ウマ娘・オブ・ジ・アビス   作:それがダメなら走っていこう

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アドマイヤアルタイル
あるいは、アドマイヤオルタの願いはただ一つの償い。
ただ全てはベガに対する贖罪の為に。


アドマイヤオルタ・あるいはアドマイヤアルタイル

 

『一つ分の陽だまりに』

 

『二つはちょっと入れない』

 

『ガラス玉一つ落とされた』

 

『落ちた時何か弾き出した』

 

『奪い取った場所で光を浴びた……』

 

死んだ目で古い歌を口ずさむ一人のウマ娘。

 

今生の親に名付けられた名は『アドマイヤベガ』

 

秘密の名前は『アドマイヤアルタイル』

ベガに対成すアルタイル

あるいは『アドマイヤオルタ』

オルタ、代替品、代わり。

 

どうでもいい前世の名は綾部流駆(あやべるうく)

 

だが、顔面を苦に引きこもり心折れ

構われなかった挙句に死んだ

ウマ娘オタクのキラキラネームのおっさんの名などどうでもいい。

重要なことじゃない。

 

全てはオレの罪。

神様の甘言に惑わされ

ウマ娘世界に転生させてくれると言ってホイホイ受けた俺が悪い。

だってそうだろう?

悲惨な世界は山ほどあるのだから。

ウマ娘世界が選べるなら誰だって選ぶよ!オレは悪くぬぇ!

 

――虚しいウソだ、何もかも俺が悪い。

 

俺のいない世界こそが正史、編纂事象。

 

チートトレーナーになってウマ娘たちとイチャイチャする?

チートウマ娘になって重賞とってアイドルになる?

砂糖菓子のような甘い妄想夢想は現実に叩き潰されたよ……

 

 

「あはっ あはっ アヤベさんになっちゃった……」

 

「なっちゃったからには……もう……ネ……」

 

「アヤベさんになれなかったら死ぬしかないじゃない!」

 

顔を覆う、頽れる。

 

どうして……どうして、こんな事に……

 

存在自体がイメ損の劣化レプリカは……

 

せめて彼女の名誉だけは護り通さねばならない。

出来るかどうかもわからない……

 

死ぬ気で罪から逃げるしかない。

アドマイヤベガが受け取るはずだった栄光。

 

素晴らしき才能を持つものが醜い偽物にとってかわられる。

 

俺は辛い、耐えられない。

死んでくれアドマイヤベガの偽物。

 

これ以上彼女の名誉を穢す前に。

 

顔面のコンプレックスからは解放された。

 

それにほっとしている自分に心底嫌気がする。

女子にゴミみたいな目で見られることはもうない。

クールビューティだと褒められるたびに心が痛む。

それはアヤベさんのものだよ……

それでも、それはオレの物じゃない。

謂われなく蔑まれた、何だったんだ前の俺の人生は……

 

 

だがすぐに現実を知る、わからせられる。

 

髪や肌や尻尾のケア。

美容品にコスメに化粧、覚えることは山ほどある。

多大な代償と金銭と時間と努力を払って

女の子は美しさを維持していたんだなあって……

清潔感を出す努力さえも前世はしてなかったんだなって……

幸いなことに同室はウマスタグラマーのカレンチャンだ。

彼女に聞けばまず間違いはない。

 

アヤベさんの顔の良さとか格好とか美しさを損なわないよう頑張った。

 

中央トレセンに入学したらやるべきことは山ほどある。

ダンスも歌も覚えなきゃいけないし

勝てない者に居場所はない。

 

可能な限りの重しのアンクルを付けて

ロイヤルビタージュースで無理やり体力を回復させ

死にそうな目でカップケーキを齧る。

桐生院トレーナーにメガホンで激を飛ばしてもらったりもした。

叶う限界の負荷をお願いした。

……桐生院トレーナーやハッピーミークには

心配をかけているが……

 

「これくらいやらないとあの子に申し訳が立たないから……」

 

そういって、なんとか納得してもらった。

 

トレーナーの指示を聞けばその通りに動いてくれる地頭。

走れば走るほど速くなる足。

鈍さや出来ないマヌケさは欠片も無い。

運動音痴でどうにもならなかった前世とは大違い。

でもね、悪夢は巡り終わらない。

これは俺の物じゃないことを嫌でも突き付けてくる。

借りものの足、借り物の体。

それでドヤ顔する気持ち悪さはぬぐえない。

 

アイデンティティ、なにそれおいしいの?

