生者に夢を、死者に花束を   作:薫製

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秒針を歩く

黒花さんが立案した訣別の儀は成功し神のいない新たな時代を迎えた。

神樹の加護ありきだった為、資源不足に直面している。

物価高騰の波によりフラストレーションが高まっている。

テレビや外では過激派がここぞとばかりに主張を市民にぶつける。

その元気を人のために使って欲しいと思ってしまう。

まぁ勇者部は通常運行ですけど。

と言っても風先輩の後釜が樹ちゃんになった。

しかも風先輩はOGとして参加すると豪語している。

妹バカなのか未練タラタラなのか…

 

「あのねイッつん。これからの事なんだけどね、これ覚えてる?」

 

「それ、正月の!」

 

「ピンポーン〜ご先祖様からのバトンだよ」

 

「でも3人に聞いても謎だったんだよね」

 

諏訪で貰って来た事は事実だけど何で残そうとしたのかは分からずじまい。

考察する暇が無かったから存在を忘れてた。

 

「先生の畑でも手伝うの?神樹様の加護が無かった土地なんだし」

 

「いい線ついてるね。あのね…良く聞いて。これが最後の秘密。色々言われているけど、本土に人はもういないの」

 

「…続けて」

 

「初代勇者—————白鳥歌野は、諏訪地方で最後まで戦った。四国を守る最後の時間を稼ぐためにね」

 

「ひょっとしてその桑が、凄い武器って事?」

 

「この桑が?」

 

「業物って一見地味なものよ」

 

「残念、びっくりするくらい普通の桑なんよ」

 

夏凛の顔が茹蛸になってる。

まぁ流れ的に恥ずかしいのは納得するけど。

 

「でも、どうして白鳥さんはその桑を?」

 

「乃木の若葉ちゃんが言ってたんだって。神樹の勇者は他戦う事が本懐じゃないんだって。戦いが終わった後、元の暮らしに戻れるよう頑張ること、それが勇者の本懐」

 

『オレからしてみれば別の意味があると思うけど』

正月の時に黒花さんが桑を見て呟いていた。

それに畑を複数持っていて加護の無い場所のみを選んだ…

 

「まさか…!」

 

「そう。くろっちは見ていたんだよ。訣別の儀の先を、人として生きていける未来を」

 

あの人はただ神へ反逆する事だけを考えていたわけじゃない。

多くの人と関わり自己の視野を広げ共により良い未来を作ろうとしてたんだ。

途方もない時間をかけて…

 

「きっと大赦も戦いを忘れないようにと思って舞台に出て来たと思うんだよね」

 

「長い時間を経て体質が変わってしまったのね」

 

歴史上でも本人が行っていないのにどこかでねじれ異なる形で伝えられる事はある。

組織なら猶更統一されていないから余計起こりうる。

現在の大赦は職員のほとんどを失い組織として動けていない。

元々神託ありきの組織だったから潰れるのは必然か。

しばらくごたつきそうな気配だけど踏ん張り所だと思う。

 

「それでね!私いい事思いついたんよ!!」

 

この輝いた目、嫌な予感しかしない。

 

「良い事?」

 

「大赦をぶっつぶーーす!!」

 

余計ごたつかせる要因がここにいた…

そしてデジャヴ…

 

「アンタまた極端な!?」

 

「予想の斜め上行ったわね…」

 

「これが妹って未だに信じられない…」

 

「本当に出来るの?」

 

「乃木の特権と放ってきた草を最大限使えばあっという間よ!」

 

絶対黒花さん入ってるでしょ…

あの人面白いって思ったらすぐ突っ込むからなぁ。

 

「待ってそのっち。ちょっと興奮するクーデターだけど落ち着いて。もう争いごとはダメよ」

 

「うん。今、超グダグダな大赦に任せておくと、またじゅくじゅくして間違った事しちゃうと思うんだ。だから私が…」

 

「人柱になっても?」

 

「…それしか方法は無いよ」

 

また祀り上げられるのを望むの…

このままだと使徒の発言通り人の手で滅びを迎えてしまう。

 

「あのね――――――」

 

「園子さん。そうすることが、初代勇者の想いに繋がるんですか?」

 

