デート・ア・ウィザード〜絶望を希望に変える魔法使い〜 作:黒崎士道
それから晴人は少女との会話を楽しんだ。晴人は彼女の質問に答えたり、自身の魔法を見せるためにコネクトで魔法陣からドーナツを取り出したら少女が物欲しそうな瞳で見てきたので袋ごと渡したら全て食べられてしまったりとこの短時間で随分と互いの距離が縮まった。
そこで晴人は今更だがあることを思い出した。
「そういえば、君って名前がなかったんだよな?」
「ぬ?」
晴人の言葉に少女は眉を顰める。そしてしばらく考えを巡らせるように顎に手を置いた後に口を開く。
「…そうだな、これまではそんな相手がいなかったが……私と会話をするならやはり名が必要だな。ハルトは私を何と呼びたい?」
「うーん……それは悩むなぁ」
「む?そうなのか?」
晴人はどうしたものかと頭を悩ませた。人に名前なんて名付けたこともないのに、いきなり精霊に名付け親になれといわれたのだ。
だがそうしている間にも少女は目をきらきらと輝かせながら晴人を見つめている。
「じゃあ、トメは?」
瞬間、床が崩れ落ちた。晴人の告げた名前が相当嫌だったらしく、晴人は足元に黒い光弾を撃ち込まれたことで足場が崩れて下の階まで落とされそうになる。
「のわぁぁぁっ⁉︎」
《バインド・プリーズ♪》
晴人は咄嗟に指輪を付け替えてバインドウィザードリングを駆使して出現した魔法陣から鎖が現れると、晴人の腕に巻きつくことでなんとか落下を間逃れた。
「……何故かわからんが、無性に馬鹿にされた気がした」
「悪い!今のは本当にごめん!」
なんとか穴から這い出てきた晴人は再び少女の名前を考える。もしまた失敗して怒らせたら先ほどのようにまた下の階へ落下させられてしまうかもしれない。
だが中々良い名前が浮かばない。
「ならーーーー十香っていうのはどうだ?」
晴人はその名が思い浮かび、口にした。少女はしばらく黙っていると、やがて口を開く。
「……まあ、いい。トメよりはマシだ」
実際、晴人がこの名前を思いついたきっかけは彼女を見かけたのが四月十日だったから『十香』と考えたのだが、少し安直な気がして心配だった。だが、なんとか気に入ってもらえたようでよかった。
そこで精霊の少女ーーー十香は晴人の方に体を向ける。
「ハルト、私の名を呼んでくれ」
「ああ…十香」
晴人がその名を呼ぶと、十香は満足そうに二ッと笑顔を浮かべる。晴人も十香の笑顔を見て微笑む。
次の瞬間、銃声とともに教室の壁がけたましい音を立てて破壊されていく。おそらくは精霊を倒すためにASTが仕掛けた攻撃だろう。
「十香は少しだけここで待っていてくれ」
晴人は破壊されて大きな穴が空いた校舎の壁に向かっていく。
「ハルトはどうするのだ?」
「ああ、ちょっとあいつらを追い返してくる」
晴人はそう言うと、教室から校庭へと飛び降りる。
晴人は建物の物陰から姿を現すと、すぐさまASTたちに包囲された。そしてその中から二人の人物が出てきた。出てきたのはAST隊長の燎子、隊員の鳶一折紙だった。
「また会ったわね、晴人君」
「俺としてはもうあんまり会いたくなかったんだけどな……」
燎子は警戒するような視線を送ると、晴人は苦笑しながら頭をかく。そこで燎子は晴人に尋ねる。
「なんで精霊を庇おうとするのかしら?」
「言っただろ?俺は希望を守る魔法使いだって。俺はあの子の希望を守ることにしたんだ」
《ドライバーオン・プリーズ♪》
晴人は燎子に答えながらウィザードライバーを待機状態に変化させると、左手の中指にフレイムウィザードリングを装着する。
「君には言ったと思うけど、あれは精霊よ。この世に存在してはならないものなの」
「そんなの関係ねえよ。俺がいる限り誰にも絶望させない…それだけさ」
晴人はそう言うと、シフトレバーを操作してハンドオーサーを左手側に傾ける。
《シャバドゥビタッチヘーンシーン♪シャバドゥビタッチヘーンシーン♪》
「変身!」
《フレイム・プリーズ♪ヒー♪ヒー♪ヒーヒーヒー♪》
魔法陣を通過して晴人はウィザードへと変身する。そして同時にその手に持ったウィザーソードガンをくるりと回す。
「俺は戦うつもりなんてないけど、やるなら受けて立つぜ」
「総員!標的を《プリンセス》から《ウィザード》に変更!必ず彼を捕縛するのよ‼︎」
『了解!』
「いいぜ。さあ、ショータイムだ!」
