生者に夢を、死者に花束を   作:薫製

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零の章のネタバレはありませんが見ておくとすこし楽しめます。
見ていなくても支障はありませんのでご安心ください。


一歩を踏みしめ

久しぶりにオレの畑へ向かう。

神樹の加護を受けていた土地は枯れ、育ちにくくなっていた。

当然全ての土地がそうではない。

オレが300年かけて地道に加護を封印してきたからな。

バレないよう規模を縮小し、託す農家の人も選定した。

選んだのは農業に生きがいを感じているタイプ。

天候は神の力かもしれないがそれを読み解くのは神託ではなく経験値だ。

『この時期は雨が多いから水浸しになりやすい』

『土が乾燥しやすい性質だから早めに苗植えをやる』。

土地と共に暮らしてきたからこそ分かる心遣いだ。

結果は見れば分かるが人の力だけでも運営出来てる。

ある意味オレが求めた世界でもある。

 

「おっちゃーーん!元気にしてっかー!!」

 

車から降り作業中の爺さんに大声で手を振る。

 

「見りゃ分かるだろー!そっち行くから待ってろー!!」

 

器具を置きちゃんとした足取りでオレの所に向かってくる。

元気なのは確実だ。

 

「黒花の嬢ちゃん今日は何用だい?」

 

「いや、土地の様子を見に来たのさ。それでどうだい?」

 

「相変わらずだ。よく育つのが難点かね」

 

ガハハと大笑いしてるからオレも一緒に笑う。

感情を共有し仲を深める、それがオレの人付き合いのモットー。

 

「後、大赦から要請受けてな。食糧難とは言え無茶な事指示してくるわ」

 

「状況が状況だ。仕方ない面もあるがやれる範囲で構わないからな。何か言われたら連絡してくれ」

 

「おう、頼りにしてっからな。そうだ!新玉ねぎが取れてな!ちょっと待ってろ!」

 

親戚の威勢のいいおっちゃんみたいだ。

そこが気にってここを預けたんだけど。

 

「お待たせ!もってけもってけ!!」

 

段ボールいっぱいの玉ねぎが見えた。

 

「こんなに貰っていいのか?」

 

「もちろんだが生徒さんにも配るんだぞ」

 

「あぁ、任せろ!小細工無しの美味さ伝えてやるよ!」

 

トランクに乗せ畑を後にする。

毎度何かしらお土産をくれるし季節を感じられる。

野菜は取れる時期が細かいが美味しいタイミングも短い。

そのタイミングを逃さず収穫するのが農家の腕の見せ所。

爺さんはその点最高と胸を張れる。

 

今度は漁港へ向かった。

最近、船の様子を見にいけていない。

と言っても管理して貰ってるんだがな。

駐車場に置き港を散策する。

普段と変わらない活気があった。

競りは既に終わっており新鮮な魚が売られていた。

大赦は船の利用に対して強めの規制をかけてる。

どさくさに紛れて本州へ上陸したなんてあったらたまったもんじゃないからな。

お昼なのか漁師の方とすれ違う。

丁度いい、少しお高めのご飯と行こうか。

足を止めたのは濃い青色の暖簾の掲げられた店。

躊躇なく暖簾をくぐり引き戸を開ける。

 

「らっしゃーい…って千早か」

 

「オレで悪かったな」

 

カウンター席に座り大将と向き合う。

この人がオレの船を管理してくれている。

水質調査でここに立ち寄った時、この海域を知っている人として紹介された。

ぶっきらぼうだが面倒見はいい。

 

「あら!千早ちゃん!」

 

「お久しぶりです女将さん。お体は大丈夫でした?」

 

「えぇ、お陰様で。もう腰痛めるなんて歳かしら?」

 

「ご冗談を言える時点でお若いですよ」

 

「もう!お世辞がうまいんだから!」

 

女将さんは大将と真逆の性格。

人当たりがよく話も面白い。

どうして結婚出来て店を切り盛り出来るのか知りたいくらいだ。

 

「…注文は?」

 

「おすすめ6貫セットで」

 

「はいよ…」

 

嫌そうな顔するけどちゃんと握ってくれる。

出された温かい緑茶を飲みながら待つ。

 

「神樹様が居なくなったのは本当なの?」

 

