リィエル・レプリカと転生日誌   作:氷月ユキナ

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リッチ退治

「それでは、行ってくるとするよ」

 

 ミニオン・リッチを全滅させたジャティスとティアは、村の麓に突然現れたという屋敷に向かうことになった。

 

 おそらくは、そこにリッチが居るのだろう。

 

「あの……ジャティスさん!」

 

 ロザリアの家の前。

 

 そこにはジャティスとティアを見送るために、ロザリアと、彼女の祖母が立っている。

 

 装備を整えて出発の準備を終えたジャティスを前に、ロザリアは声をかけた。

 

「ロザリア……何だい?」

「……帰ってきて、くれますよね」

 

 その声は、不安そうだった。

 

 当たり前だろう。なにせ、数日とはいえ共に過ごした人たちが大きな脅威と戦いに行くのだから。

 

「──ああ、もちろん。絶対に、君に会いに来るよ。約束する」

 

 ロザリアの手を握り、目を合わせる。

 

 一見、主人公とヒロインの感動シーンのようにも見えるこの光景を、ティア=レイフォードは。

 

 心底つまらなそうな顔で、眺めていた。

 

 

■□■

 

 

 ──カツン、カツン……

 

 地下へと通じる階段を、ロザリアが歩いていた。

 

 そこは、ロザリアの家の床を剥がしたところにある隠し通路からのみ行くことができる、ロザリアの隠し部屋に通じている。

 

「はぁ……まったく、どいつもこいつも単純ですねぇ…………ん?」

 

 先程出ていった二人組を嘲笑ったロザリアが部屋に入ると、そこにはズラリと壮観なほどに、数多の武器と魔導器が並んでいた。

 

 だが、ロザリアが反応したのはそこではない。

 

 ……床に、見覚えのない方陣が描かれていたのだ。

 

「……何これ」

 

 正体不明の方陣に呆然としたロザリアは次の瞬間、跳ね返るように動いた。

 

 詳細は分からないが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その直感に身を任せて一つの宝石に触れた瞬間、魔術方陣が起動して。

 

 ロザリアの視界を、白色に染め上げた。

 

 そして。

 

 そして────

 

 

 

「────ッ、危なかった……!」

 

 ()()()()()()()()()()空間跳躍(テレポート)()()()ロザリアは、危機から逃れられたことに安堵していた。

 

 それと同時に、手に握っていた宝石が砕け散る。

 

 まるで、持ち主を安全な場所に送り届けたことで役割を終えたと言わんばかりに。

 

 だが、そんなことを気にしている暇はない。

 

 何が起こっているのかと村の方角を見てみると──

 

「──燃えてる?」

 

 村があるはずの場所に、火柱が上がっていた。

 

 それも、小さいものではない。今まで見たことがないほどに大きく、熱いものだった。

 

「何が、起きて……」

「『Project(プロジェクト)Flame(フレイム) of(オブ) megido(メギド)』……【メギドの火】だよ」

 

 ロザリアの独り言のような問いに、無いはずだった答えがあった。

 

 その声には、聞き覚えがある。

 

 当然だ。なにせ、数日間を共に過ごしていた者の声なのだ。

 

 だからこそ、あり得ない。

 

 ここに、いるわけがないのに──

 

「どうしてここに……()()()()()=()()()()()ッ!」

「君にも言っただろう? 僕の夢は、"正義の魔法使い"になることだと。……無論、"正義"を執行するためだよ」

「……え、おれには無反応?」

 

 リッチに挑みにいったはずの二人組が、ロザリアの背後に立っていた。

 

 まるで、未来が分かっていたかのように。

 

「【メギドの火】……正式名称は、錬金【連鎖分裂核熱式(アトミック・フレア)】といってね。原子崩壊の際に生じる質量欠損が莫大なエネルギーを生み出し、全てを滅ぼす禁断の錬金術だよ……もっとも、今回は威力は抑えめにしたけどね」

「……なんで」

「うん?」

 

 べらべらと解説するジャティスに向けて、ロザリアは敵意を剥き出しにして叫んだ。

 

「どうしてあの村を燃やしたんですか!? あの村の人達に、何かされたわけでもないですよね!?」

「正義のためさ」

「……は?」

 

 ぽかんと口を開けて忘我するロザリア。

 

 そんな彼女に畳み掛けるように、ジャティスは言葉を続ける。

 

「あの館にリッチがどうのと言っていたけど大方、本当のリッチは君だろう? そして、あの村の村人も大半が君によって眷属にされたミニオン・リッチだ……逆に、殺さない理由があるかい?」

「……いや、でも……あの村には、何も知らない普通の人も居たんですよ……? ……は、ははっ! 見誤りましたね……! 貴方は全員既にミニオン・リッチになっていると思いこんでいたようですが、まだ一般人も居たんですよ! そんな方々を殺すことが、正義だとでも言うんですか!?」

「ああ、正義さ」

 

 ジャティスはなんの迷いもなく、そう言い切った。

 

「……え?」

「それに、僕の正義の礎のなってくれたんだ……神はきっと彼らの御霊を御傍に置いてくださるよ……」

 

 到底狂っているとしか思えないことを平気で口にするジャティスに、ロザリアは絶句するしかない。

 

