人形と化した美穂を更生させた後、しばらく同居していた。
小学4年生だが両親が亡くなりまともな生活を送れる訳が無い。
人として生きていた時も掃除や料理を手伝ったし大赦に努める時には更に腕を磨いたから問題ない。
空腹という概念が無くなり、味覚も鈍くなったがゼロじゃないから人並の料理は出せる。
「今日は焼きそばナポリタン作るぞ」
「焼きそばナポリタン?2品作るんですか?」
「いいや、焼きそばにナポリタンソースをぶっかけるんだよ」
「正気ですか…」
何だその疑いの目は。
食ってから言えってんだよ。
作り方は至ってシンプル、薄めのソース焼きそばを作りナポリタンソースをのせるだけ。
麺は少し細麺の方がよく絡んでいい。
「どうぞ」
「頂きます…」
ソースを飛ばさないようゆっくり啜っている。
「ッ!!美味しい!!」
目を輝かせオレを見てきた。
その顔が見たかったんよ。
「オレの自信作だ。後で体力使うから沢山食えよ」
バクバク勢いよく食べる姿を見るとお腹いっぱいになる。
不思議な気持ちだけど悪くない。
オレも焼きそばを啜り食べていく。
少しづつだが美穂は感情を取り戻していっている。
愛情を注げば人は心を開く。
昔のオレには考えつかないが今なら納得して出来る。
様々な仕事をするがその内の1つに大赦から独立した組織の運営がある。
かつて精霊の後遺症を無くすための薬を作っていた場所をオレが改装し使い古している。
今日、白夜から継承した力を使って新たな勇者システムが完成した。
オレが使徒の時に使ってた力は本来の寿命を削ることで可能としたがポータルや瞬間移動はハイリスクだから廃止せざるを得なかった。
今回完成したのは神の力に極力頼らないようなコンセプト。
精霊はもちろん関与させない徹底ぶり。
装者はもちろん美穂だ。
高い勇者適性を利用しないわけが無い。
それに本家勇者たちもお役目が始まるらしい。
奉火祭以降バーテックスによる本格的な侵攻は1度もない。
だが相手も進化はしているだろう。
どこまで通用するか分からんがやれるだけやってみるまで。
「美穂、これが最初の変身だ。少しでも違和感があれば解除していいから無理するな」
オレは強化ガラス越しに注意を促す。
美穂の周りにはセンサーが張り巡らされ一挙手一投足が手に取る様に分かる。
『分かりました。高木美穂、行きます』
端末を操作し、眩い光を放ち服装が変化する。
モチーフにした花はマリーゴールド。
メインカラーはオレンジだが黄色と白も混ざってしまった。
「どうだ、違和感はあるか?」
腕を動かしたり軽く跳ねている。
『異常はありません』
送信されてくるデータを見ても大きな変動はない。
「よし、フェーズ2へ移行する。武器を展開しろ」
手をかざすとオレンジの光と共に剣が現れる…
はずだった。
美穂の手に現れたのは黒く光るハンドガン。
遠距離武器は与えたが盾と剣を合わせたライフルのような形状だ。
「なんだあれは!?」
「データに存在しません!武器の解析不可能!?」
「美穂!中止だ!今すぐ変身を解け!!」
オレがマイクに向かって叫ぶもぼーっとハンドガンを見つめていた。
「聞こえてないのか!!変身を解除しろ!!」
『…その心配はいりません』
一言つぶやき美穂は手馴れたようにセーフティーを解除した。
同時に計器が耳に残る音を立て警告してきた。
「精神汚染発生!急速に蝕んでいます!」
「ダメです!システムが対処しきれません!このままだと装者の精神が崩壊します!!」
その時、銃声が鳴りガラスにヒビが走った。
美穂は虚ろな目でこちらに向かって発砲を繰り返した。
寸分違わず同じ場所を何度も何度も。
「クソッ!非戦闘員は直ちに退避しろ!美穂はオレが取り返す!!」
他の研究員を押し出し実験室の扉を強制的に閉める。
計算上は核にも耐えれるらしいがあてにしない。
オレは携帯を取り出し変身をする。
約290年ぶりの変身だがあの時と同じ格好だった。
遂に強化ガラスが割れ、正面から美穂と対峙する。
いつもの優しい表情は無く冷酷なオーラを放っている。
「逃げないんですか?」
ガラスを踏みマガジンを変えながらオレに近づいてくる。
服装も黒く変色しその姿はまさに死神のよう。
「ここの所長なんでな。殿は努めるってもんよ」
「そうですか、ならお望み通り屍にしてあげます」
ハンドガンを斜めに傾け発砲してきた。
太刀を取り出し弾を縦に割る。
C.A.Rシステム、正確な射撃が出来る上近距離有利の構え方。
教えたつもりも無いし、銃が扱えるなんて驚きだ。
美穂はこの数年の記憶が抜けている。
自分が誰かは把握できるがどういう家族だったかは覚えていない。
欠けた記憶に関わるのか…?
