リィエル・レプリカと転生日誌 作:氷月ユキナ
────。
「──ィ──ア……ほら……起き……」
……? 何が……。
「──ティア? ほら、起きなよ……もう朝だよ?」
「…………ん」
ジャティスの声により、脳が眠りから覚めていく。
「今日はグレンの生徒達の魔術祭典の為の選抜会なんだよ? 行きたいと言ったのは君じゃないか」
「ん、ごめん。すぐ起きる……」
眠たい目を擦り、俺はベッドから起き上がった。
「……やっぱりワンパターン」
ジャティスの用意してくれたメロンパンを食べながら、俺は呆れたように呟いた。
食べ終わったらしっかりと歯を磨き、パジャマを脱いでいつものメイド服ではなく変装用の平凡な服を身に着ける。
ずっとセラの姿になっていたので、メイド服を着ていたことが遠い昔のようだ。
「さあ、そろそろ出よう」
「ん」
魔術祭典に行く準備を整えた俺は、ジャティスに声をかけられて玄関へ駆け寄る。
「さて……エレンが"空"を飛べるのか、ちゃんと見に行こうじゃないか……」
「…………え」
その言い回しに、俺は疑問を覚えた。
……というかこいつ、覚えてない……?
「ジャティス……?」
「ティア、早く行くよ」
「あ…………ん」
問い詰めても無駄だと悟った俺は、何も言わずにジャティスと魔術祭典の会場に向かった。
■□■
交流会の次の日……つまり二日目。魔術競技場内の広場には、沢山の生徒が集まっていた。
そこで、今から何が行われるのか……それは、魔力測定だ。
広場の中心に置かれている、青い液体が入った巨大なガラス円筒の機械。
それを使って、生徒達が自分の魔力を測定していくのを、俺はつまらないと言いたげな顔でぼんやりと見ていた。
そろそろだ……と思えば、場が盛大に沸き上がる。
──ぉおおおおおおおおおおおおおおおーーッ!
システィーナが、
エレンはこの瞬間が
「ふぁ〜……ええと……次〜」
グレン先生があくびをしながら、魔力を一人一人測定していき、ついにエレンの番になった。
「へへっ、止めとけよ、エレン」
すると、いかにもカマセになりそうな男子生徒がエレンに話しかける。
「こんな大勢の前で、恥かくぜ?」
「それより、素直に候補者を辞退しろよ、このクライトス校の面汚しが」
……毎回の
観客席でイライラを抑えながら、俺は隣にいるジャティスによっかかった。
「お前、こっちに来る前に魔力測定、もうやっただろ?」
「えーと? 確か、
わざと大声で観客席にも聞こえるように煽る男子生徒二人の言葉に、周囲の人もざわつき始める。
生徒や、観客席にいる一般の人達の困惑の声を、俺はさらりと聞き流す。
「ったく、クライトス家の出家筋様はお得だよなぁ?」
「しゃーねぇよ、アイク。クライトス魔術学院の現学院長ゲイソンが、今のクライトス家の出家筋の当主なんだしさ。無理矢理、エレンを候補に押し上げたのさ」
そのゲイソンとやらは昨日、竜頭が無くなって発狂してたけどね。
あれは"面白い"茶番だった。
思い出し笑いで内心笑っていると、エレンはようやく口を開いた。
「口が臭いから黙っててくれない?」
「ぶふっ」
あまり感情を表に出せない俺が、あまりにもあんまりな発言を聞いて吹いた。
「……ティアが面白そうで何よりだよ」
「ん……おもろ」
珍しくニヤニヤと笑っている俺の視線の先で、エレンは男子生徒二人を睨む。
「は? ……あぁ!?」
「おいお前……何て言った?」
「あれ、聞き取れなかった? 耳が悪いの? いや、悪いのは言葉を理解できない頭のほうかな?」
「あんだとテメェッ!? この面汚しがッ!」
「さっきから馬鹿の一つ覚えみたいに同じような事しか言えてないし……脳みそ腐ってるの?」
それだけ言い残し、エレンはスタスタと軽い足取りでガラス円筒の魔術方陣に歩み寄る。
暴言を叫び始めたヒステリックな男子生徒二人をグレン先生がとっ捕まえたところで、エレンは結晶に手を当てた。
結晶がもの凄い勢いで成長していき、数字が叩き出される。
……それは。
《
《
「な……」
その数字に、誰もが絶句した。
システィーナを……いや、教師や生徒を含めたこの場にいる者全員を軽々と飛び越えたものだった。