私の言葉を遮り樹ちゃんが問いかけて来た。

驚いて何を言おうとしたか忘れてしまうくらいだった。

 

「人間の暮らしが元に戻るように頑張るのが勇者だとしたら、若葉さんや白鳥さんを想うのでしたら…」

 

少し目線を降ろしたけど決意をした目で園子を見る。

 

「分かりました!讃州中学勇者部は!これからもっと勇者部になります!」

 

「えっ…?」

 

「変身なんかできなくても、人の為に出来る事は沢山あります!今、不安になっている人、困っている人が大勢います。そんな人たちの為に、率先して世の為になることを続けます!それが私たちの方法です。それじゃダメですか?」

 

「ダメじゃない…です」

 

「だから園子さん、もう危ないことはやめてください。私たちは中学生なんです。勉強も部活も青春も、大切な物は沢山あるんです」

 

「うん…分かったよいっつん」

 

「良かったです…」

 

凄すぎて見入ってた…

あの園子を真正面から正論で封じるなんて。

犬吠埼姉妹は伊達じゃないね。

 

「とりあえず平和的に大赦を見守るよ~」

 

「程ほどにね…」

 

「おっ、ここにいたか」

 

ドアを開け入って来たのは黒花さんだった。

 

「指示通り大赦本部の爆弾設置が完了した。いつでも花火上げられるぜ」

 

園子に赤いボタンのついたリモコンを差し出す。

 

「はぁぁぁぁぁ!?」

 

「タイミング悪いですよ!!」

 

「てかクーデター本気でやろうとしてたんじゃない!!」

 

ダメだこの人…

身内がトンチキ過ぎて胃が痛いよ…

 

「ありがとう、くろっち。でもクーデターはやめにするよ。もう少し大赦を信じてみようと思うんだ」

 

「そっか…分かった」

 

黒花さんは差し出したリモコンをジッと見ていた。

すると何の躊躇もなくボタンを押しやがった。

 

「ええええ!!??」

 

「何押してるんですか!!」

 

「もうダメだぁぁぁ!!!」

 

風先輩なんて頭抱えてわなわな震えてる。

全ての始まりは貴方なんですよ…

 

「安心せい、ただのおもちゃだ。元々爆弾なんて仕掛けてねぇよ」

 

「冗談でもしていい事があるでしょうが!!」

 

「察してたくせに何言ってる」

 

「それでもですよ!この300歳ババア!」

 

「おまッ!それ禁句だろ!」

 

「うるさい!これくらい言われて当然の行為ですよ!」

 

カオス度が増したけどこのくらいはっちゃけた方がいい。

黒花さんも満更でもなさそうだしね。

 

 

園子と一緒に帰宅中、寄りたい所が出来たらしいからついて行った。

そこそこ広い歩道橋の上で歩みを止めた。

 

「私、そろそろ家を出ようと思うんだ」

 

「死神がいないくなったしね。あーあ、これでまた1人かぁ〜…」

 

柵に寄りかかり腕を組みながらぼやく。

半年以上誰かといる生活をしていたお陰で孤独になるのが少し悲しく感じる。

 

「まだあの家にいるの?」

 

「まぁね。良い思い出しかない所だから」

 

4人が消えた後も部屋をそのままにしてたけど維持が大変な事に気づき燐や蛍等にあげたり寄付したりして綺麗にした。

やってる時は遺品整理してる気分だったけど間違いじゃないから何とも言えない。

そして私がクリスマスプレゼントで渡したお守りは4つとも無くなっていた。

最後まで持っててくれたのは今思うと嬉しい。

 

「そうだよね…」

 

園子は街を見下ろしながら黙っていた。

いつもなら『どうした?』とか聞くけど今回は待ってみる。

 

「私ね。こんな世界どうでもいい、寧ろぶっ潰れてしまえって思ってたんだ」

 

私は姿勢を変えず黙って聞く。

 

「でも今は無くなったら嫌だ。守りたいって思えてる。みんながいるお陰で私、人間に戻れたよ」

 

懐からバッと白い手紙を取り出した。

そこには『退部届』と書いてあった。

園子は両端を持ち真っ二つに破り捨てる。

 

