リィエル・レプリカと転生日誌   作:氷月ユキナ

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ロザリア=グリムロード

 ありえないありえないありえない。どうしてだ、訳がわからない。なんでこんな事になってるんだ。私が……私がこれまで、ここまで来るのに、どれほどのことをしたと思ってるんだ! どれだけのことを……どのくらい、耐えてきたと思ってるんだ! それで、ようやく私のターンが回ってきて、ようやく私の私らしい幸せな日々を手に入れられたのに……! ふざけるな。ふざげるなふざけるなふざけるな! あのジャティスとかいう頭のイカれた夢見がちな正義厨も! あのティアとかいう真っ黒な欲望を隠しておきながら必死に目を背けて苦悩してる馬鹿みたいなメイド女も! お互いがお互いのことをそんなに支え合って……頭がおかしいんじゃないのか? 確かに二人とも狂人だが、そのベクトルが違いすぎる! あんなちょっとしたことで壊れてしまいそうな脆い関係を築いてる奴らに、どうして私がこんな目に合わされなきゃならないんだ! ああ、どいつもこいつもうざくて面倒くさくて腹立たしくて嫌な奴ばかりでしつこくてうっとうしくていじわるでわがままでつまらなくてむかつくんだ。そんなの私の"理想"じゃない。そんな奴らと過ごすなんて、私にはもう耐えきれない。だからこうしたんだよ。憎たらしい母から受け継いだ《人形師》としての才能で、私の"理想"を作ったんだ。母の隠し持っていた研究資料と『死霊秘法(ネクロノミコン)・生命の章』写本を利用して、魔術特性(パーソナリティ)さえも使ってリッチという存在になって、ようやく力を手に入れられた。グチグチと毎日毎日飽き足らず文句ばかり言ってくる祖母をミニオン・リッチにして私の"理想"の優しい祖母にして、帝国を裏切った母とはなんの関係も無い私を忌み子として怨むように見てきて暴力を振るってきた村の連中も裏からこっそりミニオン・リッチにして、私の"理想"を演じさせて、一人芝居の仮初だとしても、それでも私の人生は幸福なものになった。その時初めて、本当の意味で、私は生まれて初めて自由になれたんだ。元いた家では父に迷惑をかけないように、ずっと静かに座っていた。村に来てからは、役立つために頑張ろうとした。それなのに、何も変わらない。父は母だけ見て私には何も見ずに、そのまま死んだ。村ではどれだけ頑張ろうとも、それが認められることなんてない。魔獣を殺せば魔獣はお前が喚び出したマッチポンプだなと言われ、料理を作れば毒を盛るつもりだったなと罵られ。やめろ、やめて。私は何もしてない。私はなにも企んでなんかない。どうして怒る。どうして叫ぶ。私が何をしたっていうんだ。母が犯罪者だからって、私には何の関係もない。私は悪くない。悪いことなんて何もしてない。全部お前らが悪いんだ。私は頑張ってたのに。家に埃まみれになって置いてあった絵本に出てきた、"正義の魔法使い"みたいになりたいって思ってたのに。それを先に踏みにじったのはお前らだろうが。お前らは"悪"だ。無実の私をあれこれ好き勝手に宣って自分の妄想を押し付けて。ミニオン・リッチになって当然だ。あんな人間以下の奴らを私の"理想"にして何が悪い。うるさい。黙れ。……黙ってよ。何でだ。どうしてそんな酷いことを言うんだ。違う、違うよ、違うんだ。そうじゃない。そんなんじゃない。いや、もういい。私の周りには私の"理想"の人達がいればいい。私に優しくしてくれて、私を助けてくれて、私を褒めてくれて。それ以外は要らない。それ以外のことなんかどうでもいい。もう、どうでもいいんだ。あの金切り声が聞こえる。煩い。喧しい。煩わしい。どうして。私の"理想"を作ったのに、どうしてまだ私は幸せを感じられない。皆を私の"理想"にした。私の"理想"の皆にした。それなのにどうしてこんなに虚しいんだ。どうしてこんなに何も感じられない。いや、違う。虚しくなんてない。幸せだ。私は幸せだった。だからその幸せを奪ったこの二人を殺す。それが私の復讐で──……ティアと、目が合った。ティア=レイフォード。彼女のことは、帝国軍の何人かをミニオン・リッチにして情報を抜き取っていたときにジャティス=ロウファンに関する情報と共に知った。帝国軍最大の汚点であり、最悪の裏切り者たる《正義》のジャティス=ロウファンに拾われた少女。初めて会ったときから、私はティアが大嫌いだった。ティアは私と同じで、世界に絶望した目をしていた。ティアは私と同じで、自分の欲望から目を背けていた。ティアは私と同じで正義の魔法使い(ヒーロー)になることを諦めていた。それなのに。そのくせに。ティアは私が一番欲しかったものを持っている。ティアには、必要としてくれる人がいた。認めてくれる人がいた。ズルい。私と何も変わらないのに。私と同じものを抱えているのに。当たり前のように助けてくれる人が傍にいることが心の底から気に入らない。ずっと気に入らなかった。嫌い。大嫌いだ。大嫌いなんだよ! それなのに、今でも鮮明に思い出せる。仕組んだ出会いだ。私の意図的な計画だ。それなのに、ミニオン・リッチから助けてくれたときの『あなた、大丈夫?』と心配してくれた声が、その姿が、脳裏から離れない。ジャティス=ロウファンも同じだ。あんなお姫様のように抱きかかえられたことなんて、一度も無かった。胸がドキドキした。興奮した。私が欲しかったものが、本当に手に入るんじゃないのかって。いや、違う。演技だ。全部ただの演技なんだ。あの星空の下でティアと話していたのも、演技でしかないんだよ。そっちが私を欺いていたように、私も……私は、欺かれていたのか。あの表情も、あの言葉も、全てが真っ赤な嘘だったんだ。生まれて初めて、人形以外の正真正銘の"人"に助けられたのも。あの嬉しさは、偽物だったんだ。視界に、ティアの顔が映る。そこには、愉悦と同情が混ざっていた。……ああ、本当に。私は……何が、したくて………………

