され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜 作:ホイナン三兄弟
第十話 狩りの腕前
俺が生まれて五十回目の春が来た。
野には花が咲き誇り、長い冬を超えた兎が若草の間を跳ね回り、兎を狙う狐が巣穴から這い出ていた。若木では鳥たちが唄い、空には蝶が舞う。そして巨大な咆哮が全てを引き裂いた。
俺の前には巨大な百足が三匹いた。奇怪叫び声を上げる大百足たちは、どれも体長が二十メルトルを超えており胴体も大木の如き太さを誇っていた。だが対する俺も体格では負けていなかった。
五十歳を超えた俺の体は十五メルトルとなり、体重も重くなった。長さこそ大百足に負けているものの、ウェイトなら三匹を足しても俺の方が上だ。
三匹の大百足は毒液が滴る大顎を、ガチガチと開け閉めして威嚇してくる。対する俺も牙を剥いて威嚇し返す。この五十年で成長したのは体だけではない。牙は鋭く、鱗は硬くなった。俺が縦に割れた竜の瞳で大百足たちを見据える。
大百足たちは百を優に超える足を波のように動かし、ゆっくりと接近して距離を詰める。そしてある地点に達したとき、ピタリと全ての足の動きを止めた。
一瞬の静寂。だが次の瞬間、三匹の大百足が同時に飛びかかってきた。人間であった頃ならば目にも止まらぬ速さであっただろう。しかし竜となった俺の視力は、襲い来る大百足の動きがすべて見えた。身をくねらせて迫る大顎の軌道から、足の一本一本の動きまで、全てを見通すことができた。
俺は三匹の大百足の攻撃を、体を左へと倒し、伏せ、半歩後ろに下がって回避していく。
大百足は何度も俺を攻撃するも、大顎が切り裂くのは空気のみ。大百足はなおも攻撃を続けたが、動きを見切った俺は右腕と首を伸ばす。次の瞬間俺の右手が大百足の首を掴み、俺の牙が別の大百足の首を捉える。
首を掴まれた二匹の大百足は、体を捻り俺に巻き付けて逃れようとする。だが俺は決して離さず手と口に力を込める。
俺の爪と牙が、キチン質で構成されている大百足のクチクラに食い込み砕いていく。赤や黒、そして黄土の体液が溢れだす。俺はさらに力を入れ、大百足の首を握りつぶし、噛み潰した。
つぶされた大百足の首が千切れ、頭が地面に落ちる。だが大百足は頭だけになっても生きており、頭を失った胴体も何本もの足を動かしてうねる。
俺は落ちた頭を踏み潰し、体に巻きつく胴を手で引き剥がした。だがその隙に残る一匹が首を返して逃走を図る。
百を超える足が、花や若草が芽吹く野原を踏み潰し若木を薙ぎ倒す。俺は逃さないと追いかける。疾走する大百足と俺の足元では、兎や狐が逃げ惑う。薙ぎ倒された若木からは一斉に鳥が飛び立ち、俺たちの追走劇に巻き込まれた蝶は、嵐にあったかのように吹き飛ばされる。
大地を疾走する大百足に対し、俺は跳躍すると同時に右手を突き出した。右手の先には組成式が浮かび上がり、チタン合金で作られた三本の鎖が勢いよく飛び出す。〈剛鎖〉の咒式だ。
先端に尖ったアンカーが取り付けられた鎖は、弧を描いて大百足に迫る。俺は射出した鎖を右手で掴むと腕を振るい鎖に軌道を曲げて大百足の胴体に鎖をぶつける。三本の鎖が大百足の体に巻きつき捕縛する。大百足は身を捩り逃れようとするが、俺は着地と同時に鎖を引いて引き寄せる。
大百足が大顎で鎖を噛みちぎろうとするが、竜の咒力で生み出された鎖は太い。一本で俺の体を支えるほどの強度があり、簡単には噛みちぎれない。大百足が鎖を噛んでいる隙に、俺は左の爪で大百足の頭を叩き潰した。
三匹の大百足を倒した俺は、今日はご馳走だと三匹を口に咥えて自分の巣に戻った。
十歳で狩りを始めて、最近では家族の食事は俺が仕留めた獲物が占めるようになってきた。
竜は百歳で独り立ちすると、父上様や母上様が言っていた。とりあえず自分の食い扶持は、自分で賄えるようになったと言えるだろう。
大百足を加えて巣穴に戻ると、巣穴の前では大きな赤い竜が日向で寝そべっていた。我が父上様ことヨギルググだ。
『ただいま戻りました、父上様。見てください。大きな百足がとれました』
俺が加えた大百足を掲げる。
後で父上様に焼いてもらおう。百足はやや癖があるが、滋養があって体にいい。母上様ことハレルストラの好物でもあるので、見かけたらとるようにしているのだ。
『うん、お前も狩りが上手くなったな』
『いえいえ、全ては父上様のおかげですよ』
俺は謙遜ではなく本心で言った。と言うのも、父上様は獲物が豊富な狩場を縄張りとして持っている。狩りで一番難しいのは、獲物を取ることではなく見つけることにある。獲物がいなければどれだけとるのが上手くても、その腕を発揮しようがないのだ。
俺が独り立ちすれば、当然だが父上の縄張りから出ねばならない。狩場を使うことは許されず自分の縄張りを持たねばならない。
獲物が豊富な狩場は、他の竜の縄張りとなっている。独り立ちすれば、他の竜と縄張り争いを行わねばならない。いい狩場を取れるとは限らず、場合によってはひもじい思いをするだろう。
『……フム』
父上様は大百足を咥える俺を見た後、空を見上げた。
太陽はまだ上り切っておらず、昼前であった。
『よし。少し早いが、いいところに連れて行ってやろう』
『いいところ?』
俺は長い首を傾げた。
皆さんされ竜最新刊読みました?
私読み終わりました
いやぁ、続きが気になる