巨大な肉体が鋼でできたかのような怪鳥と、それが下げるカゴに乗り、俺は病院へ。
MSとも宇宙船ともちがうような感覚は思ったより新鮮だった。
しかしそれ以上に、コロニーでもみないような美しい景色と大地が俺の脳を焦がす。
忘れたはずのロマンが擽られた。
飛行船のようなそれは思ったよりも速く、目的地にもすぐに到着した。
連れられるや否や、CTやMRIのようなもので全身を撮影される。
医師から様々な質問をされたが、すべて正確に素直に答えた。
自分は何者で、どこから来たのか。
今まではどこにいたかをすべて。
信じられないものを見るかのような医師の顔に苦笑する。
俺も信じられない。本当に生きているかすらも怪しい。
拳を握ると筋肉が動く。
唇を噛むと痛みがする。
しかし、果たしてこれは本当に生きているサインなのだろうか。
胸に手を置くと心臓の鼓動が響いてくる。
今はそれすら疑わしい。
医師に言われた通り病室で待っているが、一向に来ない。
...ほんの少しの好奇心だった。
寝転がっていたベッドから身体を起こし、靴を履き、移動する。
やはり信じられない光景だ。
未知の生物と人間が共存している。
今まで見てきた、同じ種族ですら生まれた場所で差別しあうような存在と未知の生物の組み合わせ。
思わずため息がもれる。
少し移動していると、別の病室に入っていく医師とルリナが見えた。
追いかけようとすると、後ろから重い何かがのしかかってくる。
美しい鳴き声とひんやりとした肌。
「ミロカロスか」
ルリナと一緒にいたはずだが、いつの間に。
「お前も来るか?」
質問すると、顔を上下に動かす。
OKということだろう。
足を動かし、病室の前へ。
うっすらと話声が聞こえてくる。
『先ほども言った通り、脳に異常はありませんでした。他のバイタルもすべて正常。肉体は変どころか、一切異常が見られませんでしたよ。かといって精神病のような症状は見受けられない』
『じゃあ、彼は一体?』
『手は尽くしましたが、さっぱりですね。こんな人ははじめてだ』
『おっと、失礼。ん、おう、うん、信じられんが、そういうことだろうな。おう、うん、ありがとう』
『先生?』
『失礼、彼のDNAやらなんやらを調べさせてもらったが、この世界の誰一人とも合致しない。警察にも確認したが、入国者の履歴にも一切なし』
『...宇宙からきたと』
『その可能性もありえる。実際彼は宇宙で生活していたらしいからね。ただ私が思うに、これは老いぼれのただの推察だがね』
『はい』
『別の世界から来たのかもしれない。この宇宙には数多の平行世界が存在するという。その一つから彼は来たのかもしれないねえ』
『否定できないのが、歯がゆいですね』
『まあ、老いぼれの耄碌話と思ってください。こういったことに詳しい知り合いは?』
『何名か心当たりは』
『私も一応聞いてみましょう。とても興味深いものですから。フジという知り合いがいましてね。その方なら何かわかるやも』
それだけ聞き終えると、元にいた病室に戻る。
再度ベッドに横になり思考する。
しかし、情報が多すぎて頭の中がパンク寸前である。
今はゆっくりと身体を落ち着けるしかないようだ。
巨体がベッドに預けた俺の体に寄り添う。
「お前はどうして、俺と一緒にいる?」
自慢できないが、今まで数多くのMSをへし折ってきた。
その中には崇高な理想を持つものも、もう後がないものもいた。
俺はその悉くを沈め、その上に立ってきた。
数度を除いては。
もしかしたら、これは罰なのかもしれない。
他人の上を歩いてきた俺への重罰。
だとしたら受け入れよう。
たとえ名や家をなくしたところで罪も罰も消えることはない。
俺の十字架は一生俺の背に焼き印のように残っている。
ボブとしてでなく、かつてグエル・ジェタークであった存在として。
「どうして、俺に寄り添ってくれる?」
もう一度、質問を投げかける。
「放っておけないから」
落としそうになった視線をミロカロスに。
喋っては...いないようだな。
だとすれば
「いつから、そこに」
ドアを開けた状態のルリナさんが立っていた。
少しニヤついている。
「ノックしても返事がなかったから、入ってきたのよ」
「そうですか」
「それでなんだけど、私の知り合いが今のあなたの事情を解くカギになるかもしれない。だから」
「行きます」
「いい返事ね。あとそれと」
赤と白の丸い物体を渡される。
真ん中にスイッチがあり、機械っぽいが。
「モンスターボール...って言っても知らないわね。捕まえたポケモンをいれる収納のようなもの。今このミロカロスは野生だから、さっさと捕まえないと、取られちゃうわよ」
「は、はい」
