ドーナツホール   作:海月大和

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失われた機会。失われた命。もう戻らない。


後日譚1 僕らは友達にはなれない。永遠に

 乾いた風が一瞬だけ、ひゅっと僕の後ろを通っていった。

 

「若干の規模の縮小はあるようだけど、計画は継続するみたいだよ。これも君の活躍のおかげかな。英雄くん」

 

 彼の墓標を見下ろして、淡々と報告をする。

 

「と言っても君は嬉しい顔なんてしないか。ただまあ、流石に今のハイリスクな状態は嫌なようだから、もう少し装備者への負担を減らす方向に舵取りされるかな。ある程度デチューンして安定性を高めたモデルが開発されるだろうね」

 

 僕が調整を担当していた彼が殉職してから早二月。事後処理を終えて一息つけるようになるまで、それなりに時間がかかってしまった。

 

 「中尉への昇進おめでとう。僕とお揃いだね。君は昇進とか全然興味ないだろうし、僕と一緒って言うと露骨に嫌そうな顔するんだろうけど」

 

 初めに比べれば少しは打ち解けられたんじゃないかと勝手に思っているけれど、それでも僕は人と親しくなるのが苦手な人間だ。あだ名で呼び合うような人間関係を構築するなんて出来っこない。

 

「本当に僕で良かったのかい?」

 

 もっと相応しい人間が他にいくらでもいただろうに。そう思いながら僕は鞄から一通の封筒を取り出す。白く飾り気のないデザインは彼の性格に似合っていると言えなくもない。

 

「これから行ってくるよ」

 

 彼を初めて見たときのことは正直ほとんど覚えていない。他の実験体と印象はさほど変わらなかったのだろう。顔と識別ナンバーを一致させるためだけの会合に、感情を動かされた記憶はなかった。

 

興味を感じたのは、実験開始から一年ほど経った頃だろうか。実験によるネガティブな影響が出始め、対象たちはほとんどが暗い目をしていた。実戦にも駆り出されることが増え、死者もわずかだが出ていた。

 

 その中で一人だけ、色の違う瞳をしていたのが彼だ。僕はそれを不思議に思い、調整の担当を変更してもらった。結局、その源は特別なことなど何もない、とても有りふれたものだったけれど、人が希望を感じるにはそういうもので十分だということなのだろう。

 

 僕はこれから彼の希望に会ってくる。彼の最初で最後の頼みを叶えるためだ。封筒にそっと触れ、呟いた。

 

「今どき紙の手紙だなんてね」

 

 何か文句でも?という彼の台詞が頭に浮かぶ。いいや、文句なんてないさ。実に君らしい選択だよ。気持ちはよく分かる。

 

 心の中で答えながら、封筒を鞄にしまう。墓に背を向け、車を止めてある道路に向けて歩き出した。もうすぐ日が落ち始める。

 

 車のドアを開け、乗り込む前に、振り返って彼の名前が刻まれた墓石を眺めた。ほとんど名前しか知らない、いや、知ろうとしなかったのは自分にとって珍しいことではない。他人への興味が薄いのは昔からだ。だから。

 

「……本当に予想外だったんだよ」

 

 それは言い訳なのか驚きなのか、自分でも分からない。

 

 席に着き、声に出さずに呟いた。

 

 君と友人になれなかったことを悔やむ日が来るなんて、思ってもみなかったんだ。

 

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