デート・ア・ウィザード〜絶望を希望に変える魔法使い〜   作:黒崎士道

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ファントムを超えた者

空間震により一時的に真っ暗になっている天宮市のデパート。そこにはコミカルなウサギのパペットを持ったフードの少女がタッタッと走っている。少女はデパートの中にある大きな柱の後ろに隠れると、キョロキョロと辺りを見回しながらふうっと落ち着く。

 

「ここ、まで……来れば……」

 

少女は息を整えながら柱に身を潜める。だが少女はまだ安心することができない。少女は先ほどASTからの攻撃を逃れ、なんとかこのデパートの中に逃げ込んだのだが、その後、異形の怪物に追いかけられていたのだ。

少女はその事が怖いのか体が小刻みに震えている。

 

「楽しい鬼ごっこの時間はそこまでです。《ハーミット》!」

 

突然、そんな声がデパート中に響き渡った。その声に少女はさらに全身を震え上がらせる。そして気がつけば、その異形の怪物が目の前に立っていた。

長く尖った帽子を被ったような頭部を持ち、両腕には刃物のような突起が付いている。身体の色は茶色で尖った頭部、肩、爪先があるファントム、ノームだ。

 

ノームは手にした槍を少女に向けると、その鉾先を少女に振り下ろす。少女は咄嗟に目を閉じるが、鉾先はいつまで経っても少女に当たらない。少女は目を少し開くと、その顔の横に鉾先が突き刺さっており、ノームが少女に近づいている。

 

「さあ、死への恐怖に絶望なさい!」

 

「……ひっ、ぃ……っ」

 

このままでは殺されてしまう。だが、少女は恐怖で動くことができない。槍の鉾先が引き抜かれ、冷たい感触が少女の頬に伝わる。

 

「ぐぁっ⁉︎」

 

その時、突然銃声とともにノームの背中に火花が散った。突然の出来事に少女は驚き、その奇襲の正体を探そうと辺りを見回す。

 

「そんな小さな子相手に脅しはどうかと思うぜ?」

 

不意にノームの後ろからそんな声が聞こえたので少女はそちらを見る。

そこには、ウィザーソードガンをノームに向けて構えていた晴人と士道がいた。

晴人の姿を見たノームは忌々しげに言い放った。

 

「くっ…あなたが指輪の魔法使いですか!」

 

「ま……ほう、つかい……?」

 

少女はそう呟く。晴人は前へと進み、ベルトにドライバーオンウィザードリングを翳す。

 

《ドライバーオン・プリーズ♪》

 

「兄さん、俺もーー」

 

「いや、士道はあの子を頼む。すぐに終わらせる」

 

晴人は戦いに参戦しようとする士道にそう言う。そしてウィザードライバーのシフトレバーを操作し、ハンドオーサーを左手側に傾ける。

 

《シャバドゥビタッチ・ヘーンシーン♪シャバドゥビタッチ・ヘーンシーン♪》

 

「変身!」

 

《フレイム・プリーズ♪ヒー♪ヒー♪ヒーヒーヒー♪》

 

晴人はフレイムウィザードリングをハンドオーサーに翳すと、魔法陣を目の前に展開させる。そして魔法陣に向かって駆け出し通過すると、晴人はウィザードへと変身する。

 

「……⁉︎」

 

「邪魔しないでください!」

 

晴人の変身に少女は驚き、ノームはこちらに向かって駆け出すウィザードに向かって槍を横薙ぎに振るうが、ウィザードはそれを下に掻い潜ることで回避する。

続けて振るわれる槍をウィザーソードガンで防ぐ。

 

「さあ、ショータイムだ!」

 

ウィザードはそう言うと、ノームの槍を払いウィザーソードガンで斬りつける。そして間髪入れずにノームに向かって飛び蹴りを放つ。

 

「ぐあっ!」

 

それによって吹き飛んだノームは商品棚にぶつかり、棚から商品が崩れ落ちていく。ウィザードは更にノームを斬りつけ、腹を蹴り飛ばす。

ダメージをくらったノームはその場から逃げ出し、ウィザードもその後を追う。

そしてノームが逃げ込んだのは水着売り場だった。ウィザードとノームの剣戟によってマネキンたちが次々と真っ二つに斬り裂かれる。

ウィザードはノームに追い打ちをかけようとした時、ノームはウィザードに向けて光弾を放った。

 

「ふん!」

 

「ぐああっ!」

 

光弾をまともにくらったウィザードはその場で膝をつき、フレイムウィザードリングを別の指輪に付け替える。

 

《ウォーター・プリーズ♪スイー♪スイー♪スイースイー♪》

 

左手を天に向けるように掲げると、頭上に水の滴る青い魔方陣が出現する。

魔方陣が晴人を透過し、赤い姿から青い姿へと変わる。

円形だった赤い仮面も、雫をイメージした青い菱形に変形している。

晴人はフレイムスタイルから、水を司るウォータースタイルにスタイルチェンジしたのだ。

 