「当然だよ……エレンは人の身でありながら神の眷属であるル=キルの力をそのまま譲渡されている……むしろ、あれでも予測よりも少ないくらいさ……」
「……強そう」
「だろうね」
「嘘だ……ッ! いかさまだッ!」
俺とジャティスが話していると、それを遮るような声が上がった。
その声を発した人物を見てみると、それはクライトスの分家出身であるレヴィンだった。
「そんな筈はないっ! 君は確かについ一ヶ月前まで、900の40だったはずだ!」
「だからどうしたの? 一ヶ月前が何だろうと、関係無い。これが今の私の実力。それが全てだよ?」
「────ッ!?」
エレンにじろりと見られたレヴィンは、一歩後退る。
これまでには無かった、人のものではないようなプレッシャーをエレンから感じたのだ。
「ねぇ、システィの先生の……グレン先生?」
「……なんだよ」
「私の不正を疑うなら身体検査、再測定、いくらでも応じるよ。ついでに魔導装置の故障を疑うなら、いくらでも調べればいいし。……ま、時間の無駄だろうけどね」
「……、……ああ、一応、そうさせてもらう……」
額に脂汗を浮かべたグレン先生は、エレンの申し出に応じる。
ここで測定が正確だと証明しておかないと、後々難癖つけられる可能性があるし、いい判断だ……と、俺は上から目線で考えていた。
■□■
四日目からは、『総当たり魔術決闘戦』が行われる。
そこでエレンは──
「《時の守護者よ・滅びの風を解き放ち・全てを朽ち果てさせよ》──黒魔改【ルイン・ゲイル】!」
「きゃあッ!?」
「そこまで! 勝者、エレン=クライトス!」
一回戦目、勝利。
「《死の風よ・時の流れに乗りて・全ての命を奪い去れ》──黒魔改【デス・ウィンド】!」
「うわぁぁぁッ!」
「そこまで! 勝者、エレン=クライトス!」
二回戦目、勝利。
「《災厄の風よ・時を巻き戻し・万物に終焉を》──黒魔改【カタストロフ・ブリーズ】!」
「やめてぇーッ!」
「そこまで! 勝者、エレン=クライトス!」
三回戦目、勝利。
「《永遠の風よ・時の淵より現れ・全てに滅びを》──黒魔改【エターナル・ヴォイド】」
「あぁぁあぁぁぁぁッッ!」
「そこまで! 勝者、エレン=クライトス!」
四回戦目、勝利。
とまあ、無双していた。
そもそも、ル=キルから受け継いだ滅びの風がチートすぎるのだ。
防御系呪文は、基本的に魔力障壁や防御
つまり、それらは相手の攻撃に触れること前提……滅びの"概念"を内包しているエレンの風には通用しない。
「ん……感激。エレンがここまで強くなるとは思わなかった……」
「なにせ、腐っても神の眷属だった存在の力を受け継いだんだ……このくらいはできてもらわないとね」
「……ジャティス」
「なんだい?」
ここでふと、俺は疑問に思ったことがあった。
「どうしてエレンを強くしてくれたの?」
そう。ただループを無くすだけなら、わざわざこんな回りくどいやり方でエレンを強化せずとも、ル=キルを殺すだけで十分だったはずだ。
それなのに、ここまでのことをジャティスはした。
その理由を俺は知りたいのだ。
「ねぇ、どうして?」
「……あの時、エレンのことを色々と読んでみたんだ……それで思ったのさ、面白いと。……グレンほどじゃないよ? だけど、ああいうのは嫌いじゃない」
「ああいうの……?」
「ああ、そうさ……痛みと嘆きを背負って、泣きながらも自分の希望を信じて突き進む……そんな尊き人間性を、エレンは持っていたんだよ……だから、僕はエレンに激励と一筋の光を与えた。もちろん、エレンがル=キルに認められない可能性もあったが、もしそうなればエレンはその程度だったということさ」
……良く分からないが、エレンはジャティスのお目にかかったらしい。
俺が鍛えてもおそらくはここまで強くなれなかっただろうし、感謝しておこう。
そうして、そのまま選抜会は進んだ。
模擬魔術戦でエレンとシスティーナが勝ち進み、ついに二人が対戦することになった。
魔術競技祭、第七試合場。
そこで、エレンとシスティーナは対峙した。
……この試合で、メイン・ウィザードが誰になるかが決まる。
これまでの試合を見てきた観客全員が、そう感じていた。
誰もが待ち望んでいた試合が、始まる。