デート・ア・ウィザード〜絶望を希望に変える魔法使い〜 作:黒崎士道
「ただいまー」
ASTの取調べから解放され、マシンウィンガーで神代邸に帰宅した晴人は玄関の扉を開けると、出迎えてくれたのは切嗣だった。
「やぁ晴人、大丈夫だったかい?」
「大丈夫だよ師匠。ちょっと自衛隊に捕まっただけだから……っていうか、何処かに行くのか?」
晴人はそう言うと切嗣の手の中にあるものに視線を落とす。それはまるで誰かにプレゼントをするように包装紙で包まれた箱だった。
「ああ、これはご近所さんに渡す菓子折りだよ。これからは日本に住むことだし、挨拶は大切だと思ってね」
「そういうことか」
やはり日本に住むとなったら近所付き合いは大切だなと呑気に考える晴人、そこで切嗣がこんなことを言い出した。
「そうだ、晴人。君が挨拶に行ってくれないかい?」
「え?なんで?」
突然のことに晴人は切嗣に聞き返す。
「ここは君の故郷なんだろう?僕はあまりこの辺りのことは知らないからね。君に任せるよ」
「まぁ、別にいいけど…」
晴人は渋々と切嗣から菓子折りを受け取り、神代邸から出ると、すぐ近くに建っていた家に行きインターホンを鳴らす。
『はーい』
「すみません、近くに引っ越してきた神代という者なんですけ……ど………?」
そこで晴人は何処かで聞き覚えのある声が聞こえたことに途中で言葉が詰まった。
だが、怪訝そうな顔をしているうちに家の扉が開かれた。
「に、兄さん⁉︎」
「え……?」
出てきた家の住人、そして晴人は互いに目を点にした。それもそうだろう。まさか、五年ぶりに同じ高校で再会しただけでなく、まさかのご近所さんが互いに死んだと思っていた兄弟だなんて奇跡としかいいようがない。
晴人はそこで改めてこの家の表札を確認すると、そこには確かに『五河』と書かれていた。
「わぁお……」
これは完全にミスった。と、心の中で思う晴人だった。
「と、隣のでかい屋敷って兄さんが住んでんのか⁉︎」
「えっと……まあ、な」
士道の言葉に詰まりながら答える晴人はこの状況に困惑していた。
切嗣に頼まれてお隣さんに挨拶をしに来ただけだというのに、よりによって五河家がお隣さんだなんて誰が予想したことか。
そして、この後更にこの状況を悪化させる出来事が起きるなど、晴人が知る由もない。
「おにーちゃん、どうしたの?」
開けられている扉からそんな声が聞こえると、大きな白いリボンで赤い髪を二つ括りにしたいかにも活発そうな少女が現れた。
少女は晴人の姿を見ると、その動きが固まった。まるで、幽霊を見たかのような目で少女は唇を開いた。
「はると……おにーちゃん…?」
少女は震えた声でそう言った。晴人も少女の容姿には見覚えがあった。
五年前、士道と晴人の二人が五河家の養子になったあの日からずっと「おにーちゃん」と言って後ろをついて来ていた、士道とともにあの業火に飲み込まれたと思っていた大切な義妹。
晴人はその妹の名を、ゆっくりと口にした。
「お前……琴里…なのか?」
晴人はそう言うと、少女ーー五河琴里はだんだんその大きな瞳に涙を溜めていく。そして、そのまま晴人の腹部に目掛けて強烈なタックルをかまして来た。
「晴人おにーちゃん‼︎」
「ぐほぉっ⁉︎」
晴人は腹部に強烈な衝撃をくらい倒れそうになってしまう。だが、これを見た晴人は全てを悟った。
自分がいなくなったこの五年間、琴里も士道もずっと自分のことを心配してくれていたんだと。
「……悪いな。ずっと心配させて」
「うわあああああああああああん‼︎」
しばらくはこの状態から抜け出せない晴人は、胸の中で感情をぶつけてくる琴里を抱きしめた。
「何やってんだい、坊や」
晴人は後ろを振り向くと、そこには買い物袋を両手に黒いコートを着ていたナタリアが、琴里に泣きながら抱きつかれている晴人を見ていた。
そして、神代邸にてーーー
「成る程ね、坊やは生き別れた兄妹と再会したってわけか……」
豪華なテーブルを囲んで料理を運ぶナタリアがそう言う。今夜の神代邸の夕食には、切嗣とナタリア、晴人だけでなく、ご近所さんだった士道と琴里も同席していた。
「えっと…なんかすいません。夕食に同席させてもらって」
「気にしないでくれ。君たちは晴人の家族なんだろう?ならば、互いに話したいこともあるんじゃないかな?」
申し訳なさそうに言う士道に切嗣は優しく微笑む。
