生者に夢を、死者に花束を   作:薫製

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罪人の心

日付が変わろうとする時間、オレは墓地に立っていた。

普通ならこんなとこに夜中来るなんてあり得ない行為。

だがオレは死人の様なもの、誰か来ても恐怖で逃げてくれるだろう。

目の前には2つの真新しい墓標。

大切な教え子でオレたちの最大の障害だった者が眠っている。

大橋に石碑作ったらしいがあれは空の器。

あそこに行っても会えるわけじゃない。

墓石に手を振れ静かに目を閉じる。

遠くで聞こえていた車のエンジン音が聞こえなくなった。

目を静かに開けると一面真っ白の世界に制服姿の土井と伊予島がいた。

 

「よぉ、元気そうだな」

 

「先生…?」

 

「どうしてここに…って死んだから会えるのか」

 

「2人はな。オレは蘇りだし」

 

サラッと爆弾を投下してみる。

案の定食いつき混乱し始めている。

 

「今なんて言った…?」

 

「自己紹介が遅れた。オレは黒花千早、バーテックスの親玉から任命された密偵だ」

 

「密偵?まさか先生を殺したのは!」

 

「勘違いすんな、あれはオレの意志だ。お前らを追い込むには良い刺激になったろ」

 

感情を抑え淡々と言う。

その方が恐ろしく感じると思ったから。

 

「ふざけんなよ…タマたちをずっと騙していたのか!!」

 

「そう。お前らとのおままごとは面白かったぞ」

 

「てめぇ!!」

 

土井が殴りかかってきたが体をすり抜ける。

 

「生者と死者が触れ合えるわけないだろうが」

 

「クソッ!」

 

それでも怒りが収まらないのか何度も殴ってくる。

ただその姿を黙ってみるだけ。

 

「白夜も裏切り者か!」

 

「もちろん。あいつはバーテックスだ」

 

「は…?」

 

「肉体は食われた人間を再利用してるが魂はバーテックスそのものだ」

 

とどめを刺せたのか拳を振るうのをやめ、力なくオレの前に膝をついた。

2人共ショックが強いのか荒い息しか聞こえない。

 

「これが真実だ。そこで人類が滅びるのを見てるんだな」

 

オレは2人を見下ろす。

怯えのような恐怖とも取れる目をしてる。

 

「…こんなの酷すぎます…先生はこんな事をする人じゃないです!なにがあったかは知りません。けど世界を滅ぼすなんて…」

 

「…ッ!もう後戻り出来ないんだよ!」

 

伊予島の説得に大声で反応し胸ぐらを掴んでしまった。

通り抜けるはずなのに掴めたことに驚いたが怒りでそんな感情も消えた。

土井が止めに来たが睨みつけ静止させる。

 

「これがベストだったなんて思ってねぇ…けどな!こうなっちまった以上やるしかないんだよ!!あの日オレが素直に食われればお前らは死なずに済んだのか!?違うだろ!この世はいつも結果論だ!過去の呪いが今を蝕むクソみたいな世界!」

 

こんなこと言ってもスッキリする訳でもないし2人には何の関係もない。

これは3年前に捨てた自分自身への懺悔だ。

ゆっくり手を離しふらふらと立ち上がる。

怒りが治まり血が頭から抜けていくからか視界が少し揺らいでいる。

 

「ごめん、今のは言いすぎた…」

 

両手で顔を覆い擦る。

生徒に牙を向けるとか教師失格だろうが。

 

「はぁ…ダセェな、オレ」

 

逃げるようにその世界から離れた。

最後まで2人の何とも言えない顔が頭にこびりついた。

 

洞窟に帰ってくると白夜が出迎えてくれた。

その姿を見て力が抜けて倒れてしまった。

 

「ちはや!」

 

華奢な体なのに私を抱きかかえた。

 

「もう分かんないよ…どうしたらいいの…」

 

ボロボロと涙が溢れる。

こんなに泣くのって辛かったっけ…

 

「ちはや…」

 

「もう嫌なの…何で、なんで殺さなかったのっ…!?」

 

「っ!!」

 

「神様が認めたんじゃないんでしょ…どうして…?」

 

白夜は黙ったまま。

 

「答えてよ!!」

 

「…ちはやは神様に認められたのは本当。でも適性が無かったらいつでも殺せって言われたの」

 

暁のようなのを求めているなら私は失格間違い無しだ。

それなら白夜は何で私を生かしてるの…

 

「はくやは、ちはやの事が…ちはやが…好きなのっ!!」

 

「は、はい…?」

 

怒りが一気に抜け素っ頓狂な声を出してしまった。

今なんて?好き?私が?

