TS転生娘は最強キャラロールプレイがしたい 作:TS最強娘万歳!
「……っ! 吸うな!!」
「あ、はい」
気がついたように発された先輩の声に、俺は服の裾を口元にあてた。
もちろん、俺は肺で息をしているわけではないのだから、ただのポーズだ。
青の惨劇。カビが蔓延る領域に、そのカビの胞子が舞っているだろう。
その胞子を解析してみるが、なるほど、脳に干渉するパターンに近い魔力の回路が組み込まれている。
これを吸いすぎてしまったら、きっと眷属のお仲間となってしまうだろう。恐ろしいことだ。
それにしても、なんというか、一つ一つの胞子では不完全な回路というか、そういう印象を受ける。興味深い。いくつか採取して特性を調べることにしよう。
「やられちまったみたいだな。一度戻って報告か……」
「いえ、こうなってから、まだあまり時間が経っていないようです。これを引き起こした犯人が近くにいるはずです」
魔力の減衰の割合から、この惨劇の起こされた時間が測定できる。ものの数分前のことのようだ。
「だからって、なにかできるわけじゃ」
「メティ、ここは任せました」
「うん!」
適当に術式で、風の鎧を纏って進んでいく。
こうすれば、胞子に侵蝕されることもない。念のためだ。
「おい、ちょっと待て!」
先輩の制止を無視する。
この先には、きっとこんなことができる強敵が待っているはずだ。その相手に圧倒的に勝てば、俺は見事に最強キャラムーブができる。
一面をカビが覆い、胞子の漂う空間を走っていく。やっぱり、なにかいそうなのは中心部だ。
走って行けば、予想通りか魔力で強化した視力が人影を捉える。
白いローブに、フードを被った、いかにもな感じの人物だった。
「兵の補充は充分か……騎士団といえども罠にかかればあっけない。楽な仕事だ」
カビに覆われていてうまく判別がつかないが、鎧のようなものをきた騎士っぽいシルエットの塊の、おそらくは頭部分にそいつは手を当てていた。
手を当てられたカビカビの騎士っぽいやつは、なにやらもぞもぞと動くと、自力で歩いてどこかへいく。
まぁ、眷属にされてしまったということか。
観察ももういいだろう。それじゃあ、仕掛けるとしよう。
「私たちの仲間を、よくもやってくれたな……」
「な……っ。何者だ……! どこに!」
「後ろだよ」
ローブのやつが振り向くと、間近に俺の顔がある。
かっこよく登場できたと思う。
まずは様子見に蹴り飛ばす。
「ぐ……」
「防がれたか」
腕を間に挟んで、ガードされていた。
まぁ、いいだろう。剣を抜く。
「お前は……騎士団……。なぜ、無事で……!」
「さぁ、なぜだろうな」
剣を振る。
魔力によって強化された俺の凄まじい身体能力。圧倒的な速度だ。ついてこれるかな。
「ちっ」
ローブの眷属は、軽々と俺の剣撃を、刃渡りの小さいナイフのようなもので受けていた。
何回か、打ち合いが続く。
おかしい。明らかに俺の方が速いし、リーチも上だ。なのに、一向に有効な攻撃とならないのだ。
「……?」
「くそ、魔力に飽かせた素人が……!!」
だが、決定打がないのは相手も同じようだった。
悪態をついたが、その声に余裕は感じられない。これなら、あの副団長の方がまだ強かった。
「素人……? 言うに事欠いて、私のことを素人と……」
ただ、その発言は認められない。
なぜなら、俺は最強キャラだからだ。もうとてつもなく怒った。
俺たちを球状に覆うように、魔力回路を展開する。
「なんだ……これは? 魔力……?」
剣を振るう。
今までのように、俺の攻撃を防ごうとしたのだろう。
「ふふ、動きがまるで素人だな」
「は……?」
ローブの眷属は、俺の剣撃へと右腕を差し出す格好になる。
遠慮なく剣を振り切り、敵の右腕を切断する。
「この回路での攻撃は……贖罪……そういう技名にしよう」
また俺は剣を振るう。
「な、なにを……っ!」
今度は、身を翻して俺の攻撃を躱そうとするが、左腕だけが取り残される。
それを俺は、心置きなく切り離した。
