デート・ア・ウィザード〜絶望を希望に変える魔法使い〜 作:黒崎士道
今回は自分が執筆していた作品『デート・ア・ディケイド』とのコラボ編を書いてみました。
新たな日常
とある空き地にそれは現れた。
その場所に突然、オーロラのような揺らぎが発生した。
するとカーテンのような揺らめきの中から一人の少年が現れた。
それをきっかけにオーロラは周りの景色に溶け込むように消えていった。少年は来禅高校の制服を着ており、風が吹くと、少年の黒髪が揺れる。
「ここがウィザードの世界か……」
周りの景色を一瞥した後、少年は晴れ渡る青空を見上げた。
そしてなにを思ったのか、少年は制服のポケットから一枚のカードを取り出した。それには緑の複眼とマゼンタカラーをベースに黒いラインがバーコードのように並んだ仮面の戦士が描かれていた。
「まぁ、なんとかなるよな」
しばらくカードを見つめていた少年だが、カードをポケットにしまい気を取り直したように歩き出すと、首に下げた二眼レフのトイカメラが踊るように揺れた。
「………あー」
「だ、大丈夫か、兄さん?」
十香の件から、数日が経った。
復興部隊の手によって完璧に修復された校舎には、たくさんの生徒たちが集まっている。
あれから晴人と十香はすぐにフラクシナスに回収され、施設で入念なメディカルチェックを受けさせられた。十香の方は何やら検査があるとのことでそのまま別れたままとなった。
「ああ、大丈夫だよ。ちょっと疲れただけだから…」
晴人は机に突っ伏しながら士道に答えた。
だが、晴人はいくつか気になっていたことがあった。まずは、晴人のアンダーワールドの中に聞こえた少女の声、おそらく自分の傷を治癒したと思われる謎の炎、そして十香とキスを交わした後の出来事だ。
あれが一体なんなのか、晴人にはわからなかった。あれがドラゴンの言っていた謎の力なのだろうか。
「兄さん、本当に大丈夫なのか?」
士道は心配そうに晴人に尋ねてくる。内容は勿論、晴人が腹部を貫かれたことについてだ。あの時、士道はフラクシナスでその瞬間を見ていたらしいが、晴人の傷が治癒された映像を見て士道だけでなく琴里たちも何やら騒いでいたらしい。
「大丈夫だって、令音さんも健康的には問題ないって言ってたし」
「そりゃそうだけど……」
笑う晴人に士道が呆れた顔をすると、教室が急に騒ついた。そこには鳶一折紙が額やら手足やらを包帯だらけにして、頼りない足取りで晴人の前まで歩いてきた。
「よう、鳶一。無事でよかっーー」
晴人がそう言いかけたところで、折紙が深々と頭を下げていた。
「ーーごめんなさい。謝って済む問題ではないけど」
折紙はあの時ーー十香を狙った一撃を誤って晴人にはなってしまったことを謝罪する。
「いや、いいって。お互いに無事だったんだし」
「でも、私の気が収まらない」
「だから、いいんだって。結局俺は生きてるんだし、鳶一だって生きてたんだ。はい、この話はお終い!」
晴人の方はすでに折紙を許しているのだが、まだ食い下がろうとする折紙を黙らせるために強制的に会話を終了する。
そのタイミングで、ホームルームの開始を告げるチャイムが鳴り、タマちゃん先生が教室に入る。
「はーい、皆さーん。ホームルームを始めますよぉー」
折紙はそのまま無言で自分の席に戻り、他の生徒たちもそれぞれの席に着く。
とはいえ、折紙の席は晴人の隣にいる士道のすぐ隣にある席だ。安堵の息も吐けない。
「はい、皆さん席に着きましたね?」
次いで何かを思い出したかのように手を打ち、うんうんと頷いた。
「そうそう、今日は出席を取る前にサプライズがあるの!入って来て!」
その言葉に答えるように二人の少女が入って来た。
晴人、士道、折紙の三人は最初に入ってきたその少女を見て驚いた。
そこにいたのは夜空のような美しい髪と水晶のような瞳をした少女だった。
「今日から厄介になる、夜刀神十香だ。皆よろしく頼む」
高校の制服を着た十香が、ものすごくいい笑顔をしながら入ってきた。そしてチョークを手に取ると、下手くそな字で黒板に『十香』とだけ書いた。
「と、十香……」
「ぬ?」
晴人が言うと、十香が視線を向けてきた。
「おお、ハルト!会いたかったぞ!」
十香が大声で晴人の名を呼び、ぴょんと飛び跳ねて晴人の席の真横の位置までやって来る。そのせいで晴人はクラス中から注目を浴びる。
そして十香は隣にいた士道を見つけると再び声を上げる。
「おお、シドーもいるではないか!」
「よ、よお十香」
「うむ!」
十香はフラクシナスで何度か士道と顔を合わせているので、士道とは友人と呼べる仲になっていた。そこで十香は、冷たい視線を向けてくる折紙の姿を見つける。
「ぬ、何故貴様がこんなところにいる?」
「それは、私の台詞」
二人の視線が混じり合う。この雰囲気はいつでも戦闘を行いそうで晴人は内心でひやひやしながらその様子を見守る。
「は、はい!おしまい!おしまいにしましょう!まだもう一人の子の自己紹介が終わってませんからー!」
タマちゃん先生がそう言うと、クラスの全員の視線が十香とともに教室に入ってきたもう一人の少女に向けられる。
