生者に夢を、死者に花束を   作:薫製

78 / 126
根回し

前回の事故で大赦に存在がバレ出撃を禁じられた。

『神樹の加護が無い勇者を認められない、神託で選ばれていないのにお役目に介入するなど言語道断』だとさ。

つくづくアホらしい。

戦力が欲しいならちゃんと言えってんだ。

別に大赦をひっくり返すつもりは無い。

純粋に世界を守りたいという気持ちは同じだ。

ただアプローチが少し違うだけ。

神を頼るか、人の可能性を信じるか。

どちらが正しいかなんて分からないが最善と思うしかない。

美穂の体調が戻り、システムの実験が再開された。

前回の場所は修復不可能だったから廃棄し山奥の倉庫へ移した。

ここなら多少ドンパチしても外部に漏れる事はほぼない。

黒化を抑えるようプロテクトを仕込んだがシステム全体の出力が下がった。

戦えない訳ではないから続行した。

そんなオレらに大赦からまさかの仕事の依頼が来た。

お役目に関われなくとも支えられるとの旨が書かれていた。

だがこの内容は…

 

指定された場所は壁の上。

ここに来るのは200年ぶりといったところか。

舟を借り建設用の階段を使って登った。

 

「ここで何をするんですか?」

 

「あちらさんの勇者がお役目に入る前に外を見て来いってさ。いわば偵察だな」

 

「外に…ガスマスクとかあります?」

 

「無い」

 

きっぱりと言い切ったオレを不安そうな顔で見ている。

その顔するのも無理もない。

外は謎のウイルスによって全滅したって大赦が言いふらしているからな。

真実を知るのは上層部とオレくらい。

だからこの依頼は直接報告になりそうだ。

 

「ここが境界線だ。これから見る景色は他言無用、漏らせば世界そのものを揺るがしかねない」

 

「何を言って―――――」

 

オレは美穂の背中を押し結界の外へ追いやった。

百聞は一見に如かずってな。

外は地獄を具現化させたように熱いしバーテックス作ってるわと大惨事。

 

「これは…」

 

「297年前、天の神によって世界は焼き払われた結果。ここが人類最後の楽園となり仮初の平和を過ごしているのさ」

 

この景色、何度見ても悪趣味だと思う。

戦意喪失を狙ってやったんだろうが変貌しすぎだろ。

 

「ついでに実戦訓練もする。相手はアレだ」

 

空からバーテックスがこちらに泳いでくる。

あの姿を見ると脳裏に白夜を思い出して手元が狂う。

 

「無理そうなら撤退していいからな」

 

「待ってください。私に戦えと言ってます?」

 

「その通りだが」

 

「えええ…」

 

不服そうに剣と盾を展開する。

そもそも戦うのが嫌だと言わないのは変だが。

バーテックスのたいあたりを防ぎながら倒していく。

型は教えたが変身したらキレが増した気がする。

 

「良い感じに捌けたな。よし、退却だ」

 

データも回収出来たし結界内に戻る。

そこに広がるのは何気ない日常。

ここは天国と地獄の境界線といった感じか。

 

「どうだい、人類の敵さんと戦った感想は」

 

「気持ち悪いですね…それよりもあの景色が頭にこびりつきます」

 

「その方がいいだろう。ゴールを夢見るよりかは現実を知った方が戦いやすいと思うしな」

 

「全部言ってくれた方がやりやすいのは同意します」

 

美穂を家に届けオレは大赦へ向かう。

服装はスーツのままだったからまぁセーフだろ。

右側が欠けた仮面をつける。

本来顔を出すのは禁止されているがオレはそういう風潮が嫌いだ。

宗教だとしても自己を封じるのはクソッ喰らえって思う。

特に今から行く所は吐き気がするくらい嫌だが。

 

「失礼しますっと」

 

儀式でも行うかの様な空間に蛇腹を潜り軽口を言う。

既に上層部の神官が一同に揃い正座していた。

同じ服に同じ仮面をしてオレを見てくる。

これが嫌なんだよ…

 

「ここを何処だと心得る」

 

仮面のせいで誰が言ってるのか分からない。

コミュニケーションすらままならないのどうにかしてくれ。

 

「能無し集団のお茶会会場だろ?」

 

「言葉を慎め。神樹様の目があるのを忘れていないだろうな」

 

「滅相もございません…これで満足か?」

 

「貴様ァ!!」

 

勢いよく立ち上がりオレと向かい合う。

きっと鬼の形相なんだろうがやるなら来いってんだよ。

 

「両者そこまで。今は報告が優先事項だ」

 

奥に暖簾でシルエットしか見えない年老いた神官が口を挟む。

こいつが大赦のトップである元老院の1人、名前も顔も見た事ないが上里でないのは確実。

喧嘩を売って来た神官は不服そうに座りオレは立ったまま。

 

「外はどうだった」

 

「相も変わらずの熱さだ」

 

「バーテックスは」

 

「生成中。来るのも時間の問題ってとこか」

 

「なるほど…神託通りだ」

 

コイツは他のクズよりかはまともだと捉えている。

大赦に長い間関わっている割に公平に物事を見てる。

 

「データは既に回したから詳細は後日になる」

 

「いつも済まない」

 

「構わんさ、アレも見逃してくれたしお互い様ってもんだ」

 

「どうしてこのような者の肩を持つのですか!?」

 

先ほどの怒りが残っているのか神官が問いただしてきた。

普通に考えてトップと溜め口で話せるなんてあり得ない事。

ましてや宗教で成り立っているから上下関係はかなり厳密だろう。

 

「彼女の成果は神樹様も見ている。もし、道を外れるのならそれ相応の罰を受けるだろう」

 

「それでもっ!こいつは神樹様を侮辱しているんです!」

 

「我々は神樹様と共に生きる事が目的だ。悪魔であっても味方であるなら利用する、それが最善と私は考える」

 

「っ!!」

 

世界を維持するという点でオレと意見は同じだ。

それに事を荒立てるにも時期がある。

 

「悪魔は言い過ぎだがウィンウィンでやりたいのは事実だ。多少は従うさ」

 

「裏切らない保証はあるのか…!」

 

「そんな事言ったら横にいるやつがお前を憎んでるかもしれないだろうが」

 

信頼というのは行動で得られることもあるがつまるところ自分の駒として使えるかで判断される。

社会で紡がれる信頼とは熱で溶けた輪ゴムのように脆い。

その中でどう立ち回るかが重要。

 

「これで要は終わりだ。次のお役目、上手くいくといいな」

 

ヒラヒラと手を振り部屋を出た。

廊下を歩きながら仮面をはぎ取り大きくため息をついた。

あそこは雰囲気もだが権力争いが露骨なんだよ。

人間の悪い所を煮詰めた感じ。

300年前も今も根本は変わらないってことだ。

 

1年後、後の先代勇者と呼ばれる3人の小学生たちのお役目が始まった。

美穂は樹海化しても止まっておりまだ資格は無いようだ。

今回のお役目は討伐ではなく撤退させる事。

完成態が標準となった今、倒し切るのは至難の業だ。

乃木が纏っていたアレでやっとだったしな。

それよりもオレの力の再現を急がさなければ。

白夜から貰った神殺しの力を。




大赦職員の顔の黒花千早でした。
本編でも言われていたように関係は最悪ですが大赦にも理解者がいるってのを見せたかったです。
にしても元老院ってなんだろ…
3期のアートコレクション的なの持ってないんで分からないんですが記載されてるんですかね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。