生者に夢を、死者に花束を   作:薫製

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犠牲を糧に

教え子の安芸から送られたこれまでの戦闘報告を見ると出力そのものは上がっている。

呑気に300年過ごしていた訳では無さそうだ。

それにチームで行動するのが前提なのか近、中、遠とバランスがいい。

美穂は1人で努める上、攻防を兼ね備えた自己完結型。

オレはこの武装を聖騎士(パラディン)と名付けた。

単純に武器が剣と盾で西洋風だしな。

また神殺し以外の力をアップデートできるよう端末に拡張機能を追加した。

機能として存在していても前回の暴走を抑制するためにもロックはかけさせてもらったが。

 

「しばらく出陣は無さそうだ。勉強ちゃんとやれよな」

 

オレはキッチンで食器を洗っている美穂に話しかける。

既に生活スキルは履修済みで1人暮らしが出来る状態に仕上がっている。

 

「適当に参考書渡してくるくせに随分偉そうですね」

 

「とか言って一回で覚えるお前が怖いわ」

 

小学6年となった美穂だが小学校には通わしていない。

そもそも行方不明扱いされてる時点で行かせられんからな。

最初は勉強の面倒も見てたが白夜に匹敵するくらいの吸収力で途中から諦めた。

まともなのはオレだけか…!?

 

「もう7月とは。時が経つのは早いなぁ」

 

「そうですね。暑くて買い物すら酷に思いますよ」

 

夕日が薄いカーテンを照らしている。

見るだけで暑さが伝わるわ。

 

「電気代上がるな」

 

「大赦から払わせておいて今――――」

 

美穂の言葉が樹海化の予兆で遮られる。

さて気長に待ちますか。

 

とは言ったものの止まって数時間が経過するがまだ解除されない。

だんだん嫌な予感が高まってくる。

かつて伊予島と土井が亡くなった時も長かった気がした。

 

「…更何言ってるんですか?」

 

美穂の発言が再生された。

どうやらお役目は終わったらしい。

 

「すまん、用ができた」

 

オレは荷物を軽くまとめ外出の準備をする。

キョトンとした顔のまま行き先を聞かれること無く家を出て、駐車場に停めた車に乗り大赦本部へ向かう。

電話でもいいのだがどうせ繋がらんだろうから直接聞きに行く。

この予感が杞憂で済めば良かったが現実とは残酷だ。

三ノ輪銀という少女が亡くなったらしい。

資料で見た程度で面識はゼロ。

ただ安芸の教え子だったから他人事ではない。

2日後に行われた葬儀に参列したが席はかなり後方。

コンサートが行われるホールを貸し切って行われたからか舞台にいる人物がさっぱり分からん。

挙句の果てに葬儀中バーテックスが襲来した。

勇者の1人が飲まれる前に吠えていたが無理もない。

オレはあの日と同じく見るだけ。

その恨み、嘆きを受け止められるがそこまで。

声もかけないしサポートもしない。

彼女たちと同じ舞台に立つにはまだ早い。

 

―――――

アタシは自分の遺体を眺めていた。

まるで眠っているかのような顔をしている。

勇者服を着て舞台を歩き回っても誰も気にしてくれない。

試しに須美の顔を撫でようと触れたけどすり抜けていった。

その2人も今はバーテックスに攻撃をしていてここにはいない。

思い返せばあの状況で生きてる方が変だ。

でもアタシの命で多くの人の明日を守れたんだ、それで良しとするか。

皆に辛い思いさせるのは申し訳ないけどね。

家族にお土産ちゃんと渡せなかったし園子に料理教える約束果たせなかったなぁ…

まだまだ沢山したい事あったけど悔いは…

悔い、は…

 

「あるに決まってるだろ…!」

 

もっと生きたかった…!もっと遊びたかった…!

背伸びて恋もして結婚もしたかった!

なのに、こんな所で終わるなんて…

 

「命を張らないといけないのは分かってた…分かってたけど…!」

 

ガクリと足の力が抜け、失った右手が酷く痛む。

同時に胸が締め付けられ呼吸が辛くなる。

死んだのに痛みを感じるなんて最悪だ…

 

「ごめん…皆本当に…っ!」

 

絞り出すように口に出した謝罪は霧散していく。

この言葉も誰も聞いてくれないんだろな…

そう思っていたら目の前が暗くなった。

顔をあげると1人の女の子が見下ろしていた。

須美や大赦の人が着ている和服とは違い巫女さんのような服装だった。

アタシの前にゆっくりと膝をつき目線が合う。

真っ白な肌に床に垂れるくらい長い白髪、そして血のような赤い目。

 

「アタシが見えるんですか…?」

 

コクリと軽く頷き微笑んでくれた。

この子も幽霊なのかな?