「えっと、言い忘れていましたが、この回路の中では脳の電気信号……あぁ、人間って電気で動くんですよ? 知ってましたか? まぁ、それが狂って、私の攻撃を受けるように体が動くんです」
「ひ……うぐ……」
不利を悟ったのか、敵は踵を返して逃げ出そうとする。
もう戦う気力もないみたいだ。
「足もとがお留守ですよ?」
右、左と、俺が適当に剣を振るうと、敵の足が宙に舞った。
「ぐきゃ」
汚い声をあげて、走る勢いのまま相手は前のめりに倒れる。
俺に背を向けていたから、俺から離れた方に頭がある。手足がないくせに、もぞもぞと芋虫のように動いて、俺から逃げようとしているのだ。
「ねぇ、謝ってくれませんか?」
「ぐは……っ」
背中の中心を踏みつける。
これで動けないだろう。
フードを剥いで、上から顔を覗き込む。
「女の子でしたか。うーん、男の子だったら、大事なところを切り落としたりできたのですがどうしましょうか? まぁ、それは後で考えて、今はそうです……謝ってください」
「ひ……っ」
見るからに怯えていた。
声も出せないという様子だ。困った。これでは謝ってもらえない。
「そうですね。恐怖を中和しましょう」
魔力回路を作って、この女の頭を落ち着かせる。このくらいは簡単だった。
「な、なんなんだ! お前はいったい……! 本当に騎士団の一員なのか?」
「ねぇ、いいから謝ってください。私はそのために魔法を使ったんです。あぁ、そうです。早く謝らないと、股の間に剣ぶち込んで捻りますよ? 謝ってください」
饒舌に俺に対して質問をしたが、そのために魔法を使ったんじゃない。自分の魔力を無駄に使われているようで苛立つ。
「ひ……すまない。すまなかった」
ちなみに、身長が伸びない分だけ俺のブーツのヒールは高い。
「……? なにに対して謝ってるんですか? ねぇ? ねぇ?」
「がはっ!?」
足で背中をぐりぐりとした。
適当に謝って、その場をやり過ごそうっていう考えは嫌いだ。きっと反省していないに違いない。そんなんじゃ俺はスッキリできない。
「さぁ、なににですか?」
「ごめんなさい。騎士団の男と淫行して、感染させました……。騎士団の男たちの魔力を媒介に、カビをたくさん増やしました。騎士団……たくさん殺してすみません……。人間、たくさん殺してすみません。ごめんなさい……ごめんなさい」
なんというか、カビには、男女のそういう行為を通じて感染するやつがあったから、そういうこともあるのだろう。
というか、こんなにみるからに怪しい女に誘惑されて乗るだろうか。危機管理がなってなさすぎるが、まぁ、いい。
「……? 別にそのことは怒ってません。むしろ感謝しているくらいです。ありがとうございます」
「え……」
なにせ、俺が最強キャラムーブができる機会ができたのだ。いい仕事をしてくれたと思う。
ただ、それとこれとは話が別だ。
「私、嫌いなんですよ。真っ白いシーツに、一点のシミができるようなことが。あなたのしたことは、それと同じなんです。せっかく私が気持ちよく人生の目標を叶えようとしているところに、あなたは一つケチをつけた。もう、本当に、人生はやり直しができないのに、だから今回は全部それで無駄になった。責任をとれとは言いませんから、さぁ、早く謝ってください」
「ひ……狂ってる」
足の方を持ち上げる。剣の腹を彼女の太ももの内側に滑らせながら、剣先を添える。
「もういいです。三つ数えますよ? その間にちゃんと謝ってください。そうしないとヤっちゃいますから」
「やめて……! ごめなさい! それだけは……」
「さん、にい、いち」
「……あぐ……うあぁあ……、グキャ……っ。あが……が」
嗚咽を漏らして泣いている。
剣を引き抜く。
俺の剣だが、血はついていない。
なんだか、カビっぽくなってしまっている。
みれば、俺が攻撃した切断部分には、血が流れるのではなく、増殖するようにカビが生えていた。
今は沈黙している。どうやら、死んでいるようだ。
