デート・ア・ウィザード〜絶望を希望に変える魔法使い〜 作:黒崎士道
更新が遅れてしまいました。
今回は晴人と十香の邂逅編です。というわけで、お楽しみください。
「よっし到着…って、ここ学校じゃん」
使い魔たちに案内され、晴人が辿り着いたのは来禅高校だった。そこで晴人はマシンウィンガーを停めて校舎の壁に目を向けると、壁がごっそりと削り取られていて内部が丸見えだった。
こんなことができるのは限られてくる。晴人はここにあの少女がいると確信し、校舎の中に入って行く。
「ん?なんだこれ…」
不意に晴人は昇降口の自分の下駄箱の中に何やら紙のようなものが入っているのを見つけると、それを取り出した。
そして中身を確認するとそこには、ポエムのようなものが長々と書かれていた。
「…闇の集い……混沌の世界に降りし……?誰だよこんなの俺の下駄箱に入れた奴」
晴人はきっと誰かのいたずらだと思い、その紙をクシャクシャに丸めるとその辺りに捨てておいた。
「ここって…俺たちの教室じゃねぇか」
レッドガルーダたちに導かれ、晴人は自分たちのクラスである二年四組の教室の前に着いた。精霊の少女は教室の中にいるようだが、晴人は最初にどんな風に声をかけるのかを考える。
そして、晴人は念のために右手にある指輪を付けておくと、教室の扉を開ける。
そして、夕日が赤く染まった教室の中にその少女はいた。あの時はよく見ていなかったが、こうして見ていると言葉を失ってしまう程の美しい少女だ。
ドレスのような鎧を身に纏った、腰まで届きそうな長い黒髪の少女だった。不思議な輝きを持つ澄んだ瞳は、ぼうっと黒板を眺めている。
「ーーぬ?」
少女が晴人の侵入に気がつき、こちらを見つめてくる。
「よっ!」
晴人が笑顔で手を上げたその瞬間。
ーーひゅん、と。
少女が無造作に手を振るったかと思うと、一条の黒い光線が晴人に向けて放たれた。
「うおっ⁉︎」
《ディフェンド・プリーズ♪》
晴人は咄嗟に右手に付けた指輪ーーディフェンドウィザードリングをベルトに翳して、魔法陣の防壁で少女の光線を防いだ。だが、その威力に耐えられず晴人の身体は教室の壁まで吹き飛ばされた。
「ぐおっ…!」
壁に叩きつけられた晴人は立ち上がろうとするが、その時には既に少女がこちらに向かって黒い光球を向けていた。
「ちょ…待った!俺は敵じゃーー」
晴人が叫び上げるより早く、更に少女から連続して黒い光弾が放たれる。晴人は転げるようにして壁の後ろに身を隠すが、光弾は容易く壁を貫通する。
「だから!俺は敵じゃねぇよ‼︎」
晴人が壁越しにそう叫ぶと、声が伝わったのか少女の方からの攻撃が止まった。晴人はそっと教室の入り口前に立つと、少女が晴人をじとーっとした目で見ていた。
「えっと……入ってもいいのか…?」
晴人がそう尋ねながら教室に足を踏み入れると同時ーーばじゅッ、と晴人の足元を光線が灼いた。晴人は慌てて数歩下がる。
「お前は、何者だ?」
「俺は神代晴人。希望の魔法使いだ。今日は君と話がしたくてここに来たんだ」
晴人は左手にはめた赤い指輪、フレイムウィザードリングを見せながら答える。すると少女は晴人の顔を見た途端、晴人の顔を凝視してから何かを思い出したように眉を上げた。
「お前、前に一度見たことがあるな……」
「え?ああ…確か今月の十日に街中で」
「おお」
晴人がそう言うと、少女は得心がいったように小さく手を打つ。
「思い出したぞ。確か姿を変えてあの妙な奴らと戦っていたおかしな奴だ」
「お、おかしな奴って……」
晴人は自分が変な覚えられ方をされていることに苦笑を浮かべると、次の瞬間には少女が晴人の胸倉を掴んでいた。
「ぐっ…!」
「私と話だと?……見え透いた手を。そう言いながらもその妙な力で私を殺そうとしているのだろう。言え、何が狙いだ?」
晴人は、その時の少女の顔が気に入らなかった。今にでも泣き出しそうな、全てに絶望したような、その顔が。
晴人は自分が希望を守る魔法使いである限り、誰にも絶望なんてさせない。
「……俺は、君と戦いに来たわけじゃない。なんだったら、ここで俺のことを斬り捨ててくれたって構わない」
