広い洞穴のような場所で私たち5人は追い込まれていた。
目の前に立つのは悪魔と呼んでもいいくらい人の形を逸脱した何か。
皮膚は爛れ変色し耳はナイフのように鋭く、骨が見えるくらい窶れているのにその目には明確な殺意が現れていた。
幾らバーテックスで鍛え上げられたと言っても本物の化け物には太刀打ち出来ない。
「これダメージ入ってんのかな!?」
何度か攻撃はしてるものの効いている感じは無いし、避けられている。
「でもやるしかないだろ!」
「そうだけどさ!」
「ならタマに任せろーー!」
珠子が旋刃盤を勢いよく投げる。
化け物は身じろぎせず攻撃を―――――
「回避失敗なんでダメージ判定どうぞ」
「えーっと…おっ、8!」
「高いねぇ。『化け物は攻撃が効いてきたのかよろけるようになった』」
私たちはTRPGで遊んでおりそのクライマックスを迎えていた。
ことの始まりは数日前。
黒花さんが家に遊びに来た時突然提案してきた。
「TRPG?」
ゲームに無知という訳じゃないけど聞いたことが無かった。
「テーブルトーク・ロールプレーイング・ゲームの略。簡単に言えば会話をしながら進めるロールプレイングゲームね」
「その通り。オレの職場で流行り始めてるからお前らにも楽しんでもらおうと思ってな」
「けど難しいんじゃないのか?」
「初心者向けのシナリオを用意したしキャラ作りから教えるさ。TRPGってのは準備から面白いんだぞ」
千景が無言で頷いている。
経験者がいるならサポートは手厚そう。
「余談だがプレイ経験者はいるか?」
誰も手をあげない。
「あれ?千景やったこと無いの?」
「リプレイ動画やシナリオは読むけどその…やる人が、いなくて…」
もじもじと言いにくそうに話している。
そんなマイナーなゲームなのかな。
「なるほど…まぁ一人でもやれなくもないが超つまらないからな。だったら全員初心者の定で進めるぞ」
そこから使用する道具や用語の説明が始まった。
ロール、技能、SAN値。
幅広く出来るからこそ覚える内容も多い。
でも分かりやすくたとえ話も交えてくれたから頭の整理がつく。
「これからキャラ作りするぞ。使用するダイスは適宜オレが指示するから従ってくれよ」
渡された黒の巾着袋には黄色の形の異なるダイスが入っていた。
まるで宝石のように透明で光に充てるとキラキラ輝いた。
「綺麗です…」
「アンティークとして置く人もいるくらいだしな。それはお前らにやるから無くすなよ」
その後指定された箇所に数字を割り振った。
何がいいかとは無いらしいけど技能に振れる量が変わるので差がつく位かな。
「よし、後はプロフィール欄だが全員勇者の設定で行く。戦闘があるし自分の武器に技能振ってるからな」
私は剣をメインウエポンにした。
ビットはチート過ぎるしライフルもアリだと思ったけどガンガン行きたいからね。
「本番は来週の日曜、大体2時間で回せるシナリオを持ってくる。もちろんネタバレ禁止で」
そして今に至るという話。
今回のシナリオは勇者部に廃洋館の探索という奇妙な依頼が届き調査する。
皆大好きSAN値チェックもあり、適度な緊張感がある。
そして最深部に潜む黒幕との勝負。
皆世界観にハマっているのか前のめりになってダイスの結果を見守っている。
「次は銀、行動どうぞ」
「おしっ!珠子さんに続くぞー…成功!」
「回避判定…失敗」
「私だって…!成功!」
「げっ…失敗」
「この流れ決めるしかないでしょ…成功来たァ!」
「…失敗。待ってオレのダイス運悪くね?」
怒涛の3連続攻撃で化け物も瀕死の状態らしい。
「とどめ決めちゃえ千景!!」
「えぇ!このロール…外せない!」
勢いよく振られたダイスの指す数字は…
「4!?クリティカルじゃねぇか!」
5以下はクリティカル、つまり回避不能の一撃。
100の内から出すんだから相当の確率なのにこの大一番で引き当てる。
これは胸熱展開だって。
「これで、終わりッ!!」
「『化け物は鎌によって真っ二つに斬られ朽ちていきました。勇者一同は誰も欠ける事無く任務を終え部室へと帰還するのでした』。これでシナリオは終了だ、お疲れ様」
一気に疲労が肩にかかり背もたれに息を吐きながら寄りかかる。
視覚情報が最低限しか無いから頭の負担が大きい。
「あぁ~…疲れたぁ~…」
「でも超楽しかった!またやりましょう!」
「月1でやるのが丁度いいかもしれませんね」
「長めのシナリオじゃなければな」
一番負担の大きかった黒花さんは背伸びをしながら答える。
今回は体験版のようなもの、面白ければいいというノリ。
