TS転生娘は最強キャラロールプレイがしたい 作:TS最強娘万歳!
子どもの頃から、俺は強く憧れているものがあった。
少年漫画に登場するような、主人公のピンチに颯爽と駆けつけ、主人公がかろうじて届かなかった敵を軽く片手で捩じ伏せながら、主人公たちを教え導く最強キャラだ。
俺はそんな憧れのままに努力をした。
最初はスポーツで、世界最強を……ただ、なぜか主人公ポジションのような活躍となってしまったため、俺は途中で断念した。俺が目指しているのは、主人公ではなく最強キャラなのだ。
そして、当然の成り行きというか、俺は学問の道を進むことになる。
果てしない研鑽の上、あらゆる分野の学問をこの身に納めた。生徒のどんな疑問にもしたり顔で、当意即妙に答えるのが、この俺だった。
最強キャラは、先生をやっていることが多いのだ。
そうした努力の結果もあって、俺は世界で最も権威ある賞を受賞することになった。
最強キャラは、その名声も最強でないといけないのだ。これで最強キャラに、俺は一歩近づいたと喜んでいた。
そんな人生の絶頂だったからだろう。
俺は、不注意で、トラックに跳ねられて死んでしまった。浮かれすぎていたのだ。信号は赤だったと思う。
俺の知る最強キャラは、トラックなんかも弾き返すが、現実ではそうもいかない。
あっけなく、俺は死んでしまう。トラックに跳ねられて死んだら、もう最強ではない。俺は最強キャラになり損ねてしまったのだ。
***
「ヒャッハー! 魔物は絶滅だぜ!!」
あれから十年の年月が経った。
気がつけば俺は転生していた。魔力なんてものがある異世界へとだ。
中世中世した感じのやつで、こうして、世界には魔物とか言われる強力な生命体が跋扈跳梁している。
俺の生まれたところは、いい感じの貴族の家で、真夜中に俺は、こうしてこっそりと魔物退治に明け暮れていた。全ては将来、騎士団に入団して最強キャラになり、異世界でのやりたいことリストを全て埋めるためだった。
「さぁて、次はどいつだ?」
結構、森の奥まで来ていた。
みんなが普通ならばこないくらいのところだ。魔物がたくさんいる。今の俺の脚力を持ってすれば、朝までに帰れるところだから問題ないだろう。
「見つけた……っ! 魔物ぉお!!」
「待て……旅人よ」
「……んんん?」
すごくでかいやつだった。
たぶんトカゲの仲間だろう。ドラゴン、と言いたいところだが、少し物足りない姿だった。
「我はこの森を治むるもの。汝、森を荒らし、我の眠りを妨げるとは……」
「喋る魔物だ!」
異世界って、いいよね。知能が高い動物、たとえばクジラとかだけど、転生前の世界だったら、可哀想だから殺すなとか、すぐそういうことになる。
けれど、ここは異世界。喋る相手を殺したって、問題はない。まだ、奴隷とかそういう制度あるみたいだしね。人間を人間じゃないとして扱う世の中、魔物なんて言わずもがなだろう。
「だが、我は広い心を持つ。女、見目麗しい女よ、我の妾になれ、そうすれば許してやる」
「……?? トカゲでしょ? 人間に興味あるとか、トカゲ界の変態か? しかも、ロリコン!?」
そういえば、俺は女になった。
転生した先が、男か女かは二分の一。まあ、そういうこともあるだろう。
しかし、困ったこともある。俺が目指すのは最強キャラだ。
こう、戦ったり、上を目指したりする物語は、主人公が男であることが多い。最強キャラで女だと、そこにヒロイン属性という不純物が混じってしまいかねないのだ。
「貴様……っ! 無礼だぞ! 我はこの魔境の東の大地を統べる、魔竜……! この力はかつての神も恐れ、我が領域には決して近づきはしなかった! 人の世では、この世界に生ける伝説の五つの厄災の一つとも……」
「能書きが、長い!」
魔物は魔物だ。
殺すのだ。魔物というのは、その肢体から魔力によく馴染んだ素材が取れる。それは俺が最強キャラとなるための礎になるのだ。
これから死ぬ相手に、問答など無用だったか。
手に持つ剣で斬りかかる。足に魔力を込めて、最大に加速する。
「ふん! きかぬわ!」
「な……っ、硬っ……!!」
首を両断しようと、魔力を込めて切り掛かったが、剣が砕けた。
鱗だ。このトカゲの鱗が、やけに硬い。
「ふ、は、は……っ! なかなかの速さ、見事だ。だがその剣は、銅か? 鋼か? ミスリルか? なんにせよ、我、魔竜ヘルヒムの、この『最硬』の鱗は貫けぬ!」
「…………」
込めた魔力は、物質の結びつきを強くする。たとえば、木の棒だろうと魔力を持った剣士なら、武器にできる。
