解けた後は愛しの我が家に帰っていた。
少し早いけどお昼の準備をしないとね。
手を離したけど抵抗はなかった。
今度こそ立ち上がりキッチンへ向かおうとした時、電話がかかってきた。
銀の背中がビクリと飛び上がった。
「これは普通の電話だから安心して」
そう言い銀に背中を向け画面を見た。
相手は黒花さん。
「高木です」
『今樹海化したか?』
「はい、してました」
『そうか…動けてたろ』
その言葉は私ではなく銀に向けてだろう。
「動けてました…」
『やはりな。今日の夕方お前の家に行く』
「唐突ですね、いいですけど」
『あと夕飯は買ってくから作るなよ』
仕事帰りの親か。
まぁ私にとって黒花さんは親同然の存在だけど。
「分かりました。ではお待ちしてます」
私は電話を切った。
振り返ると銀がソファに座ってこちらを見ていた。
「今日誰か来るんですか?」
「そうなんだよね。まぁ私から見たら先生?ってとこかな」
「先生…ですか」
少し不安そうにつぶやく。
「心配しないで。歳上だけど気さくな人でね。すぐ仲良くなれるよ」
ポンポンと頭を軽く叩いた。
そういえば最近ボディタッチ増えてる気がする…
とりあえず昼飯の準備をしないとね。
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高木と連絡を終えた数時間後。
オレは英霊の碑の前に1人いた。
歴代の勇者が眠る共同墓地のような所。
そしてオレの護るべき場所。
「貴方はいつもココに呼びますね」
お目当ての女性の声が聞こえた。
「ジャスト13時。さすがだな」
「そう言う貴方は何時からいるのですか?」
「ハッ、オレは幽霊だからな。何処にでもいれるのさ」
指を曲げてお化けの真似をしながら後ろを見た。
いつも見る気味の悪い仮面を被っていたから表情が分からない。畜生。
「仕事の合間に抜け出したのか。そいつは悪い事したな」
「緊急と聞いたので。御用とは?」
オレは顔を引き締め真面目モードに入った。
「なぁ、不死鳥の逸話知ってるか?」
「1度灰になってから蘇る。それが何か?」
「2年前。
その言葉を聞き、彼女は手を握りしめた。
食いついたな。
「どういう意味ですか?」
「そのまんまの意味だ。報告だと最後まで立っていたそうだな。あの時棺桶に入ってたのは偽物かもしれないな。」
「冗談を。まるで今生きているような口振りですね。」
「そう。1度死んだやつは蘇らない。だが、この世には例外が必ずあるんだよな」
息を飲む音がした。
半ドームになっているからよく響く。
「まさか…」
「さてお話はここまでだ。仕事に戻りたまえ」
オレは彼女の横を通り抜けようと歩み寄る。
「あぁ。1つ忠告だ。今アンタが思っていることが
敢えて耳元で呟いた。
オレ自身言いたいことはそこだけだったが。
階段を登りきったあたりで後ろを見た。
彼女は微動だにせずその場に立っていた。
さて、今日の夕飯考えないとな。
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「よっ」
夕方になり、宣言通り黒花さんが来た。
右手に仕事用の鞄を持っている事から直接来たっぽい。
「よっじゃないですよ。いきなり何なんですか?」
「いやぁ、同居人が出来たから長年見てきた身としてお祝いをね」
絶対嘘だ。
狙いは銀に違いない。
手をつけることはないだろうけど。
「はぁ、とにかく入ってください。立ち話がご所望なら構いませんけど」
「キツイねぇ〜。んじゃお邪魔するぞ」
てか左手の荷物から油の臭いが漂ってきてるし。
「おっ、アンタが同居人か。初めまして。オレは黒花千早」
「初めまして。銀って言います」
黒花さんが握手を求めていたが恐る恐る応じている感じだった。
「ああ。顔の事気にしてる?怖くてごめんよ」
「銀大丈夫。見た目の割にポンコツだから。」
私は荷物を机に置きフォローを入れる。
「ポンコツとは失礼な。誰のお陰でアレ使えてると?」
「はいはい。ありがとうございます」
「お前なぁ…」
大袈裟に肩を落とした。
銀も少し笑ってくれたからよかった。
「てことで、今日の夕飯はバーガーパーティだ!!」
薄々気づいていたが某人気チェーン店のハンバーガーだった。
サイドメニューとしてチキンナゲットにポテト。
あと私の家に無いのを見越しての2Lコーラ。
