4人も同じだった。

桃色の光となった友奈が空に飛び上がる。

天の神は極太の光を撃ち落とす。

本気なのか熱風がこっちにまで届く。

その熱風もバリアで守ってやっと立てるレベル。

 

「勇者は不屈!何度でも立ち上がる!!」

 

「友奈!」

 

「友奈さんの幸せのため!」

 

「なせば大抵!」

 

「なんとかなる!」

 

「勇者部ッ!!」

 

『ファイトー!!!!』

 

「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

友奈と光の間に6つの花が層となって広がる。

一時推し返せれたものの有効打にならない。

 

「私を!置いて!!行くなぁ!!!」

 

空に向かって手を伸ばす。

7つ目の花が咲くもまだ足りない。

 

「点がダメなら線だ!!」

 

私の中にある縁を友奈の元へ繋ぐ。

2年。

 

「勇者は気合いだろ!」

 

300年。

 

「貴方の夢を!」

 

「「友と過ごす明日を!!」」

 

「「「「「願いよ!届けぇぇぇぇ!!!!!」」」」」

 

虹色に輝く8つ目の花が咲き回りながら後押ししていく。

破滅の光を押し戻し天に昇っていく。

 

「勇者ぁぁぁパーーーーーーーンチ!!!!!」

 

全てをまとめた一撃は神すら貫く。

赤かった空は灰色に変わりガラスの様に散っていく。

同時に神樹の花びらが散り樹海を再生する。

 

「炎すらも樹海化してる…!」

 

壁を越えその先の世界までも幹を伸ばしている。

神樹も灰色に変わり果てボロボロと壊れていく。

 

「終わった…皆、やったんだ――――――!」

 

4人の身体が薄れていっている。

驚いていたけどお互い軽く笑い合い私を見た。

泣くのかと思ったら意外と涙は出なかった。

私が最後に言う言葉は決まっている。

正面から皆の顔を捉え笑顔で答えた。

 

「行ってきます!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視界に入ったのは青空。

今までの出来事が嘘のような雲一つない空。

 

「帰って、きた…?世界は…?」

 

「ちゃんとあるね…」

 

「神樹様は…?」

 

「消えた…」

 

「散華…?」

 

勇者部の皆が近くにいるのが声で分かる。

 

「うっ…!うぅ…」

 

「友奈ちゃん!?どこか痛むの!?」

 

皆一斉に飛び起き友奈の元へ近づくと、胸元が少しはだけていた。

そこには紋章が無く健康な肌が見えていた。

 

「消えてる…」

 

「そっか…終わったんだね…」

 

安堵のため息が出る。

怪我も治っていて血の一滴もない。

訣別の儀は成功したんだ。

 

「三ノ輪銀、郡千景、土井珠子、伊予島杏…うん。覚えてる…」

 

一番忘れてはいけない家族の名前を呼ぶ。

消えても私の思い出の中で生き続ける。

約束を果たせて良かった…

 

「みんな…みんな、ごめんね…」

 

「私こそごめんなさい…」

 

「夏凛ちゃーーーん!!」

 

「うわッ!急に抱き着くな!!」

 

このくだり久しぶりに聞くけどいいなぁ…

くだらないけど温まる。

 

「あの…そこの人…」

 

口調が少し変だけどこの声は間違いなく黒花さんだ。

 

「黒花さん!無事だったん…」

 

後ろを振り向きその姿を見た瞬間心臓を鷲掴みにされた感覚に陥る。

崩れた祠の土台に寄りかかり、四肢を力なく投げ出し座っている。

体は私が見た時よりも酷く髪も含め全身が黒く焦げていた。

そこに転がっているのが黒花さんと分かるのは左目の周りだけ。

左目も血脈が走っているような跡があり痛々しい。

 

「まだ、終わってないの…?」

 

「私のせいだ…私が祟りを移しちゃったんだ…!」

 

「友奈ちゃんは悪くない!助ける方法が他に…!」

 

