デート・ア・ウィザード〜絶望を希望に変える魔法使い〜   作:黒崎士道

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共同任務、開始

「ん……うぅん……」

 

ベッドの上で軽く背筋を伸ばし十香は小さく呻く。

目には窓から差し込む朝日が、耳には小鳥のさえずりが聞こえてくる。

 

「むぅ……もう朝か……」

 

十香はそう呟くと寝返りを打つが、不意に手に何かがふれる。

枕とも布団とも違う何かに十香は眉をひそめ、その何かを見やる。

 

「な……は、ハルト⁉︎」

 

そこにいたのは、自分を救ってくれた魔法使いの少年、晴人だった。

 

「な、何故ハルトがここにいるのだ⁉︎」

 

十香はそう言うが気持ち良さそうに寝ている晴人はそれに応えない。そこで十香は晴人の寝顔を覗いてみた。

普段とは違い、寝ている時の晴人は無邪気と言っていいほどのあどけなさがある。

しばらく眺めていると急に晴人が手を挙げた。そのまま何かを探すように手が宙を彷徨う。

十香は何となくその手を握った瞬間。

 

「え?うわぁっ‼︎」

 

突然、物凄い力で引き寄せられたと思うと、十香はベッドの中で晴人に抱きしめられていた。

 

「は、ハルト⁉︎一体何をーー」

 

「ん……」

 

晴人は小さなうめき声を上げながらより十香を抱きしめる力を強くした。どうやら寝ぼけているようだ。

十香はとりあえず状況を確かめてみる。

ベッドの中で向き合って寝ており、十香の顔は晴人の胸に埋めるような形になっている。

また、離れようとすると力が強くなる。どうやら逃がしては貰えないようだ。

 

「士道…琴里……ごめん………」

 

その時、晴人は小さくそんな言葉を口から漏らしていた。

その言葉はあの時自分を救ってくれた希望に満ちた彼からは想像できないほど弱々しいものだった。

瞼から涙が流れる晴人の身体を、十香はそっと、優しく抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……」

 

晴人は朝日を感じゆっくりと意識を覚醒させる。気持ちのいいはずの目覚めは何とも嫌な気分だった。

今日は久しぶりにあの時の夢を見てしまった。五年前のあの日、士道と琴里が業火に飲み込まれていく夢を。

だが、士道も琴里も生きていた。もうこんな夢にうなされる必要はないというのに。

 

「ハルト……大丈夫か?」

 

晴人はゆっくりと目を開けると、そこには十香の美しい貌があった。

 

「…………え?」

 

晴人の思考が停止した。ちらっと部屋を見渡すと、そこは晴人の部屋ではなかった。そして目の前には十香がいて、今の自分は十香と抱き合っている体勢になっている。これが意味することはつまりーーーここは、十香の部屋ということだ。

 

「と……っ、十香⁉︎な、なななななんで俺はここにいるんだ⁉︎」

 

「い、いや…それは私が訊きたいのだが……」

 

「ならどうしてここに……って、待てよ。まさか……」

 

そこで晴人はすぐに思考を巡らせた。確か昨日はちゃんと自分の部屋で寝ていたはずだ。そして目が覚めたら十香の部屋にいた。晴人は眠りが深い方なので、寝ぼけてこの部屋に来たということはあり得ないはずだ。

つまり、そうなると犯人は限られてくる。おそらくは琴里の仕業だ。

 

「わ、悪い十香!すぐに出てくからーーー」

 

「いや、いいのだ。それよりハルト、何か怖い夢でもみたのか…?」

 

「え……?」

 

十香の言葉に部屋を出て行こうとした晴人の動きが止まり、十香の方を振り向いた。

 

「先ほど寝言で、ハルトがシドーたちの名を呼んで涙を流していたから……それで、シドーたちに謝っていた時のハルトの顔が悲しそうだったから……」

 

晴人は先ほどの寝言を聞かれたのかと思い、十香を不安にさせないように笑顔を作る。

 

「あ、ああ、ちょっと昔の夢を見てて、その時のこと思い出して懐かしかったからさ。何も心配ないよ」

 

「……本当か?」

 

「本当だよ。心配かけて悪いな」

 

「ん……そうか。ハルトがそう言うなら信じよう。でも、何かあったら言ってくれ」

 

「……ああ、ありがとう」

 