黒髪の長いストレートヘアがまっすぐに流れ、大きな青色の瞳が眩しいほどの光を放っている。文句のつけようがないその華麗な容姿はまさしく美少女と呼ぶに相応しい。
少女はチョークを手に取り黒板に自分の名を記すと、生徒達の方を向きにこやかな笑顔を見せる。
「初めまして、みなさん。私は笛木コヨミといいます。ちなみにイギリス人と日本人のハーフで、こちらに転校する前はイギリスに住んでいました。よろしくお願いします」
今の彼女のスマイルにクラス中の男子が騒然とした。だが、それ以上に衝撃を受けたのはその少女を知っている晴人だった。
それも当然だ。何故ならその少女は、晴人がイギリスにいた頃の幼馴染にして親友なのだ。
その一方で、晴人の姿を見つけた少女ーーーコヨミは一瞬ぱっと笑顔を浮かべたが、次いで澄ました表情を浮かべて瞼を閉じると、ふん、というふうに顔を逸らせる。
晴人は彼女にそのような態度を取られる心当たりがあるため苦笑する。
「それじゃあ、笛木さんの席は神代君の前ですね」
「はい」
タマちゃん先生がそう言うと、コヨミは指定された席に着く。十香の方はというと、晴人の隣の女子を睨みで退かして晴人の隣の席に着いた。
今日の授業が終わり、晴人は士道、十香とともに『はんぐり〜』へと向かっていた。ただし、コヨミを伴って。晴人もコヨミも互いに話したいことがあったのだが、コヨミや十香のような美少女に近寄らない生徒がいるはずもなく、結局は話せずに放課後となった。
その後、晴人がコヨミに話せる場所を案内するとのことで一緒に『はんぐり〜』まで同行してもらったのだ。
「じゃあ、笛木は兄さんがイギリスにいた頃の幼馴染ってことなのか?」
晴人とイギリスにいたというコヨミからの話を聞き終えた士道はコヨミに尋ねる。
「うん、まあ色々あってね。それからはキリツグ達に引き取られて晴人と一緒にいたの。それと私のことはコヨミでいいわよ」
「では、コヨミ。私のことは十香と呼んでくれ」
「うん、よろしくね。十香ちゃん」
「うむ!よろしくなのだ!」
コヨミが十香と仲良く談笑する中、晴人はテーブルに肘をつけながらドーナツを頬張っていた。
「はぁ…来るならせめて連絡くらいしてくれよ」
晴人がそう言うと、コヨミは晴人に向き直り、不満そうに唇を尖らせた。
「なによ。ハルトがキリツグたちと日本に帰国したっていうからイギリスから来てあげたんじゃない」
「それは悪かったと思うけどさ、日本に発つ前に師匠が連絡したんだからそれくらい判るだろ」
晴人が言い返すと、ぷいっとコヨミは顔をそむけてしまう。
彼女は昔から、晴人と同じ切嗣の弟子という立場であるためかよく自由奔放な晴人の後を着いて来ていたが、わざわざイギリスから日本にまで来るとは生真面目にも程がある。
「きゃああああああ!」
不意に悲鳴が響き渡る。晴人はその方向を見ると、そこにはグールの群集を引き連れた全身に鋭利な爪を生やしたファントム、ケットシーがいた。
「指輪の魔法使い!ここで始末してやるぜ!」
「む、こやつらはあの時の奴らと似ているぞ!」
一度はファントムに襲撃されたことのある十香はケットシーとグールたちを見てそう言う。
「ファントムか……コヨミ、やれるか?」
「もちろん」
晴人の言葉にコヨミは笑顔で答えた。士道と十香にはその意味が分からず、困惑している。
「お、おいコヨミ。一体何をーー」
「大丈夫、下がってて」
コヨミはそう言いながら前に踏み出すと、右手にまるで手のような形の指輪を装着する。そしてベルトの手の形になっているバックル部分に翳す。
《ドライバーオン・ナウ》
瞬間、その音声とともにベルトはその形を変化させた。
士道はそれを見て驚愕する。カラーリングが黒、手のような形のバックル部の縁は金色ではなく赤色だったが、形状やデザインは晴人のものと全く同じだった。
「コヨミ……まさか、お前も……」
士道の言葉にコヨミは答えず、そのままバックルの両端を備えられたシフトレバーを操作して、右手側に傾いていたハンドオーサーを左手側に傾け直す。
《シャバドゥビタッチヘーンシーン♪シャバドゥビタッチヘーンシーン♪》
低い音声コールが鳴り響く中、コヨミはその左手に青色の宝石で装飾された指輪を装着する。そして、力強く叫ぶ。
「変身!」
《セイバー・ナウ》
コヨミは指輪をハンドオーサーに翳すと、音声コールとともに頭上に青色の魔方陣が出現し、コヨミの身体を通過するとその姿を変えた。
青い宝石を模した円状の仮面には、額の部分から前に一本、両脇から後ろへ二本の飾り角が伸び、その身は流麗な彫刻が施された鎧を思わせる白銀の装甲に覆われて、両肩から垂れる青いマントが吹き込む微風で揺れる。
そしてその片手には柄に手形の意匠、ハンドオーサーが取り付けられた銀の剣が握られていた。
晴人が変身する姿を魔法使いとするのなら、コヨミの姿はまるで騎士そのものだった。
「はあっ…⁉︎二人目の魔法使い⁉︎」
「私は魔法使いジャンヌ……さあ、ショータイムよ!」
コヨミが変身した姫騎士の魔法使いーーージャンヌはそう告げると、銀の剣を片手にグールの群集に向かって駆け出す。