 

アドマイヤベガならもっと出来たはずだ。

トレーニングの苦痛は好きだ。

罪に対する罰が与えられている気がするから。

けれど、俺が彼女の体を勝手に追い込んでもいいのか?

それさえも許されたいばかりの傲慢な邪霊にすぎない。

フクキタルに祓われたくない!

 

ピザとコーラを片手にネットとアニメとゲームだけで

時間を潰す怠惰な生活は決して許されない。

本人が居たら殺される、いつウマソウルが帰還するかもわからない。

 

不思議が溢れるウマ娘世界、そうならないとは断言できない。

 

アヤベ?

ああ、アドマイヤベガのことか。奴さん死んだよ。

俺が殺した。ご臨終だ。

俺が彼女の席に割り込んでしまったばっかりに!

こんなことになるならば、生まれなければよかった!

 

こんなはずじゃなかった、そんなつもりはなかったんだ。

 

それがぬぐえない罪、生まれたことの罪。

時代や環境のせいじゃなくて俺が悪いんだよ!

アドマイヤベガに成り代わってしまったのは俺のせいだ!

もう嫌なんだ、自分が……俺を殺してくれ……

もう……消えたい……

 

「死にたい」

 

嘯いても罪は消えない。

ハイライトの出走した目で鋏を見つめて喉元に当てたのも

一度や二度じゃない。

 

その度に、彼女がいつか帰ってくるかもしれないと。

いつか取り返しに来るんじゃないかと手が震えて落とすまでが。

いつもの習慣だ……嘘だ、死ぬ勇気がないだけだ……

 

星を見上げて彼女のために祈る。

願わくば少しだけ俺の罪も許してほしい。

フワフワにしたお布団と布団乾燥機に囲まれて

見る夢は、掛け値なしの悪夢。

 

転生者バレからのトレセン追放断罪エンド。

 

「期待外れ」 「本物を返して」

 

自分が醜い紛い物だってことは一番わかってる。

あるいは、俺がアヤベさんじゃないと知った

他の転生者が殺しに来るかもしれない。

マンハッタンカフェには会いたくない

いつ本物を口寄せされるかもわからない。

 

 

「…ああ、オペラオー……ドトウ……トプロ……

桐生院トレーナー、カレンチャン……誰か、助けてください……」

「誰でもいい、解放してください……」

 

「……俺は夢に、ヴェガをなぞるのに疲れました。

もう、この夜に何も見えないのです……」

 

偽物でごめんなさい、劣化レプリカですいません。

赦してください。

 

「……ああ、誰か……ううう、あああ……」

 

 

『アヤベさん!アヤベさん!?』

 

カレンチャンに揺すられて起こされた。

 

「ああ、うん、カレンチャン……何でもない、何でもないわ……

ちょっと悪い夢を見てただけだから」

 

「アヤベさん、カウンセリングに行こう?本当に。

尋常じゃなく魘されてたよ……」

 

「大丈夫、大丈夫だから……そこまでしてもらうわけには……」

 

「アヤベさんは根を詰めすぎ、お休みを取って

フワフワのスイーツ巡りと家電量販店にショッピングに行こうよ

一緒にさ……」

 

「うん……申し訳ないけど、お願いできるかしら……」

 

カレンチャンの優しさが心に痛い。

 

ありがとう、カレンチャン

私は本当は罰を望んでいる。

罰を、追放されることを望んでいる。

自分のしでかしたことを償いたい。

俺が背負っている、この重くて呪われた十字架を外したいんだ。

俺は救いが欲しいんだ!

赦してくれ……まだ生きていたいんだ……

 

 

デビュー戦の日がやってきた。

 

皆勝たなきゃいけない理由を抱えて走ってる。

ソウルは厚顔無恥で傍若無人なゴミだけど……

肉体のスペックだけは本物のはずだから……

 

この体に恥をかかせることだけは、許されない。

 

「今日は、ステキな日だ。花が咲いてる」

「小鳥たちもさえずってる……。こんな日には、私みたいなヤツは……」

 

荒み切った光のない瞳でゲートの中で独り言ちる。

 

地獄で、燃えてしまえばいい。

 

位置はいい、スタートもばっちりだ。

 

ここまではちゃんとなぞれてる。

 

油断はしない、彼女たちだって一流だ。

 

こんなに遅かったっけ?