そして、俺が魔力を込めた武器……並の相手ならば刃こぼれ一つもしないはずのそれが砕かれるというのは、初めての経験だった。
鱗が特殊な物質なのか、鱗に込められている魔力が膨大なのかは、今の一瞬の接触だけではわからなかった。
「まぁ、妾と言っても、潮が来るまで待つのは当然だ。食うに困らせは決してしない。おとなしく、私のもとにくるがいい。欲しいというなら、この世の富も奪ってくるさ。その魔力操作、産まれる子はなかなかに育ちそうだ」
武器を失った俺を見て、誇らしげにトカゲはそう言う。
まるで、すでに自分が勝ったと言いたげだった。
「なにか、勘違いをしているのではないか?」
「なにがだ」
私の知る最強キャラは、こんなことで負けたりはしない。
手に魔力を集める。
それは、物質ではなく現象だ。一本の剣の形へと整えていく。
「ここから西の湖にいる、電気ナマズの魔物のことは知っているか?」
「……?」
「あの魔物は、魔力を電気に変えて攻撃をするのだが、それを見て、そこで私は天啓を受けた。魔力を電気に変えられるのならば、電気も魔力に変えられるのではないかと」
「そんな芸当、できたとしても人間の魔力操作では……」
「いいや、できたよ。コツを掴めば簡単だった。そして、私はこの技を雷切と名付けた」
ただ、まぁ、分解して汲み取った魔力は、その工程で消費した魔力を下回るからこそ、魔力の回復はできないのだが、それは仕方がないだろう。
「そうか、それはよかった。だから、なんだ? 雷を魔力に変えられたからと言って、なんだという。我は、雷など使わないぞ?」
「あぁ、察しが悪いな……この世界の物質は、こう電気の力、プラスとかマイナスのアレだな……そういうのでできているわけだ。まぁ、つまり――」
――雷切。
「お前は、一本のイナズマということさ」
鱗は、あっけなく断ち切られる。
トカゲの輪切りの出来上がりだ。
硬さなど関係はない。物質である以上は、この攻撃に分解される防御不可の一撃だった。
まさか、自らの『最硬』と信ずる鱗が断ち切られるとは思わなかったのだろう。
「がは……っ」
「自らの守りの硬さに驕り、回避行動をとらなかったことが敗因だ。その傲慢を、あの世で悔いるがいい」
派手に切ったおかげで、血がバジャーッと噴き出る。
全身が血でビシャビシャだ。帰ったら、着替えないと。
それにしても、いいよね、雷切。
主人公の先生ポジションのキャラが使ってそうな技名だ。最強キャラとは、またちょっと違うかもしれないけど、俺が目指しているのは、ああいう実力のあるキャラだ。
「ぐふ……はは! 見事だ女よ。私の再生能力では、もう生き永らえそうにない!」
「その姿で、まだ喋れるのか……!」
落ちているトカゲの首が、そんなふうに声を発する姿に驚く。
肺とか、声帯とか、どうなってるのだろう。
「ゆえにだ。あぁ、お前は私の血を浴びすぎた」
「な……うぐ……」
「くく……っ」
苦しい。
じめっとしたなにか……おそらく魔力だろうが、それが俺に浸透してくる。体の中心を目指して集まってくる。
返り血……そこに宿った魔力が悪戯を働いているのだ。
「くっ……。その能書きも、虚仮ではないということか……!?」
「今、お前を犯した。潮が来れば、我が仔を孕むこととなる」
死の間際というのに、ずいぶんと饒舌に、そして愉快そうにトカゲは語る。
全身の痛さに、思わず喘ぐ。
「あぐ……うぅ……。ち……この魔力か……」
「さらばだ、我が妻よ……」
そして、ロリコンクソトカゲは、完全に沈黙した。
「き、気持ち悪い……」
あれだ、今俺は、見知らぬ男に犯されてぶっかけられた女の気分だった。
一刻も早く、体を洗いたかった。
水場へと急ぐ。
ここへ来るまでに見つけた湖だった。
パシャパシャと水浴びをする。
血は、流れ落ちるが、体の奥に染み付いた気持ち悪さは流れ落ちることはなかった。
「う……うぐ……」
自然と、涙が流れる。
どうしてこんなに悲しいのかはわからなかったが、悲しかった。
ふと、目に入る。
湖に映る自分の顔だ。
まず、目が、違った。瞳孔が縦に割れて、爬虫類のような眼へと変わっている。
次に髪……真っ白い、あのトカゲのような白い髪に変色している。
見れば体のあちこちから、鱗が生えている。
なんとなく、あのトカゲに近づいて、体が変貌したのだとわかった。
それにしてもだ……これはドラゴニュートというやつ。
「か、カッコいい!?」
あのトカゲ、いい仕事するじゃん。
女の子を酷い目に遭わせる魔物がたくさんいる世界観です。
魔竜さんは設定上超強い竜なので、一泡吹かせてくれましたが、ここから成長した主人公が誰かにやられることはありません。