「それにしても、あの状況から逃げ果せるとはね……その宝石は、使い捨ての空間跳躍(テレポート)かい?」

「…………」

「ははは、少しくらい答えてくれてもいいじゃないか……まぁ、正解だろうけど」

 

 ……正解、と言うしかない。

 

 ロザリアの使用した宝石は、予め空間転移の術式と大量の魔力を込めておくことで、一回こっきりで詠唱無しで空間跳躍(テレポート)ができるものだ。

 

「さて……次の謎解きと行こうか。本来、リッチであるロザリアは自分が生まれ変わった場所、つまりはあの村に縛られて遠くへは離れられないという制約があり、討伐隊を送り込まれても逃げられないという弱点を持っているはずだ……他のリッチも同じ条件だから、精気を集める場合はミニオンを差し向けることが多いんだけど……問題なのはそこじゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ティア、当ててみてくれ」

「……え、おれ?」

 

 そこで急遽、一応は主人公であるのに影が薄すぎたティアに話が振られた。

 

「え……離れた……? …………わからない、教えて」

 

 一瞬で降参した。

 

「リッチの魂は生まれ変わった場所の大地や空気に縛られているんだよ……」

 

 ロザリアに確認するように。

 

 ティアに教えを説くように。

 

 ジャティスはリッチの原理について、詳しく語り始めた。

 

「リッチの儀式では、霊魂が完全に肉体に戻ることは無いんだ……そうだろう?」

「ッ! ……ええ、大正解ですよ。リッチが不死化する過程で行う儀式では、霊魂を無理やり現世に留めるという異常な操作が行われる。この過程によって、本来は『霊魂の一部』が儀式を行った場所に拡散し、定着する」

「そもそも霊魂は『摂理の輪』に帰還するのが自然の流れだ……だけど、リッチ化の儀式では、不死性を得るために霊魂を無理やり二つに分割する。一部は肉体に再結合され、活動を可能にする『動的な霊魂』となる。もう一部は儀式を行った場所に留まり、不死性を支える『場所そのものに定着した霊魂』となるんだ……それを彼女はネックレスに封じて、『アンカー』としてリッチを現世に繋ぎ止めているんだ……分かったかい? ティア」

「何もわからない……」

 

 超長文詠唱に晒されたティアは、頭を抱えた。

 

「本来は儀式の際、魔力が魂の一部を周囲の大地や空間と融合させる。これにより、魂の一部は『土地そのもの』と結び付き、儀式の場所がリッチの存在を維持する基盤となるんですが……このままだと儀式を行った場所を離れられなくなる。それを、私の魔術特性(パーソナリティ)【霊魂の静止・固定】……それに加えて、私の母が持っていた『死霊秘法(ネクロノミコン)・生命の章』写本……それらを組み合わせて、場所なんてものに囚われない存在になったんですよ。これが私の固有魔術(オリジナル)究極なる死霊の神(アルティメット・リッチ)】です」

 

 ジャティスと話している内に段々と動揺が無くなってきたのか、余裕を取り戻してきたロザリアは優雅に語る。

 

「……母?」

「ああ、なるほど……何処か見覚えがあると思っていたら……そういうことか」

「どういうこと……?」

 

 ジャティスの物言いに疑問符しか出てこないティア。

 

「こういうことさ。……ねぇ? 元・帝国宮廷魔導師団特務分室所属、執行官ナンバー16《塔》アンリエッタ=グリムロードの娘……ロザリア=グリムロード」

「ッ! ……なるほど?」

 

 原作には出ていたが、半分くらいモブキャラクターだった《塔》のアンリエッタの娘だと言われても、ロクな伏線が無いし困惑しかねぇ……、と無表情になっているティアを他所に、ロザリアは笑った。

 

「それで、冥土の土産には満足しましたか?」

「……あれ、勝つ気かい?」

 

 意外そうなジャティスの態度に、それでもロザリアは余裕を崩さない。

 

「私はこれでもリッチですよ? ……たかが二人程度に、負けるとでも?」

 

 そして、ロザリアの姿が()()()()()()()()()()()()()()

 

 ティアですら一瞬見失ってしまうほどの、人を超えたリッチとしての速さ。

 

 そのスピードを駆使すれば人間ごとき、ロザリアの敵ではない。

 

「──"読んでいたよ"」

 

 ()()()()()()()()()=()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………ぇ?」

 

 ロザリアには、何が起こったのかさっぱり分からなかった。

 

 数秒を用いて、ようやく自分が倒れているということに気がついた。

 

 すぐに立ち上がろうとしても、手足が動かない。

 

 ……いや、()()()()()()()()()

 

「……ぁ……?」

人工精霊(タルパ)見えざる神の剣(スコトーマ・セイバー)】……僕の愛用している人工精霊(タルパ)でね」

 

 ジャティスがやったことは単純だ。

 

 固有魔術(オリジナル)【ユースティアの天秤】で行動予測をし、ロザリアが動くであろう位置に不可視の刃を設置しておく。

 

 それだけのことだが、これはあの勘が鋭い《戦車》のリィエルですら引っかかった代物だ。気付けるようなものではない。

 

「さて」

「ひっ……!」

「──刑の執行だ、ロザリア」

 

 引きつり、怯えた顔をするロザリアを、ジャティスは。

 

 妖しい笑顔で、まるで恋する乙女のように見つめていた。

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