デート・ア・ウィザード〜絶望を希望に変える魔法使い〜 作:黒崎士道
晴人がラタトスクのメンバーになった次の日、晴人自室のベッドの上で寝ていた。今日は本来ならば学校があるのだが、十香が現界したことで発生した空間震と昨日の晴人とASTたちとの戦闘によって校舎がめちゃくちゃに破壊されてしまったらしく、今日は休校となった。
「………」
それに晴人はいろんなことがあってというのもあるが、ここ最近の魔力の消費でかなり疲弊している。目が覚めてもベッドから出ようにも出られなかった。そこで部屋の扉が開き、ユニコーンとクラーケンが晴人を起こしにやって来た。
晴人は仕方なく身体を起こすと、私服に赤いTシャツとジーパンに黒いジャケットを羽織ると使い魔たちに連れられてリビングへ降りる。
「晴人はまだ寝てるのかい?」
「まあここ最近たくさん魔力を使ったからね」
リビングで朝食を食べ終えた切嗣は新聞を広げ、ナタリアは昨日製作したばかりの指輪を磨いていた。実は晴人が魔法を使用する際に使うウィザードリングは全てナタリアが製作したものだ。
そうしていると、リビングを飛び回っていたガルーダが魔力が切れたことによって身体が消失して、最後には腹部につけられたガルーダウィザードリングが落ちた。
「ふぁ〜、おはよ〜」
欠伸をしながら晴人がユニコーンとクラーケンとともにリビングに入ってきた。
「おはよう、晴人」
「おや、疲れてるならまだ寝てればいいのに」
「平気平気、これ以上寝てたら逆に疲れるって」
晴人はそう言いながら床に落ちたガルーダウィザードリングを拾い上げると、指輪を装着してベルトに翳す。
《ガルーダ・プリーズ♪》
すると出現した赤いパーツがひとりでに組み立てられ、腹部に指輪を取り付けるとガルーダが鳴き声を上げながら宙を飛び回る。
「んじゃ、俺もちょっと出かけてくる」
「ああ坊や、その前にこいつを見てってくれ」
ナタリアはそう言うと、磨いていた指輪を晴人に投げ渡した。
「おっ、新しい指輪?」
「ああ、前に坊やが倒したミノタウロスの魔法石から作ったんだ。試してみな」
魔法石で加工された指輪の魔法は使うまでその効果がわからない。晴人は楽しみ半分と不安半分の気持ちで指輪をベルトに翳す。
《ゴーレム・プリーズ♪》
「おお、新しい使い魔じゃん」
今回の指輪は新しい使い魔を召喚するためのものらしく、紫色のパーツが組み立てられると、机には頭部に指輪を取り付けた紫色の小さなゴーレムーーバイオレットゴーレムが座っていた。
「よろしくな、ゴーレム」
晴人は人差し指でゴーレムの小さな手と握手を交わす。そんな時、ゴーレムがナタリアと切嗣に気がつくと、急いで晴人のポケットに潜り込んで隠れた。
「あ、あれ?」
「ははっ、どうやら人見知りの使い魔みたいだね」
人差し指でゴーレムの頭を撫でながら晴人はゴーレムの人見知りな性格に苦笑を浮かべた。
神代邸を出て、晴人は半壊した校舎の門の前に立っていた。晴人自身も何故ここに来たのかは分からないが、ここに来れば十香に会えるのではないかと思ったのだ。
周囲を見渡せば、アスファルトの地面は滅茶苦茶に掘り返され、ブロック塀は崩れ、雑居ビルまで崩壊している。
「ーーーーああ、そういえばここだったっけ…」
この場所には見覚えがあった。ここは初めて十香と出会い、晴人がウィザードに変身してファントム戦闘を行った空間震現場の一角だ。
この有り様を見る限り、まだ復興部隊が処理をしきれていないようだ。
「……これからどうなるんだろう」
晴人は目の前の光景を見るとそう呟いた。精霊、AST、ラタトスク、そしてファントム。その大きな勢力の中で晴人は魔法使いとして戦わなければならない。
「……い、………ト」