 

「えーっと…?何で?」

 

「ちはやとの旅が楽しかった。あんな体なのに普通に接してくれて嬉しかった。人になった時一番喜んでくれた。その時に身体が温かくなる感覚が起きたの。分からなかったけど今ならちゃんと言える。これが『好意』だって」

 

「白夜…貴方は…」

 

「前にどっちにつくかって聞いてきたよね。はくやはちはやの味方だよ。最後の瞬間まで一緒にいるよ」

 

これじゃプロポーズだって…

もう混乱して壊れそうだよ…

 

「もう、嬉しい事言っちゃって…ありがとう。白夜は私が守るよ」

 

「はくやにも守らせて。ちはやと一緒なら怖くない」

 

大橋を渡った時にも言われたっけ。

これは運命からの逃避行。

世界から恨まれようとも己が信念を貫く。

 

「神様からの伝言はあったか?」

 

「すぐに来るんだって。倒せたからかなり力入ってるんだと思う」

 

2人も同時に倒せたんだ、勢いづいてるんだろ。

そうなると次の侵攻はもっと危険な戦いになる。

 

「既にシステムは出来てるんだろ。次はオレも―――」

 

「それだけはダメ。戦うのは最後」

 

「なんでだよ…今度こそアイツら死ぬかもしれないんだぞ!」

 

「分かってる。けど外にヤバいのがいるの。動きがないから後に使うんだと思う」

 

「倒せる見込みがないのか…」

 

「今の勇者には無理。だから、ちはやのシステムを対バーテックス用に組み替えたの」

 

ポケットから出した携帯を渡してきた。

黒と白が縦に分かれている独特のカラーリング。

 

「いつの間に…契約だけ変えろって言ったはずだが?」

 

「ちはやがこういう行動すると思ってやってみた」

 

オレの思考すら読んでいるのか。

確かにマシュマロの時も心を見れていたから予知くらい可能だろう。

 

「すげぇよ。本当にすごいよ白夜」

 

頭を優しく撫でると心地よさそうに目を瞑った。

こういう所は変わらないんだな。

 

「ただ気になることがあってね。今回はくやたちだけなんだよ」

 

「完全体だっけ?それがいないのか」

 

「その場で作れるんだけど時間かかちゃうから中途半端で倒されちゃうの」

 

何か訳があるのか。

土井と伊予島を屠った奴は高嶋が禁忌の精霊を宿し倒した。

代償として長期入院が確定したとの情報があった。

となるとコスト面か?そんな単純ではないと思うが…

 

「うーん…余裕を持てる原因…」

 

「勇者が変身できないとか?せこい事した影響が出てるんじゃない」

 

「せこいって言い方がな…って…」

 

突っ込んで済まそうと思ったが何か引っかかる。

精神を不安定にさせ戦力を減らす。

現状戦えるのは2人だけ。

その予兆が最も出やすいのは…

 

「まさかっ!」

 

オレは携帯を持ち紫の渦を形成する。

指定した場所にピンポイントで飛べるポータルだ。

 

「何処へ行くの!?」

 

「郡の実家だ!最悪な気分になるのは確実だがそれ以上になってなきゃマシだ…!」

 

渦に飛び込み目的地へ飛んだ。

頼む、間に合ってくれ…!

 

到着した先は夕焼けに照らされ山々がオレンジ色に色づいていた。

ここは周りから閉ざされた山奥の村。

教師時代に一度調べたがバスも数時間に一本とかの田舎状態。

そんな隔離された小社会だからこそ弊害は起こる。

 

「何処だ…何処にいる!」

 

スポーンと同時に携帯を操作し視認阻害を発動させる。

勇者には見えるが今は充分だ。

実家に近づいた時、近くから悲鳴が聞こえる。

声を頼りに進むと探し求めた相手が背を向けている。

既に赤の勇者服に身を包み村人を襲っていた。

 

「やめろぉぉぉぉぉ!!!」

 

オレはそのまま郡の背中にタックルを決める。

背後を気にしてなかったからかもろに喰らい横に吹き飛ぶ。

オレも勢い重視だったから真反対に転がる。

 

「邪魔しないで…え、先生…?」

 

「よぉ、心配になって墓場から蘇ったぜ」

 

