私のわがままに高木さんを付き合わせてしまった。
黒花先生から過去に関わることは極力触れるなと言われていたけど、どうしても知りたかった事がある。
その確認の為に電車に揺られ高知に向かっていた。
「本当に大丈夫なの?」
「大丈夫。千景の頼みを断るほど切羽詰まってないから」
「ありがとう」
向かっていたのは私の故郷があった場所。
事前に地図で見たら思っていた以上に変わっていた。
学校も市役所も残ってる感じがするも名残は殆ど消えている。
「道は覚えてるの?」
「嫌でも覚えているわよ。ただバスが通って無いから徒歩が多くなるかも」
「了解〜」
電車を途中で降りバスに乗り換える。
あの時ゲームをしながら乗ったバスでは無かったけど暗い気持ちになりかける。
「大丈夫?」
高木さんが手を添えながら聞いてくれた。
「大丈夫、少し思い出しただけ」
「そっか…ゆっくりでいいからね」
その言葉だけで暗い気持ちが吹き飛んでいく。
1人で殻に篭っていた私はいないんだから。
バスを降りても懐かしさは無く、新鮮な気持ちだった。
「ここが千景の故郷。特に変わった様子は無さそうだね」
「というより変わり過ぎてる…」
あの時は気持ちが沈んでいたのもあるけど今見てる景色は普通だった。
人に活気があり笑顔が溢れている。
これが私の心を汚した街の姿なの…?
幾ら300年経ってるとは言えこんな変わるなんて…
一旦落ち着き本来の目標であった私の家の跡に向かう。
あの家が残っているはずが無いけどどうなったか気になってた。
記憶を頼りに辿り着いた先は公園だった。
1番穏やかで老若男女様々な人が利用している。
そこには私の見た地獄を感じさせない。
「は…」
思わずその場にへたり込んでしまう。
「千景!?」
「なによこれ…」
胸の辺りがチクチク痛む。
自分だけが置いていかれたように感じた。
それくらい見ている景色は違うのだから。
「偽りの姿?だとしても自然過ぎる…」
勇者として迎えられた時と戦犯として迎えられた時では露骨と思う程態度が真逆だった。
それを今の人からは読み取れない。
「…図書館行ってみない?街の歴史とかあるかもしれないし」
「そうね…」
図書館は古さを感じない近未来風の建物。
外の定石を見ると50年くらい前に建てられたらしい。
道理で見たことが無いわけね。
受付で場所を聞き、棚にあった本を適当に取り机に広げる。
神世紀初期から最近まで写真で紹介していたり、年表のようなものまで様々。
本を読み進めていく内に胸の苦しさが増していった。
どうやら大赦がこの街に融資を積極的にしたらしい。
道路の補修、公民館の再建、大型複合施設の建設…
その度に偉い人が満面の笑みでテープカットをしている写真が数多く掲載されていた。
写真の中には大赦の人もいたけどかなり端に追いやられている。
まるで街そのものに忖度をしているよう。
今生きている人に罪は無い、けどその根底は人の欲望で作られた最悪の街。
やはり変わっていない、私の死が逆にこの街を悪化させた。
頑張ったって誰も認めてくれないなら今すぐ消してやる―――――
そう結論しようとした時、右手が温かく感じる。
顔をあげると高木さんが私を黙って真っ直ぐ見ていた。
また堕ちそうになっていた…
バスの時もそうだけど必要な時に触れてくれるから厄介と感じない。
「そろそろ出よう」
私は軽く頷き図書館を出た。
―――――
図書館で本を読めば読むほど胸糞が悪くなった。
選考理由も筋は通っていて納得はする。
千景の存在が無ければ。
大赦の手が確実に加えられている偽りの歴史。
恐らく千景の存在を使って揺すったんだろう。
当時のトップは乃木若葉さんと上里ひなたさん、千景に一番近かった友人だからこそ効果的。
そうでもしなければここまで発展しない。
横で読んでいる千景を見ると鬼の形相を浮かべ紙の端を振るえるほど強く握っていた。
怒りに呑まれていると判断し、肩を揺するのではなく優しく震える手を包む。
堕ち過ぎていると無理やり連れ帰るのは裏目に出る。
大切なのは頼れる人がいる事を意識させること。
そうすれば自ずと帰ってきてくれる。
もしダメなら触れる面積を広げるだけ。
今回は手だけで帰ってこれた。
本を返し逃げるように後にする。
あそこにいたら私ですらも憂鬱になりそう。
再び千景の家の跡地でもある公園に着いた。
ベンチに座り自販機で買った缶コーラを開ける。
夏に近づいているから喉が渇くから一気に飲む。
「ーーーーぷはぁ!くぅ〜しみるゥ〜!」
空になった缶を口から離し悶える。
喉がカラカラだったからよく沁みる。
千景は首を垂らしながら缶を開けず地面を見ていた。
「無理しなくていいからね」
「…情けない姿晒してごめんなさい」
「情けなくないよ。千景は純粋だからね」
「人を傷つけておいて純粋なんてね」
「こちとら人殺してる」
「自信満々に言うことじゃ無いしここ外だから」
少し笑いながら突っ込んでくれた。
呆れてそうだけど笑顔見れたからよし!