それに、晴人は魔法使いとなって闘っている限り周囲を巻き込む可能性が高い。これからもファントムと闘えば士道や琴里たち、十香を傷つけてしまうかもしれない。
「おい、ハルト!無視をするな!」
「ん?」
そこで晴人はやっと自分の名を呼ぶ声に意識を向けた。
視界の奥ーーー通行止めのエリアの向こう側から声が聞こえて来る。
その方向へ視線を集中させると、瓦礫の山の上に、街中に似つかないドレスを纏った少女が、ちょこんと屈み込んでいた。
「と、十香⁉︎」
「ようやく気付いたか、バーカバーカ」
背筋が凍るほどに美しい貌を不満げな色に染めた少女ーー十香は、とん、と瓦礫の山を蹴ると、かろうじて原型を残しているアスファルトの上を辿って晴人の方へ進んで来た。
「とう」
通行の邪魔だったのだろう、十香は目の前に立っていた立ち入り禁止の看板を蹴り倒して晴人の前に到着した。
「な、なんでここにいるんだ⁉︎てゆーか、空間震警報鳴ってないぞ⁉︎」
そう。精霊が現れる際には空間震が発生するのを知らせるための空間震警報が鳴るはずなのだが、周囲はとても静かだ。
「なんでって、お前から誘ったのではないか、街を案内すると」
そこで晴人は確かにそう言ったことを思い出す。だがその前に十香の服装をなんとかしなければならない。
「なら、早速街を案内しようと思うんだけど……その前に、十香の服装をなんとかしないとな」
「服装? このままでは駄目なのか」
「ああ、目立ちすぎるんだ。ASTに見つかったら面倒だし」
「では、どんな服ならよいのだ」
そうだな、と腕を組み悩む晴人。ちょうどその時、歩道を通る来禅高校の制服姿の女子が視界に入って来た。休校情報をうっかり聞き逃して登校してしまい、帰るついでに街をうろついているといったところだろうか。
「ああいう服ならいいのか」
「そうだな。でも追いはぎはダメだぞ?ここは俺の魔法でーー」
晴人は衣服を一瞬で別のものに変えることができるドレスアップウィザードリングを使用しようとする。
「ハルト。これで良いのか?」
「へ?」
声をかけられたので横を向くと、晴人はそこで絶句した。いつの間にか、十香の服装が来禅高校の学生服に変わっていたのである。
「さっきの女から奪おうとも思ったが、ハルトが追いはぎはダメだと言うから自前で用意したぞ」
「自前って、どうやって?」
「霊装を解除して、先ほど見た服を再現してみただけだ。そう難しいことではない」
「す、すごいな……」
自分の使おうとした魔法をこうもあっさりとやるとは、流石は精霊、と感心する晴人。
「それじゃあ、行くか」
晴人は十香に左手を差し出す。十香はそれを不思議そうに見つめるので晴人は微笑みながら口を開く。
「ほら、手を繋ごう」
「なんだ、そういうものなのか?」
「ああ、今回は俺がエスコート役だからな。このくらいはしないと」
「ふむ……」
十香は考え込むようにしたが、しばらくして晴人の手を握った。
「…ん、悪くないな、これも」
そう言って十香が笑い、きゅっと手を握る力を少しだけ強くしてきた。小さくて柔らかい、女の子の感触が伝わってくる。晴人は自分でも顔が赤くなっているのが分かる。
晴人は十香の手を引いて歩き出す。
商店街に到着した晴人と十香は、十香が興味を示した晴人の行きつけのドーナツショップ『はんぐり〜』に立ち寄った。
「あらハル君、ガールフレンドとデート?」
店長が笑顔でそう尋ねる。
「うーん…まあそんなとこかな」
街を案内するということだが、一応デートかもしれないので取り敢えず肯定すると、店長が興奮したように騒ぎ出す。
「キャー!真由ちゃん、ハル君にガールフレンドができたわよ!」
「店長、ダメですよ。晴人たちのデートの邪魔をしたら」
真由に諭されると、落ち着きを取り戻した店長は早速晴人に新作のドーナツを勧める。
