リィエル・レプリカと転生日誌   作:氷月ユキナ

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鉄の魔人と彼女の死

 アルザーノ帝国魔術学院。

 

 ティアと別れたジャティス、グレン、システィーナが向かっているその場所では、《鋼の聖騎士》ラザール=アスティールが【メギドの火】の番人のように立ち塞がっていた。

 

 ハーレイやツェストが時間稼ぎをしていたが押し切られる、その時にラザールへ放たれた魔術は【イクスティンクション・レイ】。

 

 それを撃った者は、グレンだった。

 

 そこにセリカも合流し、グレン達は【メギドの火】の『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』の解呪(ディスペル)に取り掛かった。

 

 だが……そこで、これが【メギドの火】に偽装されているだけの【マナ堰堤式(ダム)】だと気づいたグレンは、その術式を解呪(ディスペル)ではなく発動させた。

 

 ……しかし、少し遅かった。

 

 日没に解呪(ディスペル)されるように施されており、全てを無くすことはできなかったのだ。

 

 その魔力を使い、ラザールは懐から取り出した《黒い鍵》を使い鉄騎剛将アセロ=イエロとなった。

 

 セリカや帝国宮廷魔導士団のアルベルト達、他にも様々な最高戦力が揃ったが、その全員が蹴散らされてしまっていた。

 

「もう止めてくださいッ!」

 

 その状況に耐えられなくなったルミアの悲痛な叫びが響いた。

 

「貴方の狙いは私でしょう!? それなら、私を殺してくれて構いませんッ! だから、皆を傷つけないで……ッ!」

『ルミア=ティンジェル。その願いは承諾しかねる』

「……えっ!?」

『今回の計画には貴女の死とフェジテの滅亡の双方が含まれる。交渉価値がない』

「そ、そんな……」

 

 ラザール……いや、アセロ=イエロの言葉に俯くルミアに向けて、アセロ=イエロは歩み寄る。

 

 その時に、ルミアの前に立ちはだかる者がいた。

 

「……ルミアは、わたしが守る!」

 

 リィエルだった。

 

 ジャティスによる人工精霊(タルパ)の斬撃、ラザール=アスティールとの戦闘、更にアセロ=イエロとなった後には回し蹴りで肋骨と右腕を砕かれており、既に限界だった。

 

 ティアを止められなかった無力感から必死に覚えた法医呪文(ヒーラー・スペル)が無ければ、立つことすらままならなかっただろう。

 

 攻性呪文(アサルト・スペル)よりは適正があったという単純な理由で法医呪文(ヒーラー・スペル)を覚えたが、上手く使えたことにリィエルは心の中でホッとしていた。

 

『ふん……ならば、先に貴様を手にかけてやる』

「ん、やれるものならやってみて」

 

 身体がまともに動かない。

 

 全身がとてつもなく痛い。

 

 それでも、リィエルは目の前を見る。

 

 それが絶望的なものだったとしても、これが無謀だと分かっていても。

 

「リィエル……」

 

 ──リィエルは、友達を見捨てることなどできなかったのだ。

 

「いいいいぃぃぃいいやぁぁぁああああああッッ!」

 

 身体を無理矢理動かして、リィエルは大剣をアセロ=イエロに向けて振るう。

 

 だが、それでも。

 

 ──バキン!

 

「──ここで、終わりだ」

 

 想いだけで、何でもできるようになるわけでは無い。

 

 アセロ=イエロは神鉄(アダマンタイト)の右腕を上に挙げ、リィエルに振り下ろす。

 

 リィエルには、周りの速度が遅く感じられていた。

 

 こちらに向けて何かを叫ぶグレン。

 

 珍しく焦った様な顔をするアルベルト。

 

 そして、同じ顔をした、灰色の髪の少女の姿が…………?