ボールを受け取り、ミロカロスを見つめる。
はたしてこれをどうすれば
「これはどうやって使えば」
急に接近した顔面がボールの中心部分へと触れる。
と肉体がボールの中に吸い込まれていった。
「うお!?」
驚嘆の声がもれ、ボールを手放す。
手放したものは重力に従い地面へ落下。
落下した後も奇怪な音を立てながら左右に揺れる。
揺れ終わったかと思えば、火花を散らしながら静止した。
「初ゲットおめでとう。大事にしなさいよ?」
「はい」
落ちたボールを拾い上げると、中からもう一度巨体が姿を現す。
「...ありがとう」
それだけ告げる。
今はこれ以外に言える言葉がない。
病院をでると、アーマーガアというポケモンのタクシーで別の町へ。
しかし今度は町というよりも村のほうが近い。
少し発展している程度の小さな場所。
そこの一角にある研究所。
背丈ほどの大きさのドアを開け、中へと入る。
すると
「ルリナ!」
二階からラメの入った長い綺麗な髪を揺らして女性が降りてくる。
「その子が?」
「そうよ。紹介するわね、彼女はソニア。歴史やポケモンの研究をしているわ。でも今日用があるのは彼女じゃなくて」
「マグノリア博士なら別室で待機してるって」
「落ち着きなさいよ。そう、今言ったマグノリア博士ね。こういう事態は彼女のほうが適任だから」
「はい」
ソニアが口を開く。
「博士は二人っきりで話したいって」
「わかりました。そこの扉の先ですか?」
「そう。優しい人だから落ち着いていれば大丈夫だよ」
優しく声をかけ、背中を押された。
こういった経験は数少ないので新鮮ではある。
一歩ずつ、着実に歩を進めドアを叩く。
「ええ、入っていらっしゃい」
老齢の、しかしそれ以上に経験を積んだような奥深い声が聞こえてきた。
「失礼します」
そういい、扉を開ける。
中にいたのは、整えられた白髪に、傍に杖を携えた女性。
というよりも女史に近いのかもしれない。
「よくお越しくださいましたね。どうぞ、お座りなさい」
「はい」
マグノリア博士は俺の顔を確認すると、杖を置き背もたれの深い椅子に座った。
俺もその前に配置された丸椅子に座る。
「お名前は?」
「...ボブです」
「何かを言い淀んだ。ボブというのは偽名ですか?」
言い当てられてしまった。
顔に出やすいのだろうか。
「ええ、そうです」
「素直で結構。本名は言わなくても構いません。今重要なのはそこではありませんから」
「俺は、こことは違う別の場所から来た...と断定はできませんがそのはずです」
「以前の場所では何を?」
「以前は」
と医師にも話したようなことを再度話す。
時間にして30分ほど。
しかし、相槌もなくただ真っすぐに俺の瞳を見つめる彼女の圧で
体感は数時間が経過したようだ。
「これが、俺の今までの人生です」
「...歳に合わず、重いものを背負っておられたようですね」
「それも、今はすべてなくなりました」
「であるならば、ここで生きてみるのもいいでしょう」
「しばらくはそうするつもりです」
「衣食住は?」
「それは...」
言い淀む。キャンプ用品もないし、貨幣もない。
そんな状態ではたして生きられるのか。
それに今の俺にはボールに入ったこいつがいる。
「ソニアの助手として、しばらく彼女のそばで生活しなさい。路銀をバトルで稼いぐのもいいでしょう」
「...いいんですか?」
「人を見る目は自負してるつもりです。あなたならば大丈夫でしょう。彼女にとってもいい刺激になるやも」
「わかりました。ありがとうございます」
頭を下げる。
今は難しいことを考えず、しばらく生活してみる。
それが最重要事項だ。それ以外は落ち着いた時に考えよう。
「ソニア、入ってきなさい」
「は、はい」
大きなオレンジを揺らしながら、ソニアさんが部屋へと入ってくる。
声の通りからして扉のすぐ前にいたんだろう。
「あの、いつからいると?」
「最初から。聞いていたとは思いますが、ボブをあなたの助手につけようと思います。ちょうど昨日白衣を授けたのですから、あなたも助かるでしょう?」
「えっと、私はいいんですけど、彼は?」
「俺も、かまいません」
「そういうことです。では、頼みましたよ」
「えっと、ボブくんだよね?これからよろしくね」
「よろしくお願いします」
かくして、俺の鉄と機械の生活は終わり、未知の生物との共存が始まった。
今はまだ整理がついていないが、いつかはちゃんと全部整理してどうしたいかを決めたい。
俺はボブ。しかし、グエルでもある。
どう生きるのが正解かもまだわからない。
それでも、俺は俺にできることがしたい。
ミロカロスのブリリアントダイヤモンドの
図鑑説明見て欲しい。