リィエル・レプリカと転生日誌 作:氷月ユキナ
「へぇ? あんた等がロザリアを助けてくれたのかい。ありがとうねぇ……」
ロザリアに村へと案内された俺たちは、彼女の家へと転がり込んでいた。
「いえ、僕は当然のことをしたまでですよ」
そこで夜ご飯を恵んでもらっていた俺たちは、ロザリアの祖母に礼を言われていた。
「悲鳴が聞こえたから、僕は助けただけです。それが"正義"だと思ったから助けただけで、お礼が欲しいからやったわけではありませんよ。ですから、そこまで畏まらなくても大丈夫ですよ」
きっっつ……ッッ!
ジャティスの本性を知っている俺からすれば、このキラキラしたジャティスがクッソ気持ち悪い。
恐らく今のジャティスを視界に入れた瞬間に面白さで夜ご飯を吹いてしまうと思うので、俺は必死に目を逸らす。
「そうかい。その歳で、なかなかできた奴じゃないか」
「おばあちゃん、米おかわりー」
「まったく、仕方ないね」
ロザリアのおかわりコールに、ロザリアの祖母のおばあさんは溜息をつきながらも立ち上がる。
「そういえばロザリア、この街に来てから少し気になっていたことがあるんだけどさ……」
「? 何ですか?」
「ここ、
そんな、煽っているかのように捉えられそうな事を宣った。
それに対してロザリアは目を見開いた後、少し躊躇うかのように目を伏せた。
そして、ぽつぽつと内情を話し始めてくれた。
「……はい。実は……さっきの
そこからロザリアが話してくれたことをまとめると、この村は突然近くにやってきたリッチに襲われているそうだ。
「リッチ……?」
「魔術の果てに不死者と化した外道魔術師だね……他人の命を犠牲にして、無様に永劫を生き続けようとする、正真正銘の悪だよ……」
ジャティスは俺に解説しながらも、その瞳を鋭くする。
「なるほど……さっきのミニオン・リッチも、そのリッチの下僕というわけだ」
「どうすれば殺せる?」
「そうだね。それを説明するには、もっと詳しくリッチについて解説する必要がある」
眼鏡をクイッとしたジャティスは、俺とロザリアに向き合った。
「まず、リッチの不老不死はお粗末なものなんだ……生者から精気を吸わなければ生きることすらままならない……だから、リッチは安定して精気を得るために集落に目をつけて襲うんだよ」
「でも、不死? 殺せる?」
「ティア、僕に悪を殺せないとでも?」
唇で弧を描いたジャティスに、俺は溜息をついた。
……こう言う奴だし、どんな手段かは知らないけど殺せるんだろうな。
「ま、待ってください!」
そこで待ったをかけたのは、ロザリアだった。
「私達は平気ですよ、だから……そこまで、してくれなくても……」
「ロザリア」
ジャティスは立ち上がり、ロザリアと目を合わせる。
「会ったときにも言ったけど、僕たちは"正義の魔法使い"を目指しているんだよ……だから、ここで逃げるわけにはいかないんだ」
「ジャティス、さん……」
「もう大丈夫だ、安心してくれ。僕が、必ず全てを解決してみせる」
もはや誰だお前と言いたくなるような事を平然と並べるジャティスに、ロザリアは涙を浮かべた。
「そ、その……ありがとう、ございますっ……! 私、怖くて……死んじゃうんじゃないかって……」
「僕が絶対に、死なせはしないさ」
……誰か助けてください。ジャティスが面白すぎます。
「……まぁ、殺せる手段があるからと言ってすぐに殺せる訳ではないんだけどねぇ」
「……? どういうこと?」
「リッチは基本的に、精気集めは己の下僕にやらせているのさ。リッチに一度精気を吸われた人間は、リッチ・ミニオンという
「……この村で出ている、行方不明者は」
「率直に言わせてもらうと、死んでいるだろうね」
「そう……」
もう救えないということに、俺は目を伏せた。
愉悦部は人を絶望に突き落として嘲笑うだけで、別に命を奪ったりはしないのだから。
「……話を続けるよ。この通り、リッチはミニオン・リッチに精気を集めさせている。だから、ミニオン・リッチを全滅させてしまえば、向こうからやってきてくれる筈さ……そこで殺せば、終わりだよ」
「全滅……それって……」
「ああ。時間がかかるね」
えぇ……、と。俺はちょっと嫌な顔をしたのだった。
■□■
あの後、「話は聞かせてもらった!」とおばあさんがやって来て、村を救ってくれと頼まれた。
そうして──俺とジャティスによる、『おいでよミニオン・リッチ狩りの森』が始まった。
毎日のように元は村人だったミニオン・リッチと戦い、ロザリア達の家に帰る。それを繰り返していた。
