TS転生娘は最強キャラロールプレイがしたい   作:TS最強娘万歳!

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これこそが、私の最強

 

「戻りました」

 

 置いてきた二人のいる場所だ。

 俺は少し不貞腐れたまま歩いてきた。

 

「無事……なのか……?」

 

「ええ、まぁ」

 

 先輩が俺に声をかけてくる。

 少し困ったような、顔だった。

 

「もし、お前が、魔物の眷属になっているようなら、俺はお前を斬らなきゃならない」

 

「そうですか」

 

 ちゃんと、今は魔力をコントロールして人間の姿だ。

 なにも問題ない。なのに、先輩は俺に剣を向けている。

 

「あの空間に侵入して、眷属になっていないというのが俺には信じられない」

 

 見れば、先輩の後ろから先輩に向けて、メティがこっそりと魔眼をいつでも発動できるように向けていた。

 

「そうですか」

 

「応援がくる。それまで、おとなしく待っておけ……装置があれば調べられる」

 

「……あっ、はい」

 

 ロリコンクソトカゲの反応が出るのではと思ったが、そういえば魔力をコントロールすればどうにかなるのだった。おとなしくしておけば問題ないだろう。

 

 メティに視線で合図を送れば、彼女は魔眼を収めてくれる。

 

「お前は、そのままおとなしくしてろよ?」

 

「はい」

 

 地面に体育座りで座り込む。

 どのくらい待てばいいのだろうか。これではとても暇になってしまう。

 

「カードゲームする?」

 

「あ、いいですねぇ……」

 

 メティが、バスケットから取り出したのは、トランプのようなカードだ。

 異世界だからトランプとは少し違うが、トランプだと思っていい。俺は心の中でトランプと呼んでいた。

 

「いや、お前たち……本当に遠足じゃないんだぞ?」

 

「先輩もどうですか?」

 

「いや、さすがに隙つくるわけにはいかないだろ」

 

「そうですか」

 

「あぁ、見張ってるからな」

 

 仕事をサボってばかりの先輩のことだから乗ってくると思ったのだが、そうではないみたいだ。

 

 メティが、シュシュシュッとカードをシャッフルしている。

 メティは俺にカードを混ぜさせてはくれない。俺がシャッフルをすると、自分が勝てなくなることを訝しがっているからだ。不思議だなぁ。

 

「なにする?」

 

「大富豪で」

 

「わかった」

 

 手早く彼女は、三つにカードを分けて配った。

 メティと俺とで一つずつ選び、残りの三分の一を封印した。単純に二つに分けた場合だと、相手の手札が自分の手札からわかって面白くないからこうする。

 

「お先にどうぞ?」

 

「じゃあ、これで」

 

 メティは最弱の札を出す。

 

「ふ、エイトスラぁああッシュ!!」

 

「え……?」

 

 問答無用で流れを叩き切った。

 これで俺のターンだ。

 

「くらえ、階段ワールド! ストレートフラッシュ!」

 

「そんな……か、返せない……私の計画が……」

 

 いつも二人で遊ぶ時はこんな感じだ。

 少し大袈裟なくらいが楽しいだろう。そんな感じで俺たちはカードで遊ぶ。

 

「そういえば、先輩。カビの領域の内部について報告です」

 

 フォーペアのカードを出し、この世界に革命を起こしながら俺は言った。

 

「ん……あぁ。今か……」

 

「眷属らしき人物を仕留めました」

 

「なに!?」

 

「あ……正確には、石鳥の眷属を名乗る不審な女性が横槍をしてきて、倒した死体を持っていきましたが、この惨劇を巻き起こした眷属の女は死にました」

 

 手柄は、彼女のものにするという約束だった。嘘をつかない程度に適当にはぐらかす。

 

 手元のカードを見る。

 しまった。序盤に飛ばしすぎた。ガス欠だ。

 

「石鳥の眷属……!? 本当なのか……!? いや、ことがことか……そんな奴らが出張ってきてもおかしくはないのか……」

 

「ていや! ツーペア! スリーペア!」

 

 メティが、ギアを上げてきたようだ。

 くっ、悔しいが今の貧弱な手札では応戦できない。

 

