デート・ア・ウィザード〜絶望を希望に変える魔法使い〜   作:黒崎士道

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今回で四糸乃編は終了です。
そして今回、ウィザードのオリジナルスタイルが登場します。


凍てつく大地

士道は折紙の自宅に取りに行って『よしのん』を取り戻し、折紙と精霊について会話していたのだが途中で空間震警報が鳴り響いたためにこうして四糸乃に人形を返しに来ていた。

《氷結傀儡》を出した四糸乃と何とか接触に成功するものの人形を返す前に仰々しい装備を纏った折紙に邪魔をされ、パニックになった四糸乃の《氷結傀儡》によって冷気の光線を受けた――

はずだったのだが、

 

「う、うわ……ッ!」

 

思わず士道は尻餅をついていた。

避けられぬと思っていた一撃は十香の天使――《鏖殺公》の玉座が四糸乃の攻撃から士道を守っていたのだ。

 

「――シドー!」

 

可愛らしい声音と独特なイントネーションで現れる十香。

 

「シドー、早くハルトを探して避難するぞ」

 

手を差し伸べてきた十香は今までずっと士道と晴人を探していたのか制服には所々汚れが付いていた。だが、士道は避難するわけにはいかなかった。

 

「ごめん。それはできない」

 

「何故なのだ?ここにいては危険だぞ」

 

士道は一瞬次に言いたい言葉を声にすることを少し躊躇ったが必死に声にして言葉にした。

 

「俺はこれから四糸乃を助けなきゃいかないんだ。多分、俺だけの力だけじゃ助けられない。頼む、手を貸してくれ」

 

「四糸乃というのは――――前に会った娘のことか?」

 

「ああ」

 

士道から肯定の意を読み取ると十香は顔を下に向けた。

 

「……シドーとハルトは私よりもその娘の方が大事なのか」

 

「誰が一番大事とかじゃねえよ。俺はただ助けたいだけなんだ。十香も四糸乃も誰も傷つくのを俺は見逃すことができない。それに四糸乃は十香と同じなんだ」

 

「私と…同じ?」

 

「ああ。四糸乃は十香と同じ精霊なんだ。今は四糸乃も力を持っているだけでASTに狙われて、このままにしてたら俺が封印する前の十香みたくなってるかもしれない。兄さんだって、今とても強いファントムと戦ってる!だから…だから…手を貸してくれ!」

 

士道は必死に懇願した。晴人が助けた十香をまた巻き込むことにも勿論抵抗はある。だけれども、魔法使いになったとはいえ、士道だけの力では助けることができない。晴人やコヨミがいない今、頼れるのは十香だけだった。

 

「…はは」

 

「十香?」

 

いきなり十香が笑ったのでどうしたのか思った。次に十香は後ろにあった《鏖殺公》を収める玉座を前に倒した。

 

「何をしているのだ?あの中にいる娘を助けるのだろ」

 

「いいのか、十香」

 

「助けたいと言ったのはシドーではないか。それと…今まで何かワケのわからない理由で苛ついてしまってすまん」

 

十香は玉座に乗るように促しながら言った。

十香は《塵殺公》に近づき、それをガッ!と蹴飛ばす。

すると塵殺公サンダルフォンは倒れると同時にまるで翼のついたサーフボードのような形に変形する。

 

「乗れ。時間が惜しい。飛ばしていくぞ」

 

「おう!」

 

士道と十香は《塵殺公》に乗り、共に前を見据える。

 

 

空中を疾走していた玉座の《塵殺公》から飛び降りた士道はダンッ!とその場に着地する。

士道は立ち上がると目の前の吹雪を見つめ、そのままゆっくりと歩き出す。

 

「なあ琴里、ひとつ聞きたいことがある?」

 

『なに?』

 

士道は晴人が十香の精霊の力を封印するためのデートでのことを思い出し琴里に尋ねた。

 

「十香の精霊の力を封印したとき――――兄さんは撃たれたよな。そして、俺と兄さんは互いに霊力の繋がりがある」

 

『ええ』

 

琴里は特に大きな反応もせず士道の言葉に肯定の意を示す。それに続いて、簡単に力の解説をする。

 

 

『士道と晴人に備わっている力はアンテットモンスターもびっくりのチート蘇生能力よ。だから、晴人は今生きているのよ』

 

これで士道の腹は決まった。現在進行形で悪化している状況からみても四糸乃を助けられるのは士道しかいないことを認識させられた。自分で決めた行動に移す前に琴里にひとつ聞いた。

 

「なあ、その蘇生能力も封印する力も原因不明で俺に備わっている力でいいんだよな?」

 