「じゃあハル君、今日のおすすめは『きなこドーナツ』なんだけどーー」
「プレーンシュガーで」
「……そ、そうよね」
あっさりと拒否された店長はがっくりと項垂れながらケースからプレーンシュガードーナツを取り出す。その際、晴人は十香がケースに張り付いてきなこドーナツを物欲しそうな目で見ているのを見逃さなかった。
「ああ、あとこのきなこドーナツも頼むよ」
晴人がきなこドーナツを注文すると、店長たちはその目をきらきらと輝かせた。
「真由ちゃん!ハル君がついに買ったわ!」
「よかったですね!店長!」
二人は晴人が新作のドーナツを注文したことに喜び抱き合っていた。
「いや、食べるのはこの子だよ」
晴人がそう言うと二人はずっこけた。晴人と十香は注文したドーナツを受け取ると、席に座りそれぞれのドーナツを頬張る。
「うまいか? きなこドーナツ」
「うまい、うまいぞハルト! このきなこという物、恐ろしいほどの美味だ……!」
「そうか、それはよかった」
晴人も始めはドーナツが十香の口に合うのか心配したが、十香が自ら『はんぐり〜』から漂うドーナツの香りに誘われたことでその疑問も解決した。おいしそうにきなこドーナツを頬張っている姿を見ていると、晴人も微笑ましいものを見ているように思える。
「む、あっちからもいい匂いがするぞ。気になるな」
「……というか、むしろすごい食欲旺盛だな。おい」
可愛い見た目にそぐわずすごい大食いだ、という感想を抱きながらも、足取り軽く近くのカフェに進んでいく十香を微笑ましく思う晴人。
「何をしているハルト。早く行くぞ!」
「はいはい、分かったよ」
やれやれと口にしつつ、晴人は彼女のあとを追って店内に入った。二人用の席に案内され、それぞれメニューを見て注文を決める。
「頼んだものが来るまでちょっと待たなきゃいけないんだけど、大丈夫か?」
「問題ない。……そうだハルト、またお前の魔法を見てみたいのだが…」
「いや、こんな人目のつく場所でやったら面倒なことになるからまた後でな」
「む、そうか。魔法使いも不便なのだな」
「まあな…」
それから注文した料理が来てからは二人はおしゃべりしながら料理を味わった。晴人は十香にイギリスでの修行談を話すと、十香は興味深そうに聞いてくれていたので晴人も楽しく料理を堪能できた。
「よし、そろそろ出るか」
伝票を持って立ち上がり、晴人は会計を済ませようとレジへ向かう。十香が非常によく食べるため、学生である晴人の財布にはちょっとばかし厳しいダメージが与えられてしまった。が、必要経費だと割り切るしかない。
「……はい、ありがとうございます」
ついでに今は、財布の中身よりも目の前の店員にやたら見覚えがあることの方が気になっていた。
「あれ?」
目にできた大きな隈とこの豊満な胸は間違いなく令音である。なぜこんなところに、と一瞬焦る晴人だった。だが、そこで考えた。もしかしたら十香が現界したことに気がついた琴里がサポートとして令音を店員として送り込んだのではないかと。
「………」
その予想は正しかったようで、受け取ったレシートの裏には自然なデートを続けるようにとのお達しがあった。
「これ、デートなのか?」
今さらながらそんな疑問を抱く晴人。そんな彼に、店員に扮した令音は商店街の福引き券を渡してきた。
「十香。次に行くところが決まったぞ」
「おお、どこだ?」
「福引きっていうやつだよ。行けば分かる」
「うむ!」
十香はそう言うと大股で元気良く晴人の手を引いて進んでいく。
それから少しすると、赤いクロスを敷いた長机の上に大きな抽選器(ガラポン)が置かれたスペースが見えてきた。