「手口は、性的接触から騎士団の人間にカビを感染……あるいは寄生させ、宿主の魔力を利用。体内のカビが爆発的に数を増やして……。そんな感じだとその眷属の女性は言ってました」

 

「娼婦のふりをしてってことか……? それはまずいな……騎士団の中でどれだけ広がってるかわからない。一斉に検査をするしかないか……?」

 

「検査しても、気休めでしょう。いや、しないよりはマシかもしれませんけど……こういうのは、えてして陰性の期間があるものです。感染したカビ自体に制御が利くというのなら、私だったら一気にドカンとしますね」

 

「だが、眷属の女は死んだのだろう? だったら……」

 

 たしかに、状況をコントロールできる人物が死んだのならば、問題は解決だろう。

 

「ただ、眷属があの女一人であるということ自体が、怪しいです。パンデミック的に、このカビが広がっていてもおかしくはない。というか、そう思うのが自然です」

 

「本当にそんなことが……」

 

「魔力の波長が広範囲に観測されたという理由も、これで説明できるでしょう」

 

 災害級の魔物が突然に発生した。そんな話を説明できるもっともな理屈がこれだ。

 最初の惨劇が起きた時点で、もう手遅れだったのかもしれない。

 

「だったら、どうすれば……」

 

「幸い、このカビは魔力で成長する……魔力の使えないような人間には、おそらく感染できないでしょう。騎士団は魔力の使える人間ばかりですから、壊滅するでしょうけど、人が根絶やしになるまではいかないと思うので安心してください」

 

 性質は、帰りがけに少し実験をしてみたから、ある程度推測が立てられる。

 目に見えるくらいまで成長したカビには喰らい尽くされてしまうだろうが、人から人への感染は保持する魔力の量が高くなければ起こらないだろう。

 

「貴族も王族も、魔力を多く持ってるだろ……。国が滅ぶじゃねぇか……」

 

「そのときはそのときです。たぶん、もう手遅れだと思うので、諦めて終末に備えたらどうですか? くらえ、道化師アタック!」

 

「うそ……持ってたの……!?」

 

「私の勝ちですね」

 

 手札を全て場に出して、私は勝利を宣言した。

 ガス欠になったときは、どうしようかと思ったが、意外となんとかなるものだ。

 

「どうしてそんなに落ち着いてられるんだよ……」

 

「あなたに、この状況をどうにかできますか? 相手の頭次第ですが、もう詰んでるんですよ」

 

「……!?」

 

 まぁ、俺自身はどうにでもできる。

 世紀末を無双する最強キャラ。うん、ありだ。

 

「メティ、まだ時間はあるみたいです。もう一戦しましょうか」

 

「うん」

 

 そうして、メティはまたシャッフルを始めた。

 

 すると、先輩は座り込む。

 

「俺も混ぜてもらっていいか?」

 

「ええ、構いません」

 

 

 

 ***

 

 

 

「状況はそんなにまずいのかい?」

 

「はい、おそらくは手遅れです」

 

 眷属の検査を俺は魔力コントロールで誤魔化し、副団長へと報告していた。

 俺の見解を正直に伝えている。

 

「君ならば、何かできるのではないのかい?」

 

「どうでしょうか。やってみないことにはわかりません」

 

「できない、とは言わないんだね」

 

 呆れたように副団長は言った。

 

「それでも、国全体を覆う魔力回路が最低限必要です。許可はいただけますか?」

 

「あぁ、ことは一刻を争う。騎士団の地方支部の者たちにも連絡を徹底させて、準備させるとしよう。間に合うかはわからないがね」

 

「そうですね」

 

 混乱を防ぐためにも、連絡をしておいた方がいいか。

 パニックになるといけないし。

 

 それにしても、俺の腕の見せ所ということか。

 国を救った英雄。最強キャラとしての肩書きとして、ピッタリだ。そう思うとやる気が出てきたぞ。

 

「そういえば、惨劇の起こった場所に調査に行ったのだが、騎士団の死体は見つからなかった」

 

「そういえば、眷属になって動いてましたよ? どこかに隠れてるんじゃないですか? 不意打ちをされないよう、注意を促した方がいいですね」

 

「あぁ、そうしよう」

 

 ゾンビみたいになってるのだろう。腐った眷属たちを倒しまくって無双するのは楽しそうだなと俺は思った。

 

