リィエル・レプリカと転生日誌 作:氷月ユキナ
「ねえ、システィ。私、ここまで来たよ」
試合開始の合図前、エレンはシスティーナに話しかけた。
「あまり詳しいことを話しても分からないと思うけど……それでも、ここまで色んなことがあったんだ」
「…………」
「だから、私負けないよ。システィ」
エレンは真剣な眼差しで、システィーナのことを見る。
それを見たシスティーナはため息を吐いて、
「……先に言っておくけど、手加減はできないわよ。"汝、望まば、他者の望みを炉にくべよ"……それが"魔術師"だもの」
「もちろん知ってる。むしろ、手加減されたほうが私は傷つくよ」
「そうね。……じゃあ、本気で行くわ。貴女が私を超えたいと願っているのは分かるけど、私にも譲れないものがあるから」
「システィのお祖父様が見た光景を、見たいんでしょ?」
「……よく知ってるわね。まだエレンには話してなかったと思うんだけど……」
「
エレンの言っていることがいまいち理解できずに、システィーナは首を傾げる。
そんな姿が面白いのか、エレンは笑みを深めた。
そうして、その場に審判役の人が歩み寄る。
「それでは、システィーナ=フィーベル対エレン=クライトスによる試合を開始します」
その言葉に、システィーナとエレンの両者が己の魔力を高める。
「始めッ!」
審判の声が第七試合場に木霊した瞬間、
「「──《大いなる風よ》ッッ!」」
その空間を、二つの風が支配した。
■□■
「ジャティスは、どっちが勝つと思う?」
観客席の一角。
二人の少女がお互いの風をぶつけ合っているのを眺めているティアは、様々な感情が全く反映されていない無表情でジャティスに尋ねた。
「……知りたいのかい?」
「ん」
「なら言わせてもらうけど、エレンに勝ち目はない。今の二人ならば、100回戦ったとしても100回システィーナが勝つだろうね……」
どこか残念そうな顔でティアに返答するジャティス。
それを聞いたティアは、ぴくりとも表情を動かさない。
「ついでに、理由は?」
「ティアも分かっているんだろう? ……
ティアの知っている原作知識の、23巻。
そこでシスティーナ達がジャティスに敵わない理由と、同じものだった。
「エレンの重ねた道のりが、時間が、まだまだシスティーナには及ばない。エレンの道がシスティーナに劣っているわけじゃあない。単純に、彼女達の自らの神秘に対する年季が違う。それだけさ」
「ん。……ル=キルの力を手に入れてから、エレンはまだ一週間も経っていない」
ジャティスの指摘に、ティアは悔しげに顔を歪める。
「むしろ、あそこまで使えてる時点ですごい」
「ああ、そうだね。魔術とは根本的に違う"滅びの風"。それをああまで術式に組み込んで使いこなせているのは、賞賛に値するよ」
「
ジャティスの言っていることを理解した上で、ティアは言う。
「勝つのは、エレン」
■□■
「《時の守護者よ・滅びの風を解き放ち・全てを朽ち果てさせよ》──ッ!」
「《大気の壁よ》!」
エレンが放った【ルイン・ゲイル】を、システィーナが【エア・スクリーン】によって受け流す。
"滅びの風"としての概念が含まれているエレンの攻撃を防ぐには、同じ風で相殺するしかない。
その点において、風魔術が得意なシスティーナはエレンにとっての天敵だった。
「《雷精の紫電よ》──ッ!」
そこに畳み掛けるように、真横から雷閃を続けてたたみ込む。
……これまで、エレンは風の魔術しか使ってこなかった。
なので、ここでいきなり【ショック・ボルト】を撃つのはシスティーナの意表をつくような行為。
されどシスティーナはあくまで冷静に、それに対処できるような
「《災厄の風よ・時を巻き戻し・万物に終焉を》──ッ!」
そこに《
そこでシスティーナは
「次は
エレンも得意気に黒魔【ラピッド・ストリーム】の高速
魔力が少ないので一瞬でマナ欠乏症になってしまったな……とエレンはふと思い返し、慌ててシスティーナに意識を戻した。
「「《魔弾よ》ッ! 《
黒魔【マジック・バレット】の
これも、エレンがループ中にティアから教わったものだ。
……といっても、ティアは
システィーナがどう動くかなんて、エレンはこれまで何度も見てきたのだ。
「《死の風よ・時の流れに乗りて・全ての命を奪い去れ》!」
「《寄りて集まる風よ》!」
エレンの攻撃をシスティーナは【エア・ブロック】……作り出した空気のブロックを
「《雷精の紫電よ》──ッ!」
「《災禍霧散せよ》──ッ!」
システィーナの【ショック・ボルト】を読んでいたと言わんばかりに速攻で【トライ・バニッシュ】を唱えて雷閃を
「はぁあああああ──ッ!」
そこにシスティーナの右手からの
「《さらに》っ!」
それをエレンは【トライ・バニッシュ】の二
そこに追撃しようとするシスティーナの移動先にある
「はっ!」
「──ッ!?」
システィーナは、足踏み一つの
「……いや。いやいやいや。おかしくない? システィ? 嘘でしょ?」
一応はこれで留めを刺すはずだったエレンは、軽々と突破したシスティーナにドン引きした。
「《
その動揺によるエレンの隙をつくようにシスティーナは白魔【リズム・キャンセル】によってカオス側に振れたマナ・バイオリズムを強引にロウ状態へと切り替えて呪文攻撃をエレンに浴びせる。
「く──ぅ!? 《
そこでエレンもシスティーナの真似をするように、同じく【リズム・キャンセル】を使用する。
その勢いでシスティーナの集中砲火から
「はぁ……はぁ……!」
息切れしながらも距離を取れたエレンは、それでもやってやったと言わんばかりに
エレンが使ったものは、
「これで、終わりだよ。システィ」
「終わり……? 何を言ってるの? まだ私は攻撃を食らってなんか──」
エレンの行っていることが理解できずにシスティーナが困惑した、次の瞬間。
──ぐらり
システィーナの身体が、崩れ落ちそうになる。
「はぁ……はぁ……なに、これ……? それに なんだかさっきから、やけに息苦しいような……何を、したの……?」
「
「──ッ!?」
つまり、エレンは戦闘を行いながらル=キルの権能で《
逆にエレンは、己の"風"で酸素を身の回りに集束させることで、酸欠状態になることを避けていた。
「だから、今システィは呼吸をしているのに息を止めてるのと同じなんだよ」
"滅びの風"についての知識を持っていないシスティーナだが、それでもエレンに出し抜かれたことだけは理解できた。
「なるほどね……この調子なら、私が動けるのもあと数秒──なら、最後の勝負と行くわよ」
そうして、システィーナとエレンの二人は同時に動き。
「「《雷精の紫電よ》──ッ!」」
酸欠状態になり、視界すらもままならなくなってきたシスティーナと、沢山のループを経験してシスティーナと幾度も戦ってきたエレン。
その勝敗は、火を見るよりも明らかだった。