両脇に様々な店が並ばれた賑やかな商店街の道路上で、夕飯の買い出しであろう主婦や帰宅途中の人々がちらほらと行き交っている。綾人はそれらに上手く溶け込みながら、男の背後からさりげなく迫ってゆく。
男にとっては完全に死角である。当然ながら先にこちらに気付いたのは瑞希だった。男をどうにか撒こうと、必死に抵抗していた瑞希は不自然に静止し、あからさまに視線をこちらに向けて、きょとんとした表情を浮かべていた。
状況を把握出来ていないのは男だけで、突然何を言っても無反応になった瑞希に肩透かしを食らい、徐々にその勢いが弱まる。
「ちょっと、しつこかったかな?」
「……」
どう声をかけようとも瑞希の返答は無い。心ここに非ずといった様子を、男は拒絶と捉えたようでやり場無く項垂れる。
「……少し強引だった。悪かったよ」
完全に意欲を削がれた男は、ついには謝罪の言葉まで口にした。
そんなやり取りを尻目に、綾人は男に手の届く距離まで詰める。すると、男の背中からひょこりと顔を覗かせた瑞希と目が合った。ぎらぎらとした眼光を放つ綾人に向けられたのは、相対した曇りなき純真な瞳。耐え切れず咄嗟に綾人は視線を外した。……なぜなのだろうか。誰のものとも変わらない眼だというのに、自身の知り得ぬ感情……、内に潜む何かを大きく揺さぶられるかのような感覚に陥る。過去の恥辱に対するこの煮えたぎる衝動でさえ、綺麗さっぱりに飲み込まれそうになった。
いい加減にしろ、と自分に活を入れる。下らない情緒だ。綾人という人間の人生にあるのは、希望無き未来と、絶望的な過去だけなのだ。恥ずべき己を顧みて、初心に帰る。もう琴乃や瑞希という存在に振り回されるのはうんざりだった。
確乎たる意志を胸に再び瑞希を見やり、きつく目を細める。琴乃も瑞希も、所詮は縁の無い別世界の住人なのだ。ここ最近の弛んだ感情を自ら断ち切るべく、瑞希に全力で威圧をかけた。関わってきた全ての他者がそうしたように、琴乃や瑞希でさえ軽蔑して近寄ってこなくなればいい。その光景を目の当たりにすれば、きっと以前の信条を、本来の自分を取り戻せる。……本気でそう思っていた。
が、その威勢とは裏腹に瑞希から畏怖の情は全く伺えなかった。それどころか、まるで知人に出会ったかのように小さく手を振り、こちらの気を引こうする仕草を見せている。著しく予想とかけ離れた展開であった。どうして揃いも揃って、平然とこちらへ踏み入ってくるのかと、綾人は心底あきれ返った。そうして続けざま瑞希の口が何かを発しようと大きく開かれた瞬間、綾人は間入れず男の肩を掴んで力いっぱい強引に振り向かせた。
リハビリの為文字数少ないです。