乃木が止めにきたのかと思ったんだろな。

村人の方に目を向けると擦り傷が目立つが怯えているだけで大事にはいたってない。

 

「間に合ったか…」

 

「っ!先生もそっちの味方なの…!」

 

オレに躊躇なく大鎌を振るってきた。

咄嗟に前に転がり避けながら態勢を整える。

 

「落ち着け、郡!それ以上手を染めるな!」

 

「そこを退きなさい!」

 

「断る!そんな頼みたとえ教え子だとしても聞けないね!!」

 

と言ってもただ避けるしかできない。

いくらオレが周りから見えないとしてもここで戦えば視認阻害が解除される。

素でなら問題ないが一筋縄じゃ勝てない相手だ。

 

「いいかげん止まれ!」

 

「うるさい!」

 

「1つでも命を奪ったらもう後戻りができなくなる!」

 

「それがどうしたの!悪魔に魂を売るくらい造作もない!!」

 

「お前っ!!」

 

後ろに一気に下がり距離を取った。

体力は無限にあるが精神的に疲れる。

 

「先生もあいつらもは戦えないから分からないのよ!命かけて戦う恐ろしさも!誰かが死ぬ恐怖も!だからこの痛みをもって教えてやる…!」

 

その目には怒りがあったが涙が零れていた。

オレはその思いを感じ覚悟を決めた。

 

「そうか…お前がどうしても戦うなら、オレが相手になってやる」

 

携帯を開き教えてもらったコードを打ち込む。

 

『七』

 

「オレが全力で戦う」

 

『三』

 

「お前の戦いの重さを受け止めるには、今はそれしか思いつかない」

 

『零』

 

「変身―――――」

 

地面から茶色の根が現れオレを覆いつくす。

すぐに根は離れ視界がクリアになる。

 

「その姿…」

 

怒りに囚われているとはいえオレの姿に驚きを隠せてない。

黒茶色のロングコートに色が変化し、防弾チョッキのようにポケットが複数ある服に変わっている。

 

「これがオレの勇者服だ。初めて見るが渋いな」

 

周りがガヤガヤと一段騒がしくなった。

そらなんもない所から人が現れれば不思議と思うだろう。

情報が回らないうちにケリをつける。

 

「行くぞ」

 

右足に力を入れ一気に距離を詰める。

直線的な動きだが早ければ反応も遅くなる。

がら空きの顔面に右フックをねじ込み殴り飛ばす。

けど加減を間違え反対側の畑まで飛ばしてしまった。

 

「やっべ…」

 

調子乗ったのもあるけどここまでとは。

まぁ図らずとも村人から離せられただけ良しとするか。

土煙の上がる場所に飛んで行く。

 

「おーい。無事か〜?」

 

着地しキョロキョロしながら歩いていると何かが光った気がした。

その方向を見た刹那、オレの横を鎌が振り下ろされる。

重心を後ろに少し動かし避けきる。

 

「スイッチ入ったか」

 

刀を召喚し引き抜く。

刀身まで真っ黒とか凄いんだが。

感心してる暇もなく防御する。

 

「肉体言語も悪くないな!」

 

「遊んでるの!?」

 

「戯れと言え!」

 

刀と鎌が火花を散らし交わる。

対人を想定して動いたのが功を奏した。

頭より体が勝手に動く最高の状態。

コンマの行動が命取りになるんだからこれくらいじゃないと。

鍔迫り合いをするよう加減をして問いただす。

 

「お前の怒りは正しい。間接的にあいつらを救っているのはクソムカつくが」

 

「それが分かっているなら邪魔しないで!」

 

「前に言ったよな、大切な人のためにその力を振るえと。お前を見てくれているのはあのクズどもか?違うだろ!」

 

「っ!!」

 

鎌から伝わる震えが増す。

 

「オレが言える立場じゃないがあえて言おう。帰って来い、高嶋が待ってるぞ」

 

「高嶋…さん…」

 

その目には戦闘の意志を感じない。

軽くあしらうと尻もちをつき鎌が手から離れる。

これで一件落着、後は大社関係者に引き渡せば…

 

「先生…なのか…」

 

背後から声が聞こえ振り向くと乃木が勇者服に身を包み立っていた。

誰が情報を漏らしたかはしらんが好都合だ。

 

「ちょうどいいとこに来たな。郡を無力化したから運んで…」

 

風が少し吹き首元に冷たい刃が突き付けられる。

 