「乃木家の末裔じゃなくて1人の乃木園子として勇者部を続けられるよ。嬉しいなぁ〜」

 

その顔に偽りはなく心から喜んでいると感じた。

 

「園子様…」

 

聞き覚えのある声が階段を上がってきた。

仮面を被っていて素顔を見たことが無かった。

片目に包帯を巻いているのが気になったけど黙っておく。

園子はニコニコしながらも反応しない。

 

「…乃木さん」

 

「うん。待ってたよ先生」

 

くるりと回り神官…先生を見た。

いやらしい対応だなぁ。

 

「本当に決心を…」

 

「うん」

 

「私は本音を言うともうあなたたちに…」

 

「ありがとうね、先生」

 

園子の言葉に先生が驚き小さく声を出した。

本来なら聞こえるはず無いけど周りが時が止まったように静かだった。

 

「私はねこの道を自分で決めたんだ。もう誰からも指示でもないからオーライ。助けてくれる?」

 

「もちろんよ。私はどうすればいい?」

 

「大赦をぶっ潰すのは中止、もう少し平和的に行うよ。私ピッカーンって思いついたの。今の混乱した大赦をまとめるには御神輿が必要なんよ。それって私が一番適任じゃない?」

 

「その通りだけど、またあなたが辛い思いを…」

 

「大丈夫!私もう人形じゃないから!部活も大赦も両立するなんていかすゥ!青春バリバリだよ~!」

 

満面の笑みでサムズアップを決めた。

こうなったらマジでやるから反論が出来ない。

 

「乃木園子の新たなステージ!振り落とされるなよ~!!」

 

思わず鼻で笑ってしまった。

 

「貴方はそれでいいの?」

 

先生が私に聞いてきた。

 

「良いか悪いかなんて他人の決める事じゃないですよ。その道を自分の意志で選んだなら支えてあげないと」

 

「似ているわね…あの人と」

 

「よく仕込まれましたから」

 

軽く微笑み返した。

この人もきっと辛かったんだと思う。

勇者でも戦闘のプロでもないからただ待つしかできない。

だから自分を殺しロボットになった。

でも今の表情を見ると人に戻れている。

 

「とはいえ私は私の道を行くから支えるのは難しくなるけど」

 

「どんな道を選んだの~?」

 

「さぁ、なんでしょうねぇ?」

 

「ケチ~!教えてくれたっていいじゃんー」

 

「内緒は内緒。我慢しなさい」

 

「むぅ~~~…」

 

「膨れたって言わないよ」

 

姉妹漫才をここでするつもりはなかったけど先生が笑ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4年後。

 

「これで良しと…屋根の補強終わりました」

 

「助かった。まさか雨漏りしてるとはな…」

 

私は梯子からゆっくり降りる。

春を間もなく迎えるって言うのに日差しが強い。

腕をめくり半袖になる。

 

「欠陥住宅とかやめてくださいよ。これまでの積み重ね全部パーですから」

 

「分かってるわ。ったく、責任者誰だよ…」

 

黒花さんは頭を掻きながら農作業に戻る。

ここは旧岡山県倉敷市、つまり私は壁の外に立っている。

300年経過した世界かと思いきや人類が消えて4,5年くらいしか経過していないと分かった。

街は自然の回復力に飲み込まれ、道が壊れていたり草が生い茂っていたけど人が住める状態ではある。

そこで本当に人が長期に渡って住めるか実験する必要があった。

当然壁の外に行きたがる人は1人を除いていない。

 

『壁の中生き苦しくて嫌になってたんだよ』

 

そう言い黒花さんは私を巻き込み住む事になった。

元々、外の世界に行きたいと思ってたから嫌じゃない。

物資は基本自給自足。

生態系や環境を崩さない程度に命を頂き生きている。

縄文時代に遡った感覚だけど自然と共に暮らしていくにはこれがベスト。

研究機材や現地で入手困難な物は黒花さんが率いていたチームがサポートしてくれる。

 

「さてと…」

 

私はタオルで顔を軽く拭き壁内側の門を開け受け入れ態勢をとる。

予定だとそろそろ来るはず…

 

「ん、来たね」

 