そう言うと、晴人は十香の部屋を後にする。そして晴人は部屋に戻ると、中にはガルーダたちが晴人を出迎えてくれた。

 

「しっかりしないとな……俺も」

 

晴人は一人そんなことを呟きながら、近づいてきたゴーレムの頭を撫でる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーう五河、神代、おはよう」

 

「ああ、おはよう殿町、ってなに持ってるんだ?」

 

その日の朝、学校の教室に入った殿町を見て晴人は眉を寄せる。なぜなら殿町は何かを深刻そうに眺めていたのだ。見ればそれはマンガ雑誌巻末のグラビアページだ。

 

「ああ、これか。ーーそうだ、五河と神代にも聞いておきたいんだが……」

 

「な、なんだ?」

 

士道が問い返すと、殿町はいつになく真剣な様子で言葉を続けてきた。

 

「ナースと巫女とメイド……どれがいいと思う?」

 

「……は?」

 

謎の問いかけに士道は抜けた声を発する。

 

「読者投票で次号のグラビアのコスチュームが決まるらしいんだが……悩むんだよなあ」

 

「……ああ、そう」

 

士道はそのまま自分の席に向かって歩いていくがその肩を殿町はがっちりと掴んでくる。

 

「まあまて五河。お前はどれだ?俺としてはナースなんだが……」

 

「え、ええと……じゃあ……メイド……?」

 

「それなら俺もメイドさんかな」

 

士道と晴人がそう答えると、殿町がぴくりと眉を動かした。

 

「ど、どうした?」

 

「ーーまさかお前たち兄弟が二人揃ってメイド好きだったとはな!悪いが俺たちの友情もここまでだ!」

 

士道と晴人はそれを聞くと、そのまま自分たちの席に歩いていく。

 

「あっ、おい、どこ行くんだ五河、神代!」

 

「俺たちの友情はここまでなんだろ?元気でな殿町、お前のことは忘れないよ」

 

「なんだよ神代、ノリが悪すぎだろおーい。メイド好きとナース好きが手を取り合う。そんな世界があってもいいとは思いませんかー」

 

「悪いが知らん」

 

晴人はそう言って自分の席に座る。その際、すでに晴人の前の席に着いていたコヨミが晴人の方を見た。

 

「おう、おはようコヨミ」

 

「うん、おはようハルト。えっと…ハルトはメイドさんが好きなの?」

 

「えっ…?あ、いや、別に俺がメイド好きってわけじゃなくてーーー」

 

先ほどの会話を聞いていたのか、そう訪ねてくるコヨミの誤解を解こうとすると同時に教室のドアが開き、十香が入ってきた。

今現在同じ家で暮らしている三人だが、一緒に登校して妙な噂が立っても面倒なだけだ。なので登校時間をずらしている。

十香は晴人の右隣の席に座り、晴人たちに目を向けると、

 

「む、おはようだ。ハルト、シドー、コヨミ」

 

「おう、おはよう十香」

 

「おはよう。十香」

 

「おはよう十香ちゃん」

 

打ち合わせ通り、と晴人は内心で頷く。登校時間をずらし、そしてきちんと挨拶を交わす。完璧だ。絶対に晴人たちと十香が一緒に住んでいるという事はクラスの全員にばれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、四時間目終了後の昼休みーーー

 

「ハルト!シドー!昼餉だ!」

 

「………」

 

晴人と士道の机の左右からがっしゃーん!という音とともに机がドッキングされた。

晴人の右は十香、晴人の隣にいる士道の左は折紙の机である。

 

「……ぬ、なんだ貴様。邪魔だぞ」

 

「それはこちらの台詞」

 

晴人と士道を挟んですぐに二人がバチバチと視線をぶつけ合わせる。

 

「えっと、ほら!みんなで食べよう!うん、それがいいよ!」

 

コヨミは十香の隣に机をくっつけてそう言うと二人はしぶしぶといった様子で席に着く。

はあ、と士道は息を吐く。これでも最初の事よりは随分とマシだ。

十香が転校してきた当初はもう今すぐにでも取っ組み合いのけんかをおっぱじめようという雰囲気というか実際起こりかけた。それを士道が説得しようと二人の間に入って撃沈させられることでどうにか今の事態に落ち着いた。