晴人はそう言いながらまっすぐ少女を見つめる。そしてしばらくすると、少女は半目で晴人を睨みながら口を開く。
「……ふん、まあいい。少しでも妙な動きを見せればすぐに斬り捨ててやる」
少女はそう言って晴人の胸倉から手を離して、数歩下がる。晴人は自分の言葉次第では少女に八つ裂きにされるのではないかと心配するが、少女に向けて話を始める。
「えっと…名前は何て言うんだ?」
「名か……そんなものはない」
少女は淡々と答えるが、その時一瞬だけその顔を歪ませて今すぐにでも本当に泣き出しそうな表情になった。
それを見た晴人は、尚更少女に問いたかった。
「…なんで、そんなに諦めた顔をするんだよ」
晴人の言った言葉に少女は若干反応するが、眉を寄せると何も言わずに晴人を見つめた。
「俺は、誰かの目を見ただけで相手が絶望しているのかが分かるんだ。俺が君を始めて見た時の目はまるで孤独で絶望して諦めてるんじゃないのかって思えたんだ。流石に何に絶望しているのかは分からないけどさ」
「貴様に何がわかるッ⁉︎」
少女は晴人に強くそう叫んだ。その叫びには少女の様々な感情が篭っている心からの叫び。だが、晴人は少し黙ると少女に答えた。
「……すまない。俺にはわからない」
「貴様ああああああああああッ‼︎」
晴人の言葉に少女は怒り、その手から黒い光球を晴人に向けて放った。だが、晴人はディフェンドウィザードリングを再びベルトに翳す。
《ディフェンド・プリーズ♪》
「ぐあっ‼︎」
魔法陣の防壁でなんとか防ぐが、何度も連射される黒い光球のその威力に耐えられず、魔法陣が砕けて晴人は吹き飛ばされる。
「…どういうつもりだ。貴様ならばあの時のように姿を変えて私に反撃もできるはずだ」
怒りが少し落ち着いた少女は手を下ろしてその場に倒れる晴人を見下ろす。晴人はゆっくりと立ち上がり少女を見つめる。
「言っただろ、俺は君と話がしたくてここに来たって。それにまだ俺は君に言いたいことを言えてない」
「ならば貴様は何が言いたい?」
「……さっき言った通り、俺は君と一緒にいたわけじゃないから君がどんな辛い思いをしてきたのかはわからない。でも、俺は君を受け入れる。いきなりそんなことを言われて信じろって言われても信じられないかもしれない。でも俺は必ず君を守るし、君を否定しない‼︎」
「………っ」
晴人は一気に少女にそう叫ぶ。晴人の言葉を聞いた少女は驚いたように目を見開く。そして晴人に背を向け、しばらくの沈黙の後、小さく口を開く。
「……ハルト、といったな。絶対に…お前は私を否定しないのか?」
「ああ、もちろんだ」
「本当に本当か?」
「本当に本当だ」
晴人は間髪入れずに答えると、少女は今までにない程の笑顔を見せた。晴人はこの少女の存在を知り、尚且つこの世界から排除されようとする理由を知ったからこそこんなに絶望している少女を救おうと思ったのだ。それによってASTからは敵と見なされるかもしれないが、それでも構わない。目の前にいるこの少女の希望を守れないでいるなんて晴人には出来なかった。
「ふ、ふん!誰がそんな言葉に騙されるか、バーカバーカ!…だが、まああれだ。こんなことを言われたのは初めてだからな、少しだけお前のことを信じてやる」
「そっか…ありがとう」
少女が見せた笑顔に思わず顔を赤くしてしまう晴人だったが、取り敢えず少しは気を許してもらえたようだった。
「でも、もし本当に絶望しちまいそうになったらーーー」
こちらを見つめてくる少女の瞳を見つめ返す晴人は、フレイムウィザードリングを付けた左腕をまっすぐ突き出し、
「俺が最後の希望になってやるよ」
自信と決意に満ちた笑顔を浮かべて、力強くそう言った。
「ーーーーっ‼︎」
しばしの静寂の後、突然少女の顔がボンッと茹蛸のように真っ赤になった。
「なっ⁉︎なななななな何を言っておるのだ貴様は⁉︎からかうのも大概にしろ‼︎」
「え?なんのこと?」
少女は晴人の言葉をどう捉えたのか、顔はだんだん赤くなっていくのに対して、晴人は何故こうなったのか結構本気で悩んでいた。