デート・ア・ウィザード〜絶望を希望に変える魔法使い〜 作:黒崎士道
ナタリアは、スラスターを吹かせてヴァルキリーへと向かっていく。そしてヴァルキリーは背中から翼を出現させてナタリアに対抗する。ヴァルキリーは手にした槍をナタリアに向けて振るうが、ナタリアはそれを躱すとその背にレイザーブレイドの一閃を浴びせた。
「ぐう……!なんですか、この強さは!」
ナタリアの攻撃を受けたヴァルキリーは、ナタリアから距離を取ろうと飛翔する。だが、ナタリアは腰に装着された兵装を展開させ、ライフルのような形に変形させた。同時に、その銃口に赤い光が収束する。
「射抜け!《ロンギヌス》!」
ナタリアの言葉に、ライフルから赤い閃光が放たれた。それに気がついたヴァルキリーは咄嗟に行動を取る。
「く……っ!グールども‼︎」
ヴァルキリーは空中に不思議な石をばら撒くと、そこからグールが現れた。ナタリアの放った閃光はヴァルキリーに当たらず、グールたちに命中、消滅させた。
「ちっ…!外したか!」
「上がガラ空きですよ!」
ナタリアが毒づいていると、頭上からヴァルキリーが槍を振りかぶってきた。ナタリアは咄嗟にレイザーブレイドでその攻撃を流した。
「はあああっ!」
しかし、ヴァルキリーの槍の威力は強く、その衝撃でナタリアの片手にあったアタッシュケースはその手から離れてしまった。
「な……っ!ケースが!」
「しまった…‼︎」
ナタリアはそれに気づくが、時は既に遅く、ケースは何処かに落ちてしまった。
それを見たヴァルキリーは戦闘を中断し、下へと滑空していった。
「まてっ!」
「よっと!」
ヴァルキリーを追いかけようとしたナタリアだが、突如襲いかかってきた斬撃をレイザーブレイドで受け止める。視線をそちらに向けると、そこには高いビルに一人の異形の姿がいた。
緑の身体、顔には目、口と思われる部分は見当たらない不気味な姿の異形は、その両手に双剣を持っていた。
「邪魔しないでよ、おねーさん♪」
「あんたは……っ!」
「僕はグレムリン。あ、気軽にソラって呼んでよ♪」
グレムリンと名乗る異形の存在は、そう言う。ナタリアはその名を聞いてヴァルキリーをけしかけた存在を確証する。
「あんたが、あのケースの中身を狙ったファントムか…!」
「うん♪僕は別に魔法使いが増えようがどうでもいいんだけど…ミサちゃんやユウゴがすごく怒るから仕方なくやったんだよ。でもラッキーだなぁ、おかげでこんなに綺麗なおねーさんに出会えたんだから。この後お茶でもしない?」
グレムリンの人を食ったような態度にナタリアは苛立ちを感じながらも言い返す。
「悪いが、あんたみたいな奴は私のタイプじゃないんだよ」
「そっかぁ〜、残念♪」
グレムリンは特に残念ではなさそうに言うと、その双剣をナタリアに振るい、ナタリアもレイザーブレイドをグレムリンに一閃する。
今日の授業が終わり、士道は鞄を片手に一人で『はんぐり〜』に向かって歩いていた。本来なら晴人たちとともに行くはずだったが、タマちゃん先生に教材を運ぶのを手伝ってほしいと頼まれたため晴人たちには先に行ってもらった。
「……ん?」
そんな時、士道は突然なにか固いものを蹴り飛ばしたような感じがした。
士道は視線を下に向けると、そこには銀色のアタッシュケースがあった。
誰かの落し物ならすぐに交番に届ける方が良いのだが、何が入っているのかという好奇心に負けてしまい、士道はそのケースを開けてしまった。
「なんだこれ?」
士道はその中身を見て目を丸くした。中に入っていたのは、なにやらベルトのバックルのようなものと、幾つかの指輪だった。ベルトの方はともかく、その指輪は形状こそ違うが、晴人たち魔法使いが使用するものと少し似ていた。
「これって……ベルト…なのか?」
士道はケースからベルトのバックルのようなものを手に取り、それを何気なく腰にくっつけると突然、バックルから銀色のベルトが出現して士道の腰にバックルが装着された。
「うおっ!」
士道は突然腰にベルトが出現したことに驚く。
その時、士道を取り囲むように10体程のグールが槍を構えて立ち並んでいた。そしてその間から、先ほどまでナタリアとの戦闘で追い詰められかけていたヴァルキリーが現れた。
「小僧!そのベルトを渡せ!」
ヴァルキリーはそう言うと、槍を士道に目掛けて振るう。
がーーー突然、ヴァルキリーの元に小さな影がぶつかった。それは、晴人の使い魔、レッドガルーダだった。ガルーダは士道を襲おうとするヴァルキリーに目掛けて何度も突進をする。
「ちっ!今度は魔法使いの使い魔か!」
