「バーテックスの集団を撃破した…だとっ!?」
オレはその報告を受け驚きを隠せなかった。
満開の情報を仕入れた1か月後に樹海化が発生した。
これまで生きて来た中で最も長いと感じるくらいの戦闘。
犠牲報告が無いって事はバリアが機能しているのか。
戦況にもよるがゾンビアタックじゃないと思いたい。
これで美穂の出撃は一時凍結、中学はちゃんと通わせる。
本人もそれを望んでいるからサポートしないと。
この部屋も美穂に譲渡しようと思う。
1人で生活させてみてもしキツそうなら戻ればいい。
自立しないとこの先、生きていけんからな。
しかし、こうもあっさり倒されると不安に感じる。
情報にあった代償の言葉が気になる。
神の力を使ったなら何ともないなんて訳が無い。
オレのように寿命を削れられるようなぐらいはあるだろう。
年を越し普段通り仕事場へ向かおうとしていたオレの前に1人の神官が現れた。
「仮面なんてつけて何用だ」
髪しか見えないが間違える事はない。
手塩にかけて育てたしあいつらを導いた巫女の血を引いてるからな。
「会って欲しい方がいます。今の勇者様を救えるのは貴方しかいません」
「…お前ら、アイツらに何をしたんだ」
「…拒否権はあります。これは私の独断なのですから」
質問ガン無視かよ。
それにオレに頼らないと解決しないって事か。
なら断る理由は無い。
「会うさ」
案内された場所はかつて白夜と調査をしていた大病院。
名前も変わらず外観だけ違っていた。
裏手から入り職員用と思われるエレベーターに乗る。
神官と話す事は無いから終始黙っていた。
降りると一気に雰囲気が変わる。
病院なのに暗く長い廊下、その先には高級感のある大きい扉。
まるで大赦本部の空気を持ってきたような。
「この先です。仮面は忘れずにつけてください」
今回はフルフェイス版をつける。
持ってなかったから借りたが意外と視野範囲広くてびっくりした。
大きな扉を神官が重そうに押す。
その先に広がる光景に思わず言葉を失った。
壁1面に貼られた御札、木製の小さな社のような舞台、そして最新式の病院ベット。
もはや異界と化している。
極めつけはベットに寝ているのは人の形をした何か。
左目と口のみを残し包帯を巻かれ紫の病衣を着ているが素肌がほぼ見えない。
「どういう事だ…」
「こちらにおられるのが乃木園子様です」
「勇者だった人間をどうして祀る」
「園子様は現人神となられました」
退役軍人のように賞賛されるならまだしも神になった?
ふざけているのか…
怒りをふつふつと感じていたら背後から複数の足音が聞こえなだれ込むように入って来た。
「そこで止まれ!園子様に触れるな!」
怒りをストレートにぶつけられた上、なぜか殺し屋扱いされている。
オレ嫌われすぎだろ。
「お話に来ただけのに手荒な歓迎だな」
オレは神官たちに背を向け話す。
お互い顔見えないなら正面きって話す必要もない。
「ふざけるな!貴様の事だ良からぬ考えをしてるんだろ!!」
「おいおい、妄想も甚だしいな。状況をよく観察してみて欲しいがもしかして節穴か?」
「なっ!?節穴…だとぉ!!」
布が擦れる音がするのと同時に腰にマウントしていたハンドガンを振り向きながら引き抜く。
案の定、銃を抜こうとしていたのか袖に手を入れた状態で固まっていた。
「抜き撃ちで勝とうなんざ300年早いんだよ。別にそれ抜いても構わんがお前の額に穴が開くがな」
相当悔しいのか肩を震わせている。
是非仮面の下に隠れた苦虫を嚙み潰したような顔を拝みたいものだ。
「ほらどうした、ほんの少し動かせば撃てるんだぞ?」
「言われなくてもッ…!」
「そこまでだよ」
透き通るような声が部屋に響く。
同時に神官たちが土下座をするような姿勢を取る。
この空気、樹海化で時が止まる感覚に近い何かを感じる。
「その人は私も会いたかったの。邪魔するなら許さないよ」
これが12歳のガキが発していいものなのか?
オレはゆっくりハンドガンを終い向かい合う。
「もう近寄っても大丈夫だよ」
歩みを進めベットの横に立つ。
意志はちゃんとあるのが救いになるものの環境は美穂よりも最悪だ。
「お前本当に神様なのか?」
「らしいね。でも死ねない体になっちゃったんだしそう言われても仕方ないよ」
「死ねない、か…」
オレは自分の手のひらを見る。
健康そうに見えない白い手、その実態はバーテックスと同じ性質。
自殺も出来ずここまで生き延びれた呪いの体。
意味は違えどその苦しみは一番分かる。
「…そりゃ辛いよな」
仮面をはぎ取り投げ捨てる。
「どうして取るの?」
「お前さんはまだ人だ。なら仮面をつけるのは失礼だろ?」
「…変な人」
もうちょいマイルドに言えないのか…?