私もやってみて楽しかったし戦闘は白熱した。
杏も言ってたけどたまにやるから面白いと感じる。
次は私もやってみようかな…
―――――
人生初めてのTRPG。
あの時代でやっている人と会う事すら無く、1人でシナリオを書くだけ。
まさかこの時代でも続いてて黒花さんがGM経験者とは思わなかった。
「お疲れ様」
皆が自室に戻ったタイミングで事前に買っておいた缶コーヒーを渡す。
「わざわざありがとうな。…はあぁ~…甘めだから脳が潤うなぁ…」
凄い蕩けた顔して飲んでいる。
ルールを把握するだけでも大変なのに初心者を導くのは相当の手慣れじゃないと出来ない。
「GM何回やってるの?」
「んー…はっきりとは覚えてないが二桁はいったはず」
「凄い経験数…羨ましいわ」
「やってみたいのか?」
「まぁ…でも上手く出来るか不安なの…」
何かを教えるのはいいけど皆を引っ張るってのは苦手。
生きてた時も乃木さんの後ろを着いて行くだけだった。
「不安か。確かに盤面をコントロールするのは難しい。けどそれは1人でするもんじゃない。実際千景に助けられたしな」
「私に?」
「そう。探索パートの時、謎が回収しきれてない箇所を補ってくれたろ?お陰で負担が減って皆の無茶ぶりに答えやすくなったんだよ」
正直、言われるまで気づかなかった。
ゲーマーの癖でここに何かあるんじゃないかと思って行動してただけだから。
「別に無理してやれとは言わない。けどやりたいって気持ちがあるなら素直に従うのを進めるぞ」
言い終わるとニコッと笑いかけてきた。
私もつられ軽く微笑む。
「そう、ね…あの1つお願いがあるの」
ポケットからUSBを取り出す。
「これは?」
「オリジナルシナリオ。GM目線で変なとこが無いか見て欲しいの」
「添削か。素人だがいいか?」
「えぇ、構わないわ」
「なら引き受けよう」
黒花さんはUSBを受け取りコーヒーを飲み干す。
「ご馳走さん。また来るって美穂に伝えといてくれ」
荷物をまとめ家を出ていった。
2週間後。
私は近くの公園に呼び出された。
暖かくなったからか子供たちがいつもより元気に遊んでる。
「よっ、待たせたか」
「そうでも無いわ。ちょうど気分転換にもなったし」
「なら良かった。例の添削終わったんで返すわ」
「どうだった?」
自分でも力作ってほどじゃない。
ただの趣味の延長線、駄作と言われても仕方ない。
「まぁ荒削りだが観点としては良かった。総評のせたから見てくれよな」
そう言い残し黒花さんは帰って行った。
仕事の合間ぬって来てくれたから仕方ない。
家に帰りパソコンに差し込む。
私はシナリオのデータファイルしか入れてなかったのに増えていた。
「しかも音声ファイルまでって…」
口頭説明なんて要らないのに…
頼んだ以上やり方に口出しはしないけど。
イヤホンを差し再生する。
『じゃ始めっぞー』
『やけに自信ありましたね。まさか主任が書いたとか?』
『いやいや。単に貰っただけさ』
『へぇ〜そんな友達いたんですね』
『それ以上言えば減給するからな』
『えええー。ケチー』
ただの雑談じゃない。
黒花さんの他に男女の声が入ってる。
再生するの間違えた?
『これは本当に起こるかもしれない奇妙な物語。その1つをここに』
このフレーズ…まさか!
「プレイ音声!?」
録音時間を見ると2時間超。
しかももう1つ音声ファイルがあり『後編』と記されていた。
「ここまでしなくたっていいのに…」
添削だけ頼んだのにプレイまでされるとは思わず恥ずかしい。
音声を聴きながらデータを開く。
赤字で添削箇所を強調していて分かりやすい。
「テストじゃないんだから…」
でも本気度が伝わるから嬉しかった。
データの最後にコメントが寄せられていた。
『謎が繋がった時の驚きと怒涛の展開がクセになりました!』
『キャラロスギリギリの難易度で焦りましたけど終わったら楽しかった気持ちが溢れて良かったです』
『GMの負担が少し大きいが何とかなった。次は低めでもいいんじゃないか?』
「ありがとうございます…」
滅多に使わない敬語が口から漏れる。
プレイヤーの反応がこんなにも心に響くなんて。
この反省を活かして次はもっと喜んで貰えるシナリオを書かないと。
私は勇者の時と同じやる気を胸に作業に取りかかった。
千景メイン回でした。
TRPGネタは絶対やろうと思ってたので筆がのりましたね。
タイトルはゲーム繋がりで仮面ライダーエグゼイドリスペクトです。
ちなみに自分はPL、GM経験ありなので詳しくかけたかなと。