「何の冗談だ」

 

「とぼけるな。今の私を誤魔化せると思うな」

 

「おいおい、オレはオレだぞ」

 

「そう言って千景に村を襲わせ勇者の地位を落とそうとしているんだろ」

 

暴論過ぎて呆れちまった。

流したやつはよっぽどオレに恨みがあるんだな。

 

「バカか。それなら助ける義理が無いだろ」

 

「襲った事実さえあれば勇者システムを剥奪されるのは確実。戦力を減らせ貴様らは私たちを容易に倒せる」

 

「そういう事か…」

 

リーク元は容易に思いつく。

まさか勇者をけしかけるとは…

 

「それで、オレにどうしろと?」

 

「ここで拘束し全てを吐いてもらう」

 

「あのなぁ…全部知ってる保障は無いんだぞ?」

 

「我々よりは知っているだろう。安心しろ、用が済んだら私がその首を刎ねる」

 

「おうおうおう、物騒なことで」

 

にやけながら冗談を言うが乃木は怒りとも取れる表情を崩さない。

潜伏場所まではバレてないがそろそろ離脱しないと。

 

「捕まえられたら話してやるさ」

 

大胆だがポータルを展開しようと意識を集中させる。

しかし一向に出てこない。

故障か?いや、行きに出来てたしこれまで不調は無かった。

流石のオレもこれには表情を変える。

 

「大人しくしろ」

 

なすすべなく腕を締め上げられ組み伏せられる。

こりゃマズイ。

白夜に応援を頼むなんてしたらどうなるか分かったもんじゃない。

万事休すって冗談じゃない、こんなところで終わってたまるか。

不本意だがやるしかない…

 

「このまんまって訳じゃないよな。腕攣りそうなんだが」

 

「応援が来る。それまではこのままだ」

 

「はっ、リーダー様は頼られていいねぇ」

 

肩を揺らすように笑う。

乃木の様な真面目な奴には刺さりやすい。

 

「何が言いたい」

 

「そのまんまだ。街に出れば声を掛けられる。敬愛、尊敬、希望全てお前の欲しいままってな」

 

「戯言を。勇者である以上皆受けるものだ」

 

「笑わせる。それが間違いだとはっきり言ってやるよ」

 

「変な気は起こすなよ。最悪―――――」

 

突然、腕が解放され頭から地面に倒れる。

 

「千景!?」

 

「うううああああ!!!!」

 

転がる様に離れ立ち上がると郡が乃木を襲っていた。

シナリオ通り上手く行ったな。

 

「ほれ見ろ。お前の考えは妄言なんだよ」

 

「そんな訳ない!これも精霊の仕業だ!」

 

「へぇ、なら力づくで止めてみろ」

 

携帯を展開し緊急脱出用コードを即座に打ち込む。

ポータルが阻害されたのはアイツが近くにいるからに違いない。

先回りされる前に逃げるのみ。

 

「それじゃまた会おう」

 

「待てッ!!」

 

周りの景色が縦線を引かれたようにぼやけていく。

次にクリアになった時、いつもの洞窟にいた。

 

「おおおお…あぶねぇ…」

 

「ちはや!?」

 

ポータルで帰ってくると思っていたのかびっくりしている。

これは完全に奥の手。

座標を事前に指定し瞬間移動する。

勝手は悪いけど最終手段として置くには強い。

 

「暁がオレを消しに来た」

 

「本当!?怪我は!!」

 

「怪我なんてしない体だろうが。にしても本格的にヤバくなったな」

 

前々からオレを消そうとしてたんだろうがタイミングが悪い。

郡を立ち直らせそうになったのにパーになった。

 

「これ以上、表には出れない。最後の日を待つだけだ」

 

ここで襲撃にあえば救う所の騒ぎですまない。

無力ではあるが忍耐の時。

郡が戦死したとしても…




死亡ドミノは続くよ何処までも。
仲良くなってからどんどん狂ってくのマジ辛い。
救いたくなる気持ちも分かりまけど今回は原作準拠で行きます。

そして黒花の勇者変身。
手加減してますけどあの世と空間移動してるんでまぁやばいですね。
あと変身前のセリフは仮面ライダー龍騎の城戸真司、シークエンスは仮面ライダー555とヘイセイもりもりにしました。
本編でもガラケーで変身と言ってたんで後者のモチーフは見抜けた人が多いのかなと。
ちなみに555は自分の推しです。(隙あらば自分語り

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