そんなある日の夜。
何故か寝付けずにいた俺は、ベッドから立ち上がっていた。
スースーと寝息を漏らす隣のベッドのジャティスを置いて、家の外へと行ってみる。
「うっ……、寒……」
家から出た瞬間に、ちょっと後悔した。
だが、今戻っても寝付けないだろうと少し歩いて──
「ティアさん?」
「ピッ……す、すみませんすぐ戻りま……え、ロザリア?」
名前を呼ばれた方を見てみれば、なんとびっくりパジャマ姿のロザリアが居た。
「なんでここに……」
「それはこっちのセリフです、ティアさん。何してるんですか?」
「ね、寝付けなくて……」
悪事が親にバレた子供のように目を泳がす俺を前に、ロザリアはクスリと笑う。
「……私はですね、ちょっと星を見に行くところだったんですよ。どうせですし、ちょっと一緒に行きません?」
いたずらっ子のようにテヘッ☆と微笑むロザリアに、毒気を抜かれた俺は頷いた。
星がよく見られる場所があると言われてロザリアに案内された先は、崖の上だった。
「ほら……綺麗じゃないですか? 私の好きな隠し場所なんですよ、ここ」
ロザリアの言うとおりに見上げてみれば、満点の空に散りばめられた数々の星がそこにはあった。
「綺麗……」
「ふふん、そうでしょうそうでしょう!」
満足げに微笑むロザリアに、俺はついクスッと笑った。
「……え、今私笑われました?」
「気のせい」
「そうですか、ならそういうことにしておきますよ」
そこからは、しばらく無言だった。
俺とロザリアの二人で、ひたすら星空を眺めていた。
「……少しだけ、私のことを話してもいいですか?」
その静寂を壊したのは、ロザリアの方だった。
「ん」
「ありがとうございます」
お互い星を眺めながら、ロザリアが話を語り始めた。
「私、こうしておばあちゃんのところで過ごしてるんですけど……前に、色々ありまして。前の家では母が働いていて、父が家事などをしていたんですよ。ふふっ、意外じゃないですか?」
「……? 料理をするお父さんも、いいと思う」
「へぇ……普通は『料理は女がやるものだ』なんて言われちゃうんですけどねー。……だけど、それも直ぐに壊れた。母が死んだんです」
ロザリアに目を向ければ、その顔に笑顔は無かった。
「母は魔術師をやってまして、帝国軍なんてところにいたんですよ? 凄くないですか? ……ですが、死んだ。それで父は癇癪を起こして、私と無理心中をしようとしたんです。ですが、私は死にたくたくて、家から必死に逃げて……後から聞いた話によると、父は首吊って死んだそうです」
無表情で話し続けるロザリアの瞳を見ると、そこに光は無く、ただ呑み込まれそうな深淵だけがあった。
「それから、私はなんやかんやあっておばあちゃんの家に来たんです。そこで、私は……いや、それはいいや。えへへ、すみません。なんだか湿っぽくなっちゃいましたね」
にへらと笑うロザリアの目には先程までの深淵はなく、いつものロザリアに戻っていた。
「というか、眠くなってません? 大丈夫ですか?」
「…………ん、だいじょうぶ」
「ああ、ほら。すごく眠そうじゃないですか……まったくもう……」
ロザリアは呆れ気味に、俺を背中におんぶする。
そうして、家へと歩きだした。
「ふぅ……こんな風に誰かと星を見たのはティアさんが初めてですよ」
「ん……そうなの?」
「隠し場所って言ったでしょう? ……この村でも、私以外は知らないですよ」
「なら……どうして、おれに?」
眠気と戦いながら、俺は質問を投げかけた。
「さぁ……自分でも、よく分からないですね。そういえば、家族のこともこんなに話す気なんて無かったのに……なんだか不思議です。……私、何かの魔術でも使われちゃいましたか?」
「おれは、そういうの苦手で使えない……」
「ふふふ、でしょうね。戦いでも、剣を使っていますし」
冗談も交えて、くだらない話をしながら歩く。
「……眠ってもいいですよ、ティアさん。私が責任持って、ベッドまで運んでおきますから」
「ん……じゃ、寝る……」
「……自分から言っておいてアレですけど、ティアさんって警戒しないんですか? 私がここにティアさんを置いて行ったら……とか考えないんですか?」
「考えない。ロザリアは、そういうことはしないと思う。……勘だけど」
「勘って……すごいですね、ティアさんは……」
ゆら、ゆら。ロザリアの背中で、俺は眠りへと落ちていった。
■□■
「お休みなさい、ティアさん。……本当に