ネットサーフィンをしていたある日、気になる記事を見つけ皆に見せる。
『勇者の軌跡を追う企画展が丸亀城と香川県立ミュージアムにて開催中』
「間違いなく私たちね」
「しかし、このタイミングでか?」
「だからこそだよ。大赦が情報を開示したから公に言えるの」
神樹の加護が消えた今、大赦はバーテックスや勇者の存在を公開した。
誰が勇者なのかという点だけ隠しその経歴を伝えた。
そして丸亀城は勇者始まりの地とも言える場所。
秘匿にされていたからこそ出せなかった資料も多くあるに違いない。
「次の休み行ってみようよ。3人の思い出もっと知りたいしね」
前回の花見は黒花さんの送迎だったけど今回は電車とバスで向かう。
ちょっとした遠足みたい。
既に花は散っており木には若葉が生えそろっていた。
坂道を進むと少し大きめの城が見えた。
「間近で見るの初めてだなぁ」
「そうなの?私は黒花さんのドライブで連れて来られたから2年ぶりくらいかな」
広場には多くの人が来ており写真を撮っていた。
今は観光名所となったここが重要拠点とは思わないだろう。
ここでは勇者の暮らしを再現した展示を行っていた。
「敷地内に寮があったんだ…」
「しかも食堂付き!?優遇過ぎるでしょ!!」
「なんでも食べれたぞ!」
「まぁうどんしか食べてないけど」
「千早さんは毎回変えてましたね」
本来なら知る事の無い話を平然とするのがなんか新鮮。
これが10年ならまだしも300年だもんなぁ…
城内も変わっていて教室が再現されていた。
ロープが張られていて中へは入れなかった。
「意外と狭いね」
「6人しかいなかったですから」
「でも20席くらいあるけど?」
「再現した人を問い詰めたいわね」
「これじゃタマがどこ座ったか分からないな」
完全再現とはいかなかったらしい。
残った文献を元に作ったんだろうけど検閲の影響もあるに違いない。
ついでに天守へ登り景色を眺める。
高台にあるから山の先にある海がよく見える。
300年前も見えてたであろう壁は消え、本州の形がくっきりしていた。
本来の姿を取り戻したんだけど私たちにとっては新鮮な景色だった。
「日本って広いんだね…」
「逆にアタシたちの世界が狭かったんだな」
「でも壁の外に生存者はいないんだろ?」
「まだ決めつけるにはまだ早いよ。希望は残っている、どんな時にもね」
海を越えた先がどうなっているかは分からない。
それでも進み続けるって誓ったんだ。
次に訪れたのは県立博物館。
ここでは大赦が保管していた品や関連した映像を公開していた。
時間割や教科書があったけどどれもボロボロだった。
江戸時代が260年余栄えたと考えれば時の流れの凄さを感じる。
まぁ3人からすれば数か月前のような感覚だろう。
後、黒歴史が混ざってるらしく展示品の前で悶える姿を度々見た。
勇者関連の物整理しとこうかな…
そして企画展のメインが飾られる部屋にたどり着いた。
壁でいい感じに外からじゃ見えないようになっていていやらしい。
メインと言っても展示してる品が何なのか発表されていない。
唯一の情報は『旧時代の勇者が使用していた物』だけ。
ただでさえ沢山あるのに一体何を展示してるのやら。
「タマが一番乗りだぁ!」
「あっ!待ってくださいよー!」
元気っ子たちが駆け足で中へ入ってく。
別に展示品は逃げないから慌てることもないのに。
部屋の中へ入ると、中央にあったのはショーケースに飾られた5つの武具だった。
その内3つは見慣れた物。
「これ置くかぁ〜…確かに自信持って言えるな」
「レプリカ?にしては出来良すぎるけど」
「いえ…これは模擬戦用です。けどここまでカラフルじゃなかったはず…」
解説があって読んで見たけど『実際に使われた』と書いてあるだけ。
確かに傷はついているけど上から塗られた風にも思える。
なら何の意味が…
「乃木家所有の品を譲り受けたとか」
「なら元々園子が持ってたのか?」
「園子さんが持ってたならあの時見せるに違い無いわ。これはその前に寄付されたのよ」
「あの時誰が保管してたの?」
