デート・ア・ウィザード〜絶望を希望に変える魔法使い〜   作:黒崎士道

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四糸乃パペット
雨の日の少女


士たちと共に戦ったあの日から数日が経った。

晴人はわずかな時間でも共にいた士との思い出をを大切にしようと、あの戦いを忘れずにいることを決めた。

 

「ハルト!シドー!クッキィと言うのを作ったぞ!」

 

腰まである夜色の美しい髪をなびかせ、水晶のように美しい瞳を輝かせながら十香が晴人と士道の目の前に容器をずいっと突き出す。

 

「え?クッキー?」

 

「うむ!」

 

晴人は『突然どうした?』言うように目を丸くするが、そこであることを思い出す。

 

「ああ、そうか。今日はクッキーを作ったのか」

 

本来晴人たちと十香は同じクラスだが、今日の家庭科は個人の作業量を充実するようにという理由で実験的に男女別々に調理実習をやったのだ。それで今日は十香達女子の番だったというわけだ。

 

「うむ!コヨミや皆に教えてもらいながら私がこねたのだ!食べてみてくれ!」

 

十香は満面の笑みを浮かべてそう言う。士道が容器の中を覗き込むとそこには可愛らしい動物の形をしたクッキーが入っていた。

 

「そんじゃまあ、お言葉に甘えて……」

 

「お、俺も……」

 

晴人は背後に感じる他の男子の嫉妬の視線を軽く受け流しながらクッキーを手に取る。士道もクッキーを手に取り、口に運ーー

 

「っ⁉︎」

 

ぼうとした瞬間、銀色の何かが一直線に士道がもっていたクッキーを粉砕し、そのまま壁に突き刺さる。

 

「な……なんだ……ッ⁉︎」

 

士道が目を動かしてその何かを見やる。

どうやらそれはフォークのようだ。シンプルなデザインから恐らく調理室の備品。

 

「ぬ、誰だ!危ないではないか!」

 

十香が叫び、フォークが飛んできた方向、廊下にの方に顔を向け、士道もそれにつられるように向ける。晴人と士道も視線をそちらに向ける。

 

 「………」

 

そこにはついさっき何かを投擲したように右腕を伸ばしている折紙がいた。おそらくフォークを投げたのは折紙だろう。

 

「と……鳶一?」

 

「ぬ」

 

「お、これうまい」

 

士道は頬に汗をひとすじ垂らし、十香は不機嫌そうに眉根を寄せ、晴人は呑気に十香のクッキーを堪能していた。

折紙はそんな三人の元に歩いてくると左手に持っていた容器を取出し、それを士道の机の上に置く。

そこには工場で製造されたのかと思うほどの完璧に規格の統一されたクッキーが並んでいた。

 

「夜刀神十香のを食べる必要はない。食べるならこれを」

 

「え、ええと・・・・」

 

「邪魔をするな!シドーは私のクッキィを食べるのだ!」

 

「五河士道は私のものを食べるべき。あなたは神代晴人にでも食べさせればいい」

 

士道が反応に困っていると十香がブンブンと腕を振りながら声を上げる。

 

「そもそも、お前のクッキィがうまいはずが・・・・・」

 

そう言い十香が折紙のクッキーを口に運ぶと、サクサクと咀嚼しーー

 

「ふぁ・・・・・・」

 

頬を染めて恍惚とした表情を浮かべる。どうやら美味しかったようだ。

だが十香はすぐにハッとした様子で首を横にブンブンと振る。

 

「ふ、ふん、大したことないな!ハルトとシドー!こんな奴はほっといて早く私のクッキィを食べるのだ!」

 

「五河士道は私のを食べるべき」

 

そのまま二人がずずい、と士道に詰め寄ってくる。

士道は晴人に助けを求めようと視線をそちらに向けるが。

 

「おお!懐かしいなこの味」

 

「うん、昔三人で一緒に食べたのを作ってみたの。ちょっと自信ないけど…」

 

「全然、あの頃と変わってないって。……そういえば、あいつ元気かなぁ」

 

晴人の方は今度はコヨミの作ったクッキーを堪能しながら何かを懐かしんでいたため、それに気がつかない。

 

「う……」

 

士道は呻き、身をのけ反らせるが、二つのクッキーに視線を落とすと、両手でそれぞれのクッキーを手に取り、同時に口に放り込む。

 

「う、うん、どっちも美味いぞ二人とも!」

 

「私の方がちょびっと早かったな」

 

「私の方が、0・02秒早かった」

 