『封印の方はそうだけど、蘇生能力の方は少し違うわ』

 

「少し違うって?」

 

『それは…』

 

今までの司令官モードでは考えられないくらい琴里は言葉に詰まった。インカム越しの息遣いからこのことを言おうか言わざるべきか迷っていることが伺えた。

 

「もし言えないんだったらもう言わなくていいよ。俺の可愛い妹が伝えない方がいいと判断したんなら、きっとそうなんだろ」

 

『…一端の口を利くようになったじゃない』

 

「それはどうも。それじゃ、俺はもう行く」

 

士道は前に歩き出した。しかし、目の前には氷のドームがある。それでも士道は歩みを止めなかった。

 

『もしかしてあなた…ダメよ!認められないわ!』

 

司令官モードの琴里のただならぬ様子に士道は苦笑した。

 

「おいおい、俺には蘇生能力があるんだろ。十香のときには兄さんが撃たれたっていうのに平然としてたそうじゃないかよ」

 

 

『そのときとは状況が違うわ。あなたのやろうとしていることは5メートルの距離を撃たれながら進むということよ。たとえ魔法使いに変身したとしても、あのドームの中では魔力に反応して凍らせられるわ』

 

「でも、やるしかねえよ」

 

決して自分の意思を曲げない士道にたまらずという感じで琴里が叫ぶように言う。

 

『わからないの!?あのドームが魔力・霊力に反応するということは、体が損傷してそれが回復する前に氷漬けになるかもしれないのよ』

 

「そうか…俺と兄さんの力ってのは精霊の力なんだな」

 

『っ!』

 

士道の指摘で失言してしまったと気づいた琴里。本当はまだそのことを言うのにまだ心の準備ができていない。だけど、今は士道を止めなければならない。

 

『止まりなさい、士道。おねがい、止まって士道おにいちゃん』

 

今の琴里は司令官としてでなくひとりの兄を持つ妹として士道を止めようとした。しかし、それでも士道の歩む足は止まらない。

 

「ありがとう」

 

《セット!オープン!L・I・O・N!ライオン!》

 

その一言を伝えられた後、士道はビーストに変身する。

そして琴里のいるフラクシナスと士道の装着しているインカムとの通信は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、え……っえ……っ」

 

結界の中心部で四糸乃は巨大な《氷結傀儡》の背にうずくまって泣いていた。

台風の目のように静かな空間に四糸乃の嗚咽だけが響き渡る。

 

「よ、し、のん……よしのん……」

 

「やっと見つけましたよ、《ハーミット》」

 

「!?」

 

四糸乃はびくっ!と肩を震わせる。すると地面から、先日四糸乃を狙っていたファントム、ノームが現れた。

 

「ひ……っ!」

 

「さあ、魔法使いがいない今なら…邪魔が入らずーー」

 

「四糸乃ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

瞬間、そんな声が結界の中で響き渡った。四糸乃が顔を巡らせると結界の中心部と外延部の境界線から、金色の獅子のような姿をした人物が現れた。

姿こそ違うが、その声に四糸乃は聞き覚えがあった。

 

「士……道さん……!」

 

「ちっ!今度は古の魔法使いですか!邪魔をするな!」

 

「いくぞ!」

 

《ファルコ・GO!ファッ!ファッ!ファッ!・ファルコ!》

 

ビーストは右肩にファルコ・マントを纏い、ダイスサーベルでノームに攻撃を仕掛ける。しかし、ノームも負けてはいない。胴体に受けていたダイスサーベルの攻撃を剛腕で受け止め、それを払いのけるとビースト目掛けて蹴りを連発する。

 

「くっ!この!」

 

ビーストはノームに回し蹴りを放つと、ノームは軽く吹き飛ばされた。その隙にビーストはノームをダイスサーベルの切っ先で切り裂く。

 

「ぐぅ…!」

 

「トドメだ!」

 

《5!ファルコ・セイバーストライク!》

 

隼を模した魔力弾が五つ放たれノームを追いかけて海中を優雅に進んでいく。

ノームの迎撃で一つは潰されたが残り四つがノームに直撃。

 

「ぐあああぁぁぁ…!!」

 

ノームは爆発とともに消滅した。

そして戦闘を終えたビーストは、疲労のせいか変身が解けると士道の姿に戻る。

 

それを見た四糸乃は慌てて《氷結傀儡》の背から降りるとパタパタと走っていく。

 

「よう、四糸乃」

 

士道は四糸乃に笑顔を見せると、その懐からよしのんを取り出す。すると、四糸乃の瞳に涙が溜まり、零れていく。

 