 

いやいや、最後の直線で足を貯めてるだけ

 

足も十分に溜められている。

 

さあ、このまま先頭を交わして……

 

もしかしたら、もしかしたら何もかもうまく……

 

誰か来る。 誰だ……?

 

そう思って一瞬だけ振り向いた、それが良くなかった。

 

忘れるはずもない蒼い勝負服、右耳には星を象ったイヤーマフ。

 

喉元には赤い、紅い蝶の印。手のひらの痕。

 

あの顔は……私……

 

何か言っている待って、と囁いている気がする。

 

「うわああああああぁぁぁ!!」

 

恐怖が、爆発した。

 

恥も外聞も無く叫んでいた。

 

「ああああああ!あの子が来るっ!あの子が来るよぉ!!」

 

『おおっとすごいぞアドマイヤベガ!先頭に躍り出て

ぐんぐんと後続を引きはがす! 一バ身、二バ身、三バ身……』

 

実況の声も後続ももう耳に入らない。

 

 

俺は、俺の罪が背中を這い回るのを感じた。

 

生まれてしまった罪。

 

完全な恐慌状態の中、足だけが生きるために回る。

 

俺の手は血まみれだ。

 

世界が燃えている、身体は煉獄の炎に包まれている。

 

その中でもう一人の私――いえ、本物が追いかけてくる。

 

史実の速さで。

 

ディオスクロイの流星――否。No。いいえ。

プルガトリウムの明星――Lv:1

 

『おおっと後続の娘たちは引きはがされまいと必死だ!!』

『無理矢理に末脚を引きずり出されているようにも見えます

掛かってしまっているかもしれませんね』

 

 

煉獄に輝く明けの明星。

傲慢なる転生者を焼く罪に対する罰の炎。

 

≪待って、待って……私の……■■■■■≫

 

「嫌ああああああああ! 赦して! 赦して姉さん!!

ごめんなさい!!ごめんなさい!!」

 

走る、奔る、疾駆る。

罪から逃れるためだけに。

消えたいほどの罪悪感と、後悔と、自責

贖罪の意識が燃えている。

 

≪私はそこ■でやれな■て言■てない■よ!……!≫

 

……ああ、ああ、助けて……助けてくれ……

 

カレンチャン、トレーナー、誰でもいい!

 

あいつが……あの子が来る……

 

おぞましい、私の醜い罪を罰しにやってくる……

 

ああっ……呪われたヴェガが……

 

赦してくれ……赦して……くれ……

 

許して……

 

 

『今、ゴール、後続を引きはがし切っての八バ身!!』

 

『アドマイヤベガ、凄まじい強さを見せつけました!』

 

『勝ち時計はなんとレースレコード……おおっと、審議!?』

 

『少々お待ちください、審議のランプが灯りました』

 

気が付けば、あの煉獄の風景は消えていた。

 

一着で走り切っていたが実感はまるでない。

 

結果は……斜行で降着。

 

どうも一位の子を躱わしたときの動作が良くなかったらしい……

 

 

恥ずかしい、消えたい……。

 

あの子ならこんなミスは犯さなかったはずなのに……

 

ああ、桐生院トレーナーにもなんて謝れば……

 

ベガにはなれなくても……なり切れなくても……

 

此処にいる事を、どうか許してください。

 

俺があの子の分まで走るから……

 

ひたすらに重い脚でウィニングライブに赴く。

 

奪い取った場所で光を浴びるために……

 

ひたすらに苦しいけれど……

 

天を仰ぐ。

 

抜けるような青空には、星は見えない。

 

何にも見えないの。

 

 

 

「――アドマイヤベガを、続けないと」

 

 

 

 




もしも、ウマ娘世界に転生できるとしても
アヤベさんのポジションの
成り代わりだけは絶対に悲惨極まることになると
思って書いたけれど……
想像以上に陰惨すぎる話になってしまった……
フワフワどころかガッチガチに重い……

テーマソングは
BUMP OF CHICKEN『カルマ』
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