デート・ア・ウィザード〜絶望を希望に変える魔法使い〜   作:黒崎士道

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今回は晴人とラタトスクの邂逅です。


ラタトスク

そこは、重力の感じない空間だった。上を見上げれば清々しい青空が見える。だが、それと同時に美しい星空も見える。青空には朱く輝く太陽が浮かび、星空には蒼く輝く月が浮かんでいる。

ここは、晴人の精神世界ーーーアンダーワールドの中だ。

 

「……いるんだろ、ドラゴン」

 

晴人の言葉に応えるように、晴人の目の前に黒い魔力が集まりそこに黒いコートを纏った人物が形成された。

黒いコートの人物は被っていたフードを外すと、そこから現れたのは晴人自身の姿だった。

 

「久しいな、晴人」

 

「ああ…こうして話すのは俺が始めて絶望しかけた時以来だな」

 

晴人は目の前に現れた自分にそう言う。だが、黒いコートを除けば容姿は晴人そのものだが晴人の瞳が蒼いのに対して、もう一人の晴人の瞳は紅蓮の炎のように紅い輝きを帯びていた。

この晴人は、晴人の中に眠っているファントムーーーウィザードラゴンが晴人の魔力を形どった本来とは違う姿。

 

「何か話でもあるのか?あんたが俺をコッチに呼び出すってことは」

 

晴人の言葉にドラゴンは頷き、晴人を今回このアンダーワールドに呼び出した理由を話す。

 

「晴人よ、私はずっとお前を見ていた。それと同時に五年前の謎の存在がお前に渡した力についても調べていたが結局なに一つわからなかった。だが、ここ最近お前のその力が何かに共鳴するような反応を見せた。そう…お前があの精霊と呼ばれる存在に出会ってからな……」

 

晴人はドラゴンの話を黙って聞いている。

謎の存在ーー五年前に晴人の前に現れたあのノイズのような存在だ。

ドラゴンは晴人の中に宿った時からその力の存在に気がついていたがいくらアンダーワールドを探してもその力の痕跡が見られず結局は謎に包まれたままとなっていた。そのことは晴人も知っている。だが何故今更になってその力が突然反応を見せたのかわからない。

 

「この力についてはまだ私にもわからない。だがこれだけは言っておくぞ、あの精霊と呼ばれる存在はいずれ世界に大きな影響を及ぼすかもしれん。それでもお前は精霊を守るために戦うのか?」

 

ドラゴンは紅い瞳で晴人を見つめながらそう問いかける。晴人はドラゴンの問いに笑いながら返す。

 

「言っただろ?俺は人々の希望のために戦うって。俺はあの子の希望を守りたいって思ったから戦うだけさ」

 

「……そうか。ならば、その思いを忘れるな。お前の進む道に…光と希望があらんことを祈ろう……」

 

ドラゴンがそう言うと、アンダーワールドの風景がだんだん白くなっていく。同時に晴人の意識もアンダーワールドから離れていった。

 

「………気をつけろ、晴人よ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

晴人は目を覚ますと目の前に隈を蓄えた眠たげな女性が晴人の身体の上に乗っかっていた。しかも、かなり顔を近づけて。

 

「ふむ、起きたかね」

 

妙に眠たげな顔をした女性はぼうっとした声でそう言った。だが、その女性に晴人は見覚えがある。

 

「む、村雨先生⁉︎」

 

そう、その女性は晴人のクラスの副担任となった村雨令音先生だ。

学校で着ていた白衣ではなく、軍服のようなものを着ていてポケットから同じく傷だらけのクマのぬいぐるみが顔を覗かせていた。

 

「……ん、どうかしたかね?」

 

「いや、どうかしたかねじゃなくて!ここ何処なんですか⁉︎」

 

晴人は周囲を見渡せば、そこは医務室のような場所だった。先ほどまで破壊された校舎にいたはずだが、妙な浮遊感を感じた途端に周りが無機質な部屋に変わっていた。

 

「……ああ、《フラクシナス》の医務室だ。すまないが勝手に回収させてもらったよ」

 

「《フラクシナス》……?えっと、すいません。よくわからないんですけど…」

 

「……どうも私は説明下手でね。君に紹介したい人がいる。気になることはいろいろあるかもしれないが、詳しい話はその人から聞くといい」

 