燎子の指示とともにASTの隊員たちが重火器をウィザードに向けて構え、ウィザードはそう宣言するとウィザーソードガンをガンモードに変形させて銃撃でAST隊員たちを攻撃する。
ウィザーソードガンから放たれた銀の銃弾は目標に向かって軌道を曲げながら進み、銃弾はASTたちのCR-ユニットのスラスターを撃ち抜く。ウィザードはあくまでASTたちに敵対するとしても、その命までは奪わない。
スラスターを撃ち抜かれた隊員たちはそのまま地面に叩きつけられたが、まだ空中にはASTたちもおり、ウィザードに向けて重火器を発砲しようとする。
「まったく、人気者はつらいな」
ウィザードはそんな軽口を叩きながら急いで指輪を付け替えてハンドオーサーに翳す。
《ハリケーン・プリーズ♪フー♪フー♪フーフーフーフー♪》
ハリケーンスタイルに変化したウィザードはウィザーソードガンをソードモードに切り替えると魔法陣を足場にして風の力で空中を滑空する。
《キャモナスラッシュ・シェイクハンズ♪キャモナスラッシュ・シェイクハンズ♪》
《スリープ・プリーズ♪》
ウィザードはウィザーソードガンのハンドオーサーを展開させてリングで魔法効果を付加させていた。
「悪いな、眠ってくれ!」
スリープウィザードリングの効果を付加させたウィザーソードガンを振るう。本来なら装着者を強制的に眠らせる魔法だが、ウィザーソードガンに付加させたのは麻酔効果。それにより、峰打ちで斬られていくASTたちは眠らされて次々と地面に落ちていく。
そして、二十はいたASTは鳶一折紙と燎子を含めた数名だけとなった。
「神代晴人…何故精霊を守ろうとするの?」
折紙は鋭い目つきでウィザードを睨みながらそう問う。
「お前らにあの子を殺させたくないからに決まってるだろ」
「あれは精霊。この世界に災厄をもたらす、私が殺さなければならない存在」
ウィザードは折紙の言葉に引っかかる。以前もそうだが、彼女はまるで精霊を恨んでいるようにその存在を消そうとしている。
「俺はあの子の希望を守る。でも…本当は俺だって戦いたくないんだ。なあ、もうやめてくれないか?」
「それでも私は精霊を殺すッ‼︎」
折紙はそう言うとウィザードに向かって攻め込んでくる。それを迎撃しようとするウィザードだが、背後に気配を感じて後ろを見ると、燎子がこちらに迫ってきていた。
「くっ!」
二人に挟み撃ちにされたウィザードは咄嗟に新しい指輪を付け替えてハンドオーサーに翳す。
《ソニック・プリーズ♪》
『なっ…⁉︎』
次の瞬間、二人の攻撃をウィザードが高速の動きで躱すと、ウィザードは二人に向かってウィザーソードガンを振るい斬撃を浴びせた。
ウィザードが使用したのはソニックウィザードリング。装着者のスピードを一時的に高速にする指輪だ。
「おお…流石はナタリアの作った指輪だな。今のはビックリしたよ……」
その速さにウィザード自身も少し驚いていた。だが今は戦闘中、感心している暇はない。ウィザードはガンモードに変形させたウィザーソードガンを二人に向ける。
「まだやるって言うなら付き合うけど……もういいんじゃないか?」
ウィザードは燎子に小声で言うと、燎子は降参と言わんばかりにため息をつき、隊員たちに指示を出す。
「……総員、撤退するわよ」
「………」
燎子の指示に隊員たちは重火器を下ろすと、ウィザードに眠らされた隊員たちを担いで空へ飛んでいく。その際に折紙はウィザードを振り向くと口を開いた。
「…私は認めない。精霊が存在する世界を」
「何度だって止めてやるさ。俺は希望の魔法使いだからな」
ウィザードはそれだけ言うと、折紙はなにも言わずに隊員を担いでその場から去った。ウィザードもそれを確認すると十香がいる校舎に戻る。
「ハルトはすごいな。あんなにいたメカメカ団を簡単に倒すとは」
「め、メカメカ団…?」
「さっきの奴らだ」
「ああ…」
メカメカ団とはどうやらASTのことらしい。ウィザードは仮面の内側で苦笑を浮かべた。その瞬間、十香の身体が徐々に透き通っていく。
「…そろそろ時間のようだ。また会おう、ハルト」
「ああ…今度またこっちに来たらこの街を案内するよ」
「そうか、楽しみにしているぞハルト!」
十香はこの上ないほどにとびきりの笑顔でそう言うと、そのまま姿を消してしまった。十香が消えてウィザードは変身を解くと、校舎から出ようとする。
その瞬間、突然晴人は妙な浮遊感に襲われその場から姿を消した。