「お、おい」

 

「ありがとう……ございます……よしのんを、助けて、くれて……」

 

士道は微笑んで頷く。

 

「次は……お前を救ってやる。四糸乃」

 

「え?」

 

四糸乃が不思議そうに首を傾げてくる。

 

「ええと、だな、キスをするんだが……キスって覚えてるか?唇と唇を合わせる奴」

 

四糸乃はキョトンとした顔を作り、すぐに首を縦に振る。

 

「そっか……それをするが……いいか?」

 

四糸乃は一つ頷く。

 

「士道、さんの……言う事なら、信じます……」

 

「……ありがとう」

 

そう言うと士道は四糸乃に顔を近づけ、自分の唇と彼女の唇を重ねる。

それと同時に士道の体に暖かい何かが流れてくるのを感じる。

その瞬間、四糸乃の霊装と背後の《氷結傀儡》が光の粒になって消えていく。

 

「士道さ……これ……」

 

四糸乃は驚いたようにそれを見ながらも要所を腕で隠す。

 

「あ、いや、これはだな……」

 

士道がどう説明したもんかと頭を掻いていると不意に頭上から光が差し込む。

二人そろって顔を上げれば吹雪の結界は消え、頭上の雲の切れ間から光が差し込み、そこから青空が広がっていく。

 

「き、れい……」

 

「……ああ」

 

二人はそんな空にかかった虹を見上げてそう呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその頃、天宮市の街にて交錯する、黒と赤、二つの影。

黒い影は、縦横無尽に高速で振るわれる銀の刃を正確に、確実に弾き返す。そして赤い影も、赤い影がカウンターで仕掛けてくる斬撃を紙一重で回避する。

砂煙を巻き上げながら激しく打ち合う怪物と魔法使いの戦況は、互いに一進一退を繰り返す、微細なバランスの上に成り立っていた。

 

「こうして戦うのは初めてだが……成程、これほどの実力ならば、ファントムが次々倒されていったのも頷ける」

 

「そうかよ!」

 

バロンの世辞にウィザードはウィザーソードガンを振るう手は一切休めず、相手の動きへの注意は一瞬たりとも緩めない。

そしてウィザードはローブを翻して身体を回旋させる際にウィザーソードガンをガンモードに変形させるとすぐさま真後ろに跳びながら引き金を引いた。

 

「ふん!」

 

咄嗟の判断でバロンは手にした剣、レグルスクラッシャーを盾にして縦横無尽に飛来する数発の銀の銃弾を防いだ。

その隙にバロンと距離を取ったウィザードは指輪を取り換えた右手をウィザードライバーのハンドオーサーにかざしていた。

 

《ビッグ・プリーズ♪》

 

魔方陣を潜らせた右腕を巨大化させて勢いよく振り下ろす。

しかしバロンに横に跳んでかわされたので、もう一度振り下ろすが、これも同様に横に転がってかわされた。

3度目の正直のつもりでウィザードは張り手をかますも、バロンにバックスッテプであっけなくかわされてしまった。

 

「次はこっちから行くぞ!」

 

仕方なく腕を引っ込める晴人に叫ぶバロンがレグルスクラッシャーを構えて素早く距離を詰めてきた。

 

「ならこれだ!」

 

《エクステンド・プリーズ♪》

 

今度はエクステンドの魔法によって伸縮自在となった腕でウィザーソードガンを振るう。

だがウィザーソードガンの刃が届く前に、バロンはムチのようにしなるウィザードの腕の軌道を完全に見切って攻撃を掻い潜った。

さらにはそれだけではとどまらず、バロンは突進を中断させてウィザードが伸ばした腕を掴んだ。

 

「なに⁉︎」

 

驚いている間にバロンは勢いよく腕を引いてウィザードを引き寄せる。

予想以上の力に引っ張られる晴人は空中で体勢を崩されてしまった。

タイミングを窺うバロンはウィザードが射程範囲内に飛んできたところをすかさずレグルスクラッシャーの一閃をくらわせた。

 

「がああっ!」

 

装甲から飛び散る火花が痛烈な一撃の威力を物語っていた。

地面に激突する寸前に受け身をとって墜落を逃れたウィザードは反撃に移ろうと素早く指輪を取り換える。

 

《バインド・プリーズ♪》

 

バロンの周囲に浮かび上がるいくつもの魔方陣から飛び出す鎖が彼女を拘束しようと迫る。

 

「なめるな!」

 

冷たい声音で叫ぶバロンはレグルスクラッシャーを一蹴させてすべての鎖を破壊した。

 