ウィザードはノームに目掛けて走り出す。対するノームもウィザードに槍を振るった。だがその直前、ウィザードはハンドオーサーにある指輪を翳す。

 

《リキッド・プリーズ♪》

 

そしてノームの槍の一閃がウィザードを捉えた、と思われた。

 

「なッ……!?」

 

しかし、ノームが見せた反応は驚愕だった。

目の前でウィザードの身体が水のように液状化し、斬撃をすり抜けたのだ。

一瞬の出来事だったが虚を突くのは十分だ。身体を液状化したウィザードはノームの全身に纏わりつく。

何とかして振りほどこうともがくノームだが今のウィザードの前では徒労に終わってしまう。関節技で無理やり押さえつけて身体を実体化させると、ウィザードは巴投げの要領でノームを投げ飛ばした。

 

「がはあっ!」

 

地面に叩きつけられたノームはその場に膝をついた。ウィザードは止めを刺すべく、ノームにウィザーソードガンを振り下ろそうとした瞬間、突然ウィザードの背中に強い衝撃が走り、ウィザードはその場から吹き飛ばされた。

 

「ぐああああっ⁉︎」

 

「これ以上はやらせんぞ。ウィザード」

 

ウィザードは声のした方に見る。

そこには黒い鬣に白い獅子の頭部を持ち、身体に赤白い屈強な鎧の様なのを身に纏っているファントムがいた。

そのファントムが纏う雰囲気は、これまでのファントムとは比べ物にならないほど禍々しいものだった。

 

「大事ないか?ノームよ」

 

「お、おお…バロン様。なんともありがたきお言葉を……」

 

ノームはバロンと呼ばれたファントムに跪き、そんなことを言った。明らかに先ほどまでと態度が違う。

 

「ぐ…っ、お前は……?」

 

「俺はバロン。ファントム、『エクシード』の一人だ」

 

「エクシード……?」

 

ウィザードは聞きなれない言葉にバロンに訊き返す。その様子を見たバロンも訝しげな様子でウィザードを見た。

 

「……貴様、白い魔法使いの弟子だというのに『エクシード』の存在も知らんのか?ならば教えてやろう。貴様は、ファントムはゲートと呼ばれる人間から生まれるということは知っているな?」

 

ウィザードはバロンの問いに頷いた。

ファントムとは、魔力を持つ人間ーーゲートと呼ばれる存在が絶望する際に生まれる異形の怪物だ。そのことはウィザードも知っている。

 

「ならば………そうやって人の心のまま、ファントムを生み出したゲートがいるように……人の心を残したままファントムの姿になった者がいたとしてもおかしくはあるまい?」

 

バロンの言葉にウィザードは驚愕した。本来、ファントムとはゲートの全てを奪うことで生まれる。

だがバロンの言う通りなら、人間だった頃の心を保ったまま……つまり、ファントムの侵食に打ち勝ち、ファントムになった者がいるということだ。

 

「そんなの…ありえないだろ……」

 

確かにそれはありえないと言える。晴人も絶望を乗り越え、誕生しようとしたドラゴンを己の中に封じ込めることで魔法使いとなったが、絶望しファントムに打ち勝ってなお、そのままファントムになるなんて聞いたことがない。

 

「ありえないも何も、俺が証拠だ。だが…俺以外ではあと数人ほどだがな」

 

「じゃあ、お前たちは特別だってことか?」

 

「そうだ。そうやって、俺たちのように人の心を残し強大な力を持つファントムのことを『エクシードファントム』と呼ぶらしい」

 

「……なら、そんなファントムさんが何でこんなとこにいるんだよ?」

 

ウィザードは皮肉っぽく尋ねたが、バロンはそれに淡々と答えた。

 

「理由は二つだ。一つは、精霊のために戦うという魔法使いがどんな奴か気になったこと。もう一つは、《ハーミット》を絶望させることだ」

 

「……悪いな。させねぇよ」

 

バロンの言葉にウィザードはゆらりと立ち上がり、ウィザーソードガンを構える。それを見たバロンはノームを下がらせ、ウィザードの前に立つ。

 

「……いいだろう。少しばかり相手をしてやる」

 

バロンはそう言うと、両腕に装備した手甲に備わる三本のクローを構える。

 

「はああああっ‼︎」

 

ウィザードは真っ先にバロンに向かって駆け出し、ウィザーソードガンを振り下ろす。だが、それに対してバロンは何もせず、ただウィザードの攻撃を受けているだけだった。ウィザードは何度もバロンにウィザーソードガンを振るうが、身体からは火花が散るだけでバロン自身には何のダメージもなさそうだった。

そこでバロンが振り下ろされたウィザーソードガンを素手で掴み取る。

 

『グルオオオオォォォォォォッ‼︎』

 

