こうして世界をかけた戦いは終わりを告げた。
だが、そう簡単に終わる訳が無い。
白夜の予知は恐らく使い物にならないし神樹の神託はこっちには来ない。
「どうだ?」
「ダメ…治らない」
オレの顔をぺたぺたと触っていた白夜が離れる。
暁の戦闘で損傷した顔の火傷だけ最後まで治らなかった。
「これアイツの呪詛とかだったり?」
「それは無い。神様と縁切れてるけどそれくらいなら感じ取れるもん」
「そっか…まるで巫女みたいだな」
「えへへ。ちはや専属だよ」
「頼もし過ぎる言葉なことで」
元々スポンジみたいな頭だったから色んな経験させたがこうも化けるとはな。
スペックで言えば上里超えたんじゃないか?
「なんも無いのがここまで不安になるとはな…」
「外にはバーテックスが居るからね。わかば達も警戒する筈だよ」
「にしてもあの怪我だ。戦線復帰は先になるな」
5人いた勇者も今じゃ1人となった。
ただ、結界が強化される話だが変化は見られない。
神様同士何をしたいのやら。
「とりあえずゆっくり待つとしようか…」
そう思った矢先、右胸がほんのり熱くなる。
捲ると紋章が赤く光っていた。
「なぁ、これ光始めたんだーーーー」
顔を上げると白夜がゆっくり倒れていくのを見てしまった。
正確には普通に倒れてると思うが衝撃のあまり錯覚を起こした。
「白夜ッ!!!」
オレは椅子から跳ね上がり駆け寄る。
目を限界まで開き、胸を引っ掻くように動かしている。
体温が上がっているのか発汗が激しい。
かつてアフリカで高熱を呼び起こすウィルスがある話は聞いていた。
しかし、予兆も無く高熱が襲うことは有り得ない。
「服脱がすぞ」
手を無理やり抑え胸元をはだけさせる。
そこにはオレと同じ紋章が刻まれており、全身に広がっていた。
「何だよ…これ…」
触っても普通の肌の感触。
完全に呪詛だ。
暁が仕掛けたものでは無いとするなら誰が…
「まさかっ!」
オレを経由して白夜に攻撃をしたのか…!
システムの契約は白夜にしたがオレの体は神様が作ったもんだ。
そして時止めも使用した。
あんな力使ってノーリスクな訳が無い。
決戦の時に誤魔化していたツケが来たってことか。
「どうすればいい…!」
神様との契約を切るのはほぼ不可能。
大社に駆け込むとしても対処はできないし最悪モルモットにされるかもしれない。
そもそもこれは人の手が出せる領域じゃないんだ。
策を練っても無意味。
「苦しんでるのを見てろって言うのか…!」
悔しさのあまり唇を噛み切っていた。
既に人の肉体を捨てているから血は出ないがかなり出ててもおかしくないぐらいだ。
その時、怒りと焦りで熱くなった手が冷えていく。
見ると白夜が手を重ねていた。
「白夜…?」
「いいの…これははくやの…わがままなの…」
激痛で思考すら曖昧だろうになんで…
「喋るな!今治して…!」
「最後まで…居られ…なくて、ごめんね…」
「言うな…!別れなんて聞きたくない!」
何もできない自分を呪いたくなる。
大切な人すら救えない絶望。
これが罰だというなら私が受ける。
そうすれば苦しむのは私、だけ…
「そうか…」
これなら白夜は救える。
成功すれば私は人でも化け物ですら無くなる…
でも…
「白夜は私にとって…!」
携帯を開き久しぶりにアイツに連絡をしてみる。
死人から電話来るとかホラーだが信じるしかない。
『もしもし…?』
「よぉ、久しぶりだな。友香」
『え、黒花さん…なんですか…?』
「その通り、大至急お前と会いたい。これは命令だ」
『…なら1つだけ確認させてください。それは黒花さんが本気でしたい事ですか』
コイツ重要な時に限って勘がいいんだよな。
まぁそれが狙いでスカウトしようとしたんだが。
「本気だ。この思いに一切の曇りは無い」
『…分かりました。例の場所で待ってます』
通話を切り白夜を抱える。
顔にまで赤い紋様が伝っており痛々しい。
「もう少しだけ耐えてね…」
ポータルを開き約束の場所へ飛ぶ。
そこは巫女が暮らす宿舎の裏に作られた運動場。
深夜だからか街灯意外の光はない。
オレは外にある小さなベンチに白夜を寝かした。
ここは一通りも少ないから風に当たるにはちょうどいい。
しかも夜だと人通りはゼロに近い。
だからこそ密会にはピッタリだ。
「お待たせしました」
友香が寝巻き姿で現れた。
「呼び出して悪いな。アイツには何て言い訳したんだ?」
「黒花先生に呼ばれたって言ったら許可くれました」
「その言い訳は素晴らしいな」
事実ではあるがそれをストレートに言って許可するとかなんなんだアイツ。
「顔…大丈夫ですか?」
やっぱ心配するよな。
無理にでも治した方がいいのか?