「真面目に言えば他人を見る目は凄いけど自己表現が苦手だもんね」
「そこは自覚してるわ…」
誰も味方のいない世界にいたんじゃ自分を表現する事も無いし、余計な言葉と捉えられ追い打ちをかけられる。
だからこそストレスを溜めやすい性格になる。
その果てがどうだったのかは本人が痛い程理解してるはず。
「今も胸が痛いんだと思う。自分の存在が消されたのに街は豊かになる。死して尚、全ての不幸を背負わされたなんて最悪だよ」
「…!」
目を丸くして私を見ていた。
私も人殺しまくって処刑された後、死神部隊が世界を再興させてたと思えばクソ腹立つ。
罪は罪だけど他人の業は要らない。
「死人に口なしって言うけど名前の無い死体を使うなんてね」
「…今もこの景色が憎い。私だけ傷んで他人は傷の無い心で育つ。そんな理不尽が許せないのに怒りを振るう人がいない…」
その顔は怒りと悲しみが混ざった複雑な表情が読み取れた。
「気持ちが混ざってて分からないの…もう体の内側から壊れそうなくらい…」
顔を手で覆い体を丸め首を振ってる。
疲弊してるのは見て取れたけどここまで追い込まれてたなんて。
「なら爆破させちゃいなよ。そんな重たいもの持ってたって毒だよ」
「それが出来たらもうしてるわよ…」
「自分の一言が誰かを傷つけるなんて分かりきってる。でもその一言を恐れたら成長出来ない。大切なのは『すれ違ったら過ちを認める心を思い出す』事」
これは大切な人から貰った温かいエール。
直ぐに謝るかどうかは別だけどその人が言ってくれた想いは事実。
それを汲み取ってあげてこその成長だから。
「言っていいの…?」
「私は一向に構わない、というか言ってくれないと困るくらい!」
家族の苦痛は私の苦痛。
見てるだけでも痛いのは伝わるからね。
「…胸借りるわ」
ポスンと顔を胸元に埋めて来た。
少し大きめだから心地いいとかあるかな。
「っ…うぅ…くぅあぁ…」
弱々しい声だけど私の服を握る手は強かった。
「皆、幸せになってズルい…私だけこんな傷ついたのに…全部、奪わないで…!」
千景の吐露は私にも刺さる。
世界の幸せを願ったけど私自身は幸せでは無かったし他人も大切な人も奪ったし奪われた。
「離さないで…高木さん…お願い…私を、1人にしないで…っ!」
「絶対しないよ。千景は私、だから…」
私もボロボロと涙を流していた。
「1人はもう嫌だよ…」
「ッ!高木、さん…!」
「千景…!」
お互い我慢出来ず声を上げながら泣き続ける。
周りの目線が集まってたけど構うもんか。
力強く抱きしめ合って大声で泣く。
そこに染み付いた過去を洗い流すかのように。
電車の窓から見える景色は夕日で赤くなっていた。
なき終わったあとかなり気まずかったけどスッキリした顔だった。
「もうあの街には行かない」
「それがいいよ。私も実家に行くのは嫌だからね」
「何で嫌なの?」
「実の父親ぶん殴ったから」
「大胆な事するわね…」
「だって園子に愛情注いでないんだよ?そらブチギレるって」
「なら同意しか無いわ」
「だよねぇ〜」
そこにはいつも以上に明るい千景がいた。
一皮剥けられたからかな。
「高木さん」
「ん?」
「今日は本当にありがとう。貴方が居なかったらきっと…」
「もう、さっきから謝罪と感謝しか受けてないって。家族なんだから当然でしょ」
「家族…」
「私だけじゃない。銀、珠子、杏、黒花さん、そして千景も。皆で家族なんだから」
「…そうね」
これ以上無い満面の笑みが太陽の光に照らされていた。
あの手のひらクルクル見たらこんなことまでしそうだなという予想。
死んだ後も利用するとか有り得そうですよね。
ここで話すのもなんですが零の章の没案で千景の故郷を灰にしようとしたんです。
(某呪術アニメの村焼き討ちみたいな)
スカッとはしましたけどやってもメリット無いと思って消したんですけどね。
そして悲しいお知らせです。
ネタが尽きました。
100話越えてなりたかったんですけどダメでした。
こちらも完全不定期投稿になります。
え、失踪の言い訳にするんじゃないかって?
まさかぁ〜。
そんな事したらカイザギア付けて変身してやりますよ〜。