生者に夢を、死者に花束を   作:薫製

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見栄っ張り

本格的な梅雨を迎え外は悪天候が続いていた。

神樹が生きていた時も四季はあったし梅雨も来てる。

けどこの景色は自然そのものが作る現象。

高気圧と低気圧がぶつかり発生する前線の影響だとか。

今日も曇りとか言っといて帰る頃に雨降ってきた。

神託に頼りきっていたからか予報の命中率が下がっている。

元々参考程度で済んでいたのに使い物にならないレベル。

おかげで折りたたみ傘を事ある毎に持っていく事になってる。

そろそろ衛星飛ばすとかしないとやばいんじゃ無いかな。

 

「何か憂鬱だな」

 

いつも通り銀と共に家に帰る。

灰色の空に銀の持つ薄赤い傘がやけに映える。

 

「雨が続くとなるよね。ほら銀、肩濡れてるよ」

 

「え?おわっ!マジか!」

 

「後で拭いてあげるから鞄だけは守りなよ」

 

「はーい」

 

歯を見せながら笑う姿は猫みたい。

となると私は迷い猫を拾ったって訳か。

そう考えると何かシュール。

 

「ん?」

 

視界に1人の少女がシャッターの降りた店の前で雨宿りしているのが見えた。

白に近い髪が濡れていて寒いのか少し震えていた。

トラブルメーカー云々関係なくこれは声かけするしかない。

銀と軽くアイコンタクトを取り少女の元へ歩いていく。

 

「大丈夫?」

 

「誰…?」

 

「通りすがりの世話焼きさん…ってとこかな」

 

「変なの…」

 

私だって変だって思ってるよ…

初対面の人に誰って言われてフルネーム言ったって伝わらないならこういうしか無いでしょ。

 

「誰か待ってるの?」

 

「止むのを待ってる」

 

片目で灰色の空を見ている。

直感だけどしばらく止まなさそう。

 

「なら傘あげようか?」

 

「いや、だって…」

 

「アタシら家同じだから気にしなくていいですよ」

 

銀が畳んだ傘を差し出した。

私の傘は少し大きめだから2人で入っても問題な…

 

「え…三ノ輪…?」

 

「「!!」」

 

このタイミングで正体を知る者が現れてしまった。

学校でも知り合いと会うあるらしいけど基本惚けて回避してるって言ってた。

 

「また名前間違われちゃったか〜…よく言われるけアタシの姓は高木なんだよ」

 

下の名前は変えていないからあえて言わない。

 

「高木…?いや…だって …」

 

「姿も声もまんまらしいね。でもアタシは別人だから…」

 

銀は嘘をつくのが下手なんじゃない、嘘をつきたくないんだ。

だから自分の存在を忘れてくれない人に言うのは辛いんだろう。

 

「…分かった。間違えてごめん…」

 

「それで君は何でここで雨宿りを?」

 

話の流れ的に帰るのは失礼と思い話を変えた。

 

「おつかい。今日は私が担当だから」

 

「へぇ〜料理出来るんだ〜」

 

「うん。たった一つだけど」

 

「何作るの?」

 

「焼きそば」

 

「ッ!」

 

あっ、これ以上はダメだ。

早くやめないとメンタルが壊れる。

 

「そうなんだね。じゃ私たちは帰るから傘の心配はしなくていいから〜」

 

傘をさし銀の手を引きながらその場を立ち去った。

少女の姿が見えなくなったのを確認し握られた手の先を見る。

唇を深く噛み締めながら静かに泣いていた。

雨音で聞こえないだけかもしれないけど声を我慢してる様に捉えた。

 

「銀…」

 

「アタシはあの子が誰かなんて本当に知らない。けどあの子はアタシを覚えててくれた…なのにその手を振り払った…本当に最低だ…」

 

私は傘を捨て抱き締めた。

雨粒が制服にどんどん染み込んで行くけど気にしない。

 

「私こそごめん。世界を救うためとは言え銀に辛い思いさせたんだ」

 

「そんなの違う…!美穂はアタシの未練を叶えてくれたんだ…!」

 

「未練?」

 