用意周到か。
「美穂!コップ出せ!」
「言われなくてもやりますよ。てか指示するなら手伝って下さいよ!」
「アタシも手伝いますよ!」
「偉いぞ銀!後でお小遣いやろう。美穂の口座からな。」
「はっ倒しますよ?」
黒花さんが来るといつもこうなる。
けど銀がいるだけでこうも変わるとはね…
まるで部屋全体が明るいような心地良さを感じた。
「おっと手が滑った」
「へっ?」
黒花さんが銀の胸を揉んでいた。
「何…してるんですか?」
「いや、これは事故だ。悪気はない」
「なら離してくださいよ。あなたそういうキャラじゃないでしょ」
名残惜しそうに離した。
次やったら顔面に一発入れないと…
『カンパーイ!!!』
3人でコーラの入ったコップを合わせ飲み始めた。
「───ップハ…クゥ〜!開けたてのコーラは染みるぜ…!ゆっくり持ってきて正解だったな!」
「飲み方がジジイなんですよ。もうちょっと品よく飲んでください」
私はポテトを一本頬張った。
この塩加減が食欲そそるんだよね。
まぁたまに食べるからこそだけど。
「あのなぁ…こういうのは勢いで食べて飲むもんなんだよ。たまにナイフとフォーク使って食べるやついるだろ?あれハンバーガーに対して失礼だと思うんだよな」
「それは分かりますけどこれと今の行為は違いますよ。」
「ほんとぉ?銀さんよ。今の意見どう思うかね?」
黒花さんは目線を銀に移した。
私の隣に銀が座っているため黒花さんとは向かい合う形になっている。
「そうですね…アタシは黒花さんのような大胆さ好きですよ」
「いいねぇ〜。美穂も見習えよ」
変な事吹き込まないか不安だ…
「黒花さんの仕事ってどんな事してるんですか?」
銀が黒花さんに興味を持ったようで話しかけていた。
「んー…これといった仕事は無くてな。大赦の各部署の様子とかコイツの監視かな。」
いや最後の言い方よ。
確かに監視だけどそこまでじゃないでしょ…
あえてつっこまず食べながら静観していた。
「言いにくいかもですけどアタシの情報って出ました…?」
一瞬空気が凍り付く。
黒花さんも表情が固くなる。
私もその発言が飛んでくるとは思わず手を止めてしまった。
「あっ…すみません…変な事聞いて…」
バツが悪そうに目線を下げてしまった。
「あぁ。あるさ」
黒花さんはそうつぶやいた。
唖然とした。
私自身も名前しか教えられていないのに言うとは思わなかった。
「ただ…」
コーラを飲み干し付け加える様に
「手が油まみれだから後でな!」
と両手を見せながらにこやかに言った。
「では、食べちゃましょう。終わったらゴミの分別お願いしますよ」
私も黒花さんの流れに乗り部屋の空気を元に戻した。
銀も少し戸惑っていたが立ち上がり手伝ってくれた。
片付けが終わり昨日と今日の戦闘報告をした。
私は口頭で行い、黒花さんが高速タイピングでまとめていく。
打つ速度早すぎでしょ…
「―以上です」
「了解…っと。お疲れ様」
深いため息をついて椅子の背もたれに寄りかかる。
黒花さんと仕事をするとなぜか緊張する。
同じく銀も肩を縮こませながら見ていた。
「銀は緊張しなくてもいいんだよ」
「なんか真面目な高木さんが新鮮で」
「ほんと?なんか照れるね」
サラッと言ったものの内心バクバクだった。
だって自分は普通にやってるのにそれがいいと言ってる様なものだからね。
「送信完了。次の出撃までは待機、自己鍛錬忘れるなよ」
パソコンをしまいながら命令を出した。
生活そのものに変化はないけど。
てか、私の自己鍛錬知ってるくせに。
「後、全員の変身を確認した」
東郷さんもなれたんだ。
あの2人がいるなら安心かな。
「分かりました。これ返します」
私は旧式のスマホを渡した。
黒花さんはスマホを眺めていたが突き返した。
「これは銀。お前が持っとけ」
「え?」
「美穂が学校に行く以上連絡手段が無いんじゃ不便だろ。連絡先交換しとけよ」
確かに電があるとは言え出れる保障はない。
にしても都合良すぎるでしょ。
「ほい。プレゼントだ」
机に置かれたのは一冊のクリアファイル。
「銀の調査報告。見るも見ないもお前ら次第だ」
「昨日の今日ですよ。集めるの早くないですか?」
疑問を持った理由はそこそこの分厚さだったから。
けど最初電話した時点で名前は判明していた。
よほどの有名人なのかな?