心は硝子なんだぞ。
「それで、オレに何の用だ?」
置いてあった椅子を引きずり話しやすいよう左側に置く。
周りの雰囲気がドロドロしてきているがどうにかなるだろ。
「なんで大赦とは異なる勇者システムを作ってるの?」
ここで聞くかぁ…
正直言ってもいいがこいつらに聞かれるのは嫌だ。
チラリを目線を逸らしてみる。
「…二人っきりにさせて」
完全にオレの意図を汲み取りやがった。
神官たちは立ち上がりゾロゾロと部屋を出ていく。
最後に扉を閉められ完全なプライベート空間が出来た。
「これでいい?」
「完璧だ。よく分かったな」
「人を見るのが好きだからね」
気を取り直し本題へ戻す。
「人の可能性を信じているから」
彼女は黙ってオレを見ている。
「世界を守る為神と契約する行為を否定しない。だがぬるま湯に浸かって明日を見失う事は容認できない。人はいつの時代も前に進むのを諦めなかった。その日々を取り戻したいだけだ」
「だから新たな勇者を生み出したの?」
「あぁ、神の力に頼らない勇者をな。結局削れはするがゼロには出来なかった」
出力面は完全に神樹頼りなのが悔しいがここまで人の力でなし得たのは素晴らしいと思う。
「恐ろしいくらいの執念だね」
「誉め言葉として受け取るよ」
無謀な事であるが人が人のまま生きられる世界を作るためだ、努力も惜しまないさ。
「…この体治ると思う?」
話しながら見ていたが首を除き動かせないように思える。
四肢の欠損が無ければ治ると思うが。
「治ると思い続けるしかないな。病は気からって言うだろ?」
「気合と根性…」
「つまるところそうなるな」
精神はバフにもデバフにもなる。
兵器やあいつらには持ちえない人だから持てる大切な動力源だ。
「それじゃそろそろ帰るわ。話せてよかったぜ」
「また来てくれる?」
「んー…お前さんが圧かけてくれれば来るさ」
このままだと正規でアポとっても拒否られそうだしな。
「分かったよ。それとお前はやめて欲しいなー」
「…また会おう、お嬢」
それも嫌なんだけどって小声で呟いていたが無視。
名前呼びはしばらく保留だ。
扉を開けると追い出された神官がズラリと取り囲むように待っていた。
お嬢の指示が生きている以上、オレに手出しは出来ない。
「…どけ」
ドスの効いた声で命令すると道を譲ってくれた。
もう渋々やっているのが丸わかり。
印象悪くなりすぎて気持ち悪くなりそう。
神官の中に彼女も混ざっていたがスルーした。
もう役割は果たしたからな。
その後も合間を見てお嬢に会いに行った。
たわいの無い会話や信頼できる神官を介してオセロをした。
いつか美穂も合わせてやりたいもんだ。
大赦内で新たな勇者が決まったらしい。
今回は5人と大規模。
その内の1人は過去一適正値が高いと。
内部資料を流してもらい見てみる。
「おいおい…なんの冗談だこりゃ…」
オレの口から変な笑いが溢れる。
結城友奈…300年前、オレの教え子の1人だった高嶋友奈と瓜二つだった。
しかも友奈の名も冠してる。
絶対神樹の手が加わってるに違いない。
こりゃマーキングしないとな。
春を迎え美穂がついに中学生となった。
通わす先は讃州中学校、勇者たちが集う秘密基地のような所。
美穂の端末に超小規模の膜を張らす機能を追加した。
樹海化した際も美穂の周りだけ時間停止の影響を受けず勇者と神樹が誤認し入れる算段だ。
これだけはぶっつけ本番になるが上手くやるだろ。
後は美穂の判断に任せオレは大赦の行動を監視する。
最近、美穂に勇者の殺害権を大赦直々に付与してきた。
受け入れたが利用するだけで当然やる気は無い。
アソコは何処まで腐っているのやら。
それにお嬢の事もあるが満開の秘密がまだ明かしきれていない。
問題は山のようにあるな。
時は流れ中学2年となったある日、オレたちの運命が大きく動く。
わすゆ編完結です。
裏ストーリーになるんでメインメンバーとの関わりがほぼ最小限になりましたね。
というか園子以外会ってないし。
次回で黒花の物語も最終回です。
彼女があの日、何を思ったのか。
どうか最後までお見逃しないよう。
零の章について
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ヤベーイ!モノスゲーイ!
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止まるんじゃねぇぞ…
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展開が貧弱貧弱ゥ!!
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(無言の腹パン)