士道は晴人の座る席を見れば、そこには食事を続ける晴人がいる。そしてその膝の上には二人の妹である琴里がちょこんと座り、バスケットの中にあるドーナツに手を伸ばしている。膝に座っていて手が届かない琴里のかわりに晴人がドーナツを取り、琴里に渡す。
そんな仲良く食事をしている二人をナタリアが微笑ましいものを見るように眺めている。
「なあ琴里、そこだと食べにくくないか?他にも席はあるんだし、そっちで座ったらどうだ?」
「いいの!久しぶりに会えたんだし、ここだと落ち着くの!」
「いや、そこにおられると俺も食べにくいんだけど……」
「ここがいいの!」
「……はい」
無垢な瞳で強くそう言う琴里に、何も言えなくなった晴人は琴里を膝に乗せたまま食事を続ける。
食事を終えた晴人たちは、食器を片付けると全員がテーブルの席に着き、切嗣が口を開いた。
「さて…食事も終えたことだし、君たちには話しておかなくてはならないことがある」
「話しておかなくてはならないこと……ですか?」
「ああ、晴人についてだ」
「晴人おにーちゃんのこと…」
晴人についてーーそれは二人が最も知りたいことだった。五年間、突然姿を消した兄は今まで何をしていたのか。それが今、明らかとなる。
「士道君、君は今日見たはずだね?君に襲いかかってきた異形の化物、そして晴人が姿を変えそいつらと戦ったところを」
「…はい」
「晴人について話すには、まずいくつか君たちに知ってもらわねばならないことがある。信じられないかもしれないが、聞いてくれ……」
切嗣はそう言って士道と琴里に全てを話した。この世界に存在するゲートと呼ばれる魔力を持った人間を狙うファントムと呼ばれる異形の怪物たちのこと、五年前の大火災で魔法使いの資格を得た晴人を救出して自分の養子にしたこと、ファントムを倒すことができるのは魔法使いだけだということも。
それを聞いた士道はおとぎ話のような内容に驚いたが、目の前であんなことがあっては信じる他ないと思った。そして琴里は、晴人が魔法使いになったと聞いて目を輝かせていた。
「すごい!晴人おにーちゃんが魔法使いなんて!」
「まあ、な…」
晴人は歯切れが悪くそう答える。晴人はこの魔法の力を望んで手に入れたわけではない。むしろ、絶望しなかったからこそこの力を持ったのだ。
「晴人は望んで魔法使いになったわけではないんだ。それについては謝らなければならない」
それから切嗣は魔法使いになるために必要な条件を二人に話した。魔法使いになるためにはゲートであること、絶望してもそれを乗り越えた時に生まれようとしたファントムの魔力を用いて始めて魔法を使えるようになることを。
二人は耳を疑った。今、目の前にいる兄は本来なら五年前に絶望してファントムを生んで死んでいたのかもしれない。士道は切嗣に問い詰めたかった。何故もっと早く晴人を助けてくれなかったんだと。
「……済まなかった。間に合わなかったとはいえ、あと一歩遅かったら僕は君たちの兄を死なせてしまっていたかもしれない……それだけじゃない、命をかけた危険な戦いにも巻き込んでしまった……!」
その時切嗣がとった行動に全員は目を疑った。切嗣が、頭を二人に下げながら謝罪をしたのだ。
士道は慌てて切嗣に頭を上げさせようとする。
「あ、あの…もう頭を上げてください…!もう十分ですから」
「士道君…君たちは、こんな僕を許してくれるのかい?」
「許すも何も……むしろ、凄く嬉しかったですよ。本当なら赤の他人なのにここまで兄さんや俺たちを思ってくれていただなんて……」
士道のその言葉を聞いて、切嗣は安堵の表情を見せる。
「そうか……ありがとう。だが、いつかは何らかの形で罪滅ぼしをしたい。その時には、いつでも頼ってくれ」
「まったく、あんたがいきなり頭を下げるんだから、私まで驚かされたよ」
ナタリアがコーヒーを持ってきながらそう言う。それからその場の空気は明るくなった。それから一同はスイーツを食べてながら色んなことを話した。
イギリスで魔法使いになるために晴人が修行をしたこと、ナタリアとの組手で晴人がコテンパンにされたこと、魔法を見たがる琴里に晴人がコネクトウィザードリングでドーナツを取り出して琴里が喜んだりした。
「それじゃあ、明日の支度もありますからそろそろ失礼します」
士道はそう言って帰宅しようとする。その際に琴里が渋っていたが琴里の手を引く。晴人は玄関先まで二人を見送った。
「じゃあ士道、また明日な」
「ああ、兄さんも」
「また明日ねー!」
三人は笑い合いながら、そのまま別れた。
だが、士道と琴里が精霊を救おうとする組織に入っていることなど、晴人はまだ知る由もない。