「普通に学校に通いたかったんだ。須美と園子と一緒に馬鹿やって過ごす。少し違うけど今その日常がある、だから凄い感謝してる…」

 

「…」

 

「それに美穂の居ない今は考えたくない…家族にも友達にも会えないひとりぼっちなんだ…」

 

会いたくても自分の存在を公言出来ない。

ジワジワ首を絞められるような生殺し。

いつも明るいけど園子のように無理してたんだ。

 

「私はね、銀が居てくれたから前を向けたんだ。たとえ記憶を失ってても関係ない。近くにいてくれる。それだけでいいんだ」

 

「美穂…」

 

「これからも傍にいてね」

 

「ッ…うぅ…うあああああ!!」

 

我慢の限界だったのか雨音に負けないくらいの泣き声だった。

そういえばガチ泣きは初めて見るかも。

1年も一緒に居て知らないことあるとはまだまだだね…

 

 

「「ただいまー」」

 

「おかえり…ってどうした2人とも!びしょ濡れじゃんか!」

 

長時間抱き合ってたからか下着が透けるくらい濡れていた。

それに寒い。

 

「いやぁ〜銀が傘貸したせいで足りなくなってね」

 

「だからダッシュして帰ってきた!」

 

「何やってんのよ…タオル持ってくるから軽く拭いてシャワー浴びなさい」

 

玄関で制服を脱ぎ2人でシャワーを浴びる。

 

「あ〜気持ちいい〜」

 

「そりゃ良かった」

 

少し伸びてきた銀の髪を優しく洗い流す。

最近園子でやったからなのか分からないけど他人の髪の手入れするのハマりそう。

 

「なぁアタシって成長してるんだよな?」

 

「医学上はね」

 

「うーん…」

 

唸りながら自分の胸を見つめてる。

言いたいことは何となく察した。

 

「測ったの?」

 

「珠子さんと測ったんだけど変わって無いんだよ」

 

持たざる者同士で何やってるんだか…

 

「そんなに大きくなりたいの?」

 

「もちろん!いつか須美みたいなマウンテンを…」

 

「似合わないからやめときなよ。せめて千景くらいがいいって」

 

「千景さんの胸見たことないんだよ」

 

「今度風呂一緒に入らせてもらいな」

 

「そうする〜。って見たことあるのか!?」

 

「さぁね〜。それじゃお先〜」

 

「逃げたー!!」

 

お湯には浸からずそのまま出て自室へ戻った。

テンションも元に戻っているし一安心かな。

 

──────

夕食後ベットに重い腰を降ろした。

あの子の顔を思い出そうとクラスメイトの記憶を捻り出したけどいなかった。

多分隣のクラスですれ違ったとかのレベル。

なのにアタシは…

 

「ダメだダメだ…また暗い気持ちになっちまう…!」

 

体を丸め目を強く瞑る。

せっかく美穂が励ましてくれたのに!

無理やりでもいいから消そうと楽しい思い出を浮かべる。

それでも黒いインクのように思い出を染めていく。

止まれ…止まってくれ…!

突然、部屋にノックの音が3回鳴り響く。

 

「少しいいかしら?」

 

この声は…

 

「ちょっと待ってくださいー!」

 

慌ててベットから飛び起きドアを開ける。

 

「忙しかった?」

 

「いえ!寝っ転がってただけなんで!」

 

「そう、なら良かった」

 

千景さんを中に入れ大きめのサンチョクッションに座ってもらう。

園子から貰った物だけど使わなきゃ勿体ないもんな。

 

「何かありました?」

 

「今日の三ノ輪さん元気なさそうだったから」

 

「そんな事ないですよ!多分雨に打たれて気持ちが沈んでたんで!」

 

いつもの笑顔を作り出し誤魔化す。

でも千景さんは黙って見ているだけ。

 

「…ダメでした?」

 

「えぇ。高木さんや黒花先生程じゃ無いけど分かりやすかったわ」

 

「タハハ…千景さんは凄いや…」

 

頭を掻きながら降参する。

 

「2人は気づいてなさそうだけど」

 

「美穂が誘導してくれたおかげですかね」

 