「んなもの止めてから考えたらぁ!!」
オレは機材を遮蔽物にしながら避ける。
勝機はオレに殺意を向けてるこの瞬間だけだ。
スライドが下がり弾切れのサインを出した。
「ここだッ!!」
太刀を美穂に投げ体勢を崩させ、一気に近寄る。
目的は殺害ではなく拘束、穏便に済ませたいのが本音だ。
だが現実そう甘くない。
「待ってたよ。私に近寄ってくれる瞬間をね」
忍ばせていたのか小型ナイフを突き出してきた。
流石に回避できず右胸に深く刺さる。
勢いを殺さず転げオレはぐたりと体の力を抜き顔を美穂に向けないよう倒れる。
「これで終わりです。さぁ黒花さんの顔見せてください」
立ち上がり足音が近づいてくる。
本来なら出血し息も絶えてるだろう。
美穂がオレの髪を掴み顔を強制的に向けさせられた。
「相手が悪かったな」
「なにッ!!」
美穂が先ほどやった手法を真似し、スタンガンを構えボタンを押す。
美穂の体が震えながらのけぞる。
少し硬直したのち、オレに倒れ掛かってきた。
「あぶねッ!」
急いで両手を伸ばし組体操のように何とか支える。
ただ胸を揉む形にはなったがスケベとか考えている暇はなかった。
変身が解除され私服姿に戻る。
横にゆっくり降ろし深くため息をついた。
まさかシステムを上書きする力を持つとはな。
「こりゃ一から練り直しか…?」
外に退避した職員に連絡し美穂を確保してもらう。
データは別のサーバーに送られているからいいが大赦の管轄なんだよな。
緊急だったし仕方ないが盗まれるのは確実か。
施設内に設けられたベットに眠る美穂。
一時手錠を付けられていたが本人の意志が無い状態で暴走した事が分かり解除した。
「ん…」
意識が戻ったのかゆっくりと目を開けた。
「戻ったか。気分はどうだ?」
まだ状況が読み込めてないのかきょろきょろと周囲を見ている。
「ここは…病院?」
「オレたちが持っている保健室みたいなとこだ。実験で意識とばしたろ?」
「意識…」
天井を見つめ思い出そうとしている。
すると目を零れるかというくらい見開いた。
「あ、あああ…!」
ガクガクと震え始め心拍数が跳ねあがったからかアラートが鳴った。
「美穂!?」
「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ッ!!」
自分の首を絞めようとする手をオレは抑える。
変身してないのになんて力だ…!
「落ち着けって!オレは無事だ!」
「また殺しちゃった…嫌われちゃう…!」
何を言ってるんだ…?
また殺した…まさか記憶が戻ったのか?
格闘をしていたら看護師と担当医が扉を勢いよく開け加勢してくれた。
鎮静剤を打ち込み自殺未遂は抑えられた。
しかし、相当ヤバそうな経歴を持ってそうだ。
覚悟決めとかないとな…
暴走から数時間後、担当医の許可を貰い面会をした。
全体的に少し疲れているように見える。
オレは椅子を美穂の横に置き座った。
「大丈夫か?」
「すみません…情けないとこ見せてしまって…」
「構わないさ。逆に人らしくて良かったわ」
「人らしい…?」
キョトンとした顔をオレに向けている。
ここはなだめるのが普通だからな。
「そう。最初会った時と比べて表情が豊かになったけど歪んだとこ見てなかったからさ」
「まるで人が苦しむのが好きみたいな言い方ですね…」
「もうちょっといい言い方無い?愉悦部員じゃなんだから」
「…ありがとうございます。私、黒花さんと会えてよかったと思います」
「ッ!!」
「黒花さんは私に光をくれました。なら今度は私が光になりたいです」
かつて大切な人から言われた言葉がよぎる。
また守ってばっかだったか。
そろそろ交代すべきなのか…
「そうか…そりゃいいなぁ…」
ゆっくりと目を閉じ美穂の言葉を噛みしめる。
心が温かくなり心地いい。
「ところで、記憶戻ったのか?」
「はい…一部戻らないですけど…」
「ゆっくり思い出せばいいさ」
「頑張ります…」
「程々でいいんだからな」
無理に思い出して傷増やすのは最悪だからな。
その後、安定した美穂から過去の話を聞いた。
世界を救う為に悪を殺す歪んだ正義、無垢な子供を使った治安維持システム。
人間の善意と悪意をドロドロに煮込んだようなクソっぷり。
解散してなきゃオレがボコボコにするレベル。
半年という短い間だがよく耐えたと思う。
今も似たような感じだが決定的な違いがある。
辛い時はそばにいるし楽しい時は皆で笑える空間がここにあることだ。
だからこそ積極的に実験に付き合ってくれる。
世界とか関係ない、近くにいる誰かを守る力なんだと思えてるんだろう。
オレはその在り方を損なわないようサポートするだけだ。
久しぶりの美穂オルタ!
慈悲なく攻撃出来る分慢心しちゃう性格にしてます。
それじゃなくても不死持ち相手には分が悪いですが。