で、五人はそれぞれ自分の弁当を取り出し蓋を開けるのだが、それがボロだった。

折紙はほんの少し目を見開いて士道と晴人、十香の弁当を見る。

その中身は全く同じメニューになっていた。

げっ!と晴人が呻くのよそに事の重大さに気づいていない十香は弁当を凝視する折紙に怪訝そうなまなざしを向けるだけだ。

 

「む、なんだ。そんな目で見てもやらんぞ」

 

「どういう、こと?」

 

「あ、こ、これは……そう、朝に兄さんと弁当屋で買ったものなんだ。偶然十香もそこに……」

 

「嘘」

 

そう言うと折紙は士道の弁当箱の蓋を手に取る。

 

「これは今から百五十四日前、あなたが駅前のディスカウントショップで千五百八十円で購入したのち使用し続けているもの。弁当屋のではない」

 

「え……?なんで鳶一がそんなこと知ってんの?」

 

「それは今重要ではない」

 

「いや、すごく重要だよ⁉︎俺の弟のプライベートどこまで把握してんの⁉︎」

 

折紙の問題発言に晴人は思わず抗議する。その横では十香が不満げに頬を膨らませていると、その時。

 

ウウウウウウウウウウウウウウウウーーーー

 

街中にけたましい空間震警報が鳴り響いた。警報が鳴り響いた瞬間、ざわついていた教室が水を打ったように静かになった。

 

「…………」

 

空間震警報が鳴り響くと折紙は一瞬逡巡するようなそぶりを見せながらも即座に席を立つと一瞬で教室を出ていく。

晴人はそれをじっと見つめていた。

彼女はASTとして戦場に向かったのだろう。精霊を殺すために。

 

「……みんな、警報だ。すぐ地下シェルターに避難してくれ」

 

教室の入り口から響いた声に振り返れば、そこには令音が廊下の方に指を向けて立っていた。

生徒たちはごくりと唾液を飲み込むと次々と廊下に出ていく。

 

「ぬ?ハルト、一体みんなどこに行くのだ?」

 

十香がそんなクラスメイトたちの様子を見て首を傾げる。

 

「ああ、シェルターにだ。学校の地下にあるんだ」

 

「シェルター?」

 

「とにかく、説明は後だ。俺たちも行くぞ」

 

「う、うむ」

 

十香は食べかけのお弁当を名残惜しそうに見つめていたが、しっかりと晴人の後についていく。

そのまま廊下に出ようとしたところで。

 

「……シン、ハル。君たちはこっちだ」

 

令音が士道と晴人の首根っこを摑まえる。

 

「……まさかここからフラクシナスに行くって言うんじゃあ……」

 

「……そのまさかだ。それに、ハルの様子だとうすうす気づいてるかもしれないが、それでも知っておいてほしいんだ。精霊とそれを取り巻く現状を」

 

令音が他の生徒に聞こえないように声を潜めながら言ってきた。

 

「わかりました……俺は最初から助けるつもりでしたし、ちゃんと認識しておきます」

 

「……俺も、兄さんと同じです」

 

「……そう言ってくれると助かる。さあ、急ごう。空間震までもう間もない」

 

令音は他の生徒たちが全員列に並ぶのを確認すると昇降口の方に向かう。

 

「……ああ、そうだ。十香はみんなと一緒にシェルターに避難させてしまおうと思う」

 

「え?いいんですか?」

 

晴人の言葉に令音は頷く。

 

「……ああ。力を封印された状態の十香は人間とそう変わらない。それに精霊とASTの戦いを見て自分の時のことを思い出されてしまっても困る」

 

「なるほど……でもどう説明するんですか?」

 

士道がそう尋ねたところで、廊下の奥の方からタマちゃん先生が走ってきた。

 

「ほ、ほら、五河君と神代君に夜十神さんに村雨先生!そ、そこで立ち止まらないでください!早く避難しないと危険が危ないですよ!」

 

 慌てふためいてるせいで言葉が支離滅裂な珠恵先生に晴人はツッコミを入れたくなった。

 

「……ん、捕まっても面倒だね。行こうか」

 

「は、はい」

 

令音の目配せに晴人は頷くと十香の手を取りそれをタマちゃん先生に預ける。

 

「先生、十香を頼みます!」

 

「ふぇ?あ、は、はい。それはもちろん」

 

「ハルト……?」

 