「伝令です! サージェスが、青の惨劇に……!」

 

「カルロ部隊、やられました……っ」

 

「そうか……」

 

 騎士団の下っ端たちが駆け込んでくる。

 それらを聞いて、副団長は眉を顰める。状況はすごく悪いようだった。

 

「そういえば、団長っているんでしょう? あなたの上司だと思うのですけど、どこでなにをしてるんですか?」

 

「ああ、彼なら保身に入っているのさ。この件による責任を私に取らせたいみたいだ。そのおかげで、俺は今は事実上のトップだね。その点には感謝しているよ」

 

「この後に及んでですか……まぁ、いいですけど」

 

 国が滅びた後に、その地位にどれほどの価値があるかはわからないが、そういう人間もいるだろう。

 俺にはどうでもいいことだ。

 

「それにしても、やられたな……」

 

 副団長は、地図にバツ印を二つ書いていた。

 最初に青の惨劇の起こったライラッシュに、あとは俺たちの合流地点にも印が書かれている。だから、たぶん大きな攻撃を受けた場所を記録しているのだろう。

 それら以外にも、いくつかの印があったから、状況はまずいと言える。

 

 隣には、カビの魔物の魔力波長の強さの数値のマッピングだろうか。

 測定された地点の数字が書かれている感じだ。

 

「……ん? んんん?」

 

「どうしたんだい?」

 

「ちょっといいですか?」

 

 机に俺は魔力回路を描く。そうすると机は発光した。

 副団長から二枚の地図をもらって、その発光する机の上に重ねて置いた。二枚の地図が透けて、重なる。

 

 観測した魔力波長の数値が高い部分をペンでなぞる。

 惨劇が起こった部分を交点に、一つの図形ができあがる。

 

「これは……っ!?」

 

「魔力回路……いえ、国土魔法陣といった方が正しいですか」

 

 魔法陣は、実用に堪えないとはいえこの大きさだ。膨大な魔力も用意してあるように思える。マッチをたくさん擦って部屋を暖めるくらい非効率だが、まぁ、ここまですれば効果があるだろう。

 

「こんなものを……っ! なにが目的なんだ……」

 

「さぁ。ただ、良くないことが起こるのは確かでしょう。相手は本気でこの国を滅ぼしにきているのかもしれません」

 

 パンデミックだけでなく、国土いっぱいの魔法陣だ。

 かなりの殺意が伺える。恐ろしいことだ。

 

「ただ、相手の狙いがわかったのは収穫かもしれない。まだ、惨劇が起きていない場所はないのか……! 事前に防げれば……」

 

「副団長! クレイストが……!」

 

「カーディの街が……」

 

 伝令の団員たちが駆け込んでくる。

 伝えられた場所に、ペンでバツ印を書く。

 

「あ……全部、埋まっちゃいましたね」

 

「遅かったのか……!?」

 

 副団長は項垂れる。

 こちらの動きは後手後手だ。このままではこの国は滅びるだろう。

 

「この規模の回路なら、術者は中心にいると思います。向かってみたらどうですか?」

 

「……それは本当なのだろうな?」

 

 詰め寄ってくる。

 相当に焦っているようだ。黙って俺は頷いた。

 

「早くしないと、この正体不明の陣が発動しますよ?」

 

「あぁ、急いで部隊を編成しよう。魔力波長を検査して、行動記録を精査した後、信頼できる者を選抜する。私も同行して指揮を取るさ」

 

 そう言って、副団長は駆け出していく。

 さて、俺はどうしようかな。

 

 

 

 ***

 

 

 

 女だ。そこには女が一人いた。

 

 草木生い茂る森の中、地面に描かれた幾何学模様の上に静かに座っている。

 魔力を持つものが見れば、その女を起点として、その魔法陣が制御されていることがわかるだろう。

 

「あら、見つかっちゃったかしら?」

 

「我々は騎士団だ。貴様が、この事件の首謀者だな?」

 

 騎士団の中でも精鋭部隊だ。

 何度も魔物やその眷属との死闘をくぐり抜けた歴戦の猛者たちだった。

 

 それを束ねるのは、近衛騎士団副団長、クライン・クレスト。

 かつては騎士団一の猛者と言われた男だが、ある事件により、剣を振れぬ体になった非業の運命を持つ男だ。しかし、その事務能力や指揮能力の高さから、副団長の地位に就き、今はこの作戦の隊長を務めている。