すると死体を、カビが目に見えてわかる速度で覆っていく。周りと同化してしまう。
「期待外れだった。帰ろう……」
全くの興醒めだ。
これならメティと一緒に魔物を倒しに行った方がまだ楽しかった。
あの子はやたらに俺を持ち上げてくるから、俺が最強キャラムーブをしたいとよくわかってくれているとても良い子なのだ。一緒にいて気分がいい。
全く、剣を交えて俺のことを素人と断ずるとか、まるでわかってない。
「ふーん。あなたが、魔竜の花嫁なのね?」
「なんだ、お前?」
建物の屋根に腰をかけて、こちらを見下ろしている感じだ。
俺よりも高いところにいるというのが気に食わない。
「あぁ、私は石鳥の眷属の……ほら、ここ、ぎりぎり彼のテリトリーでしょ? こんなふうに荒らされたらたまらないからね」
「知りませんけど、今日はもう帰るんです。ちょっかいをかけてくれるなら後日にしてください」
あのカビ女のせいで、もうやる気がなくなってしまった。
苛立ちはまだ残っている。
「ええ、あなたと戦うのは、正直遠慮したいわ。勝てないもの」
「そうですね」
「それにしても、対等な妻婦の契りなのね。私なんか、妾婦の契りよ? いいなぁ。すごくいいなぁ」
高いところから降りて、彼女はグッとこちらに顔を近づけてきた。
近い。
「なんなんですか?」
「ふふ、まぁ、あなた可愛いものね。はぁ、私なんか大変よ? もう一人と、ずっとマウント取り合ってる。今日だって、異変を解決したっていう点数稼ぎよ? ねぇ、これは私の手柄ってことで話を合わせてくれないかしら?」
「別に構いませんよ?」
もうやる気がなくなったから、どうでもよかった。
「やったー! 本当にいいの!? ありがとう!」
「ぎゃん」
抱きつかれた。
ぎゅっとされてナデナデとされる。
「かわいい……! とってもかわいいわ!」
「やめてください。私はカッコいいんです……!」
とっさに、ドラゴニュートの姿になる。
目とか、鱗とか、そういうのを見せつける。
「へぇ、本当の姿はそんなふうなんだ」
「ふふ、カッコいいでしょ?」
「えぇ、そうね!」
「ふふん」
この人とは友達になれそうだ。
この姿のカッコよさを理解してくれる人を、俺は無碍には扱えない。
「それで、あなた達の管轄は東のはずでしょう? わざわざ西の領域に……いいえ、南から来たたわよね? あっちの知り合いは、あなたたちが怖くて逃げ回っていたそうだけど……持ち場から離れるのは、あんまりよくないわよ?」
言い含めるような言葉だった。
その理由が俺にはよくわからない。
「なぜって、私は騎士団に所属していますから、命令で」
「騎士団? えっと……王様には会ってない? どうして騎士団になんか……握り潰されてる……?」
納得できないように、一人でぶつぶつと何かを言っている。
俺は首を傾げた。
「王様って……あなたは魔物の眷属で……」
「えっと、私とは事情が違うみたいだから、いいや。気になるんだったら、たぶん直接王様に聞きに行った方がいいと思うよ?」
「王様……ですか……」
一応、王国だから王族はいるはずだ。会ったことはないけど。
最強キャラとしては、王族から覚えめでたい感じというのもありかもしれない。
「それじゃあね! たぶん、このカビの魔物の事件、まだ終わってないから……気をつけてね! それと、また、会いましょう? 今度は私の主人も紹介するわ! あ、これ、持っていかなきゃ」
そう言って、俺の殺したカビた死体を持つと、彼女は足早に去ってしまった。
その気になれば、追うこともできたかもしれないが、俺はもう帰りたかった。
彼女の進んだ跡には、奇妙なことにまるでそこには最初からなかったかのようにカビが消えているようだ。
なんらかの魔法に近い現象だとあたりをつけ、解析をしようとするがうまくいかない。
「やっぱり、帰りましょう」
そうして俺は、置いてきた二人のもとへと帰った。
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