「今は気にするな。それよりも本題だ」
白夜の様態を見せた瞬間、顔を引き攣らせ口を手で覆ってしまった。
「白夜、ちゃん…?」
「そうだ。今白夜は天の神の呪いを受けている」
「天の神?呪い?待ってください…何がどうなって…」
時間が無いが信頼してもらうにはバラすしかない。
「これから話す事は真実だ。それと多言無用で頼む」
オレは重要な箇所だけ話した。
段々友香の目が開いていき瞬きすら忘れるくらいだった。
「以上が事のあらましだ」
「白夜ちゃんがバーテックス…?そんな…そんなこと…!」
「その上で頼みたい。これはお前にしか託せないんだ」
ふるふると震えながらオレの顔を見る。
「白夜と契約して欲しい」
「は…?」
冷たい風が吹き抜ける。
お互いの髪がなびくがそんなの気にせず見つめ合う。
「白夜はオレと契約している。神様と間接的に繋がっているからお前に対象を変えれば呪いは消える」
「待って…」
「ただ呪いそのものは消えないがオレが白夜の能力と共に背負うから問題は無い」
「待ってください!!!」
友香が悲痛な声を張り上げる。
それは怒りと悲しみの入り交じった声に聞こえた。
「意味が分かりません!白夜ちゃん、バーテックスと契約?呪いは黒花さんが引き受ける?馬鹿も程々にしてくださいよ!!」
「だが事実だ」
「だとしてもです!黒花さんは白夜ちゃんの気持ち考えたことあるんですか!?」
「っ!!」
友香は裏切られた事よりもオレの愚行について非難してるんだ。
「2人っきりの時に黒花さんといて楽しいかって聞いたことあるんです。そうしたら何て答えたと思います?『生きてて良かったって思えるくらい楽しい』って言ったんですよ」
「…」
「白夜ちゃんを救いたい気持ちは分かります。でもその行為が本当に白夜ちゃんの為になるんですか?」
「…私だって…」
「え…?」
思わず本音が出てしまった。
ここまで来たら私ですらも止められない。
「そんな事分かってる!白夜は命を張って守ろうとしてる!私はそれが耐えられないの!」
膝をつきボロボロと涙を流す。
もう友香の顔を見ることすらできない。
「私のしたいことは白夜にとって1番して欲しくない行為なの。それでも…」
苦しんでいる白夜を横目で見る。
目を強く瞑り苦しそうに息をしている。
「残された最後の光なんだよ…」
「黒花さん…」
「情けなくてごめんね。これが本当の黒花千早なんだ」
「…いえ、嬉しいです。私に本音で話してくれてありがとうございます」
私の本心まで何も力無いのに見透かすなんて白夜よりも凄いや。
「感謝すべきなのはこっちなのに…」
「それよりも時間無いんで早く済ませましょ」
「え…いいの…?」
「電話で聞いた時点で覚悟決めてますよ。それに黒花さんの本気の頼みなんですから」
「友香…」
笑顔でウィンクし答えてくれた。
ホントいい子だよ…
「なら白夜の右胸に手を置いて」
友香はゆっくりと手を置いた。
「目を閉じて白夜との思い出をできるだけ頭に浮かべて」
繋がりは記憶を元に強くなる。
友香を選んだのは白夜が懐いた唯一の人だから。
私の右胸がどんどん熱くなってくる。
白夜からタゲが変わってきてるんだ。
「ぐっ…うぅぅ…」
「黒花さん!?」
「来るなっ…!集中しろっ!!」
友香が目を開け動こうとするのを静止させる。
不充分な状態で終われば3人とも呪われる最悪のルートになってしまう。
息苦しくなり背もたれに手を付き何とか倒れるのを回避する。
相対的に白夜の顔が穏やかになっていく。
「もう離していい…」
友香は手を離しオレを心配そうに見ていた。
「これでお前は白夜の主となった…その契約は次の世代にも引き継がれちまうが…」
「終わりはあるんですか…?」
「全ての因縁にオレが蹴りをつけるその日までな…」
これは数年、数十年で終わらない。
何百年という途方もない時間がかかるだろう。
「だから白夜を…お願い…」
「…」
平然と話しているけど気抜くと呪詛で精神が壊れそう。
こうしている間にも体が蝕まれていく。
「なら約束してください、必ず白夜ちゃんに会いに戻ってきて。どんだけ時間がかかっても構いません。死ぬ前に絶対に顔見せないとあの世で私が殴ってやりますよ」
まーた死後に殴られる宣告か…
ますます死ねないな。
「バーカ…言われなくても分かってる…」
オレは優しく白夜の顔を撫でる。
何も残せないのは悲しいが穏やかなだけで充分だ。
「今までありがとうな…」
友香の頭をポンポンと軽く叩く。
泣く気になれないくらい辛いけど友香が顔をぐちゃぐちゃにしながら泣いているのを見ると余計辛くなる。
オレは手を放し緊急脱出用コードを打つ。
白夜を見て消えたかったけど贅沢出来ない。
視界が歪みはじめ友香の顔も判別できなくなった。
さようなら、私の大切な恋人…
これが黒花千早が西暦の時代に記録された最後のデータ。
オレが消えた少し後に外の世界は天の神によって焼却され四国は孤立した。
上里は6人の巫女を天の神に捧げ侵攻を止めてもらうよう願う奉火祭を決行。
大社を大赦に名を変更し神樹の元、運営をする事になった。
こうして箱庭となった世界で人々は平和に暮らしていた。
そして、初代勇者の話が逸話となった時代。
オレは大赦に所属していた。
当然疑われる事もなく天恐もいないから火傷だけ気をつければいい。
ある意味生きやすくなったとも言える。
そして神世記296年、オレは運命と出会った。
のわゆ編完結です。
たった1人全てを背負って生き続けるという業の始まりでした。
本編ではっちゃけていた裏にある感情が少しでも分かれば良かったかなと思います。
次からは美穂編兼わすゆ編です。