リィエル・レプリカと転生日誌   作:氷月ユキナ

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ル=キル時計

「ふん……あのグズめ。どれだけ私の足を引っ張れば気が済むのだ……」

 

 4周目の7日目。

 

 選抜会閉会式でシスティーナ=フィーベルがメイン・ウィザードに選ばれた後の帰り道を、エレンの祖父ゲイソン=ル=クライトスがエレンに対する愚痴を呟きながら歩いていた。

 

 ブツブツと意味の無い孫娘への罵倒を繰り返しながら歩を進めていると、ゲイソンの視界に長い白髪が見えた。

 

「む……?」

「……ゲイソン=ル=クライトス。貴方だよね、この一週間をループさせているのは」

 

 気がつけば、ゲイソンの周りには一般人が一人も居らず。

 

 その前に立ち塞がるように、セラを名乗っているティアが炎の剣(フレイ・ヴード)を片手に立っていた。

 

「……なんだ? 貴様は……この私に向かって無礼だぞ。……何の用だ?」

「そういうのはいいよ」

 

 とぼけるゲイソンにセラ(ティア)はマトモに取り合わず、炎の剣(フレイ・ヴード)を両腕でしっかりと持ち構えた。

 

 もしここにグレンが居たのなら、剣を構えるセラを見て驚くだろう。……実際は彼女はセラではないのだが。

 

「このループを終わらせるために、貴方を殺す。それだけだよ」

「……やれやれ、信じられんの。ククッ、まさかこのループの中で真実に到達できる者が現れるとは……」

 

 セラ(ティア)の殺意を受けたゲイソンは本性を現し、顔を歪ませて醜く笑う。

 

 ゲイソンはセラ(ティア)から目を放さないまま懐から歯車のような部品を取り出した。

 

 それは不思議な魔力でゲイソンの手のひらの上をフワフワと浮いており、淡い光を零している。

 

「……それが、《ル=キル時計》の"竜頭"?」

「ほう、本当に良く知っているではないか。そう、これが《ル=キル時計》の機能を制御する部品だ」

「この時間を繰り返している黒幕はエレンじゃなくて、"竜頭"で遠隔操作をしていた貴方……」

「その通りだ。この"竜頭"で時を巻き戻し、かのティトゥス=クルォーが時計に改造した神の眷属ル=キルを操作できるのだよ。これを使い、今から時を巻き戻すつもりであった」

「エレンがメイン・ウィザードに選ばれなかったから?」

 

 罪悪感の欠片も見せないゲイソンに、セラ(ティア)は段々と苛立ちを見せる。

 

「目的まで知っているのか……どれだけ私が繰り返したのかが気になるところだな。だが、それほど繰り返してもあの程度とは……とことん我が孫娘は使えない」

「貴方のゴミみたいな目的に、エレンを巻き込まないでほしいんだけど?」

「フン……貴様には分かるまい。クライトス家にさらなる繁栄をもたらさねばならない、そんな使命を抱えた私の事など」

「分かりたくもないなぁ」

 

 ゲイソンの戯言に、セラ(ティア)は心からウンザリしたといった表情した。

 

 あまりにも自分勝手すぎる言い分は、セラ(ティア)のヘイトをマックスにしていたのだ。

 

「それじゃ──死んで」

 

 セラ(ティア)は身体強化魔術を全開にして、地を蹴った。

 

 辺りの家の壁のあちこちを使って、ゲイソンの周りをリィエルのような立体機動で風のように跳びまわる。

 

 一瞬のうちにゲイソンの背後を取ったセラ(ティア)炎の剣(フレイ・ヴード)の炎を纏い、完全に認識できていないゲイソンに斬りかかる。

 

「──クハ」

「──ッ!? 《大いなる風よ》ッ!」

 

 ゲイソンが嗤いを漏らし、"竜頭"が不穏な魔力を撒き散らしながら猛回転しているのを見たセラ(ティア)は、咄嗟に自分の背後へ黒魔【ゲイル・ブロウ】を放つ。

 

 ──ドォンッ!

 

 空気がぶつかり砂嵐が舞う。

 

 砂嵐が晴れたそこには、エレンが持っていた筈の《ル=キル時計》が宙に浮いていた。

 

 その時計はみるみる変形していき、とある形を構築していく。

 

 それは、人間と機械を交配させて、全身を拘束具で雁字搦めに戒めたような醜悪な人形。

 

 墜ちた神の遣い、ル=キルが顕現していた。

 

「……やっぱり、時間を巻き戻すだけじゃないんだね。その時計」

「その通り。見えるだろう? 機械化された神の眷属が。あの悍しくも美しい彼女の姿が。そして、この竜頭で彼女──ル=キルを、私の意思で自由自在に操ることができるのだよ……このように、別の場所から呼び出すこともだ」

 

 ゲイソンは自慢するかのように、ベラベラと《ル=キル時計》の話をする。

 

「だが、まさか"滅びをもたらす風の翼(ル=キル)"を同じ風の魔術で相殺するとは……貴様はどれほど繰り返したのかね?」

「さぁ……ねッ!」

 

 セラ(ティア)は再び炎の剣(フレイ・ヴード)を力強く握り、ル=キルへ駆け出す。

 

「無駄なことを!」

 

 ゲイソンの手のひらで、竜頭がクルクルと高速で回りだすと、ル=キルのクズ鉄の翼が羽ばたき始め、風がセラ(ティア)に向かって吹き始める。

 

 それをセラ(ティア)に左に跳ぶことで回避し、そのまま壁を蹴って家の屋根の上に行くと同時に、炎の剣(フレイ・ヴード)から圧倒的な火力の飛ぶ斬撃を放つ。

 

 ……が。

 

 ──ブォンッ!

 

 風の音がセラ(ティア)の耳に入ると、次の瞬間には炎の斬撃に"滅び"が訪れていた。

 

「厄介だなぁ……ぐっ!?」

 

 急に左腕から痛みを感じ、その場所を見てみれば。

 

 左腕の肉が半分程度弾け飛んでいた。

 

「あはは……少しだけ、風があたっちゃってたのかな」

 

 ボタボタと血が流れる左腕を炎の剣(フレイ・ヴード)を持つ右手で抑えるが、血が止まる気配は無い。

 

「ふははははははははははははは──ッ! どうだ! 見たか!? 感じたか!? 参ったか!? この力をッ! 我らがクライトスの栄光に立ち塞がる不届き者よ! その威光にひれ伏して──死ねッ!」

「──ッ!?」

 

 ゲイソンの竜頭が、回る。回る。回る──

 

 そして、"滅びの風"が全方位に放たれた。

 

「くぅっ、《大いなる風よ》ぉッ!」

 

 先程と同じように黒魔【ゲイル・ブロウ】で相殺しようとするが、その力が段違いだ。

 

「うぅ……ッ!」

 

 ここにいるのが本来のセラならば突破できたかもしれないが、ここに居るのは偽物のティアだ。

 

 風魔術の練度は、本物とは比べるまでもない。

 

「ん……どこまでいけるかなって挑んでみたけど、ここまでか」

 

 ボソリと独り言を呟いたセラ(ティア)は、自分の魔力では"滅びの風"を受け止められないことを悟っていた。

 

 そして最期には、悟った通りにセラ(ティア)の風が押し負けて、そこに大量の血華が咲いた。

 

 そうして、ティアの意識は闇の中へ落ちていった。

 

 

■□■

 

 

 ──また、終わり(Ω)が訪れた。

 

 そして、始まり(Α)へと回帰する──

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