既に神樹の力は返してしまい端末もヒビが入って起動しない。

 

「早く…殺してくださ、い…また…あの子達に…迷惑かけ…たくない…」

 

息も絶え絶えで今にも消えそうなくらいの声で死を望んでいる。

こんな姿見たくなかった…

 

「先生!!!」

 

「ごめんなさい…貴方の…顔見ても…分からないの…」

 

「ッ!ふざけるな!!どこまで奪えば気が済むんだ!!」

 

「夏凛さん…」

 

元々使徒だったから依代になるのは目に見えていた。

黒花さんの言う通り殺さないと今度こそ終わりだ。

私はどうすれば…

コンッと足に何かが当たった。

端末かと思い下を見たらさっき持っていた刀が落ちていた。

 

「あぁ…そういうこと…」

 

刀を拾い黒花さんに近づく。

 

「たかみー…?」

 

「友奈が壊したのはこの世界との繋がりだけ。再び襲ってくる可能性は大いにある。それが先の未来か今の話」

 

「何言ってんのよ…」

 

「もう私たちの代で終わらさないと行けない。そのためなら…」

 

「ダメです!そんな事したらもう!」

 

「これは運命なんだよ。私に与えられた最後の十字架なの」

 

両膝をつき黒花さんと対する。

 

「ありがとう…ございます…でも、貴方の手を…汚して…しまいますね…」

 

「このくらい気にしないでください。先生は充分頑張りました。もう休んでいいんですよ」

 

両手で刀を握り振り上げる。

分かっていても手の震えが止まらない。

 

「おやすみ、黒花さん」

 

私は力強く心臓に向かって力強く下ろした。

柔らかい物を破る感覚が刀を通して伝わる。

血は出ず手が汚れることはなかった。

 

「なんで殺したの…だって先生はアンタの…!!」

 

「育ての親です。この人は世界の敵として、神の敵として生きてきました。もうそんな枷を無くして楽にしてあげたいんです」

 

たまに寝顔を見る事もあったけどここまで穏やかなのは初めて。

 

「天の神の使徒、黒花千早は死にました。これからは1人の人間として生きてください」

 

「どういう事…?」

 

心臓に刺した刀が淡い光を放ちながら黒花さんを包む。

赤い刻印が消え、黒い体も元の色を取り戻す。

顔の火傷跡もなくなり綺麗になった。

 

「この刀は神を倒す武器じゃない。神と人の契約を破棄する力なんだよ。本来は神樹用に使うはずだったんだけど友奈が肩代わりしてくれたおかげで助かったよ」

 

まぁご先祖様召喚でかなり使ったから賭けに近かった。

だから悪者風の三流芝居うったけど無駄になって安心した。

 

「あ、美穂…か…?」

 

ゆっくりと目を開ける。

そこにはしっかりと生の息吹を感じ取れた。

 

「正解です。遅いんですよ、全く」

 

いまいち状況を理解していないのかボーっとしている。

突然自分の服の中を覗き始めた。

黒い体はそこには無かった。

 

「…そういう事か。このバカ弟子が…」

 

「バカはそっちですよ。死ぬなとか言って何1人逃げてるんですか。自暴自棄の友奈と同じ考えですよ」

 

「そこで私の名前出さないでよー!!」

 

「フッ…こっから忙しくなるぞ」

 

「上等。見せつけてやりましょう、人間の生きる強さってのをね」

 

私は立ち上がり膝の砂を払う。

 

「おかえり。みんな」

 

それぞれ顔を見合わせながら笑いあった。




このタイトル使わないで何がゆゆゆだッ!

戦闘ではのわゆ、大満開のオマージュを放り込みました。
最後のオチはFGOのカオスなORTみたいな感じですね。
頑張って倒したのに生きてる、けど何とか倒す的な展開好きなので軽く入れました。
大天狗は特撮でいう1回限りの最強フォームみたいな立ち位置です。

最終回が近づいてくると何だかドキドキします。
不思議な感覚ですね…
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