十香が不安そうに晴人を見つめる。

 

「十香、いいか。先生と一緒にシェルターに避難するんだ。俺はちょっと大事な用があるんだ」

 

「ど、どういうことだ、ハルト?ってあ、ハルト!」

 

「神代君⁉︎五河君に村雨先生まで⁉︎一体どこへ⁉︎」

 

心配そうな二人の声を背中に聞きながら晴人と士道と令音は校舎の外へと飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、来たわね三人とも。もう精霊は出現してるわ。令音は準備をお願い」

 

士道と晴人、令音がフラクシナスの艦橋につくと艦長席に座った琴里がそう言ってくる。

令音はすぐさま艦橋下段のコンソールの前に座り込む。

士道と晴人が艦橋のモニターに目を向けるとそこには降りしきる雨の中、隕石でも直撃したかのようなクレーターと吹き飛ばされ尽くされた街並み、そしてそのクレーターのど真ん中に佇む少女の姿が写っていた。

その少女を見た瞬間、士道は大きく目を見開く。

そこにいたのは緑色のウサギの耳のような飾りのついたレインコートを着て、左手にコミカルなウサギのパペットをつけた青い髪の少女だ。

それは紛れもなく、士道が昨日学校から帰る途中で出会った少女だ。

 

「俺ーーこの子を知ってる……」

 

「何ですって?いつの話よ」

 

士道の言葉に琴里は眉を寄せる。

 

「昨日の帰りだ……っ、神社で雨宿りしていた時にーー」

 

「昨日の一六〇〇時から一七〇〇までの霊派数値を調べて。大至急!」

 

そうするとすぐにデータが出たのかそばに立っていた神無月が手元の端末を見ながら呟く。

 

「主だった数値の乱れは認められませんね……」

 

「と、いう事は十香の時と同じ静粛現界か……」

 

するとフラクシナス艦橋のスピーカーからけたたましい音が轟く。

 

 「……⁉︎なんだ⁉︎」

 

「そりゃ、精霊が現れたんだもの。仕事を始めるのは私だけじゃないでしょう」

 

「まさか……ASTか」

 

「ええ」

 

琴里がそう呟くと画面の少女いたところが煙で渦巻いている。ミサイルか何かでも撃ちこんだのだろう。

そして周囲に物々しい機械で身を包んだASTの人間が浮遊している。

すると煙を引き裂き、地面を吹き飛ばして少女は宙を舞う。

その少女目掛けてASTの隊員たちはその手に持った武器でおびただしい量の弾薬を放つ。

だが、その少女はそれらをひたすら回避するように飛び回り、一切反撃しようとしない。晴人はその光景に疑問を覚える。

 

「……どういうことだ?なんであの子は反撃しないんだ?」

 

「ええ。いつもの事よ。《ハーミット》……あの精霊の識別名だけど。彼女は基本反撃しない。精霊の中でも極めて大人しいタイプなのよ」

 

「……っ、ならーーー」

 

「ASTに情けを求めるなら無駄だと思うぞ。できるならとっくに十香が救われてるよ」

 

士道の言葉を晴人が遮った。そうだ、確かにあの少女の気性や性格なんてASTには関係ない。彼女たちはただ、この世に害をなす敵を討っているだけなのだ。

もし説得が可能なら、十香の件で晴人がとっくにしているはずだ。

 

「……琴里、精霊の力を封印できれば、あの子はASTに狙われなくなるんだよな?」

 

「ええ」

 

「そして俺達は、精霊の力を封印することができる……」

 

「十香の現状を見ても信じられないなら疑っても構わないわ」

 

その時の士道の目には、決意のようなものが感じられた。士道はポケットからビーストウィザードリングを取り出し、それを握り締めると、口を開く。

 

「……手伝ってくれ琴里、俺はあの子を助けたい……!」

 

「士道。『俺は』じゃないだろ?」

 

そこで晴人は士道の言葉を訂正する。

 

「『俺達は』……だろ?」

 

晴人は左手のフレイムウィザードリングを見せるように左手を突き出し、微笑む。

 

「兄さん……ああ!」

 

「ふふ……それでこそーー私のおにーちゃんたちよ!」

 

二人の決意に琴里は微笑む。

そしてモニターに向き直すと、声高らかに叫ぶ。

 

「さあ……私たちの戦争(デート)を始めましょう!」

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