『グルオオオオォォォォォォッ‼︎』

 

バロンが咆哮を轟かせた直後、地響きとともにウィザードの身体が吹き飛ばされた。

 

「ぐああああああっ!」

 

バロンの強烈な咆哮からの攻撃に対応できず、絶叫をあげてウィザードは宙を舞う。

更に一撃、二撃、三撃と容赦のない斬撃をくらわされ、トドメに腹部を蹴られて大きく吹っ飛ばされた。

 

「ぐっ……」

 

「どうした?希望を守るのではないのか?この程度の力で希望の魔法使いなどとほざいていたのか?そんな中途半端な覚悟では何かを守ることなどできるはずなかろう」

 

ウィザードはバロンの言葉にギリギリと奥歯を鳴らし、自然とウィザーソードガンを掴む腕に力が籠っていく。

 

「……俺は、負けられない。みんなの希望を守るために!」

 

ウィザードはウィザーソードガンを地面に突き刺して、顔を上げる。

 

「そのためならーー絶望だって希望に塗り替えてやる‼︎」

 

ゆっくりとした動作で立ち上がりながら叫ぶウィザードはハンドオーサーを左手側に傾け直す。

 

《シャバドゥビタッチヘンシーン♪シャバドゥビタッチヘンシーン♪》

 

軽快な音声を鳴らしながら、ウィザードはフレイムウィザードリングから、先ほど謎の青年に貰った紫色の指輪を潜らせ、ハンドオーサ-にかざした。

 

《ダーク・プリーズ♪》

 

そのまま左手を真横に伸ばせば、黒い炎を纏った紫色の魔法陣が出現し、ゆっくりとウィザードに近づいていく。そして魔法陣が通過し終えると、ウィザードはその姿を変える。

 

特徴的だった赤い宝石を模した円形の仮面は不気味な紫色の宝石に変わり、全身に纏っている黒いロングコートがはためき、全身が闇としか言いようのない姿だ。ウィザードが変身したその姿は、もはや希望とは呼べる姿ではない。

ーーーウィザード・ダークスタイル。闇の力を司るウィザードの姿。

 

「馬鹿な…その魔力の質は……」

 

「……さあ、ショータイムだ」

 

バロンがウィザードの魔力の質に驚く中、ウィザードはただ静かにそう告げると、地面に突き刺したウィザーソードガンを引き抜き、手元でくるりと回す。

 

《ソニック・プリーズ♪》

 

指輪をハンドオーサーに翳した瞬間、ウィザードは素早いスピードでバロンの懐へと入った。

 

「はぁっ!」

 

「チッ!」

 

素早い勢いで繰り出されていくウィザードの斬撃を受け止めるバロンの表情に、苦悶が見え隠れする。

明らかに先ほどまでと動きが違うウィザードにバロンは戸惑いを覚えながらもその剣戟に応戦する。

 

そしてウィザードはバロンの剣を弾き飛ばし、後ろに飛んで距離を取ると、ハンドオーサーに指輪を翳した。

 

《チョーイイネ!キックストライク!サイコー!》

 

指輪を翳し、ウィザードの足元に黒い魔法陣が出現する。

ウィザードは右脚に黒い炎を纏い、高く跳躍すると、闇を纏った『ストライクウィザード』をバロンに放つ。

 

「だあああああああああああああああああああッ‼︎」

 

『グルオオオオォォォォォォッ‼︎』

 

ウィザードの蹴りとバロンの咆哮弾がぶつかり合い、周囲に衝撃が巻き起こった。

そしてしばらく続いていた均衡が崩れ、ウィザードたちの視界を潰すように大爆発が目の前で起きた。

 

「ぐああああっ!」

 

「ぐぅっ!」

 

ウィザードは爆発の衝撃で近くの建物の壁に叩きつけられ、その場で膝をついた。

一方バロンは、その場から一歩も動いてはおらず、少しはダメージを与えられた程度だった。

 

「……なるほどな。その力はーーー」

 

バロンがそう呟くとともに、荒れていた空から太陽の光が、注いできた。

 

「やったか……士道」

 

ウィザードはそれが意味することを理解した。士道が無事にノームを倒し、四糸乃の霊力を封印したということだ。

 

「今日のところは引かせてもらおう。……サー・ワイズマンへの報告もできたことだしな…」

 

バロンはそう言うと、その場から立ち去った。それを見届けたウィザードは変身を解除し、壁にもたれて眠りについた。

 

その左手で、ダークウィザードリングが不気味に輝いているとも知らず。




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