次の瞬間、バロンが咆哮をしたと思うと、ウィザードの身体が吹き飛ばされた。至近距離で強烈な咆哮弾を受けたウィザードは膝をつく。

 

「ぐうう…!」

 

「どうした?この程度か?」

 

「ぐ…っ、舐めんな‼︎」

 

ウィザードは痛む身体に鞭を打ち、なんとか立ち上がると、ハンドオーサーを傾け直し、指輪を翳した。

 

《チョーイイネ!キックストライク!サイコー!》

 

「うおおおおおおおおおおおおっ‼︎」

 

ウィザードは高く跳躍すると、水の魔力を纏った右脚でバロンにめがけて『ストライクウィザード』を放った。

 

「な……っ⁉︎」

 

だが、ウィザードは驚愕した。技がよけられたわけではない。

バロンはその場から一歩も動かずにウィザードの必殺技を受けたのだ。

 

『グルオオオオォォォォォォッ‼︎』

 

「がああっ‼︎」

 

バロンが再び叫んだ瞬間、バロンの全身から咆哮による衝撃が噴き出し、至近距離にいたウィザードはその咆哮弾をまともに食らい、大きく吹き飛ばされて近くの壁に叩きつけられた。

 

「ウィザードよ、俺はお前に期待をしている。あまり失望させるな!」

 

バロンは動けなくなったウィザードに向けて両腕のクローを交差させるように振り下ろした。

 

「ぐあああああっ‼︎」

 

強烈な斬撃をうけたウィザードはその場に倒れ、変身を解除された。変身が解けた晴人の胸には、先ほどの攻撃によってつけられた傷から血が流れている。

 

その時だった、突如デパートの中が地震でも起きたかのように大きく揺れたのである。

 

「ーーっ⁉︎今のは⁉︎」

 

「……《ハーミット》が消失したか。まあいい。引くぞ、ノーム」

 

「御意!」

 

「くっ、待て‼︎」

 

バロンが火炎弾を地面に向けて放つと、爆発が起きた。ウィザードはその爆炎の中に突っ込み、バロンたちの後を追う。

 

「ん?」

 

不意に晴人はあるものを見つけた。それは大きな穴だった。大きさは大人ならば普通に入れるほどのサイズだ。

 

「あいつ、地面に潜れるのか!」

 

おそらく穴を掘ったのはノームの方だろう。晴人は右手の指輪を別のものに付け替え、ハンドオーサーに翳すす。

 

《ユニコーン・プリーズ♪》

 

晴人の目の前で青いパーツがひとりでに組み立てられ、ブルーユニコーンが現れる。指輪を背中に嵌めると、ユニコーンはピコピコと動き出した。

 

「奴らのあとを追ってくれ。頼むぞ!」

 

晴人の言葉に頷くと、ユニコーンは小さな身体で素早く動き、穴の中に潜って行った。

 

「……さて、士道とあの子はどうなったのかな?」

 

晴人は傷ついた身体を引きずりながら、デパートの中を彷徨う。そして玩具売り場に辿り着くと、そこに士道がいた。

 

「おーい、しどーーー」

 

晴人は士道の元に駆け寄ろうとしたが、動きが止まった。何故なら、士道の隣にはーーー

 

「と、十香……」

 

どす黒いオーラを放っている十香がいたのだから。十香は晴人の姿を見つけると、ゆっくりと口を開いた。

 

「ーーーハルト…」

 

十香に名を呼ばれた晴人は悪寒が走った。ただ名を呼ばれただけだというのに、それだけで身体が固まった。

 

「二人して女とイチャコラしてるとは何事かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎」

 

「ひぃぃぃっ⁉︎」

 

十香が足を打ち付けた瞬間、その位置を中心に床がベコンッ!と陥没し、周囲に亀裂が走った。

 

「な、何があったんだよ士道⁉︎」

 

「い、いや、あの子といたところを十香に見られてーー」

 

士道の話によると、士道はあの後、精霊の少女ーー『よしのん』とデートをすることに成功するが、事故でよしのんとキスをしてしまったところにびしょ濡れの十香が現れたのだという。

 

これを聞いた晴人は急いで十香を説得しようと十香に近づく。

 

「十香、ちょっと落ち着いてくれよ!」

 

「触るな!」

 

「ぐ……っ⁉︎」

 

十香は近づいた晴人の胸を突き飛ばした。しかも場所が悪いことに、そこは先ほどの戦闘でバロンに斬り裂かれた場所だった。あまりの激痛に晴人は思わず倒れそうになる。

 

「は、ハルト⁉︎」

 

「兄さん!どうしたんだ⁉︎」

 

傷に触れたことで付いた血に気がついたのか、十香は急いで晴人を支え、士道も急いで晴人に駆け寄る。

そして晴人はそのまま意識を失ってしまう。

 




今回は炎竜騎士さんのアイデアの幹部クラスのファントムを登場させました。
ファントムの設定については少しオーバーロード風にしてみました。
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