デート・ア・ウィザード〜絶望を希望に変える魔法使い〜 作:黒崎士道
少年ーー五河晴人はその日、弟の士道と共に妹の琴里の誕生日プレゼントを探しにデパートに出かけていた。
妹といっても、血の繋がった本当の妹ではない。記憶は曖昧だが、晴人と士道は両親に捨てられ路頭を彷徨っていた。
両親に捨てられたショックが大きかったのかその時の士道はいつ死んでもおかしくない状態だった。
晴人はそんな士道をなんとか支えていたがショックを受けていたのは晴人も同じだった。
だが、弟を不安にさせないためにも士道の前ではいつも明るく振る舞い士道を励ました。
そんなある日、二人はついに道に倒れこんでしまいそのまま意識を失った。
晴人が次に目を覚ましたのは見知らぬ部屋だった。その部屋に赤い髪の活発そうな可愛らしい少女とその父親と思われる男性が入ってきた。
男性によると、二人はこの家、五河家の近くの道に倒れていたところをこの少女の五河琴里が見つけて連れて来てくれたとのことだった。
男性に何故あんなところに倒れていたのかを尋ねられ、晴人は自分と士道は両親に捨てられ街を彷徨い続けていたことを告げると男性は二人にこの家の養子にならないかと提案された。
勿論晴人はそれを承諾し、士道と共に五河家の養子となり新しい家族と出会った。
それから二年後、士道は両親と琴里のケアによってなんとか立ち直り、毎日が楽しい日常だった。
そしてその日、両親は海外へ出勤のため、家にいなかった。
晴人は琴里の誕生日プレゼントを贈ろうと士道に提案しデパートへと向かった。
デパートに着いた二人はそれぞれでプレゼントを探そうということで別々に行動をした。
晴人は少女向けのグッズが並ぶコーナーに差し掛かり、琴里のプレゼントを見つけると士道を探しにデパート内を歩き回った。
だが、いつまで経っても、士道と遭遇することはなかった。
次第に不安が頭を過ぎり、士道に何かあったのかとますますその思いが加速していく。
そんな晴人を、絶望へと叩き落とす出来事が起こる。
晴人はふと、ガラス張りの窓を見ると、遠くの方に小さな紅い光が見えたと思ったら、それは急速に広がり、四方八方に膨張して炎を撒き散らした。
それだけならまだ衝撃だけで済んだかもしれない。だが、その炎が撒き散らした元凶が家の方面だったのだ。
「ッ⁉︎」
晴人は考えるよりも先に身体が動いていた。
もし士道がここにいないのなら家に帰っているはずだし、自宅には琴里が留守番をしていたはずだ。
それだけで晴人の中に最悪のシナリオが完成していた。晴人はすぐさま家のある住宅街に向かって全力で走る。
そしてたどり着いた先は、いつも目にしていた見慣れた住宅街ではなく、炎が燃え盛る地獄のような光景だった。
「琴里!士道!居たら返事をしろ!」
晴人の叫びも虚しく辺りに響き、返っては来ない。晴人は自宅を目指して全力疾走で駆け出す。
そして自宅付近に来たところ、炎の中に見覚えのある赤い髪と、青い髪が見えた。琴里と士道だ。
二人は炎の中で倒れていて琴里は妙な白い和装を纏っていた。晴人はすぐさま二人のもとに走り出した。
だが、その瞬間、二人の周りの炎が急に大きく膨れ上がると、炎は爆炎となり、晴人の身体はその衝撃で吹き飛ばされた。
「ぐああああああっ⁉︎」
晴人はコンクリートの壁まで吹き飛ばされた。
その際の衝撃で全身がひどく痛むがそれに構わず晴人は二人を助けるために立ち上がった彼が目にしたのは……。
「し、どう……?こと、り……?」
先ほど二人がいた場所が炎に包まれていた。炎のせいでよく見えなかったが、その光景だけで何が起きたのかを悟る。
その時、晴人の中で何かが壊れた。
「う、ああ……」
悲しみもある。理不尽に対する怒りもある。
だが、それ以上に晴人の心をを支配していたのは、目の前にいた大切な家族を救うことができなかった自分自身の無力さだった。
そんな時、晴人の身体に変化が起きた。
「が…⁉︎ああ……!」
突然全身に激痛が走り、身体中に無数の紫色の罅割れが発生していた。
罅割れだけでは収まらず、腕からは爪が、頭からは角が、腰からは尻尾が、背中には翼が出現した。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ⁉︎」
晴人を満たしていく絶望。彼の哀しさに塗られた咆哮は、龍龍の咆哮と重なっていく。
このまま晴人は、内なる龍に喰らい尽くされる。そう思っていた。だが……
『五河晴人…』
その時、晴人は自身の内に生まれた龍に呼びかけられた。
『お前は、このまま兄妹たちと交わした約束を踏み躙る気か…お前の最後の希望を思い出せ……』
「俺の、最後の希望…」
希望。その言葉が晴人の中で木霊する。そして思い出した。
彼が昔、士道と琴里に約束したある約束を。そして、彼の全身に現れていた罅割れがいつの間にか消えていた。
「………」
晴人は辺りを見渡すと、やはりまだ炎が周りのものを燃やし尽くしている。
晴人は立ち上がり、この状況をどうするべきか思案していると。
【へぇ……君、面白いものを宿しているね】
「⁉︎」
突然、背後からそんな声がかけられた。晴人は振り返ると、そこには『何か』がいた。
それはまるでノイズがかかったような姿だった。
【あの子たちに力をあげてから妙な力を感じると思ったら、まさか君のような面白い存在に会えるなんてーー私は運がいい】
晴人は恐怖で動けなかった。今すぐ逃げ出したくても、まるで射すくめられたように身体が動かなかった。
そうしている間にも、ゆっくりとそれは近づいてくる。
【丁度いい、君にも彼と同じ力をあげるよ。そうなれば私にとっても喜ばしいことだしね】
それは晴人に手を近づける。晴人はもうすでに疲弊で動くことすらできない。
そして、それの手が晴人の額に触れようとした瞬間。
《リフレクト・ナウ》
【ーーっ⁉︎】
晴人と何かの間に白く輝く魔法陣のようなものが出現し、何かはすぐさま後ろに飛び退いた。
晴人はその時、こちらに近づく人影に気がついた。
それは、異形の姿だった。白いマントを羽織っており、宝石のような琥珀色の仮面が輝いていた。
「……その子から離れろ」
【やれやれ、また君か…。まあ、いいや。今回は私の目的も果たせたし、ここで引かせてもらうよ】
何かは異形の人物にそう告げると、姿を消した。それを見届けた晴人は一気に体の力が抜けてその場に倒れた。
異形の人物はすぐさま倒れた晴人に駆け寄り、身体を抱きかかえ、その手を強く、優しく握った。
「生きてる…生きてる…!」
異形の人物はその姿を解くと、現れたのは黒いコートを羽織った男性だった。
その時の男性はあまりにも喜び、まるで救われたのは晴人の方ではなく、男性の方ではないかと思えた。
「よく…よく希望を捨てずに生き残ってくれた…ッ!ありがとう…!ありがとう…!」
男性のその声は、暗闇に希望が差し込んだような喜びに満ちていた。そして、男性は涙を流しながら言葉を続ける。
「君は…魔法使いになる資格を得た……君の名を、教えてくれないか?」
「五河…晴人」
これが晴人と白い魔法使いーー神代切嗣との運命の出会いであり、彼が魔法使いとして戦う物語を紡ぐに至った序章である。