 

「だったら、どうするのかしら?」

 

 不気味に笑って、女は言った。

 

「君を始末する」

 

「やれるものなら……!」

 

 女は、その右手を騎士団へと向けようとしたのだろう。

 

「……――!?」

 

 しかし、女の首が飛ぶのが早い。

 

 次に女の手足が胴体から切り離され、心臓、そして生殖器がひと突きされる。目玉ごと脳天がかち割られる。

 完全に相手が沈黙した後も、一つ一つ内臓に剣を入れる。もちろん返り血は魔力で弾いて決して受けない。

 

「見事だよ。騎士団の手引きに沿った倒し方だ」

 

「どうも」

 

「辺境暮らしでも、腕は鈍っていないようだね」

 

 魔物の眷属は、その生命力から、倒したと、そう簡単に油断できない。

 だからこそ、育成機関では、眷属のより安全な倒し方を徹底して、それが体に馴染むまで教えるのだが、この男もまたそれに則り敵を倒した。

 

「これで、解決すればいいんだがな」

 

 剣に残った血糊を拭い、布を捨てる。

 見れば、その血は徐々にカビへとその在り方を変えているようだった。

 

「今、我々にできることはこれだけさ。あとは治ることを祈るだけ……あるいはこの魔法陣が操作できれば……」

 

 副団長の男は魔法陣へと近づいた。

 もちろん、最大限に警戒は行う。迂闊に発動してしまわぬよう、魔力の流れには常に気を配る。

 

 だが結果として、それは失敗だったのだろう――、

 

「――な……!?」

 

 魔法陣が、突然に強く発光した。副団長の、彼は光に包まれる。

 

「クライン!!」

 

 男が彼の名前を叫ぶが、時は既に遅かった。

 

「くく……ククク……。そういうことか……」

 

 笑っていた。

 彼は笑っていた。片手で顔の半分を覆い、くつくつと笑っていた。

 

 その変貌ぶりに、騎士団の皆が困惑する。

 

 彼は、腰に下げた……ある件で体が自由に動かせなくなって以来、抜くことの決してなかったその剣に、手をかける。

 姿がぶれる。

 

「……っ!?」

 

 反応ができたのは、女を仕留めた男ただ一人だった。

 

「ぐあ……!?」

 

「ぐは……!!」

 

 ただの一瞬で、その一人以外の騎士団の男たちは、首もとから血を噴き出す。

 騎士団の精鋭部隊は、ただの一人除いてみな、地に臥した。

 

「やはり、防ぐか……」

 

「な……なにやってんだよ、お前! 操られたっていうのか……」

 

「いや、真実がわかったんだ。この国は滅ぶべきだった」

 

「……ふざけんじゃねぇ!」

 

 剣と剣がぶつかり合う。

 何度もぶつかり合った剣だ。互いに互いの手の内を知っている。二人のうちには、暗黙の了解のような駆け引きがある。

 

「どうやら、形勢逆転かしら……?」

 

 女が、立ち上がる。

 女はその体を再生……と言うよりは修復だろうか。粘性の高いスライムのような緑のなにかで、その手足と首、胴体を繋いで、ようやく動いている。

 見るからに化け物だった。

 

 その、粘性の高い液体を飛ばし、唯一生き残った男へと、攻撃を始める。

 

「ち……っ、そうやすやすと乗っ取られるようなタマじゃねぇだろ、テメェはよう……」

 

「さすがだよ。今ならば君は、騎士団一の剣の腕だ。私がいたのなら、それば別、なのだがね」

 

 彼の剣は柔の剣だ。

 捉えどころがまるでなく、攻撃全てがのらりくらりと受け流される。

 

 かつての騎士団ではそうだ。一対一……ならば負けることはない。ただ、二対二で戦ったとき、仲間の実力を問わずとも、その結果は逆になる。

 

 時間稼ぎ、あるいは敵の消耗を狙うならば、彼以上の剣士はかつていなかった。彼の鉄壁の剣を前に、いやらしい攻撃を繰り返す後衛へとは決して近づけない。

 

 後衛を倒すためだ。例えば、無理に踏み込んでみたとしよう。

 