 

 

■□■

 

 

「────ッ!」

 

 ロザリアは不死者、それもリッチとなった存在だ。

 

 浄銀弾などの"浄化"の効果がない攻撃ならば手足など瞬時に再生できる。

 

 後ろに飛び跳ねて、ロザリアはジャティスと距離を取った。

 

 何がしたいのか分からない。

 

 ……いや、本当は分かっている。

 

 だけど、それを見てみぬふりをして、ロザリアは構えた。

 

「……まだ、やるのかい?」

「ええ、やります。やってやりますよ」

 

 この二人を、倒す。

 

 そして生気を吸い取って、私の下僕たる生ける屍にしてやる。

 

 魔力を漲らせ、魔術をいつでも発動できるように構える。

 

「さ、ティア」

「……ああ、そういうこと。どこで使うのかと思ってたけど……」

 

 それに対してジャティスは、ティアに何かを呼びかけた。

 

 ティアはそれだけで何をすればいいのかを読み取ったようで、炎の剣(フレイ・ヴード)を投げ捨てた。

 

「《万象に希う・我が腕に・浄銀の刃を》」

 

 ティアの片手に、大剣が超高速錬金で創り出されていく。

 

 そして、その素材は"()()"……リッチたるロザリアにとっては、天敵と言える金属だ。

 

「行くよ、ロザリア。ほんとは、もっとその顔を見ていたかったけど……仕方ない」

「変な欲望を抱えていますね……ほら、来てくださいよ」

 

 そして、ロザリアは(うた)った。

 

「《蒼銀の氷精よ・冬の円舞曲(ワルツ)を奏で・静寂を捧げよ》ッ!」

「いいいぃぃいいいやぁぁああああぁあ──ッ!!」

 

 ロザリアの黒魔【アイシクル・コフィン】を前に、ティアは正面から大剣を振り回す。

 

 そうして、ロザリアとティアの戦いが始まった。

 

 だが、リッチとはいえ不意打ちとミニオン・リッチを使うことであまり戦闘をしてこなかったロザリアと、ジャティスと共に天の智慧研究会と日々戦闘していたティア。

 

 その差は、歴然だろう。

 

「はぁ……っ、はぁ……っ……」

 

 気がつけば。

 

 浄銀の刃であちこちを斬られて倒れ伏し、大量の血を流しているロザリア。

 

 それに比べて多少の傷は負っているものの軽傷の範囲であるティア。

 

 勝敗は、既についていた。

 

「ん……終わり」

 

 ──コツ、コツ……

 

 近づいてくるティアの足音が、まるで死神の足音のようにロザリアには思えた。

 

 それなのに。

 

「……ロザリア?」

「んー……? なん、ですか……? こっちは見ての通り、ボロボロなんですけど……」

「どうして、()()()()()……?」

 

 ……笑っている? 私が?

 

 痛みを訴えてくる右手を無理に動かし、唇に手を当てる。

 

 すると、その唇は孤を描いていた。

 

「……はは、あははっ……さあ、何ででしょうかね……? ……自分でも、よくわからないや」

 

 それでも、何故か嬉しい。

 

 これで死ぬというのに。

 

 こんなことで、全てが終わるというのに。

 

 あの星空の下で、ティアと友達のように話した。

 

 たったそれだけの思い出で、満足している自分自身が不思議でしかない。

 

 目を、向ける。ティアがどんな顔をしているのかと確かめみれば、困惑しかないようで。

 

「……ティア」

「ん……?」

「大、好き……」

「……? ……!? !? は……ぇ!?」

 

 自分の告白に慌てふためくティアが、ロザリアにとっては愉快だった。

 

 生まれて初めて、自分を助けてくれた人。

 

 生まれて初めて、自分に寄り添ってくれた人。

 

 そんなティアに見送られて死ぬなんて、それは何とも幸せではないだろうか。

 

「……ああ──結局、何も手に入れら──なか──けど──……それでも──私を助け──くれる人がいた──て、分か──たから──…………ぁ」

 

 その言葉を最期に。

 

 死を超越した不死者、それもリッチとなったロザリア=グリムロードは。

 

 あっけなく、失血死した。

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