リィエル・レプリカと転生日誌 作:氷月ユキナ
あれから、グレン、システィーナ、ルミア、リィエルの四人はセリカの手を借りてアセロ=イエロの元へと向かった。
様々なハプニングがあったが、それも色々と頑張って乗り越えて、最後には過去を乗り越えたグレンが
それにより《炎の船》による【メギドの火】の心配は無くなり、帰ってきたグレン達は地上で戦っていた学院の教師や生徒に大歓迎され、大盛り上がりとなったのだった。
そして──学院の北の方に存在しているアウストラス連峰という場所で。
『はぁ……ッ! はぁ……ッ! はぁ……ッ!』
生き残ったラザールが息切れしていた。
『あ、危なかった……ッ! なんとか《炎の船》から霊魂を補填し存在をつなげたか……ッ! まだだ……まだ、私は終われない……300年前のあの日に、私は信仰を失い……手を差し伸べてくれた 大導師様に、私は神を見たのだ……ッ! 大導師様に
ラザールが目的を自分に言い聞かせ、力を振り絞り立ち上がったときに。
「……だが、そんなものは"まやかし"だよ」
一人の男の、ねっとりとした不快な美声を耳にした。
「ラザール。君は根本的に間違っている……神とは自分の外に求めるものじゃない……自分の内に見いだすものなのさ」
『なん……だと……ッ!?』
そこに居たのは、二人の男女だった。
ラザールが驚いて見た人物は、黒いフロックコートを着たジャティス=ロウファン……ではなく、もう一人の方。
「"あなたが道に迷った時、己が良心の言葉に耳を傾けなさい。それが主のお言葉である"……"主は常にあなたの良心を通して、あなたに語りかけるのだ"……エリサレス聖書、第三章『使徒福音書』四十七節、四十八節……」
『馬鹿な……なぜ……?』
「ラザール、君の罪は……己の内なる神を信じられなかったこと。己の外に偽りの神を求めてしまったこと。君は、弱き者さ」
「ん、貴方は信じなかった。だから……間違えた」
『ティア=レイフォードッ!?』
「ん、正解。やっほー」
メイド服を着たティアが、ジャティスの隣に立っていた。
あの時に、ラザールは絶対に彼女を殺していた……筈なのだ。
だから、ここにいる訳が──
「彼女はずっと生きていたよ……君と戦ってすらいない。君が殺した少女は、ティアとは全くの別人なんだ」
『何……ッ!?』
驚くラザールに、ジャティスは薄笑いを浮かべてゆっくりと種明かしをする。
「君が殺した者は、『
『バカな……『
「そうだね……確かに、シオン=レイフォードか《
『な……ッ!』
自分が殺そうとしていた《
そんなもの、ラザールにとって該当するのは一人のみ。
『まさか、ルミア=ティンジェルを利用したのかッ!』
「正解だよ。さて……解説するのはここまでだ。ここからは宗教裁判だよ、ラザール。判決は死刑。その不信の罪、償ってもらおう」
語るのに満足したのか、ジャティスは裁判官のように杖に偽装された刀剣を構え、ティアはジャティスに任せて後ろに下がる。
『……舐めるなよ、人間ごときがッ!』
ラザールは神速ともいうべきほどの速さで動き、余裕の表情をしているジャティスの左腕を切り裂いた。
『この
敵ではない。ラザールはそう口にしようとしたが、そこで自分の左腕が分解されているのに気がついた。
粒子化された
そして、ジャティスには
『な、何……ッ!?』
「ふぅん、なるほどなるほど……これが古代文明の神秘……
『な、何をした……貴様ァアアアアアアア──ッ!』
「うるさいなあ……僕が創った名無しの少女が、君に殺された時に
なんだ? なんなのだこの男は?
ラザールは、目の前の男が信じられなかった。
そんな1割を切っている確率に向けて、どうしてそこまで突き進められるのかが、分からなかった。
「ほら、刑の執行だよ、ラザール」
『う、う……ぁ……ああ……ッ! く、来るな……ッ!』
後退るラザールに、一歩一歩確実にジャティスは近寄っていく。
「僕の女神……【ユースティアの天秤】の計算結果が厳然と告げている……たとえ君が万全な状態だったとしても……
『うぉおおおおおおおおおおおおおおおお──ッ!』
残された全ての力を使って、ラザールは風のようにジャティスへ駆けた。
ジャティスもそれに合わせて
そして、2つの光が交差した。
その結果は……言うまでも、無いだろう。
■□■
ティアside
「……正義、執行完了」
ほわぁ……なんか本当に作戦通りに行っちゃった。
俺がしたことを端的に言えば、ジャティスの魂分割の阻止と愉悦のダブルコンボだ。
そこで利用したのは、俺が『
そんな俺の特殊性、ジャティスの記憶にある『シオン・ライブラリー』、そしてルミアの《
だけど……だけどさぁ……まさかあの最悪の三日間の真っ只中で本当にジャティスが完成させられるなんて……。
「終わったよ、ティア」
「ん。……凄かった、ジャティス」
「そうかい? それは嬉しいなぁ……けど、あれはティアが僕のことを思って提案した作戦だからね。僕も全力でやらないわけには行かないだろう?」
「それでも、カッコよかった」
「……なら、嬉しいよ」
そう言うと、ジャティスは俺から目を背けて……え、もしかしてデレてる? ジャティスのデレとかレアすぎない?
それからジャティスがふぅ……と息を吹いて、帽子を深く被り直した。
「そろそろ行こうか、ティア。僕の正義を為しに」
「……違う」
「うん? 何がだい?」
そう、違うのだ。
ジャティスの正義ではない。
「
「…………」
若干のドヤ顔と共に言うと、ジャティスは呆然とした顔をして。
「ぷっ、あっははははははッ!」
笑った。
「!?」
「ははははっ…………いや、悪かったね。バカにしたわけではないんだ……そうか、そうだね……じゃあ、言い直そうか」
ジャティスは一歩前に出て、こちらを振り向いて手を差し伸べて。
「僕たちの正義を為しに行こう、ティア」
夕焼けを背後にしているジャティスの眼には、いつもと違って光があるような気がして。
俺の頬も紅くなっているのも、その夕焼けの光のせいにして。
「んっ!」
俺はジャティスの言葉に、精一杯の肯定を返した。
……ねぇ、ジャティス。
もし、俺が断罪されるべき存在になったら。
愉悦という欲望を完全に抑えられない悪となったら。
そんな時は……貴方は、俺を殺してくれる?
少し考えた想いをこっそりと心の内に隠して、俺はジャティスの手を取った。
どうか、これが永劫に続きますように。
自分の欲望が、彼の正義に赦されるのか。
心の何処かでそれが不安になったティアでした。