「……!?」

 

「危なかったね、今、足を引かなければ、左腕が飛んでいたところだった」

 

 意識を少しでも逸らしてみようものならば、意識の外から剣が襲う。その目敏さは相変わらずだ。

 

「く……」

 

 カビの胞子が舞っている。

 ここの地点に来るにあたり、マスクはもちろん着けてきたが、それでも限界はあるだろう。

 深く息をする。息苦しさに頭がふらつく。

 

「隙ありだ」

 

「しまった……!?」

 

 攻めの剣の太刀筋が鈍っていた。

 彼を前に、ぬるい攻撃は許されない。勢いを前へと流され、体勢を崩した間を突かれ、鋭いカウンターが首もと襲う。

 

 無理に飛んで、それを避ける。

 ただそうなれば、後は詰みだ。一手一手、着実に詰めるように、彼は攻撃を繰り返す。その手際に、一分の隙もありはしない。

 冷徹に、無感情に相手を追い詰める彼の攻撃……ここからの逆転は一度もなかった。

 

「終わりだ」

 

「くそ……ちくしょう!!」

 

 結婚をして、幸せの絶頂だった。

 騎士団では、躍進の道を絶たれ、失意のうちに沈んだ後、ようやく掴んだ幸せだった。

 

 思えば、人生の重要な転機は……常にこの男によりもたらされていた。

 

「……っ」

 

「この……疫病神が!!」

 

 悪態もつきたくなる。

 最後の足掻きに、左手で土を掴んで投げつけるが、意味はなかった。

 変わらないその剣により、命は絶たれてしまうだろう。

 

 剣が迫って――、

 

「……っ!?」

 

 しかし、それは届かない。

 

「危なかったですね。先輩」

 

「お前は……!?」

 

 同じく、辺境へと左遷された後輩だった。十四の少女で、職務にまるで忠実ではない。そんな彼女に対しては、親戚の子どものように接していた。

 エリン・スカーレット。

 

「君か……」

 

「ええ、私と踊ってくださいませんか?」

 

「踊りは苦手だと……いつか言ったと思うのですが?」

 

 剣と剣がぶつかり合う。

 相変わらず、彼女の剣には技も何もない。魔力を込めて、力任せにただ振るうだけだ。

 

 知能のない魔物相手ならば、それでいいだろう。だが、今の相手はそうではない。騎士団最強の剣士と言ってもいい男が、失われた剣技を取り戻しているのが今の相手だ。

 相手にならない。そう思った。

 

「天蓋……」

 

 光が、地面に広がる。

 魔法陣のような幾何学模様などではない。濃い部分と薄い部分の混じり合った、グラデーションのある複雑なパターンの光だった。

 

「これは……魔力?」

 

 今までに見たことがない。

 その繊細な魔力に近いものは知っていた。魔物やその眷属が、体内で魔力を練り上げ超常の事象を起こす際のそれだった。

 

「ふふ、残念! ここは私の魔法陣の中よ! そんなに小さい新しい陣は干渉され、発動しない!」

 

 だが、何も起こらない。

 魔力が動いているとわかるが、それが変化をさせるものはなにもない。

 

「どうやら、その魔法とやらは使えないようだ。あぁ、この中心は君を倒すための場所だ。魔法さえ使われなければ、俺は君より強いのだから……」

 

「私を……倒す?」

 

 彼女は首を傾げていた。そんな彼女に、彼は語り出す。

 

「あぁ、この国に鉄槌を下し、罪を濯ぐ。まずは、魔竜の眷属である君だ。そして、あぁ、兵隊たちを使って、災害級の魔物を殺す」

 

「兵隊……? あぁ、あのカビまみれの眷属ですか。あれで倒せるんですね」

 

 惨劇によりカビにやられ、覆われた人間たちは、眷属にされ、どこかに消えたと聞いている。

 それを使って、災害級の魔物に挑むということか。

 

「全て……といきたいが、一体くらいが限界だろう。だが、きっと後に続く者が出てくる。その前に、まずはキミを殺すとしよう」

 

 なんの憂いもないような、爽やかな顔だった。

 やはり堅実に、どんなにその技術に差があろうとも、一手一手、この男は着実に追い詰めていく。

 