ヴァルキリーがガルーダに気を取られている隙に、士道はその場を離れようとした。だが、周りを取り囲んでいたグールがそれをさせるはずがなく、士道の逃げ道を塞いだ。
『指輪を使え……』
「え……?」
士道はこんな状況だというのにも関わらず突然頭の中に響いたその声に動きを止めた。
『指輪』。士道はケースから取り出して手に握りしめていた指輪を左手に装着するが、それをどうすれば良いのかわからずベルトのバックルを触ってみる。
そこで、士道はバックルの左側面にシリンダーのようなものを見つけた。窪みの大きさからして指輪が合いそうだったので、士道は指輪をシリンダーに差し込んだ。
瞬間、士道の意識が遠のいた。
士道は、暗闇の中を彷徨っていた。
ファントムに襲われ、声が聞こえてベルトに指輪をはめ込んだことは覚えている。しかし、どうやってこの空間にやってきたのかは分からない。
だが、それでも士道は何故か何処に進むべきか分かっていた。道なき道なのに、頭の中に進むべきルートが入ってくる。そして、この道を歩き始めてからずっと手にした指輪を握りしめていた。
士道はまるで、それが道を教えてくれているように思えた。
「お前が…俺を呼んだのか?」
『ああ…俺がお前をここへと誘った』
歩き続けた士道はある場所へと辿り着き、声の主と邂逅する。その者の姿は、まさに奇妙という言葉が相応しい。
バッファロー、ファルコン、カメレオン、ドルフィンの意匠を持つ獅子。
『お前は確か、五河士道という名だったな』
「ああ、あんたは…?」
『俺の名はキマイラ。遥かなる古の時を封印という形で経た古代のファントムだ』
獅子のファントムーーキマイラはそう言う。士道はキマイラの言葉に内心驚いていた。『古代のファントム』、つまり遥か昔の時代に晴人たちのような魔法使いたちが栄えていたということだ。
『五河士道。お前は力を欲している。ウィザード…お前の兄である神代晴人の隣で戦える力を』
「…ああ」
『ならば…俺と契約しないか?』
「契約…?」
『俺がお前にそれに相応しい力を与える。ただ当然無償ではない。契約するのならリスクを背負う必要がある。お前には…その覚悟はあるか?後悔はないな?』
要約すればギブ&テイクと言うことだ。
キマイラの口調や雰囲気は覚悟のないものなら一瞬で気圧されてしまうものだった。
そう、『覚悟の無い者』なら。
「言われるまでもないよ。覚悟ならとっくに出来てる…。俺はどんなリスクも受け入れるさ」
『……なに?』
これには逆に尋ねたキマイラの方が拍子抜けしてしまった。
士道の返答は即答の上に強い覚悟が秘められている。
思わずキマイラが笑い出す。
『くくくくくく……ははははははははは‼︎』
「え…ええぇ?」
『いや、すまん。つい…な。やはりお前がここに来てくれてよかった。お前なら…信頼して力を与えられる』
キマイラの雰囲気が変わった。
豪胆で思いやりにあふれる雰囲気に。
そして、まるで士道を信じていたかのような言葉を発する。
『俺のリスクは正直言ってお前には軽いものだ。それすらを上回るメリットが付いてくるんだからな。』
「…キマイラ、リスクって一体なんだ?」
『簡単なことだ。お前の魔力を食わせてもらうだけ、要するに飯を貰うだけだ。ああ、心配するな。喰うつってもほんの少しずつだ。お前の命を奪うまではいかない』
「じゃあメリットって?」
『それは言うより実践したほうが良いだろうな…。それじゃあ…行くか!お前の始めての戦いにな‼︎』
キマイラの豪胆な宣言に士道は思わず微笑む。
「はああっ!」
一方、ガルーダからの報せでヴァルキリーたちのもとに駆けつけた晴人はウィザードに変身、何故か気を失っていた士道を取り囲んでいたグールたちと戦っていた。
ウィザードは華麗な体術でグールをなぎ倒し、ウィザーソードガンを使った射撃と斬撃で次第にグールたちを減らしていく。
「お前ら!なんで士道を狙う⁉︎」
ウィザードは倒れている士道を庇いグールの槍を受け止めながら、その後ろに控えていたヴァルキリーに問う。
「その小僧が我々にとって邪魔な存在になりかねないからです!そこをどきなさい指輪の魔法使い!」
「嫌だって言ってんだろ!」
ウィザードは最後のグールを倒すと、ヴァルキリー目掛けて駆け出す。剣と槍の剣戟が繰り広げられ、二人は一旦距離を取るために後ろに飛び退く。
そんな時、気を失っていた士道がよろよろと立ち上がった。
「士道!よかった無事だったか!」
「ああ…兄さん、こいつは俺が相手をする」
士道はウィザードにそう言うと、ヴァルキリーの前まで歩き出す。