二人は同時にそう言った瞬間、十香は折紙を睨み、彼女も睨み返す。

はあ、と士道は疲れ切った深いため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校が終わり、降りしきる雨の中を士道は傘も差さず走っていた。頭を申し訳程度に鞄で守っているが、気休めにしかならない。

 

「ったく、最近の天気予報外れすぎだろ。今日は天気予報では晴れるって言ってたじゃないか」

 

そう吐き捨てながら士道は走っている。その隣には十香と晴人はいない。

十香の方はフラクシナスの居住空間に住んでいるので回収してもらい、もう帰宅しているのだ。

そして晴人の方は、士道が帰宅しようと思った時にはもう先に帰宅したようだった。

 

「っと、ちょうどよかった」

 

士道は左手に神社を見つけるとそこに入り、その中の大きな木の下に入り雨宿りをする。

 

「しっかし、最近の天気は予測が出来ないなあ。兄さんみたいに魔法でいつでも傘が取り出せたらいいんだけどな」

 

そう苦笑しながら呟く士道だがーー

 

「ん……?」

 

水音がはねる音が聞こえ、目を向ければ、そこには水たまりで遊ぶかのようにはねている少女がいた。

緑色のウサギの耳のような飾りのついたフードつきのレインコートを着ている。

そして、その左手にはいやにコミカルな右目に眼帯を付けたウサギのパペットが付けられている。

 

「なんだ……?」

 

士道が首を傾げていると、次の瞬間、目に映った光景に士道は呆然と目を見開いた。

……少女が、コケたのだ。盛大に地面に身体を打ち当て、左手からパペットが吹っ飛び、うつ伏せになったまま動かなくなる。

 

「あ、おい!大丈夫か!?」

 

士道が慌てて駆け寄り、少女を助け起こす。

少女は青い髪を揺らし、同じ色の青い瞳に士道を映した瞬間、ズザザザザザザ!と一気に距離を取る。

 

「あ、おい。どうしーー」

 

「……!こ、こないで……ください……っ」

 

「は?」

 

士道が足を前に踏み出すと、少女は怯えるように身を振るわし、

 

「いたく、しないで・・・・・・ください・・・・・・」

 

一体どうしたのだろうかと士道は首を捻る。と、自分の足元にパペットが落ちているのに気付くとそれを拾い上げ、少女に示してやる。

 

「これ……君のか?」

 

「……!」

 

その瞬間、少女は大きく目を見開き、士道の駆け寄ろうとするが、不意に足を止めるとじりじりと間合いを測る。

その様子に士道は軽く息を吐くと、パペットを持った手を突き出すようにして、ゆっくりと距離を詰めた。

少女はビクッと肩を揺らすが、ゆっくりとすり足で近づくと士道の手からパペットを受け取ると、それを左手に装着する。

 

『やっはー、悪いねおにーさん。たーすかったよー』

 

腹話術だろうか、パペットがパクパクと口を動かすと、ウサギが妙に甲高い声を発する。

 

『ーーぅんでさー、起こしたときによしのんのいろんなトコ触ってくれちゃったんだけど、どーだったん?』

 

「は、はあ……っ?」

 

パペットはカラカラと笑いを表現するように身体を揺らした。

 

『またまたぁー、とぼけちゃってこのラッキースケベぇ。……まぁ、一応助け起こしてくれたわけだし、特別にサービスしといてア・ゲ・ルんっ』

 

「……あ、ああ、そう」

 

『ぅんじゃあね。ありがとさん』

 

と、パペットがそう言うと同時、少女が踵を返して走り去ってしまう。そしてそのまま曲がり角を曲がり、すぐに姿が見えなくなってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

士道は自宅の前に辿り着くと、玄関には晴人が以前に士道が渡した五河家の合鍵を使って玄関を開けようとしていた。

 

「あれ、兄さん?」

 

「ん?ああ、士道か」

 

晴人はどうやら先日のディケイドたちとの戦闘のことなどについて話があるとのことで琴里から呼び出されたらしい。

取り敢えずは玄関に入り、二人は家の中に上がる。

 

「ちょっと待っててくれ、風呂場からタオル持ってくるから」

 

「ああ、悪いな」

 

士道はそう言って風呂場に向かっていく。晴人も少し濡れてきたので身体を拭きたいと思っていると、突然鈍い音が鳴り響いた。

 

「出ていけ……っ!」

 

「ぐぇふッ……⁉︎」

 

晴人は一体何事かと思い、音のした浴室の方へと向かうと士道が床の上で伸びていた。

 

「どうした、何があったんだ!?」

 

晴人が士道の体を動かすとうめき声を漏らすだけであった。何が原因なのか周囲に視線を向けるとバスタオル巻いた十香が立っていた。これで士道はラッキースケベだということを察した。

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