遠くからバイクの音がする。

オフロード対応でそこそこ馬力が出るタイプだからうるさい。

青と赤のヘルメットをかぶった2人の少女が乗ったバイクは私の前で止まる。

 

「お疲れ様。燃料補給はするから少し休んでいきなよ」

 

「ありがとう。お言葉に甘えさせてもらうわ」

 

「んー…!空気が美味しいなぁ~」

 

友奈と東郷の元気そうな顔を拝めた。

2人は壁外調査隊の先陣を務めている。

主な仕事は西暦の地図を元に危険なポイントの調査と生存者の有無。

滞在時間が短いから地道に進めるしかない。

その中継ポイントとしてここは使われる。

いわば人類の最前線基地だ。

 

「今日はどこ行くんだっけ?」

 

「東の方の調査に行くよ」

 

「あっちは熊が出るからなぁ…熊避け持ってく?」

 

「できれば2つお願い出来るかしら」

 

「了解」

 

私は燃料のあった小屋の引き出しから鈴を取り出す。

軽く振ってちゃんと鳴るか確認する。

 

「大丈夫そう。帰りに返してね」

 

2人に渡し書類を東郷から受け取る。

 

「一七○○に帰還予定、と。この時期は一気に暗くなるから余裕持って帰りなよ。最悪遅くなったらここに泊まっていいから」

 

サインをしファイルに挟む。

行くのも手続きが必要だから面倒くさい。

 

「よう、お前ら。元気そうでなによりだ」

 

「先生やっほー!」

 

「相変わらず泥にまみれてますね」

 

農作業をやめ遊びに来た黒花さんは顔にも泥がついていた。

全く、だらしないんだから…

その間に小屋に戻りレバーを下げる。

外門はもしもに備え厳重にしてある。

まぁ外敵なんて熊ぐらいなんだけどね。

 

「もうそろそろで開くから準備しなよ」

 

「そういえば美穂ちゃんは髪変えないのね」

 

友奈はシンプルなショートテールに、東郷は短く揃えていて新鮮に思う。

私と黒花さんは特に変える事はしていない。

 

「まぁ、変えてもいいんだけど…」

 

胸にかかっているネックレスを握る。

 

「また会った時に誰って言われたくないからね」

 

力を失い普通のアクセサリーとなったものの繋がりをどこか感じる。

過去に縛られていると指摘されればそうだと言ってやる。

でもあの日々が私に勇気をくれる。

だからこうして前に進む事を恐れない。

 

「もう開いたぞ。次のポイントから三好の回線に繋げよ。この時間アイツ暇してそうだし」

 

「分かりました」

 

2人はヘルメットを被りバイクにまたがる。

運転を東郷が行い友奈は後ろにしがみつく。

 

「行ってらっしゃい」

 

「行ってきます!」

 

門を抜け街道を進んでいく。

その姿が見えなくなるまで2人で立っていた。

 

「変わっていくな。アイツらも世界も」

 

「人はいつだって変われるって黒花さんが言ったんじゃないですか」

 

「まぁな。これから先世界がどう変わるか分からん。その為に今のオレたちが道を作らないとな」

 

私たちの行為はあくまで種を巻いただけの様なもの。

どう成長するかなんて分からない。

それでもより良い未来を信じ進み続ける。

人であるからこそ明日は分からないんだから。




大満開ルートをまんま使いました。
西暦扱った以上この展開にはなっちゃいますけどね。

これで本編は終了…しないんだなぁこれが!!
いつも通り1話残ってます!
次の話は皆が求めてた展開なじゃないかなって勝手に思ってます。

話は変わりますがアサルトリリィとコラボするらしいですね。
とんでもねぇ、待ってたんだ…
(課金して爆発する音)
一時期やってたんで帰ってこよっかな…
ちなみにスタートのきっかけはシンフォギアコラボでした。
あれ、ゆゆゆってシンフォギアとコラボしてた…
??「愛ッ!ですよッ!!」
??「何故そこで愛ッ!?」

「生者に夢を、死者に花束を」全体を通しての感想

  • 心躍るなぁ…
  • 止まるんじゃねぇぞ…
  • 見る価値なし!
  • (無言の腹パン)
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