そう言うと令音に晴人はついて行き、令音の言うその紹介したい人の元に向かう。その道中、令音は30年寝ていないと言って睡眠導入剤をラッパ飲みでガブ飲みしてラムネのように食べていた。

晴人は普通に彼女の命を心配したが、それと同時に『この人ファントムじゃないの?』と若干ドン引きしている自分がいた。

 

そして晴人が令音に連れられたのは艦長席と思われる椅子がある軍艦のような大部屋だった。室内には複雑そうなコンソールを操作するクルーたちが見受けられた。

晴人は中に入ると、そこには日本人とは思えない金髪の男性が待ち構えていた。

 

「…連れてきたよ」

 

「ご苦労様です」

 

令音がふらふらと頭を揺らしながら言うと、金髪の男性は執事のような調子で晴人に軽く礼をする。

 

「初めまして。私はここの副司令、神無月恭平と申します。以後お見知り置きを」

 

「あ、どうも神代晴人です。よろしく」

 

神無月に挨拶をされたので晴人も自己紹介をする。

 

「よく来たわね。待っていたわ」

 

不意に艦長席のような場所に座っていた人物がそう言った。その人物は背を向けていた艦長席をくるりと回転させると、その姿を見せる。

 

「歓迎するわ。ようこそ、《ラタトスク》へ」

 

その人物は、真紅の軍服を肩掛けにした大きな黒いリボンで赤い髪を二つに括っていた。小柄な体格。どんぐりみたいな丸っこい目、ついでに口にくわえたチュッパチャプス。

おそらく今の晴人の表情には驚愕が現れているだろう。それもそのはずだ、何故ならーーー

 

「琴里⁉︎」

 

その人物とは、最近五年ぶりに再会を果たした晴人の妹、五河琴里だった。その側では士道が複雑な表情で佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーで、これはどういうことなの⁉︎晴人、答えなさい‼︎」

 

「呼び捨て⁉︎」

 

晴人は琴里に呼び捨てにされたことに驚いているが、琴里はそんなことを無視して正面の巨大なモニターを指す。そこには晴人がウィザードに変身してファントム、ASTを圧倒して戦闘を繰り広げている映像が映し出された。

 

「説明って、ファントムについてならこの間師匠が話したじゃねぇか」

 

「ええ、魔法使いとファントムについては分かっているわ。私が聞きたいのは、何であなたが《プリンセス》と一緒にいたのかについてよ!」

 

琴里がそう言うとモニターの映像が切り替わり、晴人が十香と会話をしている場面が映し出された。晴人は《プリンセス》と呼ばれたのは十香だと思い疑問を上げた。

 

「《プリンセス》って、十香じゃねぇか」

 

「十香?…ああ、《プリンセス》っていうのは彼女の識別名よ」

 

琴里はそう言うと、早く晴人に早く言えと言わんばかりの鋭い視線を送る。この五年間で、あんなに可愛かった妹がどうしたらこんな毒舌なキャラになってしまったのかと心の中で嘆いている晴人は琴里に十香に会いに行った理由を説明をする。晴人が説明を終えると、琴里はため息をつく。

 

「呆れた……精霊を守るために一人でASTの相手をするなんて」

 

「まあ生きてたし、結果オーライってやつかな」

 

晴人はそう言って笑顔を浮かべる。琴里はもう一度ため息をつく。

 

「それにしても…本当に魔法使いなのね……」

 

「あれ、信じてなかった?」

 

「まあね、そもそも身体の中にファントムを飼ってるって時点で信じられなかったわ」

 

「だが、彼の言っていることは正しいのかもしれないよ」

 

琴里がそう言っていると、令音がその手に一枚の紙を取り出した。

 

「先ほど、彼の精密検査を行わせてもらったのだが…面白い結果が出たんだ」

 

「面白い結果?」

 

令音の言葉に琴里が訊き返す。

 

「ああ…彼の鑑定結果だが、全身に霊力に似た魔力が流れていたんだ。精霊のように血液にも魔力が流れていたから、おそらくはそのファントムの影響だろう」

 

「はぁっ⁉︎それって何の問題もないの⁉︎」

 

「……一応診察をしてみたが、健康面に関しては問題なかったよ。それどころか、ファントムのおかげで身体能力もかなり強化されているようだ」

 