「あなたが私の相手を?舐めてるのですか!」
士道の言葉に自分を馬鹿にしていると怒りを覚えるヴァルキリー。だが士道は一つも表情は変えない。そして、右手に装着していた指輪をベルトに翳す。
「舐めてなんていないさ。俺は、お前を倒す」
《ドライバーオン!》
「何っ⁉︎」
「士道…まさか…⁉︎」
「俺は…五河士道。そして……」
士道は左手に装着していた指輪をバックルのシリンダーに差し込む。
「変身!」
《セット!オープン!L・I・O・N!ライオン!》
指輪をベルトにセットしバックルが展開すると同時にその中に刻まれた黄金の獅子のレリーフから黄色の魔法陣が出現。
士道の身体を、異形の戦士の姿へと変化させた。
全身は黒と金の身体、獅子の頭部を模した緑の複眼を持つ黄金の仮面、左肩にある獅子の頭部の装飾が特徴的な異形の姿だった。
それは、古に生まれし魔法使い。その名はーーー
「古の魔法使い…ビーストだ!」
魔法使いに変身した士道ーーービーストはバックルから一本の剣を取り出す。
それは、ビーストの専用武器、ダイスサーベルである。
「はあぁ!!」
「ちぃ…!!」
ダイスサーベルを構えて突貫してきたビーストを受け止めるヴァルキリー。やはり戦闘が素人の士道との単純な力勝負ではヴァルキリーに軍配は上がるだろう。
単純な力勝負ならば、だが。
「力で負けているんだったら、こっちも力を足すまでだ!」
《バッファ・GO!バッバッバババ・バッファー!》
ビーストの魔法ーーーそれはキマイラの原型となった動物たちの力を行使する魔法。バッファローのマントに秘められた力は肉体強化。
その分の上乗せを受けたビーストはヴァルキリーをパワーで圧倒していく。
「何ぃ!?」
「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ビーストはダイスサーベルで強力な縦一閃を繰り出し、続けて強烈なタックルをヴァルキリーへと見舞っていた。
『これだけやれば充分だ。士道、決めてやれ!』
「頼むからいい出目であってくれよ…!」
ビーストはダイスサーベルのダイス部分を回転させる。
そしていい出目であってほしいと願いながらリングスロットにバッファリングを差し込んだ。
《2!》
『嘘ぉ⁉︎』
気合を入れたのはいいが結果はまさかの2。気の抜けた士道とキマイラの声が同時に辺りに響く。
「ああもう…こうなりゃやけだッ!!」
出目が少ないとビーストの必殺技、『セイバーストライク』は十分な威力を発揮できない。
だがそれでも、決め技としては不十分でも繋げ技に使用するぐらいはできる。ビーストは必要以上の魔力をダイスサーベルへと送った。
《バッファ!セイバーストライク!!》
「はぁ!!」
ダイスサーベルの一閃で出現した魔法陣からバッファローを象った魔力弾が出現。
ヴァルキリーへと突進し彼の動きを止めた。
「ぐぉぉ…!」
「今度こそ…決める‼︎」
ビーストはそう言うと、左手に装着した指輪を左側面にあるシリンダーに差し込む。
《キックストライク・GO!》
今度こそビーストは必殺の一撃を放つべくその体勢に入った。魔力を右足に集中させ一気に跳躍する。
ビーストが空中に浮かぶ魔法陣を通過していくごとに魔力の奔流も強くなっていく。
そして最後の魔法陣を通ったと同時に右足にキマイラの頭部を模した魔力が出現される。
その牙が狙うのはただ一つ。ファントムを、ヴァルキリーを喰らうことである。
「はああああああああぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
「ぐわあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎」
ビーストの『ストライクビースト』をくらい、ヴァルキリーは大爆発を起こしてそのまま消滅。
その時、ヴァルキリーに宿っていた魔力が黄色の魔法陣として浮き出てきた。
その魔方陣は吸い寄せられるかのようにビーストドライバーに飲み込まれた。
「成程…こうゆう感じで魔力を食うのか。」
魔力の捕食能力。
指輪の魔法使いのアーキタイプであるビーストはウィザードのように数多の魔法を行使できるわけではない。
だがそれを補う能力がこれだ。
倒した相手の魔力を喰らい自分の魔力へと還元する。
「これが……俺の魔法……」
ビーストは変身を解き、士道の姿に戻ると指輪を握りしめてそう呟いた。
だがその一方でウィザードは、士道が魔法使いになったということに色んな思いが入り混じり、これからどうなるのか頭を抱えた。