ハッピを羽織った男性が抽選器のところに一人、賞品渡し口のところに一人おり、その背後には景品と思われる自動車やら米やらが置かれていた。既に数人が列に並んでおり、十香はそれを見て晴人が渡した福引券を握りしめ目を輝かせた。
「とりあえず、並ぶか」
「ん」
十香が頷き、二人は列の最後尾に並ぶ。
十香は前に並んだ客が抽選器を回すのを見ながら、首と目をぐるぐる動かしている。
天然なのだろうか、その時の十香が凄く可愛く見えた。
そしてすぐに十香の番が来る。十香は前の客に倣って福引券を係員に渡して抽選器に手をかける。
よく見ると、係員の一人は確か、フラクシナスのクルーの一人だった気がする。本人には悪いがよく覚えてない。
「これを回せばいいのだな?」
十香はそう言って、ぐるぐると抽選器を回す。数秒後、抽選器から赤いハズレ玉が飛び出した。
「……っと、残念だったな。赤はポケットティーー」
晴人の言葉は、フラクシナスのクルーが手に持っていた鐘がガランガランと高らかに鳴ったため、遮られてしまった。
「大当たり‼︎」
「おお!」
「えっ…?」
晴人は眉を潜めたが、別の係員が賞品ボード『1位』と書いてある金色の玉を赤いマジックペンで塗りつぶしていたのを目撃した。
「もうなんでもありだなこれ⁉︎」
何故か晴人はツッコミを入れずにはいられなかった。おそらく十香が何等の玉を出しても一等にするつもりだったのだろうと考えた。
「おめでとうございます!1位はなんと、ドリームランド完全無料ペアチケット!」
「ハルト、なんだこれは!」
「テーマパークなのか…?聞いたことない名前だけど……」
興奮した様子でチケットを受け取る十香に晴人は訝しげな調子で返す。すると、フラクシナスのクルーの男性がずずいっと顔を寄せて来る。
「裏に地図が書いてありますので、是非!これからすぐにでも!」
言われた通りにチケットの裏を見ると、地図が書いてあった。というか、ものすごく近かった。
「さあ、行くぞハルト!」
「お、おい!」
福引き所から離れる十香を追いながらも、晴人はドリームランドという名称に引っ掛かりを覚えていた。
遊園地のような名前だが、そのような施設がこの街に存在しているかは記憶していない。自分がイギリスにいた間に作られたのだろうか。
「おお!ハルト‼︎城があるぞ‼︎あそこに行くのか⁉︎」
十香が今までになく興奮しながら、前方を指差す。
こんな住宅街にあるなんて、そんな馬鹿なと思いつつチケットの裏側から視線を前方に向ける。
そこには確かに小さいながらも、西洋風のお城がある。看板にも、『ドリームランド』と書いてある。
……ついでにその下に『ご休憩・二時間四○○○円〜 ご宿泊・八○○○円〜』という文字まで書いてあった。
まあつまりは、大人しか入ってはいけない愛のホテルである。
簡単に言うと『ラブホテル』だった。
「琴里…。なんでお前はこんな場所を知ってるんだ……」
この作戦の立案者であろう妹の顔を浮かべ、心の中で涙を流す。五年前までのあの純粋な妹はどこへ行ってしまったのだろうか。そう思わずにはいられない晴人であった。
「……戻るぞ十香。別のところに行こう」
「ぬ?あそこではないのか?」
「いや、確かに場所はあってるけどあそこに行くのはやめておこう」
「しかし、あそこにも行ってみたいぞハルト」
「ドリームランドの代わりに、いろんなところに連れて行くから、な?」
「本当か?」
「当たり前だ。まだまだ時間はたっぷりあるからな」
《コネクト・プリーズ♪》
晴人はコネクトウィザードリングで魔方陣からマシンウィンガーを引っ張り出すと、ヘルメットを十香に渡す。ヘルメットをかぶった十香は晴人の後ろに座ると腕を晴人の腰へと回す。
「よし、では改めて出発だ!」
笑顔で宣言をする十香の姿は、文句なしに可愛いものだった。晴人はそれに微笑みながらマシンウィンガーを発進させる。