「確か大社だったな。終わったら回収されてたっけ」
「となれば…記録か」
「記録って何の?」
「…生きた証」
勇者以外樹海を視認できない。
何気ない生活をしていただけなのに気付いたら隣にいた人が亡くなっていたなんて事もある。
だからこそ、形として残したかったんじゃないのかな。
「これは自分への戒めなんだ。戦いが終わっても事実を忘れてはならない、そう心に刻みつける為に」
私も戦い続けてこれたのは純粋に忘れたくないから。
死んでしまえばこの日常は夢と化する。
それが嫌だった、奇跡の残り香だとしても無きものにはしたくない。
「うわぁ~!カッコイイ!!」
感傷に浸っていたら展示室に少女の声が響く。
小学生くらいの子が目を輝かせながら武具を見ていた。
「あの!これっていつ頃使われていたんですか!」
「へ?いや、私たちお客さんなんだよね…」
「はわわ…失礼しました!」
ペコペコと頭を下げ続ける少女をなだめる。
そのまましゃがみ込み目線を揃える。
「ところで親御さんは何処にいるの?」
「…置いてきちゃった」
つまり迷子だね。
まぁ展示室内にいるなら待っていれば直に追いつくでしょ。
にしてもやけに落ち着いてる。
「こういうの好きなの?」
「えっと、私勇者に憧れているんだ!」
ズキリと胸が痛む。
表情は変えなかったけど今の発言は心に来る。
「どこに憧れたの?」
「世界の敵を倒し私たちを救ってくれた、その姿がカッコイイって思ったの」
純粋な想いをぶつけられ痛みが増す。
皆も複雑な表情を浮かべ目線を逸らしている。
「いつか勇者になって皆を救いたい。その為に体力つけないと!」
「…違うよ」
口からポロリと漏らしてしまった。
少女がきょとんとした顔で見つめる。
言ってしまった以上、後には惹けない。
「世界を救う力なんて要らない、必要なのは大切な何かを守れる力なんだ。失ってからじゃ遅すぎるし後悔しか残らない…」
小学生相手に何言ってるんだろ。
もっとはぐらかすとか方法は他にもあったのに何で説教してるのか理解できない。
「…変な事言っちゃったね。お姉さんの独り言だから気にしないで」
笑顔で無理やりはぐらかしたけど空気が超重い。
私のせいでもあるけど周りから負のオーラが出てる。
「大丈夫!何となく分かった!」
「え?」
「心配してくれてありがとう。でも私諦めきれない。この夢は嘘じゃないから」
友奈のような芯のある声。
理解した上でも尚辛く精神。
私には持ちえない心の強さ。
「それにただの勇者じゃない。最高、最善の勇者になるからね!」
花が咲くような笑みを私に向ける。
「それは…いいね」
この子なら本当になれるかも。
根拠は無いけど、なんか出来る気がする。
「すみませんー!」
部屋に母親らしき人が慌てて入って来た。
「この子がご迷惑お掛けして申し訳ございません」
「いえいえ!こちらこそ楽しくおしゃべりさせて頂きました」
「ほら
「はーい!またね~!」
少女は満面の笑みで手を振りながら出ていった。
「なぁ…あの子の名前…」
「まさか、ね…」
「ここで聞くなんて思わないって…」
「偶然にしては出来過ぎのような…」
「これもまた縁、なのかね」
誰と出会うかは既に決められているとどこかの本で読んだ事がある。
ただいつ、どのタイミングで会うかは定まっていない。
それを人は運命という。
あの子にとって正に運命の日になるだろう。
「それじゃ私たちも帰りますか。濃密な同窓会だったしね」
今日は色々ありすぎて疲れた。
思い出作りにしては刺激強すぎだって。
ただ、過去に触れその思いを少しでも貰えた気がした。
実感は出来なくてもそこにあった面影に敬意を払い私は今を生きるんだから。
オリジナル設定ですけど大赦ならやりかねないかなと。
もう隠す必要もほぼ無い上、園子との約束も果たす意味でもありだと思いました。
そしてモブキャラはもしかしたら再登場するかも?
まぁガッツリ関わることは無いですが。
本編とは脱線しますがFate系の短編を投稿しました。
息抜きになって良かったと思います。