「まだ調査中らしいです。まぁ末端のオレに情報が回るとは思いませんけど」

 

「だろうな。お前ロクな事してなさそうだし」

 

女将さんがフォローしてくれたけどぐうの音も出ない。

 

「6貫セット」

 

「ありがとさん。ではいただきます」

 

どれも美味しそうだがやはりタコから食べてみる。

瀬戸内海と言えばタコだもんな。

箸で持っても崩れないシャリ。

こういうのは少し醤油をつけるだけでいい。

 

「はむっ…んっ…美味い」

 

コリコリとした食感が堪らん。

しかも硬すぎないし柔らかくもない絶妙な肉厚。

 

「当たり前だろうが」

 

「この人目利きは凄いからね」

 

「魚の目利きやっても分からないですよね」

 

タコは魚じゃないけど大きさとか足の太さで変わるって聞いた事ある。

流石のオレも無理なのは存在する。

同時にまだ足りない面があると思えて嬉しくなる。

その後何気ない談笑をし勘定した。

 

──────

 

「という訳で今日は新玉を使った簡単サラダを作りたいと思う!」

 

「いや何勝手に進行してるんですか」

 

黒花さんが顔出したと思ったらダンボールにぎっしり詰められた玉ねぎを持ってきた。

ハロウィンの時にお世話になった農家さんから貰ったらしいけど多すぎる。

そこで隣の家庭科室を借り料理を振る舞う事となった。

しかも12人分作るという本気っぷり。

 

「んだよ。皆オレの料理食べたがってるんだからいいだろ」

 

「そうですけど…」

 

私は食べ慣れているけどサラダとは。

チョイスが意外だった。

 

「じゃ始めっぞ…ってもほぼやる事無いけどな」

 

皮を取り、輪切りにする。

その後水で軽く洗い盛り付けて終わり。

 

「料理って言うのかな?」

 

「包丁使ってるし料理でいいんじゃない」

 

「判断基準が謎ね…」

 

いつの間に買ってあったポン酢と鰹節をセルフでかける。

 

「いただきます」

 

うん、甘い。

新玉独特の甘さを引き出し辛さを消さず微かに残すことで変化を楽しめる。

シンプルなのに美味しい。

 

「どうだいどうだい。オレの手料理、美味しいか?」

 

「「おかわり!!」」

 

「嬉しいが家で作れ」

 

「素材の味しかしないのにどうしてこう美味しいのかしら」

 

「余計なもん入れてないからこその味だ」

 

味付けされたのも確かにいい。

けど自然の味以上に美味い物は無いと思う。

 

「それに懐かしいのさ」

 

「懐かしい?」

 

「なんせ今まで味覚無かったもんな」

 

あっけらかんと言ったからか全員食べるのをやめて黒花さんを見ていた。

 

「まさか味覚ゼロで料理をマスターしたってこと!?」

 

「正確にはゼロに近いだけだ。昔は色んな奴に味わわせて研究したんだぞ。一番慣れるまで時間かかったと思う感覚だったな」

 

「いつからだったんですか…」

 

「神世紀1年。要は300年だな」

 

この人は300年前から全てを失っていたんだ。

生きる代償を背負い人の明日を見届ける、その為だけに。

 

「だからこそ今が美しく感じるのさ。失って気付くってやつだ。それにこうして居られるのもどっかのバカのおかげだ」

 

「貶してるのか褒めてるのかハッキリさせてください」

 

「オレはバカと言っただけで美穂とは言ってないぞ」

 

「屁理屈ばっか並べて…子どもですか…」

 

私は深く溜息をつき玉ねぎのサラダを頬張る。

甘さと辛さが合っていてとても美味しく感じた。

 

──────

 

あぁ、子どもさ。

私の心は300年前から変わってない。

誰かに見て欲しい孤独嫌いなガキ。

大人の皮を被ってるから言えないだけ。

この感情を貴方が見たらどう思うのかな。

ねぇ…██。




黒花メイン回でした。
何気ないシーンですけど人との繋がりという黒花が大事にしてきた心情の一部が見せれたかなと思ってます。
そして最後の伏字。
前書きでも言ったように零の章見てれば誰のことか分かります。

そしてネタ切れが近づいてきたのでリクエスト箱設置します。
すまないが、皆の知恵を貸してくれ。
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