「それは中を見れば分かる。んじゃ帰るわ」
鞄を持ち玄関へ向かう。
「おっと。また言い忘れる所だった」
急に止まりこちらを見た。
いつも言い忘れある気がするんだけど…
「部活。入りたいもんに入れよ」
「今は無いんですけど」
「おいおい。お前にピッタリの部活があるのに入らないは無いだろ」
あぁ…そういう事ね。
「分かりました。前向きに考えときます」
「そいつは良かった」
靴を履き扉を開けた。
「また来るわ!その時はもっと盛大にやろうや!」
笑顔で別れの挨拶をし黒花さんは帰った。
しかも外に出てから大声出すと近所迷惑なんだけど。
「ごめんね。騒がしくて」
私は両手を合わせ申し訳なさそうに言う。
「いえいえ!仲良くさせて貰えたので!」
「それなら良かった~。じゃぁ風呂沸かすね」
「今日アタシが掃除するんで大丈夫ですよ!」
止めても無理そうだったから任した。
今私のすべきことはただ一つ。
「一体何が出るのかな…」
黒花さんの置き土産のクリアファイルと対峙した。
覚悟は決めた。
そもそもこれを渡す時点で見て欲しいに決まっている。
とは言えこのタイミングで見るのはマズイ。
クリアファイルを持ち自室へ入った。
一人暮らしに慣れていたけどもしもに備え空きスペースを利用した。
ほんと広すぎなんだよな。
作業机に置きリビングへ戻った。
銀にはプライベート空間だから入らないでねと釘刺しといたから大丈夫。
大丈夫だよね…?
「どうしてもなの?」
「お願いします!!」
風呂上がりに銀にせがまれてしまった。
もちろんあのクリアファイル。
もし私に見せたいならこっそり渡すが堂々とやった。
その真意が分からなしい以上迂闊に見せれない。
しかも銀は土下座をし兼ねない状態。
ならば…
「分かった。見ていいよ」
「ほんとですか!」
「ただし、私からね。見終わって起きてたら見せてあげる」
私にしては意地の悪い事をしているが試す意味もある。
「分かりました。アタシ待ってます!」
気合凄いな…
自室に入り扉を閉めた。
のぞき見は無いと信じてるけど。
「よし…」
席に座りクリアファイルから資料を出した。
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高木さんが籠って30分。
テレビを見たり読みかけの本を漁ったりしたけど集中できない。
アタシが何者か。
その答えが扉の向こうにある。
ああああ~!!気になってしょうがない!!
床の上でゴロゴロと転がり悶えた。
その時、扉が開いた。
「あっ…」
「…何やってるの?」
一番見られたくない瞬間だったかも。
「えーっと…ちょっと運動?」
苦しすぎる言い訳。
タイミングが悪いんですって!
「まぁいいや。はい、言いつけ通り出来てたからね」
高木さんはあのクリアファイルを渡した。
「読み終わったらそこら辺に置いといてね」
アタシは無造作に資料を出した。
「…は?」
そこに書いてあったのは■で塗りつぶされた文章。
それが何枚も何枚も。
残っているのも接続詞や句読点しか残っていない。
「なんだよ…これ…」
「道理で持ってくるの早い訳なんだよね。あそこは不都合な事をもみ消すか偽情報をばらまくから」
冷蔵庫の水を飲みながら高木さんは言った。
「じゃぁ…これが全部…?」
「そうゆうことだね。まぁ一部開示されてるっぽいけどね」
驚きより怒りが湧いてきた。
まるで自分の人生を否定されている様に感じた。
「ふざけんなよ…人をなんだと思ってるんだ…!」
拳を握った事で報告書に皺がよったけど関係ない。
こんなのゴミと同じだ。
「…黒花さんを責めないであげて。あの人なりに真実伝えたかったと思う」
「分かってます…」
高木さんがコップに入った水を持ってきてくれた。
「飲むと落ち着くよ」
「ありがとうございます。」
思わず一気に飲み干してしまった。
火照った身体に冷たい水が染みる。
今度は悲しさが押し寄せてきた。
自然と涙が出てきた。
拭いても拭いても止まらない。
気づいたら横に高木さんが座っていた。
「泣きたい時に泣いた方がいい。辛いことを辛いと言える事こそ一番大切だからね」
肩を擦りながら言ってくれた。
その時の高木さんの声は少し震えていた気がする。
でもそれよりもアタシは堰を切ったように泣いた。
疲れ果てるまでずっと。
______________________
明日学校…いや日付が変わり今日か。
泣き腫らした銀が肩に寄りかかり寝ていた。
さすがにここで寝るのは良くないからお姫様抱っこの形でベットに運んだ。
本人に言ったら恥ずかしがるだろな。
布団を掛けて完成と。
「おやすみ」
そう言い銀に渡した報告書をざっと見た。
のり弁報告書とか言うんだっけ。
モザイク塗れの文章。
私はそれを真っ二つに破った。
それにしても…黒花さんも悪魔だね…
だって
寝ているその子の全てを知った上で教えない。
ホント人間失格ってね。
さっきも宥めてたけど正直胸が締め付けられた。
「ごめん…」
言うべき人に届かない謝罪は部屋に溶けていった。
文字数が急に多くなりました。
長いと読みにくいなぁって思ってたら意外や意外。
とりあえずオリ展開ですけどちゃんと鬱っぽくやってます。