リィエル・レプリカと転生日誌 作:氷月ユキナ
ありえないありえないありえない。どうしてだ、訳がわからない。なんでこんな事になってるんだ。私が……私がこれまで、ここまで来るのに、どれほどのことをしたと思ってるんだ! どれだけのことを……どのくらい、耐えてきたと思ってるんだ! それで、ようやく私のターンが回ってきて、ようやく私の私らしい幸せな日々を手に入れられたのに……! ふざけるな。ふざげるなふざけるなふざけるな! あのジャティスとかいう頭のイカれた夢見がちな正義厨も! あのティアとかいう真っ黒な欲望を隠しておきながら必死に目を背けて苦悩してる馬鹿みたいなメイド女も! お互いがお互いのことをそんなに支え合って……頭がおかしいんじゃないのか? 確かに二人とも狂人だが、そのベクトルが違いすぎる! あんなちょっとしたことで壊れてしまいそうな脆い関係を築いてる奴らに、どうして私がこんな目に合わされなきゃならないんだ! ああ、どいつもこいつもうざくて面倒くさくて腹立たしくて嫌な奴ばかりでしつこくてうっとうしくていじわるでわがままでつまらなくてむかつくんだ。そんなの私の"理想"じゃない。そんな奴らと過ごすなんて、私にはもう耐えきれない。だからこうしたんだよ。憎たらしい母から受け継いだ《人形師》としての才能で、私の"理想"を作ったんだ。母の隠し持っていた研究資料と『
■□■
「────ッ!」
ロザリアは不死者、それもリッチとなった存在だ。
浄銀弾などの"浄化"の効果がない攻撃ならば手足など瞬時に再生できる。
後ろに飛び跳ねて、ロザリアはジャティスと距離を取った。
何がしたいのか分からない。
……いや、本当は分かっている。
だけど、それを見てみぬふりをして、ロザリアは構えた。
「……まだ、やるのかい?」
「ええ、やります。やってやりますよ」
この二人を、倒す。
そして生気を吸い取って、私の下僕たる生ける屍にしてやる。
魔力を漲らせ、魔術をいつでも発動できるように構える。
「さ、ティア」
「……ああ、そういうこと。どこで使うのかと思ってたけど……」
それに対してジャティスは、ティアに何かを呼びかけた。
ティアはそれだけで何をすればいいのかを読み取ったようで、
「《万象に希う・我が腕に・浄銀の刃を》」
ティアの片手に、大剣が超高速錬金で創り出されていく。
そして、その素材は"
「行くよ、ロザリア。ほんとは、もっとその顔を見ていたかったけど……仕方ない」
「変な欲望を抱えていますね……ほら、来てくださいよ」
そして、ロザリアは
「《蒼銀の氷精よ・冬の
「いいいぃぃいいいやぁぁああああぁあ──ッ!!」
ロザリアの黒魔【アイシクル・コフィン】を前に、ティアは正面から大剣を振り回す。
そうして、ロザリアとティアの戦いが始まった。
だが、リッチとはいえ不意打ちとミニオン・リッチを使うことであまり戦闘をしてこなかったロザリアと、ジャティスと共に天の智慧研究会と日々戦闘していたティア。
その差は、歴然だろう。
「はぁ……っ、はぁ……っ……」
気がつけば。
浄銀の刃であちこちを斬られて倒れ伏し、大量の血を流しているロザリア。
それに比べて多少の傷は負っているものの軽傷の範囲であるティア。
勝敗は、既についていた。
「ん……終わり」
──コツ、コツ……
近づいてくるティアの足音が、まるで死神の足音のようにロザリアには思えた。
それなのに。
「……ロザリア?」
「んー……? なん、ですか……? こっちは見ての通り、ボロボロなんですけど……」
「どうして、
……笑っている? 私が?
痛みを訴えてくる右手を無理に動かし、唇に手を当てる。
すると、その唇は孤を描いていた。
「……はは、あははっ……さあ、何ででしょうかね……? ……自分でも、よくわからないや」
それでも、何故か嬉しい。
これで死ぬというのに。
こんなことで、全てが終わるというのに。
あの星空の下で、ティアと友達のように話した。
たったそれだけの思い出で、満足している自分自身が不思議でしかない。
目を、向ける。ティアがどんな顔をしているのかと確かめみれば、困惑しかないようで。
「……ティア」
「ん……?」
「大、好き……」
「……? ……!? !? は……ぇ!?」
自分の告白に慌てふためくティアが、ロザリアにとっては愉快だった。
生まれて初めて、自分を助けてくれた人。
生まれて初めて、自分に寄り添ってくれた人。
そんなティアに見送られて死ぬなんて、それは何とも幸せではないだろうか。
「……ああ──結局、何も手に入れら──なか──けど──……それでも──私を助け──くれる人がいた──て、分か──たから──…………ぁ」
その言葉を最期に。
死を超越した不死者、それもリッチとなったロザリア=グリムロードは。
あっけなく、失血死した。