「それで、何があったの?」

 

「実は…」

 

アタシは数時間の事を話す。

他人に伝えるのは恥ずかしさもあったけどここまで見抜かれたなら逆にスッキリする。

 

「悲しい運命ね」

 

「はい、雨が降らなければ起こらなかった悲劇です」

 

「そう、どんなに身構えていても避けられない。それが運命の憎たらしい所よ…」

 

「千景さん…」

 

千景さんの最期はまだ教えられていない。

きっとアタシと同じで思い出せないんだ。

 

「でも運命は変えられる。この世界に来てそう思えたの」

 

「まぁ時間が経てば変わりますもんね」

 

「いいえ、人との出会いよ」

 

「出会いって…辛いんじゃ無いんですか?」

 

「辛いわ。だけど人の出会いで狂うなら人の出会いで変えられる」

 

「…」

 

驚きしか無かった。

前に千景さんから直接聞いたけど、聞きたくもないぐらいの酷い仕打ちを受けていた。

なのにちゃんと前を向いている。

それに比べアタシは勝手に決めつけて下しか見てない。

 

「三ノ輪さんは長女だったのよね?」

 

「はい」

 

「きっと歳上として気を張ってたのね」

 

ゆっくりとアタシの体が包まれる。

とても温かく心地いい。

だんだん心が緩み本音が漏れる。

 

「アタシ…甘えてみたいんです…」

 

「私でいいなら構わないけど」

 

「受け止めてください…お願いします…」

 

「分かったわ」

 

耳が千景さんの胸に当たる。

少し膨らみのある胸よりもドクンドクンと鳴る心臓に気がいった。

まるで生きた証を刻み込んでいるかのように聞こえた。

 

「めっちゃ落ち着きます…」

 

「高木さん程じゃないけど」

 

「美穂はそばにいるだけでいいって感じがするんで」

 

「それは分かるわ。契約の残りかしら」

 

「だとしたらズルいですね」

 

自然とタイミングが合い、笑いあった。

心がいっそう晴れ気持ちよく感じた。

 

「千景さん、本当にありがとうございました 」

 

「お節介じゃなかったかしら?」

 

「とんでもない!まるで姉みたいに思えたんで!」

 

「姉…ね…」

 

「ダメでした?」

 

「そんな事ないわ。ただ言われたのは初めてだったから」

 

「ならアタシだけのお姉ちゃんになってください!」

 

え…?

待って何言ってんの?

千景さんがアタシのお姉ちゃん?

思考と言葉が合わない。

千景さんを姉のように慕っていたのは事実だけどなって欲しい何て思ってなかった。

緩みすぎて本音が漏れた?

ヤバいヤバい…早く謝らないと…

 

「え、えーっと…今のはその…じょ…」

 

「いいわよ」

 

「うえええええ!?」

 

思わずひっくり返りそうになった。

まさか許してくれると思わないって…!

 

「そんな驚く事?」

 

「いや…ひかれるつもりだったんで…」

 

「そんな事しないわよ。私だって言われて嬉しかったから」

 

その言葉を貰えて良かった。

緊張が一気に緩む。

 

「それじゃ…お姉ちゃん」

 

「どうしたの、銀」

 

「はわッ!!」

 

顔が熱いし手が忙しなく動いてる。

こんなの恥ずかしいって!

 

「あっ…あああ…」

 

「本当に大丈夫?」

 

「だ、だだだ大丈夫!」

 

その後何を会話したか覚えてない…

気づけば千景さんは居なかった。

枕にボフンと顔を押し付け…

 

「ああああああああ!!!!」

 

終始発狂してました…

でも、心は過去1番スッキリした。

妹も…悪くないかな。

うん。園子が美穂にベッタリな理由が分かった気がする。




前話と似たような展開ですまない。
たまには銀も病みさせようとした結果なんだ。
本当に申し訳ない。

そして90話越えてようやく登場した○○組。
(伏せる程でも無いけどそこは大目に見て)
あちらも何らかの形で回収したいけどしばらく先になりそうです。
…風呂敷広げすぎたか?(今更)
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