琴里や士道は驚愕を隠せなかった。晴人が魔法使いだという時点でさえ驚いたというのに、その中に化物が宿っているなど家族として心配しないわけがない。

 

「兄さん、大丈夫なのか?」

 

「大丈夫だよ、ドラゴンはそんなことはしない奴だから」

 

「ドラゴン……?」

 

「五年前に俺の中に生まれたファントムのことだよ。正直、俺が絶望しなかったのはあいつのおかげでもあるしな」

 

晴人はそう言って話を締めくくるが、琴里と士道は晴人の身が心配でならなかった。だが琴里はそれに気づかせないように口を開く。

 

「……わかったわ。晴人が魔法使いの力についてことは充分にね」

 

「悪いな、五年ぶりに再会したのに色々と驚かせて。でも、これだけは言わせてくれ。俺はどんなことになっても必ずお前たちの希望を守ってみせる」

 

晴人は二人にそう強く宣言する。それによって琴里と士道も心配がなくなり、五年前の頼りになる優しい兄を思い出す。琴里も少し照れながら宣言した。

 

「…ありがとう、晴人おにーちゃん。でも全部一人で抱え込まないで、ちゃんと私たちのことも頼りなさいよ」

 

琴里はそう言うと晴人は微笑み、本当にいい家族に恵まれたなと思う。

 

「ところでさ、そろそろ色々聞いていいかな?《ラタトスク》のこととか…」

 

「ああ、そうね。晴人は精霊についての説明はいるかしら?」

 

「いらないよ。ASTに捕まった時に聞いたから」

 

「……そういえば、そうだったわね」

 

晴人の言葉に琴里は晴人がASTに連行されていく映像を思い出し苦笑する。

それから晴人は琴里から説明を聞いた。精霊にはふたつの対処法があり、ひとつはASTのような武力による殲滅。ただし、精霊の持つ非常に高い戦闘能力によって達成は困難とされている。これで燎子が晴人をASTにスカウトしようとした理由がわかった。

もうひとつは、精霊との対話による空間震の平和的解決。《ラタトスク》はそれを目的として結成された秘密組織らしい。そして、その対話役に士道が選ばれたということ。

 

「なるほど…大体分かった。で、俺はどうすればいい?」

 

「あら、協力してくれるの?」

 

「大切な妹と弟がこんなにがんばってるのに、協力しない兄貴がどこにいるんだよ。それに俺も十香の希望を守るって約束したしな」

 

晴人は左手に装着したフレイムウィザードリングを掲げながらそう言う。それを聞いた琴里は嬉しそうに微笑んだ。

 

「それでこそ、私のおにーちゃんね。これからもよろしく頼むわよ」

 

「任せろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天宮市の街から遠く離れた教会で、ステンドガラスから入り込む月の光を浴びながら一人の男性が教会の祭壇にある玉座に腰掛けていた。

 

「ーーー来たね。ファブニール」

 

男性は紅茶の入ったカップに口をつけながら暗闇に目をやると、そこには黒いコートに顔の下半分を黒のマスクで隠して軍人の帽子を被った三十代半ばの男性が現れた。

 

「すまないね、わざわざ遠くから呼び出して…」

 

「……いえ、私に何かに御用でしょうか。サー・ワイズマン」

 

ファブニールがそう言うと、ワイズマンと呼ばれた男性はカップを置く。

 

「ああ、近いうちに会合を開くつもりでね。君の他にも各地に散らばったメンバーを集めて来て欲しいんだ」

 

「承知しました。……ですがメンバーの内ウンディーネは裏切り、バロンは未だ消息が掴めていません」

 

ファブニールの言葉に、ワイズマンは唇の端を上げた。

 

「彼なら心配いらないよ。彼は面白い存在を見つけたようでね…しばらくは単独行動をするそうだよ」

 

「あのバロンが?それは一体?」

 

ワイズマンの言葉にファブニールは訊き返すと、ワイズマンはゆっくりと玉座から立ち上がりその名を口にする。

 

「彼は神代晴人ーーーまたの名を、指輪の魔法使いウィザードさ」

 

月の光がそう言う彼の笑みを照らし出していた。




今回は最後に炎竜騎士さんの考察したオリジナルファントムを登場させました。

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