 彼女は顔を歪めた。

 それは、苦しげなものではない。

 追い詰められても、彼女はなお――、

 

「ふふ、私が魔力回路を使えないと、本気でそう思っているのか?」

 

 目の色が違う。髪の色も違う。口調もいつになく荒々しい。

 そして彼女はわらっていた。

 

「……!?」

 

「魔法っていうのは人間と同じさ」

 

 彼女は剣を前に突き出す。

 

「なに……?」

 

 相対する彼は警戒をするように、その身を引く。

 

「まず素粒子があって、原子、分子、細胞、組織、臓器、そこから人間が組み上がるわけだ」

 

 聞いたことのない用語がいくつかあった。わけのわからないことを、この女は言っていた。

 

「なにが言いたい?」

 

「まず、量子的なプランクスケール。そして、分子スケール。マイクロスケール。そうやって順々に階層を積み上げていくことで、ようやく巨視的な、俺たちの肉眼で見えるような回路となるわけだ」

 

 諭すような口調だった。

 光が、魔力が、空間全てを覆い尽くすように広がっていく。どんどんと広がっていく。

 心が奪われるような魔力の光だった。肉眼では分からずとも、心がその魔力の神秘を感じ取り、誰もがきっと感動する。

 

 神々しい光とは、これのことを差すのだろう。

 

「……!?」

 

「着眼点は悪くないが、お前たちのやっている魔法陣は、絵の具で塗り固めて人間が完成したと言い張るようなことさ。それが私の作った本物に干渉できるとでも、お前は本当に思っているのか?」

 

「く、狂ってる……っ!! そんなの……もう……っ、新たな命をつくるようなものじゃ……!!」

 

 信じられないというように、ヒステリックに眷属の女は叫んだ。

 

「生物……なかなかに目敏いな。たとえば、俺が今作った魔力回路は、指先のこれだけだ」

 

 剣を持たない左手の人差し指を立てて彼女はそう言った。

 だだ、彼女の魔力の光に、全てが包まれている。全ての魔力を彼女は描いた、そのはずだ。

 

「意味が……いや、生物? あ……まさか……!」

 

「これには、回路を作る回路も組み込まれている。無尽蔵に自己増殖して、もうすぐこの国を全て覆うさ。この連鎖する回路は、臨界回路と俺はそう呼んでいるが」

 

 やすやすと彼女は、まるでそれが当然であるかのように、魔力で国全てを包んだと言った。

 

「う、嘘よ……そんな魔力量……!?」

 

「魔力は量より効率だ。お前はその効率の百分の一も汲み出せないが、私はほぼ百に近いエネルギーを汲み出せる。それだけの話だ」

 

「ば、化け物……! 殺して……早くこいつを殺して! ねぇ!」

 

 狂ったように叫ぶと、その女の望み通りに、男が動く。剣を振るう。

 そう思った。

 

「……この……国を。……すく……」

 

「この回路の名前は抗菌としよう。これこそが、私の最強――魔の極地。あぁ、やっぱり……カビ菌は消毒するにかぎりますね」

 

 魔力が動いた。

 世界を、眩い光が包む。神々しくも、太陽のように暖かい光だった。

 

「うが……ぎゃあああぁあああぁ!!」

 

 耳をつん裂くような悲鳴が聞こえる。

 日陰に育つ者たちは、決して生きていけない光であることがわかる。

 

 緑色の、体を繋ぐスライム状の物体は消え、女はただの死体へと変わっていた。

 

「普通のカビ菌殺さないようにするのはなかなかに面倒でした。私、とっても偉いです……」

 

 そして、国を救った彼女は、大した疲労もないように、そう自身の所業を誇っていた。

 

「…………」

 

 ふと、思い立つ。

 なにかよくわからない力により、仲間に剣を向けることになった男が目に入った。倒れているが、息はあるようだった。

 

「あ、そうです。どうして裏切ったかはわかりませんが、今のうちに殺しておきましょう」

 

「いや、やめてやれよ!!」

 

 後輩を止める。

 この上司には、聞きたいことが山ほどある。例えば、この不真面目な後輩についてのことだ。







日間ランキングの下の方ですけど乗れました! お気に入りに評価も今まで以上に来て嬉しいです! ありがとうございます。
順位上がれーと念じながら見守ってました。
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