失った右肩を手で優しく撫でた。

くすぐったかったけど痛みは消えていた。

女の子はそのまま目を閉じ何か唱えてる。

すると白い光の粒が腕に集まり無くなった腕が形作られた。

 

「おおお…!?」

 

不可思議な現象に目を惹かれくよくよした気持ちが吹き飛ぶ。

右手を握ったり動かしてみると普段通りの感覚が伝わる。

 

「すげぇ…まさか生き返ったとか?」

 

申し訳なさそうに横に首を振られた。

そんな都合のいい話があるはず無いとは思ったけどさ。

 

「だよなぁ…でも何でここに?」

 

天使っぽい雰囲気だからお迎えか?

葬式やってるし丁度いいタイミングかも。

 

「…助けて」

 

「へ?」

 

幼さを感じる声で言われた言葉に素っ頓狂な声を出しだ。

死んでいるのに助けてって?

 

「あの2人が躓きそうになったら助けてあげて」

 

優しく頭を撫でながら続ける。

 

「その時が来たら縁が貴方を導くと思う。最初は混乱するけど安心して」

 

何を言っているのか分からない。

混乱した状態のアタシを置いて女の子は立ち上がる。

 

「…またね」

 

死ぬ前に2人に向けて言った言葉をそっくりそのまま返された。

視界が白い靄に包まれアタシの意識は消えていった。

 

―――――

 

葬儀から2か月後、ついに神殺しの付与に成功した。

出力を大幅に下げなければならないが倒せるギリギリにおさめられた。

後は樹海化対策をすれば援軍として介入も可能になる。

最近念を押すように来るなと言われたが幼い少女の命が散っといて無理なお願いだ。

美穂もその為に勇者となったんだから。

 

「主任。ご報告が」

 

樹海化への侵入方法を考えながらコーヒーを啜っていたオレに男性職員が話しかけて来た。

ちなみにオレの呼び名は基本『主任』で統一している。

 

「どうした?」

 

「大赦の協力者から情報が届きました」

 

本来ならメールか電話でオレに直接来る。

それが間接的という事は…

 

「…問題が起こったのか」

 

「はい。このファイルを受け取ったのち通信遮断信号を受信しました」

 

コピーされた資料を受け取る。

自分の身に危険が及んだ場合、繋がりを悟られないよう全てのデータを削除するシステムだ。

 

「了解した。仕事に戻れ」

 

職員を戻し、資料を閲覧する。

そこには大赦が現状をひっくり返す奥の手として導入する切り札が書かれていた。

1つは精霊の導入。

どうやら即死級の攻撃を自動防御するらしい。

精霊と聞くと郡を思い出すが300年も経つんだ、そのくらい対策してるだろ。

もう1つは『満開』。

ゲージを貯め神樹の力を一時的にその身に宿すとの事。

ただ代償はあるらしいがデータの破損なのかそこから先の記述は無かった。

重要な部分が抜けているが重要な情報だ。

「しかし、誰がこんな事を…?」

 

―――――

 

「やっぱり消えてるか。相変わらず用意周到だね」

 

家に勝手に入って来た男は1人パソコンを漁る。

既にデータはこいつが侵入するギリギリまで送り消去済みだ。

どんなに凄腕のハッカーでも修復には相当時間を有する。

 

「何をしても無駄だ」

 

腕を結束バンドで結ばれ身動きが出来ない。

護身術を習っていたがあっさりと組み伏せられた。

 

「ここに居ても時間の無駄だったね」

 

男は銃を腰から抜きパソコンを何度も撃つ。

 

「なっ、何してる!?」

 

データが消えただけで中身は生きている。

それを壊すなんて…

 

「言ったよね、無駄だって。面倒くさいけど処理しないと」

 

何処から持ってきたのかガムテープで巻かれた長方形の塊をばらまいている。

さも当然のように…

 

「お前は…お前は誰だっ!」

 

恐怖で気が狂い始めたのか自分でもよく分からない質問をしていた。

男はゆっくりとこちらを向き近寄ってきた。

 

「僕はね、君たちを殺しに来た■■だよ」

 

重要な部分が聞き取れなかった。

同時に口に金属を詰め込まれる。

 

「それじゃ季節遅れの花火パーティーを楽しんでね」

 

男はにこりと笑みを浮かべ自分の前から消えた。

ドアが閉まる音と同時に電子音が聞こえ始める。

何が起こっているのか自分がどうなるのか一瞬で理解した。

結束バンドを外そうともがくも意味が無い。

呼吸が荒くなるのに呼応するように電子音が早くなる。

やがて自分の視界がライトを当たられたように白くなった。

 

 

 

 

──────

 

 

 

「少し派手にやり過ぎたかけどいいや。何れ君も同じ痛みを味わわせるんだから…」




最後の最後に奴が帰ってきました!
適度にしぶといくらいが悪役らしいと思ったので。

そして銀の葬儀。
美穂と接点ゼロに見えて裏で繋げていたという設定。
サイドストーリーならではの裏描写でした。
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