 

 ──ザシュ

 

 鈍い音がして、紅い鮮血が空を舞う。

 

 だが、リィエルに痛みは来なかった。

 

 そして目の前には、胸を貫かれたリィエル=レイフォードそっくりのメイド少女の姿があった。

 

「…………え?」

 

 状況を把握できないリィエルは、間抜けな声しか出せなかった。

 

『……仲間を庇ったか。愚かな……』

 

 アセロ=イエロは右腕を無造作に少女の身体から抜き、血濡れた身体が乱暴に放り投げられる。

 

 その右腕は、少女の血に濡れていた。

 

「ティアッ!?」

 

 リィエルは必死に落ちてくる少女をキャッチして、その怪我を目を鋭くしながらよく見る。

 

 そして、軍属のリィエルはこれまでの経験から直ぐに悟った。

 

 その怪我がもう、助けることができないほどのモノだと。

 

「ティ……ア…………? どう、して…………」

「は、は………なん……で……だろ……ね……? よく……わからない…………」

「……ティア……ごめん、わたしは……」

「ん……大丈夫……だから……げほっ…」

 

 口から大量の血を吐き出した姿は、彼女がもう永くないということを物語っていた。

 

「ティア……? やだ……やだ! やだ……ティアぁ……死なないで……!」

 

 そうしている間にも、彼女から生命力がどんどん無くなっていくのが感じられる。

 

「……ね……リィエル……ありがと……」

「……? わたしは、何も……」

 

 リィエルを見て、精一杯の作り笑顔を見せていた。

 

「……ねぇ……姉さん…………大好き」

 

 瀕死になりながら、それでも送られた愛の言葉に、リィエルは目を見開いた。

 

「……やっと……言えた……ぁ…………ん…………」

 

 それだけ言うと、もう満足だと言わんばかりに。

 

 ゆっくりと目を閉じて、永遠の眠りについた。

 

「…………ティア?」

 

 リィエルは話しかけるが、彼女は何も言わない。

 

「ティ、ア……ね……ティア……?」

 

 それを認められないと言わんばかりに、リィエルはティアに声をかける。

 

「起きて……ティア……起きて……?」

 

 何回も、何回も、何回も。

 

「………………………ぁ」

 

 リィエルの脳裏にティアとの思い出が蘇る。

 

 ──おれはティア。よろしく。

 

 初めて会った時、不思議な感じがした彼女は。

 

 ──ん。苺タルト、美味しい。

 

 自分のオススメの苺タルトを一緒に食べてくれた彼女は。

 

 ──ん、リィエル、凄い。

 

 魔術が凄いと褒めてくれた彼女は。

 

 ──……ごめん、リィエル。

 

 泣きそうな笑顔で、去り際に自分に謝った彼女は。

 

 ──もう、どこにも居ない。

 

「………………ぁ、……ぁ、……ぁあ、……ぁあああ……ッ!」

 

 リィエルの頭の中は、メチャクチャになっていく。

 

 グレンに自分の妹だと告げられて、いつかは必ず、またこの学院で友達になろうと決めた彼女は、目の前で死んだのだから。

 

 自分が姉として守ってあげようと決意した相手であるティア=レイフォードは、もうどこにもいないのだから。

 

 目から雫が溢れ出し、ティアのために何もできなかったという壮大な無力感に襲われる。

 

「ぁああああああああああああああああああああああああああああああああーーッ!」

 

 リィエルは叫んだ。それしか出来なかった。

 

 叫ぶ以外に、何をすればいいか分からなかった。

 

「あああああああぁぁああああぁぁぁあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁあああーーッッッ!」

 

 喉から声が出なくなるまで、ずっと、ずっと叫んでいた。

 

 そんなリィエルの姿を、背後で痛ましそうに見たグレンは、リィエルを過去の自分と重ねていた。

 

 その姿が、セラを失った自分とそっくりだったから。

 

「…………くそがッ!」

 

 あいも変わらず、あと一歩で救えない無力な自分に、グレンは嫌気が差していた。

 

 それからずっと、ずっと……リィエルの叫びが、学院に木霊していた。

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